ミッドガルデパートの上空にヘリコプターのローター音が鳴り響いていた。 そのヘリコプターにはセフィロスが戦闘装備で乗り込んでいた。 「もう少し低く飛べぬのか?!」 「お待ちください、キング!あなた様が乗り込むとクラウディア様が危険です!」 ヘリを操縦しているのは、クラスAソルジャーで空挺団の副隊長、ユージンだった。 デパートの最上階にはすでにヘリのロータリー音に反応した反抗勢力の中の1人がマシンガンの銃口を上空に飛んでいる機体に向けている。 すこしでも高度を下げようものなら即座に銃口から火を噴くであろう。そう思ったユージンはシートベルトをはずして座席から立ち上がろうとしたセフィロスに声をかけた。 「キング、別のビルから飛び移るという手はいかがですか?」 「クックック…わからぬか?連中に私が飛び降りるような様子を見せるだけで良いのだ。それだけで注意の半分をこちらに向けておける。」 「了解、せいぜいあおります。マシンガンの弾にご注意くださいね。」 ユージンがにやりと笑ってヘリの高度を再び低くすると同時に、セフィロスがヘリのドアを開けて身を乗り出した。同時にデパートの屋上にいる反抗勢力のマシンガンが火を噴いた。 即座に高度を取り戻していると、どうやら屋上にいる反抗勢力は無線でどこかに連絡を入れているようである。 「もう一度接近しろ!」 「アイ・サー!」 ヘリコプターがもう一度高度を下げた。 第13独立小隊の隊員たちが15階のフロアに集合しつつあったとき、フロアにいた男たちの中でいきなり大声が上がった。 「なに?!わかった、半分行かせる!」 無線機に怒鳴り付けた男が周りにいる男たちに合図をすると、マシンガンを持った男たちが数人階段を駆け上がっていった。反抗勢力の人数がいきなり半分に減った。 フロアにいる客の数はすでに50人を切っている。中でこそこそ動いているデパートマンの数が増えたり減ったりしてはしてるが、このフロアにいる人数を人質にするのであれば5人もあれば済むと思っているのであろうか? デパートマンに扮している特務隊の雰囲気が次第に変わりつつあったが、それがわかっているのはベビーピンクのワンピースを着た美少女だけだった。 いつのまにかフロアにいた客が店の片隅のショップの陰になっている場所へと案内されつつある。ジョニーと入れ替わってリックがムッシュ・アデナウワーとフロア主任をなるべく危険が及ばなさそうなところへと案内しようとした。 するといきなりクラウディアが反抗勢力の残りの一人の前に立ちはだかった。 「ね、あなたちょっとお願いがあるの。私では背が届かなくて…ちょっと来てくれる?」 上目遣いの青い瞳でお願いされて、思わず立場を忘れた男がのこのこと付いていく。その男の背中を見送りながらリックは思わず顔をしかめた。 (たのむって姫…おとなしくしていてくれよ…) そう思いながらリックはクラウドを止めようと動いた。 ミッドガルデパートの屋上にマシンガンを持った連中がパラパラとあらわれた。上空からそれを見ていたセフィロスが呆れたようにつぶやく。 「あいつら…いったい何を考えているんだ?たかが10人程度でミッドガルデパートの客を人質にする気だったのか?!」 そう言うとセフィロスは正宗片手にいきなりヘリコプターから飛び降りた。 驚いたのはマシンガンを持っている反抗勢力達だった。かなりの高度から黒革のコートをなびかせて舞い降りてきた死神に、まったくと言っていいほど反応できないままだったのだ。 デパートの屋上にセフィロスが着地したとき、やっとマシンガンの火ぶたを切ったが、時すでに遅しである。 正宗で飛んできた弾を蹴散らしながら、あっという間に2,3人を切り倒していた。 一番離れていたグループの一員があわてて無線を取ると、別動隊に連絡を入れた。 「やつだ!銀鬼が来た!あっというまに…うわぁ!」 すべてを言い終わる前にその男はセフィロスによって倒された。 正宗についた血糊を振り払って鞘に戻すと、ゆったりとした足取りで非常階段へと向かった。 クラウドが一人づつ見えないところに反抗勢力の連中を引っ張って行っては倒そうとしているのを察したリックが、あわててスーパーモデルの仮面をかぶっている少年に声をかける。 「クラウディア様。安全確認が終わるまでデパートの外に出てはいただけないのですか?」 「あと一つ。ちょっと気になるものがあったの、それを食べたらいくわ。」 「お待ちください、自分が付いていきます。」 「あら、大丈夫よ。それよりもこの騒ぎだから、そろそろあの人が来るんじゃないかと思うんだけど??」 その言葉に反応したのはデパートの店員でも人質にされている客でもなければ、特務隊の隊員たちでもなかった。反抗勢力のリーダーが声をあげてしまったのだった。 「残念だな、セフィロスは確かに来てはいる。だがな、俺たちの仲間で足止めをしているんだよ!」 「あら、そうなのですか?残念だわ…」 その時、反抗勢力のリーダーの無線機に悲鳴のような声が聞こえた。 「やつだ!銀鬼が来た!あっというまに…うわぁ!!!」 半分の勢力を屋上に行かせたはずだった。しかし反抗勢力はソルジャー…いや、セフィロスの実力を過小評価しすぎていたのであろうか?途切れた無線にどうやら全員やられたのを悟ったらしい。 「上がやられた!B態勢に入る!」 そういうと反抗勢力のリーダーが蒼い顔でクラウディアの腕を取り、非常階段へと走っていこうとするが、その体がいきなり宙を舞った。 「キャアアアアアア!!!!」 甲高い悲鳴を上げながらも体を沈めたクラウディアが、マシンガンを片手に持った男を床に叩きつけていた。 「あら、ごめんなさい。サーに習っていた護身術がついつい出ちゃった…」 頬を赤らめながら肩を狭めている姿は愛らしい。しかし見惚れている客やゲスト・パティシエとは違い、反抗勢力はあわててクラウディアを確保しようとするが、飛びだそうとした足を近くにいた誰かに引っ掛けられて転んでいた。 「確保!」 デパート・マンだと思っていた男たちが真の姿を現した。あっという間に腕をねじり上げられてその場に抑えつけられていた。 抑えつけられながらも、反抗勢力の男が怒鳴りつけていた。 「お、お前たちはいったい…何なんだ?!」 その言葉にザックスが髪の毛をくしゃくしゃっとかき乱した後、いつもの髪型に戻す。その顔に見覚えがあったのか抑えつけられていた男が目を丸くする。 そんな男の反応にザックスが思わず喜んだ。 「おーー!すっげーぞリック!こいつ俺の顔知ってるよ!」 「当り前だろうが!お前は痩せても枯れても第13独立小隊の副隊長だぞ!」 「ひっ!」 目の前にいる男たちが特務隊の一員と聞いて反抗勢力の男たちが顔を青くした。そこにクラウディアがいきなり立ち上がると、非常階段のほうを見て天使の笑顔で声をかけた。 「サー・セフィロスやはり来て下さったのですね。あ、でもこの人たちのお友達の方々が邪魔していたって聞いているのですけど?」 「邪魔にもならんな。何を考えて10人程度でこのデパートを占拠しようとしていたのか…その男に聞いてみたいものだな。」 クラウディアの視線の先には戦闘装備のセフィロスが悠然と歩いて階段を降りてきていた。 冷淡な視線をフロア中にめぐらせたあと、愛しい少年に視線を戻すと自然と笑みが浮かぶ。 「無事だったようだな。ケーキはうまかったか?」 「この人たちが邪魔してくださったおかげで、まだ半分しか堪能していませんですわ。」 「クックック…普通の大きさだから10個か?」 「もう…まだ6個です。」 似たようなものだろう?!と突っ込みを入れたくなるのを必死で押さえながら、もくもくとリック達がは自分たちの仕事を続けていた。押さえつけている反抗勢力の面々を縛り上げ、マシンガンに安全装置をかけようとする。 しかしおとなしく捕まるような連中だったら反抗勢力には加わってはいない。 2,3人がかりで抑えつけられていたのを一人で立ち上がらせようとした時に反抗した男がいた。 瞬時にボディブローがさく裂し、前かがみになったところで、後ろにいた他の隊員により首に手刀を入れられて気絶する。そのコンビネーションの良さは逃げ出す余裕どころか、まったく反撃する隙すらなかった。 フロアマネージャーが安堵の息をもらしながらセフィロスに近寄った。 「ありがとうございます、サー。」 「礼ならここにいるゲスト・パティシエに言っておけ。彼らがここにいなければ、これほど早くは来れなかったな。」 フロアマネージャーが軽く一礼すると今度はクラウディアにお辞儀をし、ゲスト・パティシエと客に深々と礼を言った。その姿を見ながらセフィロスにゆっくりとクラウディアが近付く。 「あの…ね、サー。反抗勢力の方たちに睨まれていた時に、ムッシュ・アデナウワーが紅茶とケーキをサーブしてくださったの。おかげで怖くなかったわ。」 「ほぉ?それは気丈なことだな。だが、一般人が無茶をしてはいけないな。」 セフィロスがすっとアデナウワーの前に立った。 「しかし、よくクラウディアの気持ちを和らげてくれた。」 「クラウディア様は御身分を隠されたままであれば、何事もなく逃げることも可能でしたでしょうが、私たちの代わりにこの場に残ろうとなされました。彼女は彼女なりに出来ることをして下さった…ですから私には私にしかできないことをしようと思ったまでです。」 少し誇らしげな表情の中にどこか青ざめた感じがする。やはり恐怖感があったとは思うが、それを表に出していないのは気が強いとしか言えない。 口元に緩やかな笑みを浮かべてから、セフィロスがパティシエに背中を向けて自分の配下の者たちに命令を下した。 「犯行勢力は全員確保したな?では帰還する。ただしジョニーはしばらくここに残ってデパートの正常運営までを見届けろ!」 「うわ!隊長、俺ですか?!」 「ああ、お前だ。経済学修復しているのであれば楽なものであろう?おまけにここの店員にも顔が知れているようだが?」 「くそ親父のおかげでね。ちぇ!カイル、エリック、これでも俺がうらやましいか?」 「いや、俺たちよりは適材適所だと思う。」 二人の答えを聞いて苦笑しながら、ザックスがセフィロスの隣に立ち、隊員たちに言い渡した。 「緊急ミッション終了、諸君の協力に感謝する。総員撤収!」 「アイ・サー!」 第13独立小隊の隊員たちが速やかに去っていった。そのあとを追うようにセフィロスが立ち去ろうとしたが、彼の黒革のコートの裾をひしっと持ってクラウディアが今にも泣きそうな顔で立っていた。 「…い、一緒にいてはくださらないのですか?」 すがりつくような瞳に思わず抱きしめたくなるが、ここで立ち止まったらクラウドの甘いもの攻撃(w)が始まると思うとつれなくしたくもなる。 「残念だが仕事だ。それから部屋に帰ったらケーキが山積みと言うのも避けてほしいが、いいかな?」 「もう、サーったら私がいくらケーキが好きだからってそんなにたくさん食べられません。」 「そうか、では私はこれで行くぞ。」 セフィロスが特設会場を後にした。 ずっと見送っていたクラウドにジョニーが声をかける。 「クラウディア様はどうされますか?」 「え?私?友達のことが心配だから一度帰ります。」 「一度?ま、まさか…」 「ええ、戻ってくるわ。だってまだ食べたいケーキがあるもの。」 にっこりほほ笑むクラウドに思わずジョニーは頭を抱えるのであった。 このあと無事営業再開をしたミッドガルデパートの特別催事場では、エアリスとミッシェルとともにはしゃぎながらケーキを食べるクラウディアがいた。 しかし、満足するまでケーキを堪能したようだとジョニーから聞いて安心して帰宅したはずのセフィロスが部屋に戻ってみたのは大きな持ちかえりの箱に入った色とりどりのケーキだった。 この日からしばらく、セフィロスは甘いものを見るだけで頭痛がするようになったのであった。
|