王都へやっと戻ってくる頃にはクラウドの気持ちも、やっとザックスの言うとおり『逃げずに自らの手で運命を変えていく』と言うことに固まっていた。
 王宮にはいると衛士達に迎え入れられて玉座へと進んでいった。
 謁見の間に入ってすぐ、心配していた王妃がクラウドに駆け寄って泣きついた。
「もう、どこにも行かないでおくれ。おまえに悪いようにはしないから…」
 クラウドは自分のわがままで、この女性を悲しませていたことをやっとわかったのか、済まなそうな顔をしていた。
「僕が皇子であることは…逃げ出すことの出来ない事実みたいです。でも、この国を継ぐとしても…僕は、政治などわからないから、他の人と協議したり国民に主権をゆだねられない物でしょうか?」
 クラウドの寂しげな言葉に国王が話し始めた。
「共和制も悪くはないのだがな…この国には第二王位継承者がいるのだ。その男が継いでも良いのだぞ…ザックス。」
「うわ!ちょっと、それないんじゃない?!俺には惚れた女もいるんだし…そういうの無しだって言っていたじゃないですか?!」
 国王の一言にザックスが青い顔をした。
「どういう事?」
 クラウドが首をかしげる、それはそうであろう。自分が唯一の王位継承権を持つ者だと思っていたのである、それが他にもいて、その男がザックスだとは思ってもいなかったのであろう。セフィロスがにやりと笑って説明した。

「おかしいとは思っていた。この男は王族しか入れない祭殿に、4年前に入ったというではないか。ならばどう考えてもこの男が王族であるということだ。隣国の国王夫妻がクーデターで殺されたのが今からだいたい10年前、たしかその王妃はこの国の国王の血筋であったはずだな。違うかな?」

 セフィロスの説明に無言で国王がうなずくと、ザックスが頭を掻きながらつぶやいた。
「ったく…。俺、堅っ苦しい事大嫌いなんだよなぁ…。だから王政を辞めようって国王に進言したんだけど、バレちゃしょうがない。あ〜あ、エアリスにもっと早くプロポーズしておくんだったなぁ。」
 ザックスはセフィロスがにらんだとおり、隣国の国王夫妻の忘れ形見であった。10年前に隣国では軍事クーデターが起こり、その時に国王夫妻は惨殺されていたのであった。ザックスは国王親派の衛士のおかげで難を逃れ、遠い親戚であるミッダーガルデン国王を頼ってこの国に来たのであった。成人する間、国王夫妻の庇護の元、昔から王妃付きとして勤めていて信頼の置ける女官の家に里子に出し、剣の腕を磨きながら15歳で祭殿にひそかに訪れた後で衛士として警護隊へ編入していたのであった。
「ま、そんなわけで…俺も協力するからさ、クラウドは自分の思うとおりに生きればいい。でも、いくらいい女だからって、エアリスは譲らないぜ〜〜!」
 相変わらず気さくなザックスに、国王夫妻は顔をしかめるのであるが、長い間庶民として暮らしてきた彼が急に王族らしく変われるとも思えない。これはもう仕方ないと苦笑いをするしかないようであった。
「おぬしらしいがの…ザックス。エアリスという女官は、美人で優しくて気だての良い女性で、衛士にもかなり人気の女官だが、もう思い人がいるようだぞ?」
「あ、大丈夫です、俺のことだから。」
 あっさりと言ってのける自信は、どこから来るのであろうか?クラウドは思わず吹き出してしまった。
 ザックスがにっかと笑って、クラウドに親指を立てて合図をすると、すっと前に足を進めて彼の隣にたった。
「まぁ、そんなわけで、俺がクラウド皇子を守るって訳にもいかなくなったみたいだし…警護隊の隊長も皇子に対する反逆罪で処刑されたから、後任を選ばなければダメだよなぁ?俺はグスタフの後任にセフィロスを、俺の後釜にはリックを推薦する。」
 ザックスが国王に対してそう話すと、国王がうなずいた。王妃も満足げな顔をしていてリックもうなずくが、セフィロスだけは顔をしかめさせていたので、クラウドはその反応に顔を暗くさせた。
「セフィロスさん。やっぱり…旅に出たいのですか?」
「ああ、心のどこかにその気持ちがあるのは否めない。少し考えさせてくれ…」
 そう言うとセフィロスは玉座の間を一人去っていった。
「あ、俺急いでエアリス口説いてきます!」
 ザックスが片手を上げて玉座の間を走り去っていった。そしてリックが一礼して下がるとクラウドは国王夫妻に一礼した。
「ごめんなさい、勝手に飛び出しちゃって…」
「でも、戻ってきてくれたのですよね?ならばそれでよいです。しかし、クラウド。あの方の心を得るのは苦労しそうですよ。」
 王妃に言われてクラウドは顔を真っ赤にさせながらもうなずいた。そしてしっかりとした足取りで玉座の間を後にした。


* * *



 セフィロスは部屋に戻って今までのことを思い起こしていた。
 なぜ通りすがりの少年だったクラウドを助けたのであろうか?何故ザンカンの言うことが真実だと思い、クラウドを王家に戻すことを手伝ったのか…自分の過去にはあり得なかった行動ばかりであったのだ。

 たしかにあの少年を怪我させてはいけないと、瞬時に思ったのであろうな…そうでもなければ、俺は二度も助けることなどしない。
 では…なぜそう思ったのだ?

 セフィロスが自問自答している時、扉がノックされた。
「あ…あの、クラウドです。入っても良いでしょうか?」
 おびえてもいない、まっすぐで素直な意志が扉の向こうから伝わってくる、自分がどう出ても一歩も引かないという覚悟を感じて、セフィロスは口元をゆるめた。
「開いている、入って良いぞ。」
 扉を開けてクラウドが入ってきた、ちょっと跳ねた金髪、空の青を写し取ったような瞳が薄暗い部屋の中に明るい色の彩りを与えた。
(ああ、そうだったのか…)
 セフィロスの中に答えが出た。

 セフィロスがすっと立ち上がって、不敵な笑みを浮かべてクラウドのそばへと歩み寄ると、白い肌に朱が刺したように赤くなる。そんな様子も初々しい少年を扉の前まで迎えに行くと、少しかがんで眼をのぞき込むように話しかけた。
「何かな?クラウド。」
 その言葉に以前と変わらないセフィロスを感じたクラウドがにこりと笑った。
「よかった、山小屋で一緒にいた頃のセフィロスさんだ。」
 満面の笑顔に一瞬びっくりしたような顔をするが、すぐに獲物を狩るような瞳になったセフィロスが、クラウドの顔にすっと近寄った。
「こら、そんな顔をして俺を誘うな。」
「さ…誘うって……。あ、でも…それでもいいや。」
 クラウドがすっと手を伸ばしてセフィロスの首に抱きつき軽く唇を会わせた。
「僕……貴方が…。」
 クラウドの唇を指で塞いでセフィロスが苦笑をした。
「それは俺の言う台詞だ。」
 そう言ってセフィロスは自ら唇を重ねた。

 ミッダーガルデン王国はこの後30年を経過した後、共和制へと移行した。


 ー the End ー