翌日、朝食後にセフィロスとザックス、リックは王宮へとそろって上がった。
 玉座に国王夫妻と青い衣装に赤いマントをまとったクラウドが待っていた。その姿を見たザックスが思わずつぶやいた。
「お〜、馬子にも衣装って、ああいうのを言うのね。」
「ザックス、口が悪いぞ。」
「まったく、おまえは良くそれで王宮警護隊を勤めていられるな。」
 国王達に聞こえない程度につぶやきながら、セフィロスは臣下の礼を取ると、リックとザックスも彼にならった。満足げに国王がうなずくが、クラウドはどことなく寂しげな顔をしていた。
「ご苦労である。そち達にはこれからクラウドを伴って、城下町の外れにある祭殿へと行ってもらう。必ずクラウドを守りながら戻ってくるのだぞ。」
「御意に。」
 リックの答えを聞き終わると同時に、クラウドが玉座から降りて3人の近くへと歩み寄った。
「よろしくお願いします。」
 ぺこりと一礼すると、ザックスが立ち上がり先導役を、クラウドを挟んでリックとセフィロスが後ろを守りながら玉座をあとにした。

 城下町を抜けてしばらく南に歩くと海に面した小さな祭殿が見えてきた。
 異様な静けさがある石造りの神殿をザックスが迷わず進んでいく後をクラウドがおそるおそる付いていく。
 祭殿の奥に到着して供物を台に置き、戻ろうとした時、部屋のあちらこちらから衛士達がぞろぞろと現れ、グスタフに守られるようにデューク・シンラが姿を現した。
「いけませんなぁ皇子殿。こんな人気のないところに共を3人しか連れずに来ては…。襲撃にあっては大変でしょう。」
 デューク・シンラが片手を上げると衛士達が剣を抜きクラウド達を取り囲んだ。
「ザックス、クラウドから離れるな!リック、殺れるか?」
「ふふふ…貴方の剣裁きが見られるならば付いていきますよ。」
 セフィロスが剣を抜いて下段に構えると、すり足で一気に囲んでいた衛士に近寄っていった。リックも同じように出口に向かって切り結んでいく。
「クラウド!来い!!」
 ザックスがクラウドを抱えて、二人が作ってくれた出口への道を、剣を片手にこじ開けながら進んでいった。
「リック、セフィロス!先に行くぜ!!」
「おう!怪我させるなよ!」
 ザックスはリックの返事に親指を立てて、にっかと笑った。そしてすぐに真顔に戻り、クラウドを連れて斬りかかってくる衛士達をくぐり抜け、王宮へと戻っていった。

 一方、祭殿で残っていた衛士達を切り伏せて、リックとセフィロスはデューク・シンラの後を追いかけていた。やがて行き止まりに追い込むと、グスタフがデューク・シンラの前に立ちはだかった。
 グスタフが剣を抜くと問答無用でリックに斬りかかってきた、熊のような体格で大柄な彼の攻撃は力任せだけではなく、技もなかなかのモノであった。受けているだけで必死のリックがよろけるとセフィロスが横から割り込む。
「こいつは任せろ。古狸を追え!」
「了解!」
 リックがその場から離れようとするデューク・シンラの後を追おうとすると、グスタフが間に割り込んできた。
「どうやっても通さねえって?」
「………。」
 無言で剣を振り下ろしてくるグスタフの剣をセフィロスがはじき返した。とたんにグスタフの顔色が変わった。
「その程度の腕で衛士長とは笑わせるな。」
 セフィロスの冷たい瞳がグスタフを射すくめる。すっと一歩足を進めると一気に間合いを詰めて一気に斬りかかった。

 リックはその太刀筋をただ呆然と眺めていた。
 流れるような……まるでダンスを踊るような…優雅な剣であったが、確実にグスタフを追い詰めていたのである。
 あっという間にグスタフの剣をはたき落としセフィロスがリックに声をかけた。
「早く行け!」
 ぼうっと見ていたリックが声をかけられてはじかれたように走り出した。それを見送ってセフィロスはもう一度グスタフに向き合った。
「おまえは何の警護をしているのだ。王宮警護隊ならば王家の者を警護するのが仕事であろう?!」
 セフィロスの一喝に、グスタフが大声を上げて斬りかかってきた。最初の一撃をあっさりと受け流し、返す刀で切り伏せると、血しぶきを上げて熊のような身体が真っ二つになって倒れた。その姿を一瞥するとセフィロスは祭殿を離れた。

 一方、デューク・シンラを追い詰めて切り伏せたリックは、セフィロスとザックスのどちらを助けるべきか一瞬考えたが、皇子を守るべきと考えて周りを探し始めた。やがて、岩陰に隠れているザックスを見つけた。
「ザックス、無事か?!」
「おう、何とかな。そっちは?」
「終わった、祭殿が血だらけだよ。後で掃除が大変そうだな。」
「そんな軽口が出るなら大丈夫なんだな。」
 そういうとクラウドを抱えるように姿を現した。ザックスはあちこち斬られたような血の筋が付いていたが、さすがに皇子を守り通していたのであった。
 青い顔をしたままクラウドがリックに尋ねた。
「あ、あの…セフィロスさんは?」
「グスタフに手こずっているとも思えんけど?」
「ああ、彼なら大丈夫だろう。先に王宮へ帰って報告だ。」
 リックが二人の背中を押すように歩き始めた。


* * *



 王宮に戻ってザックスの怪我の手当を終えても、セフィロスは戻ってこなかった。
 夕方になっても戻ってこないので、クラウドがおろおろとし始めた。
「どうして…、どこにも行かないって約束してくれたのに…。」
 クラウドが泣き始めるが、国王も王妃もどうして良いのかわからず、手をこまねいてしまっている。ザックスがため息混じりに話しかけた。
「なあ、リック。あのにーさんが行きそうな所って知らないか?」
「何で俺が!!…って、待てよ。昨日ザンカン殿の事を聞いたんだが…あの方は事が落ち着いたら一度墓参りをすると言っていた。」
 クラウドがはっと顔を上げて国王夫妻を見た。
「ごめんなさい。僕…皇子でなくてもいいです。あの人のそばにいたい…。」
 そう言ってクラウドは玉座の間を飛び出していった。
「あ!皇子!!」
 リックが止める手をふりほどいて、あっという間に王宮の外へと飛び出していった。その後をあわててリックが追いかけていった。
 クラウド皇子の後ろ姿を見送った国王が隣に座っている后にため息混じりで話しかけた。
「まったく、どうしたものかね?」
「あの子があの方を思う気持ちは変えられませんわ…」
 玉座の間に残ったザックスが国王夫妻の前にきちんと臣下の礼を取った。
「失礼ながら国王陛下、クラウド皇子を失うことなくこの国を続ける法が一つあります。それを話してもよろしいでしょうか?」
 ザックスの言葉に国王夫妻はにこりと笑ってうなずいた。


* * *



 城下町を抜けたところでリックはクラウドを捕まえた。
「クラウド皇子、お待ちください!」
「嫌だ!!リックさんの言うことを訊けばお城に戻されちゃう!そんなの嫌だ!」
「いえ、私もザンカン殿のお墓にお参りに行きたいのです。ご一緒させてください。」
 そう言うとクラウドの少し後ろを同じ歩幅で歩き始めた。
 たまに通り過ぎる旅人に二人は「銀髪の美丈夫とすれ違わなかったか?」と聞いては、確かにセフィロスの後を追いかけていることを確認しながら、クラウドが隠れ住んでいた小屋へと歩いていった。
 何日か山を越えて歩くと、やがて見覚えのある村が近づいてきた。
「あ!シドさんの村だ!!リックさん、この山を越えれば僕の住んでいた村です!」
 クラウドは嬉しくなって思わず駆けだしていた。
 北へ、北へと心に羽が生えたように足が浮いたように速くなっていく。それまで歩いてきた疲れなどどこかへと忘れ去られていたが、そんな彼を追いかけているリックは気が気でなかった。
(こ、このままでは崖から落ちてしまうではないか?!)
 下り坂を全力で駆け下っているクラウドをあわてて止めようとするが、すでに勢いが付いてしまっていて、次の曲がり角を曲がりきれないと思った時。クラウドの前に人影がいきなり現れて、崖に堕ちようとする身体を片腕で止めた。
「セ、セフィロスさん!」
 クラウドの身体を止めた男の名前をリックが叫んでいた。
「リック、こんな所までクラウドを連れて何をしに来た?」
「ザンカン殿のお墓にお参りしようと…」
 ギロリとセフィロスににらみつけられて、リックの背中に冷たいモノが流れた。なんて言い訳をして良いかと思っていると、セフィロスに片腕で抱えられていたクラウドがじたばたと動いた。
「セフィロスさん!!一人で行かないって約束したでしょ、約束破ったらダメでしょ!!」
「まったく…困った皇子だな。」
「僕、皇子の地位は捨てました。」
「なりません、お墓をお参りしたら皇子には戻ってもらいますからね。セフィロスさんも一緒に来ていただきます。」
 有無を言わせない様子のリックにセフィロスはため息をつき、クラウドは涙を浮かべた。それでもリックは譲ることなく、二人の背中を押してクラウドが過ごしていた小屋へと歩いていった。

 ザンカンの墓にお参りをして、来た道を3人で王都へと歩いていると、向こうからザックスが馬を連れて歩いてきていた。
「お、いたいた。クラウド皇子、安心して王宮に帰るんだな。もうあんた達二人を邪魔する奴はいないって。」
「ザックスさん、一体何があったのですか?」
「皇子ももうちょっと骨があるかと思っていたけど…、まあまだ15だし、知らないから仕方がないか。王政を廃止して共和制へと移行させるんだよ。そうすればおまえは皇子であっても、国を継ぐ必要もなければ、世継ぎをもうける必要もない。」
 にかっと笑ったザックスの背中をリックが思いっきり叩いていた。
「ザックス!おまえどこでそんな知恵を付けた?!強行突破派のお馬鹿だとばかり思っていたぜ!」
「俺は隣国で生まれたからね、親が幼くして死んでこっちにいる親戚に引き取られた。10歳だったが…なぜこの国には国王がいるのだろうか?って思ったもんだぜ。」
 クラウドを軽々と抱き上げて馬に乗せると、轡を取って王都への道を進んでいった。
 しかしこの時セフィロスには、先日ザックスの言っていた言葉が脳裏をよぎっていたのであった。