決勝戦は巴戦だった。
勝ち残っていた3人が一人になるまで戦うことになったのであったが、開始後30分で決着が付いていた。
セフィロスが圧倒的な強さを見せつけて優勝したのであった。
玉座に座って見ていた国王夫妻は満足げに頷き、隣に座っていたクラウドは素直に喜んでいた。
玉座から一段下がった後ろの貴賓席にに小太りの男と、クラウドとあまり年の変わらない青年が座っていた。どうやら宰相のデューク・シンラと、その息子ルーファウスのようであった。
玉座の王が片手を上げて試合の終了を宣言した。
その場でセフィロスは衛士達に囲まれて、王宮の謁見の間へと連れられてきた。
玉座に国王夫妻とクラウドが座っている、その横に貴賓席に座っていた親子が立っていた。小太りの男がさも善人そうな顔をして、セフィロスの前に立った。
「このたび武闘大会で優勝されたセフィロス殿、貴殿に王宮警護隊の一員としてクラウド皇子の警護に当たることを命ずる。」
任命書をセフィロスに手渡すと、苦々しげな顔をしていた。
任命書を受け取ると、ザックスに連れられて警護隊控え室に入る。そこには屈強な戦士達がひしめき合っていた。
角刈りの茶色い髪をした男がついっと前に進み出た。
「ザックス、新入りか?」
「ああ、今日の武闘大会で勝ち抜いた男だ。」
「へぇ…まあ、この人ならあり得そうだな。」
ザックスがセフィロスに目の前の男を紹介した。
「こいつはここの副隊長、リックだ。隊長は宰相に常に付いているから多分会うことはないだろうな。俺も顔を忘れた。」
「お気軽な頭だな。」
「ひ、ひっでーー!!せっかく人がいろいろと案内してやろうって言うのに!!」
「別に必要ない。食堂と寝るところさえわかればそれで良い。」
ザックスが何か言おうとしたときに、扉が開いて一人の男が入ってきた。その男を見た途端、部屋の中にいた者達が一斉に色めきだった。
「セフィロスという男はおまえか?明日、皇子について街外れにある祭殿に行くことになった。場所はわかるか?」
「いや、私はこの国のことは詳しくはない。」
「ザックス、教えてやれ。」
ザックスを一瞥すると、男は出て行った。しばらくして軽くため息を吐きながらザックスがぼそりと話した。
「あれが……王宮警護隊の隊長、グスタフだ。宰相の飼い犬って噂されている。」
「ザックス、その人は国王派とも思えないんだが…?」
「ああ、この人はクラウド皇子を連れてきてくれた人だ。」
「なるほど。昨日の騒ぎの主って事か…。」
リックと呼ばれた男が軽くうなずいて自ら片手をセフィロスに差し出した。
「あんたなら…あるいはこの国をまともにしてくれるかもしれないな…。」
差し出された手を握るべきかどうか一瞬悩んだが、セフィロスはあえて握手をすることを辞めた。
「残念だが俺はつい先日までは旅に生きていた男だ、あまり期待されても困るな。ところでザックス、グスタフの言っていた祭殿とはいったい何のことだ?」
セフィロスに聞かれてザックスが一通り説明を始めた。
城下町の南門を抜けた所に祭殿があり、そこは王族しか入れない聖なる場所であるらしい。なにやら王家の先祖を祭っているらしく、王族に生まれた男子は15歳になった時、女子は16歳になった時に、その神殿へ供物をささげて、先代の王族へ成人した姿を見てもらい王族として認めてもらう儀式を執り行うことになっていたのである。
クラウドはすでに15歳となっているため、明日急遽その儀式を行いその翌日に国民に第一位王位継承者としてお披露目することになっているという。
「俺も行った事あるけど陰気なところだぜ〜〜、クラウドが命をねらわれるならばあそこしかなさそうだぜ。」
「行ったことがあるだと?」
「ん?ああ、4年前だったかな。ちょっと野暮用で、な。」
ごまかすようなザックスの笑顔に、セフィロスは片眉を跳ね上げた。しかし、にらみつけても、黒髪の人なつっこい男は、にやにやと笑うだけで全く意に介さないので、リックに祭殿の造りを聞いて、自分ならどう攻めるか考えていると、昨日の女官が扉をノックして入ってきた。
「あ、よかった。クラウド皇子が呼んでいるわよ。」
「俺か?まったく、雷は鳴っていないがな。」
「明日のことでお話があるんですって、早く行ってあげてよ。」
「仕方がないな。」
ゆったりと部屋を出て行こうとしたセフィロスを、エアリスが背中を押すように押し出す。
「もう、早く行ってあげなさいって言ったでしょ!駆け足!すすめ、よ!!」
ちらりとエアリスを見たセフィロスは、口元を軽くゆるめたがやはり急ぐことなく王宮の奥の間へと歩いていくのであった。そんなセフィロスを見送ったエアリスがくるりと後ろを向いてザックスに話しかけた。
「ねぇ、ザックス。あの人クラウド皇子の思い人なんでしょ?自覚ないの?」
「自覚?そんなんじゃないと思うよ。だってよぉ、エアリス。いくらこの国が同性婚を認めているとしてもだぞ、一国の皇子にその権利があると思うか?」
「あるわよ!いくら皇子だからって好きな人と結ばれる権利はあるわ。」
「じゃあ、聞くけど。皇子が王位を継承した後は…この国の王位はどうなるんだ?同性婚では子供は出来ねえぜ。」
「あっ……。」
エアリスがやっと理解したのか青い顔をする。
「そうだったわよね。いくら好きだからってクラウド君があの人と結婚したら、この国を継ぐ子供はいなくなるのよね。」
エアリスが悲しげな瞳でどこか遠いところを見つめていた。
セフィロスは王宮の奥の間に着くと扉をノックする。中からすぐに声が帰ってきた。
「セフィロスさん?どうぞ入ってください。」
クラウドの弾むような声に少し顔をしかめた。そして扉を開けて入ったセフィロスは、クラウドに対し臣下の礼を取った。
片膝をついて騎士の礼をしたのであった。
「お呼びでしょうか?皇子。」
「ちょっと…セフィロスさん。嫌だなぁ、そんな事しなくても…。」
「いいえ、そうは行きません。あなた様はすでに私の雇用者。私がきちんと礼を尽くさないと他の衛士に示しが付きません。」
立ちすくんでいるクラウドの蒼い瞳が大きく見開かれているのをみると、彼の受けたショックは相当なモノであろう。しかしクラウドに自分の地位をわからせるためには仕方がないとセフィロスは思っていた。
クラウドの瞳から涙がぼろぼろと落ちてきた。
「こんな事…望んでいなかった。僕はあなたと一緒に旅に出られるかもしれないと思って、武闘大会に出た。大会に出てある程度勝ち進めば…あなたに付いていきたいって言うつもりだった。それなのに…。」
「あの山奥の小屋でザンカン殿に出会ったときに、すでにおまえのことを聞いていた。最初から俺はおまえをこの王宮に帰したら一人で旅に出るつもりだった。」
クラウドの顔がはっとしたようなモノになった。彼はセフィロスが自分のために王宮に残ったのではなく、地位がもたらしたクラウドの一言で王宮に残ったことに気がついたのであろう。済まなさそうな瞳でセフィロスを見ると押し黙ったようにうつむいてしまった。
しばらくしてぽつりとクラウドはつぶやいた。
「では、一つだけ約束してください。僕に内緒でこの城を出て行くことの無いようお願いします。」
「ご命令とあらば…。」
がくりとクラウドが崩れ落ちるように床に座り込みぼろぼろと泣き崩れた。
「嫌だ……、こんなの嫌だよぉ……。地位なんていらない、僕は……、僕はあなたが…。」
泣きながら訴えるクラウドの唇に指を当ててセフィロスが厳しい顔をした。
「残念ですが皇子の立場では言って良いことと悪いことがあります。」
しかしクラウドは腕を伸ばしてセフィロスに抱きつくと自ら唇を重ね、そしてつぶやいた。
「自分の心は譲れません。たとえ何があっても…この気持ちに嘘はありません。でも……、迷惑ですよね。あなたの親切を一人で勘違いしていたんだもん。明日は、一緒に行ってくださいますか?」
「ええ、それが仕事ですから。」
セフィロスが一礼するとクラウドは寂しげな笑顔を浮かべて自分の部屋へと戻っていった。
セフィロスも自分の部屋へと戻ると扉を閉め、閉めた扉に背中を預けるようにため息をついた。
「まったく……、俺がどんな気持ちでいるか…。」
セフィロスは軽く髪をかき上げた後、イスに座って何か考え込んでいた。
すると扉がノックされた。
「リックです、入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、開いている。」
「秘蔵のワインを持ってきました、いかがです?」
「なぜ?」
「先ほどお見かけした顔が寂しそうに思えたもので…。」
ワインボトルとグラスをセフィロスに見せてリックが入ってきた。
「なるほど、伊達に副隊長を張ってはいないと言うことか。」
「そう言っていただけると嬉しいですね。」
セフィロスがイスを指さすと、テーブルにワインボトルとグラスを置いてリックがそのイスに座った。
「貴方が会われたザンカン殿というのは、この国の伝説の勇者と言われているほどの達人だったそうです。そのザンカン殿に見込まれた貴方も、相当腕の立つ方とお見受けしました。願わくばお手合わせいただけないでしょうか?」
「残念ながら俺はザンカン殿に直接教えを受けたわけではない。彼に直接教えてもらっていたのはクラウド皇子だ、15にしてはなかなかの太刀筋だったな。」
「そうですか…、お会いしたかったな。」
そう言いながらリックは持ってきたグラスに自らワインを注ぎ先に口にする。それはワインの中に毒など入れていないという事を意味する行動であろう。セフィロスには目の前の男がこれまでに無駄な時間を過ごしていないと言うことがその行動だけですぐにわかった。
口角をちょっと上げただけの独特の笑みを浮かべてセフィロスがワインを自らグラスに注いだ。
「そうか…。それほどの方とはわからなかったな、落ち着いたら墓参りにでも行くか。」
どこか遠い目をしながらセフィロスがグラスを煽った。
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