ニブルヘイム北の魔晄炉一号機の、安全確認を行った第10師団隊長であるモードレッドが、カンパニーに戻ってきて書いた報告書が上がってきた。
セフィロスはその報告書にあり得ない一文を見た。
サイト運営7周年突入記念作品 2 ー 人間の証明 ー
セフィロスは報告書を見て、モードレッドにキツイ口調で話しかけた。
「U.M.E.(未確認生物)だと?!ニブル山と言えば近くに人里もあったであろう?それなのに未確認生物がいるとでも言うのか?!」
「あ…はい。どう見ても人間…、しかも金髪の少年なのですが…ニブルヘイムの者達は口をそろえて「そんな者はいない。」と言うのです。」
「は?!どういう事だ!最初から話せ!」
「は、はい。」
恐縮しきった顔でモードッレッドはセフィロスに話し始めた。
「ニブルの山中腹でモンスターの一掃を行っていたのですが、クラスBソルジャーの一人が、金髪で全裸の少年を見たというのです。すぐに確認のために追いかけたのですが…なにしろ4足歩行の割に足が速くて…」
「取り逃がしたのか?」
「はい。」
「この話は私で留め置く。化学部門になど話すと実験動物にされるぞ。ペレス!輸送機を回せ、二時間で出る!」
そう言うとセフィロスはクラスS執務室を出て行った。
自分のチームに非常呼集をかけて隊の執務室に行くと、精鋭部隊はすでに全員そろっていた、満足げに頷きながら隊員達の前に立つと今回の任務を言い渡す。
「ご苦労、ただいまよりニブルヘイム北部の山にいる、未確認生物の補足ミッションに入る。相手は金髪で全裸の少年だというのだが、四足歩行をするらしい。相当すばしこいのかクラスBでは捕まえられなかったそうだ。危険はないと思うが、ニブルヘイム北部の山はモンスターも強い。それなりの装備をして2時間後に滑走路に集合、以上!」
隊員達が敬礼をすると返礼をした。とたんにチームのムードメーカー、ザックスと陰の隊長と呼ばれているリックがいつもの調子で話しかけてくる。
「なぁ、セフィロス。今時全裸で四足歩行の少年だなんてめずらしいな。」
「ニブルヘイム北部の山には、去年も第19師団が遠征に行っていますよね?その時は見つからなかったのでしょうか?」
「どうも全裸と四足歩行が結びつかんな。リック、マリスの所に行って去年のミッションの資料を借りてこい、ついでにモードレッドの所のサードに接触地点を確認してくれ。」
「アイ・サー!」
敬礼と同時にリックが執務室の外へ飛び出していった。
「なぁ、人間なのか?そいつ。」
「さあな。捕獲してみないと何とも言えないな。」
そう言うとセフィロスはバングルにはまっているマテリアをチェックすると、何か一つ取り出して入れ替えた。
「時間…か、俺も持って行こうかな?」
「おまえは魔法よりも剣の方であろうが、まあ足しにはなるかもしれんな。」
そう言うと、時間のマテリアをザックスに渡した。
やがて第19師団に赴いていたリックが戻ってきて報告した。
「第19師団のソルジャー2ndに聞いたところ、そのような未確認生物に遭遇した報告はなかったそうです。第10師団のルーキーが遭遇したそうですが、ポイント1208だったそうです。」
「ご苦労、割と民家に近いところで遭遇しているな。」
「やっぱ地元の連中が何か隠しているんじゃねえの?」
「ニブルヘイムはカンパニーに対してあまり良くない感情を持っているのは確かだし、あの村は閉鎖的でよそ者を受け入れない地域だ。何かあるというのも確かに考えられるな。」
「ま、行けばわかるさ。」
セフィロスに何も言われなくとも、隊員達が銘々に装備を詰めたリュックを抱えて滑走路へと歩き始めた。
* * *
飛空挺がニブルヘイムの南にある草原に着陸したのは、セフィロス達がカンパニーの滑走路を飛び立ってから15時間後のことだった。
ニブルヘイムの街中を通らずに、北の山へとトラックで走ると、夏なのに雪を頂いている山が迫ってくる。麓でトラックを降りてキャンプを張ることにした。
特務隊の隊員達がてきぱきとテントを張っていく。その横でセフィロスはニブル山をにらみつけるように立っていた。
カイルが組み立てイスを持ってきてセフィロスに差し出した。
「隊長殿、どうぞ。」
「ああ。」
組み立てのイスに座ると、すかさずジョニーが地図を持ってやってきた。
「隊長殿、周辺地図です。第10師団のサードがU.M.E.との遭遇場所にマークを付けてあります。」
うなずきながらセフィロスが地図に目を落とすと、現在地から北北西に20km程の所にマークが入っている。そのポイントがある方角を見やると、比較的なだらかであるが木が生い茂っていた。
「囲い込みだな…。」
「ラジャー!」
セフィロスが一言言っただけで、ジョニーはその場を離れて他の隊員達に通達に走った。
(この隊はよくわかっている奴らばかりだな。)
駆け去って行ったジョニーの背中をちらりと見て、セフィロスは口元をかすかにゆるめた。
キャンプを張り、囲い込みをやって3日目の事だった。山腹の開けた所にあまり大きくない穴を隊員の一人が見つけた。その穴の中を探すと動物のねぐらと思わしき干し草と、食べ残された肉の残骸が散らかっていた。
「どうやらこの辺が生息域ですかね?」
「間もなく日が落ちる。おまえらは先に降りていろ。ザックス、おまえだけ残れ。」 「アイ・サー!」
ありとあらゆる機能を強化されているソルジャーは夜目も利く、しかしセフィロス率いる特務隊の隊員達はザックスを除くと一般兵であった。暗い中で険しい道のりを降りる事は危険なので先に山を下りようとしたときだった。
先頭を歩くカイルが金色に光る何かを発見した。
「U.M.E.発見!右前方50メートル!」
カイルの声に隊員達が即座に反応して四方に散らばった。ザックスがまっすぐに駆け抜けていく横を、セフィロスが軽々と追い越していった。
木々の向こうにちらちらと金色の光が見え隠れする姿をセフィロスは追いかけていた。真っ正面にその姿をとらえた時、瞬時にストップの魔法を相手にかけた。
とたんに”どさり”という音が聞こえてきたので、音のした方向へを足を進める。
そこに倒れていたのは、まだ成長しきっていない全裸の少年だった。
「こんな子供が……。」
セフィロスは代名詞ともなっている黒のロングコートを脱ぐと、そのコートで少年をくるみ、抱き上げてスリプルをかけてから元来た道を戻っていった。
すぐにザックスが駆けつけて来ると三々五々に散らばっていた隊員達が集まってきた。
ザックスがセフィロスの腕の中にいる少年をみて、びっくりしたようにつぶやいた。
「な、何でえ。まだガキじゃないか。」
「ケイン、ブロウディ。先にニブルヘイムに行き、10歳から18歳ぐらいの子供に金髪碧眼の少年を知らないか聞き回れ。ただし大人の居るところでは絶対聞くな。」
「アイ・サー!」
セフィロスの命を受けた二人の隊員達が駆けるように山を下っていくのを見送ると、ザックスは聞いた。
「なぁ、なんで大人の居るところはダメなんだ?」
「報告書ではニブルヘイムの大人は”知らない”の一点張りだったそうだ。そんな連中に何を聞いても答えは出まい。それどころかこの少年のことを隠している様子だ、親が居て睨みをきかせていては答えられる事も答えまい。」
確かにその通りである、第10師団の隊長が自ら住民に聞いても、誰も答えは一緒だったのだから、ニブルヘイムの住民にとってこの少年のことは隠しておきたいことなのであろう。
少年を抱えながらセフィロスが麓まで降りると、ケインとブロウディが一人の少女を連れて待っていた。
少女がセフィロスの腕の中にいる金髪の少年をみて声を上げた。
「ク、クラウド!何でここにいるの?」
「何でここにいるの?」はずいぶんな言い方であるが、ともかく目の前の少女はこの少年を知っているようであった、ザックスが人なつっこい笑顔で姿勢を低くして少女に話しかけた。
「お嬢ちゃん、こいつのこと知ってるの?」
「うん、この子クラウド・ストライフって言うの。7年前だったかな?お母さんが病気で死んじゃった時に、どこかに行っちゃったって思っていた。」
「この子のお父さんはいないのかな?」
「うん、顔も知らないの。」
「ニブルヘイムのみんなは、金髪の子は一人もいないよね?この子だけなのかな?」
「うん、お母さんはこの村の人だったけど、お父さんはどこの誰だかわからないって…パパが言っていたわ。」
「君の名前は?」
「あたし?ティファ。ティファ・ロックハートよ。」
「教えてくれてありがとう。このことは内緒だよ、だって彼は山で一人で暮らしていたんだ。」
「え?うそ!そんなことパパもみんなも誰も何も言わなかったわ。」
「うん、だから内緒にしないと…もしかすると殺されちゃうかもしれないだろ?」
黒髪の男が言うことは腑に落ちないが理解は出来る。自分の住む村はよそ者を受け入れるようなことはしない、だから昔からクラウドは村の大人からも子供からも『居ない者』として扱われていたのであった。
ティファは黙ってうなずいた。
少女をリックがニブルヘイムまで送り届けるために歩き始めた。
セフィロス達がキャンプに戻る頃、リックは村人を一人連れてきていた。
「隊長殿。ロックハート氏です。」
「ご苦労。さて、ロックハートさん。ここに連れてこられた理由がおわかりかな?」
「い…いいえ。」
ロックハートは目の前の男にびくびくしているようであった。
それもそうであろう。黒のロングコートこそ着ては居ないが、鋼のような肉体に銀色の長い髪、やや緑色がかったアイスブルーの瞳。その姿を知らない者はないとまで言われるほどの男は、神羅カンパニー治安維持部のトップソルジャーであるセフィロスである。
その男がゆっくりと立ち上がりロックハートの目の前に迫った。
「この俺に隠し事とは…舐められたものだな。」
口元こそ緩やかに微笑んでいるが目が全く笑っていない。その氷のようなまなざしにロックハートは思わず背中に冷たいモノを感じた。
「両親のいない少年を保護もせず山に放置して置きながら、しらばっくれるのか。ならばおまえがやったように、今ここでおまえを切り捨てても文句は言われないと言うことだな。」
いつの間にか左手に抜き身の剣を持っていた。その切っ先が自分に向くとロックハートは泣きわめきながら許しを請うように座り込んだ。
「わ…私だけではないぞ!村の大人が全員で決めたんだ。身寄りのない子を育てられるような余裕のある者はこの村にはおらん!」
「フン、そんなところであろうとは思っていたが…。この少年の事でわかることや残っている物があれば持ってこい。戸籍があればそれももらおうか。この子はカンパニーで戦士として育てる。」
セフィロスに一喝されてロックハートはあたふたとテントから出て行った。
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