セフィロスの穏やかな瞳がクラウドを見つめていた。
「よかった、いつものセフィロスだ。」
 クラウドは安堵すると思わずセフィロスの腰に抱きついた。
「セフィロスがモンスターなら、モンスターを作った奴もっとモンスター。」
 にっこり笑うクラウドの頭をぽふっと撫でて、セフィロスは資料を全部持ち出そうとした。クラウドがあわてて手伝うと手分けして村はずれの何もない場所へと集めた。
 山積みにした資料をファイガの呪文であっという間に焼き尽くすと、炎を見てあわててザックス達が駆けつけた。
「セフィロス、一体何があったんだ?!」
「要らない資料を燃やしただけだ。」
「隊長殿……。」
 セフィロスが正気に戻ったのを感じたリックは、それだけ言うと思わず涙ぐんでいる。同じように心配していた隊員達が以前と変わらない隊長を見て安堵した。
「帰るぞ!急いでミッドガルに戻りやらねばならないことが出来た。」
「はぁ?!今度は何だよ?!」
「人体実験の一件で宝条を絞める。」
 そう言うとクラウドをちょいちょいと手招きし、パタパタと近寄った彼の頭をひとなでして、隊員達にちらりと冷たい笑みを浮かべる。
「俺を今まで騙していたお礼はせねばならんと言うことだ。」
 にやりと笑うセフィロスに隊員達は思わず背中に冷や汗をかいていた。


* * *



 ミッドガルに戻ったセフィロスは真っ先に神羅カンパニー科学部門に赴き、宝条をつるし上げて全部白状させた。
「それで?遺伝上の俺の父親は誰なんだ?」
「クワックワックワッ…これだけのデーターがそろっていて、まだわからんのかね?案外お前もお馬鹿さんと言うことなんだな。」
「貴様……。」
 人を馬鹿にしたような笑い、見下しきったような瞳に思わず怒りがこみ上げてくる。この男にどれだけ実験体として自分の身体をいじられたかわからないぐらいである。
「人を人としてみていない貴様らしいが…俺は認めないからな!」
「クワックワックワッ…お前が認めなくともよいわ。」
 投げ捨てるように宝条を突き飛ばし、セフィロスは科学部門の部屋から出て行った。

 訓練を終えてクラウドが部屋に戻ると、薄暗がりの中ソファーにもたれて何かを考えているセフィロスがいた。
 クラウドは灯りも付けずに近寄るとセフィロスの頬をぺろりと舌先で舐めた。
「クラウドか…。」
「セフィロス、悲しいか?」
「悲しい?何故そんなことを聞く?」
「俺、同じ。かあさん、その時こうしてくれた。」
 そう言うと再びクラウドはセフィロスの頬をぺろりとなめて頭を抱きかかえた。
「クッ……クックック…。クラウド、それはニブルウルフの慰め方だろう?人間の慰め方は少し違うぞ。」
「違うのか?」
「まず親が子どもを慰めるときは額にキスだ…こんな感じだな。」
 そう言ってセフィロスはクラウドの額に唇を落とした。
「そして、特別な人への慰め方はこれだ…」
 そう言ってセフィロスはついばむようにクラウドの唇をかすめ取った。するとクラウドは顔色一つ変えずにセフィロスの唇に自ら唇を重ねた。
「セフィロス、特別な人。」
「そうか…俺は特別か……。不思議だな、お前に言われると悪い気はしない。」
 クラウドの蒼い瞳がまっすぐ自分を見ている、それだけで穏やかな気持ちになれる。セフィロスはもう一度クラウドへキスをした。さっきは軽くふれただけだったが、今度は恋人へのキスであった。
 いきなり入ってきたセフィロスの舌に、びっくりして身体を引いてしまったクラウドだったが、がっちりと押さえられていて逃げるに逃げられない。しばらくされるままに口づけを受けていると、だんだんと頭の芯がぼーっとしてきはじめた。
 いつの間にか抵抗らしい抵抗が無くなったので、セフィロスは唇を離すと、ほんのりと頬をバラ色に染めた様子が何とも言えずに可愛らしい。
「こら、そんな可愛い顔をしていると食ってしまうぞ。」
「俺を食う?」
「ああ、物理的な意味ではない、腹は減っていないからな。」
 そう言いながらセフィロスはゆっくりとソファーにクラウドを押し倒していった。


* * *



 翌日、寝込んでしまったクラウドを部屋に置いて、セフィロスは出社した。
 特務隊の隊員達から、セフィロスの様子がおかしかったと聞いていたクラスSソルジャー達は、いつも通りの彼の様子に安堵の息を漏らした。
 セフィロスはいつものように冷静に仕事をこなしていた。
 しかし唯一違ったのは不意に思い出し笑いのような表情を作っていたのであった。
「い、一体キングに何があったというのか?」
「さあ、皆目見当も付きません。」
 そんな声を耳でとらえながらもセフィロスは悪い気はしなかった。

(俺のことを気にかけてくれている…か、今までは鬱陶しかったが、悪くはないものだな。)
 セフィロスがそう考えられるようになったのも、一人の少年のおかげであった。

(さて、なんと言って説明しようか…。しかし、我ながらまだ野生そのものの少年を…)

 そう思いながらもセフィロスの心は、自分の部屋にいる少年の元へと飛んでいるのであった。


 やがてクラウドがセフィロスへの気持ちに気がつく頃には、二人の関係は神羅カンパニー中に広まっていたのであった。  

 ー The End ー