飛空挺で移動すること15時間、ニブルヘイム南の草原に着陸すると後部ハッチからトラックが降り立った。中にはセフィロス以下特務隊のメンバーに訓練生のクラウドが入っているはずであった。
 しとしとと降る雨の中を幌を付けたトラックが移動している。その中でクラウドは荷物のはこの上で身体を丸めて青くなっていた。
 ザックスが心配そうな顔で声をかける。
「大丈夫か?おまえ。」
「うううう……」
「もうすぐニブルヘイムに到着する、あとちょっとの我慢だぞ。」
 そう言うとザックスはトラックの中をうろうろとしはじめたのでセフィロスが諫める。
「おい、お前。もう少し落ち着け。」
「新しいマテリア、支給されたんだ。早く使ってみたくて、落ち着かなくてさ。」
「……子供か、お前は。」
「俺はあんたみたいになりたくてソルジャーになったんだ。それなのにクラス1STに昇格したのと同時に戦争が終わってしまった。俺がヒーローになるチャンスが減ってしまった訳さ。だから、そういうチャンスがあるなら俺は 絶対にモノにしてみせる。な、どういう気分だ? 英雄セフィロスさん?」
「………。」
 セフィロスはザックスの問いかけに黙り込んだ。
 その時、運転手を務めているリックが声を上げた。
「隊長殿、ニブルヘイムに到着いたしました。」
「特に用事はない、行けるだけ近くへ行け。」
「アイ・サー!」
 トラックは大きくニブルヘイムを迂回してニブル山の麓まで進み、これ以上は道が狭くてトラックでは行けないと言うところで止まった。
 隊員達がトラックからそれぞれ降り立ち、てきぱきとテントを設営した。
 キャンプの設営が終わると一部隊員を残して少数精鋭でニブル山を登るためパーティーを組んだ。
 クラウドを先頭にニブル山の登山道を進んでいくと、吊り橋がかかっていた。かなり古そうな吊り橋は体格の良い男達が足を進めるとぎしぎしと音を立ててきしむ。
「うっわ〜〜!怖いなぁ。」
「あまり揺するな、落ちたら遠回りになる。」
 隙あらばクラウドに絡もうとするザックスだが、冷静な訓練生にとりつく島もない。がっくりと肩を落としながら歩く姿に後ろから隊員達の失笑が漏れる。
「ザックス、おまえよりこの訓練生の方が使えそうだな。」
「うるせーやい!」
 わいわいやっているうちに奇妙な形の建物が視野に入ってきた。クラウドが急に立ち止まってつぶやいた。
「ここから先、危険。」
「ああ、この辺のモンスターに建物を破壊されないようにセンサーが張り巡らされているからな。」
 そういうとセフィロスは周りの木の幹を軽く指で叩き始めた。
 何個か叩いていると、音の違う木があった。どうやらその木はダミーでセンサーのコントロールボックスになっているらしい、巧妙に隠されていたパネルを開けてセフィロスが中のキーをいくつか押していた。
「よし、これでセンサーは働かない。クラウド、先に進んで良いぞ」
「わかった。」
 クラウドはうなずくと赤い建物を目指して歩いた。


* * *



 やがてニブルヘイム魔晄炉へとたどり着いた一行は、その建物の周囲を見て驚いていた。
「木が立ち枯れしていますね。」
「そういえば…俺の里にも魔晄炉が立っていたんだよな、やっぱその周辺は木が立ち枯れしていて、草一つは得ていなかったなぁ。」
「ミッドガルも周辺の広い地域で草一本生えていないな、それってやっぱり魔晄を吸い上げている影響か?」
「さあな…しかしそれならば魔晄を吸い上げている今の状況では、確かに星の命を縮めていると言えるな。」
 セフィロスが不意にこぼした言葉は神羅カンパニーに反旗を翻している反抗勢力、アバランチの言い分であった。
「セフィロス、さっさと終わろうぜ。」
 ザックスが声をかけると、入り口のパネルを操作して扉を開け中へと入っていった、卵形のカプセルのようなモノの並ぶ内部に入ると、どこからか気体の漏れる音がしてきた。バルブの一部がゆるんできたのであろうか?近寄ってバルブを締めようとしたセフィロスがその腕を止めた。セフィロスが見たモノはカプセルの中、高濃度の魔晄に漬けられたキメラの姿であった。
 しかしそのキメラの隣にはまだ人間の形をとどめている者もあった。
「こ……これは!?」
 後ろから付いてきたリック達もその光景に思わず立ちすくんだ。他のカプセルを覗いていたカイルが声を上げた。
「隊長殿!この中にいる奴は先月行方不明になっていたソルジャー候補生です!」
 セフィロスはカプセルの中を一通り眺めると一人納得したようにつぶやいた。
「わかったよ、宝条。でもな、こんな事したってあんたはガスト博士にはかなわないのさ。これは魔晄エネルギーを凝縮して更に冷やすシステムだ、本来はな。さて、更に凝縮すると魔晄エネルギーはどうなる?」
 セフィロスはザックスに振り返って聞いた。
「え、ええと…… そうだった! マテリアが出来るんだな。」
「そう、普通ならな。でも宝条はこの中にある物を入れた。……見ろ。窓から中を覗いて見ろ。」
 セフィロスが冷却システムのカプセルを指差した。ザックスがその中を覗くと中には異形の化け物が魔晄に浸かっていた。
「こ、これは!?」
「お前達、普通のソルジャーは魔晄を浴びた人間だ。一般人とは違うがそれでも人間なんだ。しかし、こいつらは何だ? お前達とは比べ物にならないほどの高密度の魔晄に浸されている。」
「……これがモンスター?」
「そうだ。モンスターを生み出したのは神羅カンパニーの宝条だ。魔晄エネルギーが創り出す異形の生物。それがモンスターの正体。」
「普通のソルジャーって? あんたは違うのか? お、おい、セフィロス!」
 突然、セフィロスが頭を抱えだした、顔色は真っ青だった。
「ま、まさか……俺も?俺もこうして生み出されたのか?俺もモンスターと同じだというのか?!」
 セフィロスは狂ったようにカプセルを斬りつけはじめた。

 そんなセフィロスを見たことがなかった隊員達はどうして良いのかわからずにただ自分たちの憧れの英雄の行動を見守っていた。
 しかし、それに耐えきれなくなったのかザックスが声をかけた。
「セフィロス…」
「お前も見ただろう! こいつらの中にいるのはまさしく人間だ…」
「………。」
 確かにそうだった。
 カプセルの中に入っていたのは自分たちと同じ人間、しかも同じ志を持って神羅カンパニーに志願してきた者達だった。ザックスはいたたまれなくなって何も言えなかった。
「子供の頃から俺は感じていた。俺は他の奴らとは違う。俺は特別な存在なんだと思っていた。しかし、それは…… それはこんな意味じゃない!」
 セフィロスが鋭い視線をカプセルに向けたその時、カプセルの一つが大きく揺れたかと思うと中からモンスターが苦しそうに出てきた。
その様子を見ていたセフィロスが漏らした言葉をザックスは聞き逃さなかった。
「俺は…… 人間なのか?」
 セフィロスが何を言っているのかその時のザックスには良くわからなかった。
 ザックスは何よりも神羅カンパニーがモンスターを創っていたという事にショックを受けていた。

 重い身体を引きずるように特務隊のメンバーはニブルヘイムへ戻ってきた。
 セフィロスは村にある宿屋に篭もり誰とも言葉を交わそうとしなくなった。
 そして……ある日、突然いなくなった。

 セフィロスが見つかったのはニブルヘイムで一番大きな建物で、村の人達は神羅屋敷と呼んでいた。
 クラウド達が生まれた頃にはもう空き家になっていたが、それ以前はその屋敷は神羅カンパニーの人間が使っていた。
 ザックスは知らせを受けて神羅屋敷へと向かったが、セフィロスの姿は見えなかった。
「確かに、この部屋に入っていったのを見たんだけど…」
 そういわれてザックスは部屋に入ってみると確かにセフィロスの姿はない。が、壁が少し不自然になっているのを見つけ隠し扉になっているのを発見した、扉の奥は螺旋階段が地下へと続いていて地下は書庫になっており、そこにセフィロスはいた。
 セフィロスはそこにある書物を一心不乱に読んでいるところだった。
「2000年前の地層から見つかった仮死状態の生物。その生物をガスト博士はジェノバと命名した。×年×月×日。ジェノバを古代種と確認、×年×月×日。ジェノバ・プロジェクト承認。魔晄炉第1号使用許可…」
 セフィロスは本から目を離すとザックスに聞こえるようにつぶやいた。
「私の母の名はジェノバと聞かされた。ジェノバ・プロジェクト……これは偶然なのか?ガスト博士、 どうして何も教えてくれなかった?どうして死んだ?」
 ザックスが話しかけようとすると拒絶するかの如くセフィロスが背中を向けた。
「ひとりにしてくれ。」
 それ以降セフィロスは神羅屋敷に篭もりきりになった。
 まるで何かに取り憑かれたかのように書物を読みあさり、地下室の明かりは決して消える事はなかった。

 クラウドはセフィロスがひとりぼっちになっていると感じていた。
 自分がそうであったように、セフィロスが孤立しているのを肌で感じ取ったクラウドが、命令を無視して神羅屋敷の地下に忍び込んだ。
「セフィロス…。」
「誰だ?一人にしてくれといったはずだ。」
「俺です。」
 クラウドがおずおずと近づくが、セフィロスは相変わらず本から目を離さなかった。
「俺、ニブル狼の群れの中でひとりぼっちだった。みんな俺とは違っていた。強くて大きくて…、当たり前だよね。俺、人間だったモン。セフィロス、同じ人間。どんなに強くても姿、形は俺たちと一緒。」
「………何が言いたい?」
「セフィロスも俺たちと一緒、人間だよ。だからどこかに人間のお父さんとお母さん、きっといる。」
 クラウドの一言でセフィロスはあることに気がついた。
 実験書類の中に何度もルクレツィアという女性の名前が出てきていたのであった、その書類の中にはルクレツィアという女性の卵子が提供されたとあったが、それだけではなかなか受精卵とならなかったと記載されていた。
 ところが宝条が何かを加えた所、卵子が細胞分裂を始めたとあったのだ。
「俺の…人間の両親?クックック…そうか、そう言うことだったのか…、読めたよ宝条。貴様はガスト博士の実験を横取りしたばかりか、その実験をめちゃくちゃにしたのだな。」
 セフィロスはゆっくりと持っていた資料を置くとクラウドに向き直った。
「クラウド、お前の言うとおりだ。人間は人間からしか生まれない。受精卵の核を遺伝子操作しても人間にするためには人間の遺伝子を移植するしかない。」
 クラウドに振り向いたセフィロスは今までのセフィロスと何ら変わっては居なかったのであった。