クラウドが普通の訓練生と共に生活できないという理由は、すぐに教官達にも理解できた。まるで野生の動物のように、自分よりも強い者の言うことしか聞かない様子は、教官達が今まで教えたことがなかったので最初こそ手間取ったが、実力の片鱗を見せるだけで不思議とおとなしく指示に従う様子は可愛くもあった。
「レイナード、一体サーはあの少年をどうやって見つけてこられたのだ?」
「私も詳しくは聞いては居ないが…たしか出身はニブルヘイムとあったな。」
「なるほど…ニブルのモンスターは結構強い。あの性格ではのどかな田舎の村人にはなじめないであろうから、きっと一人で山に登っては遊んでいたのであろうな。」
それだけで、彼のあの性格は確立されないとは思ったが、レイナードは別段言い争うつもりが無かったので聞き流していた。
知的には多少遅れはあるが、そのせいか伸び幅の大きさが他の者を圧倒していた、実力は入隊試験ですでに実証済みなので訓練生の中ではピカイチ。すぐにでも実戦に投入しても戦えるほどのモノであると思われていた。
しかし集団訓練でクラウドの弱点がもろに出た。
その時点で何が重要か判断できる力があるが故、集団から勝手に離脱してしまうのであった。
「ストライフ!貴様は何度言ったらわかる!?それはソルジャーの仕事だ!貴様の仕事は援護射撃であろうが!!」
そう言いながらも、制止を振り切ってナイフ一つで敵の総大将の首を取る華奢な少年兵に、教官達は目を細めるのであった。
クラウドの才能はあえて聞かなくとも、クラスSソルジャー達の耳に届くほどのモノであった。
聞けば聞くほどその特殊な性格が浮き彫りにされてきていた。
「取扱注意…ですな。」
「実力がなければ言うことを聞かないなどと…、入隊後が心配ではありませんか。」 「トリスタンの隊ではまあ、無理だろうな。それが出来るとしたら唯一特務隊だけであろう。」
「キングは、最初からそのつもりでみえたのか…」
「それはわからぬが…普通の隊に入れてもあの性格では、周りに敵を作ってしまうのは目に見えているな。」
クラスSソルジャー達は思わずため息をつきながら、このところ少し様子が変わってきた感じのする自分たちの盟主をちらちらと見ていた。
* * *
特務隊にニブルヘイムの北にある魔晄炉の調査と補修の任務が入ってきた。
「セフィロス、ニブルに派遣だってさ。」
「ふん、そうか。」
「あのなぁ……相変わらず軽いのね。あのさ、あの仔チョコボ連れて行ってやったら?今頃、訓練の厳しさで故郷が恋しくて泣いてるんじゃねえの?」
ザックスの言葉にセフィロスではなく、リックやカイル、ジョニー達が反応した。
「訓練生をか?」
「どうやって?」
「理由も無しに訓練生をミッションに連れて行くわけには行かないぞ。」
「ニブルの魔晄炉ってたしか迷路みたいな道の先にあるんだろ?地元出身だから道案内に連れて行くと言えば…どうだ?」
「お〜〜〜!!ゴンガガ原人がめずらしく理路整然としている!」
「ジョ〜〜〜ニ〜〜〜ィ!!てめえ!絞められたいか!!」
副官のザックスとリック、カイル、ジョニー達のいつもの掛け合い漫才のような会話は、いつもだったら隊長のセフィロスが一喝して、ミッションの打ち合わせへと入っていくのが、通常の特務隊のやり方だったのであるが、今回ばかりはその隊長がなにやら考えを巡らせていたので、陰の隊長と呼ばれているリックが驚いたような顔をして、仲間にじゃれるのを止めた。
「おい、お前達。いい加減にしろ、隊長殿が何かを考えていらっしゃる。」
「はぁ?セフィロスでも考えることがあるのかよ?」
ザックスがちょっと間の抜けた声を出すが、それも致し方ない。いつもセフィロスは即断即決でじっくり考え込む姿など見たことがない。
「ありゃ……マジで何か考えてるぜ。」
「ザックス、お前行け。」
「こんな時だけ俺かよ?」
4人でこそこそとやっていると、急にセフィロスが執務室を出て行った。
「え?セフィローッス!どこ行くんだよ?!」
「そこで待っていろ!すぐに戻る!」
あっというまに通路の向こうへと消えた隊長の背中を見送ったザックスが、後ろにいる仲間達に声をかけた。
「かけるか?仔チョコボを連れて行くに10ギル。」
「まさか?あの隊長殿が訓練生を俺たち特務隊のミッションに連れて行くわけ無い、10ギル!」
「そうかな?俺は逆に連れて行くからこそここから出て行った…10ギル!」
「じゃあ俺は連れてくるに10ギルだな。」
好き勝手なことを言っている隊員達とは離れた場所にいても、セフィロスには意識を集中していれば聞こえる声であった。いつもなら罵声が飛んでくるのであったがそれすらも聞こえない。
「お…怒られない。リック、理由わかるか?」
「俺にもわからん…。」
陰の隊長が首をかしげているときに、セフィロスはクラスS執務室に入り自分のパソコンから全隊員のデータベースにアクセスしていた。
(ニブルヘイム出身者は…たしかあまりいなかったと思ったが…)
目的のデータが表示された時、セフィロスはにやりと口元をゆるめ、一つの書類を書類ファイルより呼び出した。
素早く記入しプリントアウトすると同時に、自分のサインを入れて丸めさっとクラスS執務室を出て行った。そしてたどり着いた先はセフィロスが足を向けたことなど無い場所であった。
ゲートの守衛が英雄の姿を見ていきなり起立して敬礼する。
「サ、サ、サ…サー・セフィロス。いかがなさいましたか?」
「ああ、訓練所教官長のレイナードに会いたい。通してくれるか?」
「も、もちろんでございます!ささ、どうぞ!!」
最上の礼を持って守衛が迎え入れると、セフィロスはなれた様子で目的の建物へと足を進めた。
セフィロスが歩いていく先の建物の中からあわてたような顔をしたレイナードが飛び出してくるのが見えた。
「サ、サー・セフィロス!?何かご用でしょうか?」
「ああ、ニブルヘイムの魔晄炉へ行くことになったのだが、あの迷路のような道を案内してくれる兵士が居なくてな。クラウドを借りに来た。」
そう言うと持っていた書類を手渡した。
レイナードが受け取った書類は『訓練生のミッションへの同行届け』だった。
「サー・セフィロス。ストライフ以外にニブル出身者が居ないと言うことでしょうか?」
「ああ、データベースを調べてみろ。もっともあいつなら特務隊の足手まといにはならんと思うがな。」
「了解いたしました。ただいま呼んでまいります。」
レイナードがくるりときびすを返して出てきた建物の中に戻る、しばらくすると遠くからクラウドがかけてくるのが見えた。
「セ、セフィロス…ニ…ニブルヘイムに行くって本当か?」
「ああ、山の中腹に魔晄炉がある。知っているか?」
「知ってる、危ないところ。近寄ると何かに当たってやられる。」
「探知装置だ。謝って入ってきたモンスターに装置を壊されないように仕掛けてあるはずだ。」
「そこへ行くのか?」
「ああ、道案内を頼む。」
「わかった。」
クラウドがうなずくのを見ると、セフィロスはきびすを返して来た道を戻っていく、その後を華奢な訓練生が、置いて行かれては困るとばかりに、ちょこちょこと小走りで付いていく姿は、これまで見たことがない光景だった。
しばらく歩くとセフィロスは一つの部屋の中に入っていった。
クラウドがあわててその部屋にはいると、中には数十人の男共がたむろしていた。その中の一人、見覚えのある黒髪の男が人なつっこそうな笑顔を見せて話しかけてきた。 「あれ?セフィロス。もしかして…こいつがあのときの仔チョコボ?ずいぶん化けたなぁ。」
「あのときは泥や垢にまみれて薄黒かったけど…まるで別人みたいですね。」
「中身は変わっておらんぞ。相変わらず野生のままだ。」
「ふ〜ん。ま、いいか。クラウドだったっけ?よ〜く聞けよ、お前は道案内で俺たちにおとなしく守られるんだぞ。」
「俺、守られなくても大丈夫。」
「訓練生を前線に出すわけにはいかねーの!」
ザックスとクラウドの掛け合い漫才のような会話に、リックが割って入った。
「ザックス、いい加減にしろ!クラウド、お前も上官の言うことぐらい、おとなしく聞け!」
リックの声にクラウドがびっくりして振り返った。
「あらら…俺よりもリックの言うことを聞くのねん?」
「馬鹿が、貴様が実力の片鱗を見せればおとなしく従うはずだ。それが野生ってモノだろう?」
「ヤダね、俺はこいつとお友達になりたいの。力でねじ伏せようなんて思わねーよ。」
「ま、お前なら、すぐに言うことを聞くようになると思うが…な。」
リックがそう言い終わると隊員達が自然と整列する、クラウドがぼーっとその様子を眺めていたら、隊員の一人であるエリックが腕を取って引っ張った。
「こう言うときは整列すると習わなかったか?お前は一番下だから俺の隣。」
「俺、アンタより強い。」
「例えそれが正しくとも、お前は訓練生だ。正規隊員ではない。」
「……わかった。」
クラウドが納得したのか、エリックの隣に並び、セフィロスの隣に立ったザックスが姿勢を正して隊員達を見渡し凜とした態度で話し始めた。
「ミッションナンバー219936、ランクBニブルヘイム北部にある魔晄炉の保守点検にいく。難しいミッションではないが、周辺に生息するモンスターは強い上に、迷路のような道の先にある。特例措置として道案内役の訓練生を連れて行くことになったが、訓練生の命はは隊員全員で守ること、以上だ。」
ザックスが言い切ると同時に隊員達が姿勢を正して敬礼した。クラウドもあわてて敬礼するとセフィロスとザックスがほぼ同時に返礼した。
ミッションが正式に発動した瞬間だった。
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