FF 小説 (二次作品)戦慄のブルー
その場所はたくさんの若者で一杯だった。
神羅の治安部門採用試験の会場には1万人を越える若者で埋めつくされていた。この中のほとんどは数時間後には採用されずにこの場を去って行く事になる、そんな厳しい現実と今から闘わなければいけなかった。
一次試験は基礎体力テストだった。
持久力、筋力、反射速度を調べるテストが行われ、合格ポイントに達しない者はその場で帰らされる。一次試験が終了する頃にはすでに半分の人数が会場を後にしていた。
二次試験は知能テストだった。
ありとあらゆる引っかけ問題と、それに隠れるように普通の問題が並んでいた。おかげで普通の問題を難しく考えてしまうほどであった。
一時間の試験の後、昼食を食べる。
昼食の間に結果が出て食後に二次試験の合格者が発表された、この時点で合格者は100人足らずになっていた。
午後からの最終試験は実戦テストだった。
5人一組でガードハウンドと闘うようになっている。正確無比な攻撃をかけてくるガードハウンドを仕留められるかどうかを見るようであった。
最終試験が終わり神羅の治安部門に採用されたのはたった34人であった。
その34人が神羅ビルに入ってくる。
ぎこちない動きは新人だからであろう、治安部ソルジャー課長に引きつられて、整然と並んで歩いていた。
治安部ソルジャー課長は新人を引き連れて生活の基点となる場所を回っていた。訓練所、教育施設、武器庫、食堂などなど、一通り回った後に新人寮へと案内される。
3人一部屋の寮に入るには34人では一人あまってしまう。
どの年もそうであったがどうしても遅れて仲間からはずれてしまう奴がいる。今年もそんな鈍くさい奴がいた。
良くよく見ればまだ幼さを残す可愛い気のある顔だちに、見事なまでの金髪のくせ毛、素直そうな青い瞳は綺麗に澄んでいた。
彼の名はクラウド・ストライフ、ニブルヘルムからきたまだ14歳のあどけない少年だった。
ソルジャー課の課長はクラウドを他のソルジャー候補生が暮らす部屋へと案内した。
そこには同じように神羅に採用された先輩二人が生活していた。
赤毛の男の名前をカーク、明るい茶髪の男がヘンリーと言った、二人とも採用されて数年たっていたが、まだ一般兵士であった。
カークとヘンリーに連れられてクラウドは夕食をたべにいく。
食堂はそこで暮らすソルジャーや一般兵全員が入れるほど広くないので、時間で細かく区切られてそれぞれの割り当て時間に食べられる事になっていた。
一般兵は夕方6時から7時に30分交代で、ソルジャーはクラス事に別れていたようであったが仕事の都合で好きな時間に食べてよいことになっていた。
食堂に入るとあまりの人の多さにクラウドはカークとヘンリーとはぐれてしまった。
トレイをもってしばらくうろうろしていたが、あまり探していても食べる時間がなくなってしまうので適当に空いている所で食べる事にした。
クラウドが一人で食べていると、陽気な男の声がした。
「よぉ、新入りか?!ここ空いてるならすわっていいか?」
「あ、はい。どうぞ。」
「あれ?君かなり地方の出身者と見たぞ、違うか?」
「え…あ、はい。ニブルヘルムから来ました。」
「ニブルヘルム?!おれん所といい勝負の田舎だな。気に入った!!俺、ザックス。こう見えてもクラス1stのソルジャー。お前は?」
「クラウドと言います。」
クラス1stとはいえあこがれのソルジャーを目の前にして、クラウドは凄く緊張していた。しかし更に驚くことになるとは当のクラウドですら知らなかった。
「お!!こっちこっち!!」
ザックスが手招きした男は長身に流れるような銀髪、身長ほどあるかと思われる長い剣を腰に携え、端正な顔だちに冷たさをたたえたアイスブルーの瞳を持ち、触れれば即切られてしまう刃物のように鋭利なオーラをまとった男だった。
「相変わらず騒がしい奴だな。」
「こいつ今年の新入りだってよ、お前にもこんなときがあったのか?セフィロス。」
( セ・・・セフィロスだってーーー?!)
クラウドは目の前にいる銀髪の男を食事を取るのも忘れて見つめた。
神羅ソルジャーのトップ、英雄とまで呼ばれている男が、今、自分の目の前にいるのだ!!
クラウドは食事を取るのも忘れ、しばし憧れの英雄に見とれていた。
ザックスはセフィロスと机を挟んで正面にすわりいきなり地図を広げはじめた。
「だからよぉ、セフィロス。次の派遣先はここ8番街プレートの第7層でポイント75・31地点」
「場所はお前が覚えていればいい。で、内容はなんだ。」
「肝心な事しか覚えないのは相変わらずだねー、くぅ〜〜!!!内容は…あ、ここじゃマズイから後だ。」
ザックスはしっかりと同じテーブルにいるクラウドのことを頭に入れていた。新入りとはいえ関係のない人物に派遣の内容を聞かせる訳にはいかないのだ。
クラウドはあわてて食事を口一杯詰め込んでトレイをもって席を離れた。彼の顔は憧れのソルジャーに出会えた事で少し赤くなっていた。
そんなクラウドの背中を見送ってザックスはつぶやいた。
「くぅ〜〜!!初々しいねぇ、女だったらほっておかねぇのに。」
セフィロスは冷静に食堂の出入り口に視線を送っていたが、不意に立ち上がり無言で食堂を出て行こうとした。
「あれ、セフィロス。何処行くんだよ?」
「…………。」
ザックスの質問に何も答えずセフィロスは歩いて行ったので、仕方なくその後を追いかけるように歩いて行った。
クラウドは頬を少し染めて食堂から出て寮へと続く通路を小走りに歩いていた。
すれ違う先輩たちがその姿を見て思わず後ろ姿を目で追ってしまう、出入り口近くにいた人ごみの中に同僚となったカークとヘンリーがいた。
「へぇ…あいつ、こうして見るとけっこう可愛いじゃん。」
「真っ赤な頬をして、そそるねぇ。」
卑屈な笑みをうかべ二人はクラウドの後を追うように部屋へと帰っていった。
クラウドが部屋へ帰るとすぐにカークとヘンリーが戻って来た。
扉の音が聞こえてクラウドが振り向くと、先程とは全く違う雰囲気の先輩たちが立っていたので思わずたじろいでしまった。
「クラウド、おまえ結構可愛いんだな。」
「こういう所に長くいると男でもよくなるって、知ってるか?」
カークとヘンリーが次第にクラウドににじり寄る。二人の屈強な兵士に壁まで追い詰められてクラウドに逃げ場は無かった。
「じょ、冗談はやめて下さい!!」
「冗談じゃないぜ、おまえ本当可愛いもんな。」
「まったくだ、同じ部屋でよかったぜ。」
カークの顔がクラウドに迫って来た時、不意に扉が開いた。次の瞬間、カークとヘンリーはクラウドの足元にうずくまっていた。
「下衆が!!」
セフィロスがカークとヘンリーの首に手刀をあびせたらしい、すぐにザックスが扉を開けて入って来た。
「ありゃりゃ、そう言うことか!おい、クラウド大丈夫か?!」
クラウドは放心状態だったがザックスに名前を呼ばれて正気に戻った。
「だ、大丈夫です。ありがとうございました。」
「ほれ、荷物をもってこい。こんな部屋にいるといつかヤラレるぞ。」
クラウドがあわてて荷物を抱えて部屋を出ようとするが、怒りを込めた目でちょっと振り返るとザックスに言った。
「すみません、ちょっといいですか?」
そう言うと気絶している先輩二人組の腹にケリを一発づつお見舞いした。セフィロスがケリをお見舞いするクラウドを見てにやりと笑う、ザックスが口笛を吹いて囃し立てた。
「やるねぇ、そうでなければソルジャーには成れないぜ。」
「でも、俺。これからどうすればいいのでしょうか?」
「それは、セフィロスの出番だな。」
ザックスがセフィロスに視線を送ると答えもせずに背中を向け、さっさと歩き出した。
あわててザックスがクラウドを引き連れて後を追い掛ける。
セフィロスはエレベーターに乗り治安部門ソルジャー課の課長の元に出向いた、ソルジャー課の課長がセフィロスを見て直立不動になった。
「セ、セ…セフィロスさん一体なんの御用でしょうか?」
どうやら地位は課長らしいがセフィロスの方が権力があるようだった。扉を開けてザックスとクラウドが部屋に入ってくるのを確認すると入ったばかりの少年を顎で示した。
「あの新入りを私付きにしてもらいたい。」
「は、はい!!どうぞ!!」
「と、言う訳だ。ザックス、後は頼む。」
そう言うとセフィロスはさっさと部屋を出て行った。クラウドはザックスに連れられてソルジャー専用の寮へと歩いて行く。
ソルジャーになると個室がもらえるのである、こちらもクラスごとに別れていた。
その一番奥にあたる一角をトップクラスのソルジャー達が占有していた。専用のエレベーターと直接入れるエントランス、間取りもかなり広く取られていた。
その中の一番日当りが良く広い部屋をセフィロスが専有していた。
ザックスはクラウドをその部屋へと連れて行った。
部屋に入ってクラウドはびっくりした、整理整頓と言う言葉とは全く無縁の雑然とした部屋だった。
ザックスが溜め息をつくようにつぶやく。
「セフィロスは仕事は出来るけど、こういう事に無頓着でね。あ、クラウドは俺の部屋のとなり、この部屋に今夜から寝な。明日からは地獄のしごきと、この部屋の片づけと、セフィロスのお守りで忙しくなるからな。」
クラウドは憧れが作り出していた偶像が音を立てて崩れていくのを感じていた。
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