FF ニ次小説
 翌日、朝食をとったあとクラウドはザックスに連れられて武器庫へと行った。
 ザックスは中から小型ピストルを持ち出してクラウドに見せる。

「今日はピストルの解体修理とメンテナンスをやるぞ、まずお手本だ。」

 そう言うとドライバーを持ち出してピストルを分解しはじめた。
 あっという間に細かい部品に別けられていく。
 ウェスと機械油で丁寧に磨きをかけた後、即座に組み上げて行く。
 その間わずか10分、見事な手順であった。

 クラウドにそのピストルが手渡され先程見た通りに分解して行く。
 手際は悪いが順序はしっかりと覚えているのでザックスが感心する。
 30分かかったがなんとか解体に成功するとクラウドは今度は組み上げにかかった。
 もたもたしながらもなんとか組み上げるがねじが一本あまっていた。

「ダーメ!!やり直しの前に”ゴメンナサイ腕立て”200回だ!!」
「ご…ゴメンナサイ腕立て??」
「”ネジさんゴメンナサイ”と言いながら腕立てするんだ、ほれ始め!!」

 クラウドは言われた通り”ゴメンナサイ腕立て”を始めた。

「ネジさん、ゴメンナサイ! ネジさんゴメンナサイ!」

 腕立て伏せ200回やり通すうちずっと”ネジさんゴメンナサイ”である、滑稽だがこれが軍隊のやり方なのだ。
 こうしてクラウドはピストルの解体修理が10分以内に完全にできるまで、”ゴメンナサイ腕立て”と”ゴメンナサイ腹筋”と”ゴメンナサイスクワット”を延々とやらされた。

 悪夢の一日が終わると骨がギシギシ言っているような気がした。
 部屋へ帰るとあの雑然としたゴミの山のような部屋を片づけなければいけない、片っ端から片づけて行くがなかなか綺麗にはならなかった。

 しばらく頑張って片づけていたがいつの間にかクラウドは強烈な睡魔に負けて、書類の山の上にうずくまるように眠り込んでいた。

 日付が変わる頃セフィロスとザックスが部屋に戻って来た。
 部屋の灯は付いているのにクラウドの気配が無い、ザックスがあわてて探そうとしたがセフィロスが書類に埋もれて眠り込んでいるクラウドを見付けた。

「腕立て、腹筋、スクワットと合計で4800回だものな、よく頑張った方だぜ。」
「意地はあるようだな。」

 そう言うとセフィロスはクラウドを抱えて部屋へと運び入れてやった。

 それからしばらく、クラウドはザックスからしごきに近い特訓を受けた。
 クラウドも最初こそは疲れて居眠りしていたようであるが、一ヶ月も経つと体力がついてきたのか次第にセフィロスの部屋が整理されていった。

 武器の扱い、素手での格闘術、薬草の見分け方等々、ありとあらゆる戦いの知識をソルジャーから直々に、徹底的にたたき込まれクラウドは半年もすると同期の仲間とは格段に強くなっていた。

 その頃からクラウドはセフィロス達の仕事先についていく事を許されるようになった。
 クラウドは車酔いするので運転席に座りハンドルを取ると、派遣先に向けてアクセルを踏みしめていた。

 闇が近づくと車のライトを点灯させる。
 細いビームをたよりに車を走らせていると目の前にうろこの塊がうごめいていた。
 クラウドは急ブレーキをかけてうろこの塊を避ける、しかしうろこの塊が車めがけて飛んできた。

 クラウドが車を止めてドアの外に出ようとする。ライトに照らし出されたうろこの塊の正体は大きなドラゴンだった、恐る恐るピストルを向けるが堅い竜のうろこはピストルの弾を跳ね返した。

 射撃音が聞こえたので車の中から一般兵と共にセフィロスとザックスが出てくる。

「おいおい、クラウド。ドラゴン相手にピストルは無いんじゃないかい?」
「俺、コレしか持っていないんです!!」
「邪魔だ、どいていろ。」

 クラウドを片手で押しやりセフィロスが一歩前に出るとドラゴンが怒りをあらわにして牙をむきだしている。
 しかしセフィロスは身じろぎ一つもせずにドラゴンと対峙していた。
 太い尻尾がセフィロスめがけて振り下ろされるが、ひらりと身を交わし振り向きざまに腰に帯びていた長剣を抜き去った。
 セフィロスの長い銀髪が羽根のように舞広がる、まるでダンスを踊るかの如く美しい姿だった。
 セフィロスが長剣を振り下ろすとドラゴンの尻尾がすっぱりと切り落とされる。
 ドラゴンが咆哮し炎を吐く。
 セフィロスのやや緑色がかったアイスブルーの瞳が怪しく光る、口元に不敵な笑みを浮かべ炎を避けようともしなかった。

「ブリザガ!!」

 氷属性の最高魔法の呪文を唱えると氷の刃がドラゴンの吐いた炎に襲いかかる。
 圧倒的な力だった。
 神羅の英雄と言う名をほしいままにするだけの圧倒的な力をセフィロスは持っていた。
クラウドは口をぽかんと開けてセフィロスが闘う様を見ていた。

(あれが…自分の部屋をロクに片づけられない人と同じ人なのか?!)

呆然とセフィロスの戦いぶりを見とれていたクラウドは、ザックスに小突かれて運転席に戻った。

「あ…れ?クラウド、お前確か14歳だったよなぁ?!」
「あ、はい。」
「立派な無免許運転だぞ!!」
「でも、俺運転していないと気持ち悪くて…」
「うっわ〜〜〜!!!ダメダメダメ!!って言ってもどうすればいいんだよ、やな感じ〜〜〜ぃ!!!!」
「うるさい奴だな、サイレス!」

 セフィロスは騒ぐザックス相手に沈黙の魔法をかけてしまった、クラウドがそれを聞いて唖然として言った。

「セ、セフロス!!あなたは味方にでもそう言う事するのですか!!!」
「?いけないのか?」

 セフィロスが表情を全く変えずにクラウドに答えた。

「い、イケナイに決まっています!!普通!!」

 セフィロスがその冷たいばかりのアイスブルーの瞳でクラウドの背中をにらみつける。
 背中にゾッとする物を感じて冷や汗をかきながらも、クラウドは運転に集中する事にした。

 派遣先のカームに着くとすでに夜が更けていた、村で唯一の宿に泊まる事になっているので、一番下っ端のクラウドが全員の荷物をもって宿屋の部屋にそれぞれ配る。
 ほとんどが4人一部屋で一つだけ二人部屋があったので、二人部屋にセフィロスの荷物を、他の部屋にチームの人たちの荷物を入れる。
 入れ終わってふと足下を見ると自分の荷物があまっていた。

(うっわ〜〜。俺、椅子の上かよ!?)

 新入りは概してそう言う物であった。
 クラウドは”屋根があるだけマシ”と言うチームの先輩たちの声を聞きながら、仕方なく廊下にある椅子の上に毛布でくるまる事にした。

 ザックスは何か言いたそうに手足をばたばたさせていたが、今だにセフィロスの沈黙魔法が効いていたのか何も言えなかった。

 各自が部屋に入ってしばらくするとザックスが紙と鉛筆をもって、クラウドの所にやって来て、なにやら筆談をはじめた。

『クラウド、頼むからこのマテリアを持って俺にエスナをかけてくれ。』

マテリアとは鍛えられた肉体と精神を持つ者だけが使える魔法の珠である。
 クラウドは手渡された緑色に光り輝くマテリアを握り締めて、ザックスに言われた通りエスナの呪文をとなえた。

「エスナ!」

 緑色のマテリアから光がほとばしると、その光がザックスを包みしばらくして消えた。

「あ〜〜!!やっと喋れる!!」
 嬉しそうな笑顔を見せるザックスにクラウドが冷たい表情で言った。
「なぁ、あんた。やまびこ草か万能薬もっていなかったんか?」
「??…あ〜〜〜!!!!!」

 ザックスがポケットから万能薬を取り出すのを見てクラウドは呆れて物もいえなかった時、誰かの嘲笑が聞こえて来た、声の主はセフィロスだった。

「クックック…新入りに教えてもらってから気づくようでは、お前もずいぶん甘い奴だな。」
「まったく知っててやってんだから、あんたってホントーにタチ悪いな。」

 ザックスの言葉を無視してセフィロスはクラウドと対峙した。緑色がかったアイスブルーの瞳がクラウドを射すくめる。
 クラウドは思わず身震いした。

「ソルジャー直々に鍛えられただけあるな。」
「ああ、クラウドなら使えると思ったんだ。」
「これ、普通はどのくらいで使える物なのですか?」
「マテリアか?普通ならソルジャークラス1stからの支給だ。」
「ええ〜〜〜!?」

 クラウドはもう一度、手のひらに乗っている緑色のマテリアをしげしげと見つめた。