FF ニ次小説
 クラウドが手のひらにあるマテリアをあまりじっとみつめているので、ザックスが手持ちのマテリアを全て並べた。

「ほれ、まだこんなにあるんだぞ。緑色が魔法マテリア、これには攻撃用と回復用がある。水色が支援マテリア、黄色がコマンドマテリア、紫が独立マテリア、この辺は使っていればわかるだろう。そして俺も持っていないが、赤いのが召喚マテリアだ。」

 クラウド目の前には並べられたマテリアを見比べているが、どのマテリアが何だか全く区別がつかなかった。
 首をかしげながらマテリアを見比べているクラウドの横からセフィロスが手を出し、中から一個手に取ったかと思うと首をかしげている少年の手のひらに載せた。

「マテリアからの力を感じて見ろ。」

 クラウドは言われたとおり手のひらに乗った緑色のマテリアをしばらく見つめていたが、やがて目を閉じて何かを必死に感じようとしていた。

「…優しい感じがします、回復のマテリアでしょうか?」
「当たりだ、よくわかったな。」
「自分が思うには、見ただけで区別出来るのが凄いです。」
「見比べる事なんて出来るかよ、外見は色しか違わないんだぜ。俺達もマテリアから感じる力で瞬時に区別しているだけだ。」
「え?」
「半年俺が鍛えただけでマテリアが区別出来るのなら。あと半年セフィロスに付いてしごかれれば…お前、立派なソルジャーになれるぜ。」

 セフィロスはめんどくさそうな顔をしていたが否定はしなかったので、クラウドは言われた事が半ば信じられなかった。
 ザックスとセフィロスがあてがわれた部屋に入ろうとするのを見送ると、毛布をもって廊下の椅子へと歩いて行く。
 ザックスがそんなクラウドに気がついて振り向いた。

「なんだぁ?クラウド。おまえ寝る部屋ないのか?」
「あ、はい。でも屋根があるだけマシだって皆さんが…」
「おい、セフィロス、あんたの部屋二人部屋だろ?寝かしてやれよ。」

 セフィロスがクラウドを一瞥するとクラウドがその視線にたじろぎながらも見返した、次の瞬間、セフィロスの口元がゆるんだ。

「根性のある奴だな。」

 セフィロスがさっさと部屋に入るが扉が開かれたままだったのでザックスが口笛を吹いて囃し立てた。

「クラウド。お前、セフィロスに気に入られたみたいだな。」
「え?!」
「俺が知っている限り、お前はセフィロスに突っ込みを入れた唯一の一般兵だ。おまけに今さっき、英雄の強い視線にたじろぎつつも見返しただろ。セフィロスの視線を見返す根性の持ち主なんてざらにはいないぞ!ほれ、あいつの気が変わらないうちに部屋に入っちまえ!!」

 クラウドはザックスに背中を小突かれて荷物をもってセフィロスの部屋へと入る。
 セフィロスは窓際で外を向いてたっていた、クラウドが入ってくるとちらりとそっちの方を見たがまた視線を窓の外に向けていた。
 クラウドは床に散らばっているセフィロスの荷物を片づけつつ窓のそばへと近寄る。

 セフィロスが見つめていたのはカームの酒場の入り口だった、怪しい人物が出入りしていないかチェックしていたのだった。

 一通り片づけてセフィロスの足元に荷物を置くと、クラウドが部屋の片隅にある簡易ベットへと歩いて行こうとした。

「おい、クラウド。ちょっとこっちに来い。」

 セフィロスに呼び止められてクラウドはびっくりする。
 言われた通りにそばに行くとセフィロスはカバンのポケットから、クリスタルで出来たバングルとマテリアを数個取り出してクラウドに渡した。

「バングルの穴にマテリアを装備して装着しろ。その水色は「全体化」のマテリアで魔法を全員にかけることができる。バングルの連結穴に回復と治療のマテリアとセットで入れておけ。それと、これはザックスの予備の剣のバスターソードだ。準備しろ出掛けるぞ。」

 クラウドは言われた通りにマテリアをセットしてバングルを左手に装備する。
 バスターソードに炎系のマテリアと氷系のマテリアを装着し背中に背負うと、ポーチにハイポーションと万能薬を詰め込めるだけ詰め込んで窓から出て行ったセフィロスの後を追い掛ける。

 セフィロスはすでに酒場の裏口に到着していた。
 扉を薄く開けて人がいるかいないか確認をする、人影が見えなかったので扉を一気に開け放つと中に飛び込んでいく。

 クラウドが酒場の裏口に付いた頃には酒場の中は阿鼻叫喚だった。
 逃げ惑う人を掻き分けてセフィロスが舞い踊るように狙った奴だけを素手で倒して行くと、コートのすそがふわりと広がり同じように銀色の長い髪が流れるように舞い踊る。
 その神秘的なまでの姿にクラウドはしばし見とれていた。

「クラウド!!右!!」

 セフィロスに名前を呼ばれてクラウドは背中のバスターソードを右に向けて抜く。
 右から来ていた敵にバスターソードが当たり身体が真っ二つになった、ゆっくりと赤い血が床に広がって行く。
 それを見ていたら次第にクラウドは恐くて仕方がなくなっていたが、ただ生き延びるために自分にかかって来た者を敵とみなし剣を振り回していた。

 小一時間もそうしていただろうか?

 床に累々たる死体を残し酒場はシンと静まり返った。
 それまでセフィロスは一度もクラウドを見る事はなかったが、戦いが終わった後ちらりと少年を見た。

 クラウドはバスターソードを構えたまま震えながら立っていた。
 おそらく初めて人を切った事実がクラウドの頭の中に去来しているのであろう。セフィロスがクラウドの肩をポンと叩くとまだ華奢な体が崩れ落ちるようにへたり込んだ。

「俺…俺…」

 その後の言葉が涙で出てこないがセフィロスは何が言いたいか察しがついていた。

「慣れるしかない。殺さねば殺される、お前が選んだ世界はそう言う世界だ。」

 セフィロスはそう言って酒場を後にした。
 クラウドが右腕で涙をぬぐいセフィロスの後を追い掛ける、月も出ていない闇夜の出来事だった。

 その夜、クラウドはろくに寝る事もできずに毛布にくるまって小さくなっていた。
 身体ががくがくと震えているのを自分自身でもわかっていた。

 結局、一睡もできないまま朝を迎えた。

 一般兵が起き出す前にクラウドはベットからだるい身体を引きずるように起こした。
 朝の身仕度を終えて全員を起こしに行くと起きてきた一般兵がクラウドの顔を見てびっくりするが何も言わなかった。
 ザックスがみずから起きてきてクラウドと顔を合わせる。

「クラウド、お前、昨夜寝てねぇんじゃないのか?!」
「ああ、ちょっと。昨日セフィロスに酒場でひと暴れしたのに付き合わされた。」
「セフィロスが実践教育始めたのか、そりゃすげぇ!!」

 ザックスが驚いているところに、セフィロスがやってきた。
 クラウドを一瞥するとにやりと笑い食事を取るためにテーブルに座った。
 ザックスがそのあとにテーブルに着くと一般兵がテーブルに座る、一番最後にクラウドが座ると食事を始めた。

「セフィロス、もしかして今回の仕事は俺達が寝てるうちに終わっちゃったのか?」
「ああ。」
「あいつ、良く生き延びたな。」
「お前の剣とバングルを貸してやった。」
「お、俺のぉ?!」

 クラウドは二人の会話を聞いて食事が喉につっかえそうになった。
 どうやらセフィロスはザックスに内緒で彼の装備を自分に貸したらしい。

「あ、あの…」
「お前、俺の装備が使えたんか?」
「え?ええ、まあ…なんとか。」

 ザックスが感心したような目でクラウドを眺めたかと思ったら、急にそばに来ていまだに少年が背負っていた背中の剣を取り上げて眺めた。

「ざっと10人は切ってるな。」
「正確には13人だ。」

 クラウドはびっくりした。
 セフィロスは一番最初に自分に声をかけた時以外は、全く自分には見向きもしなかったのにクラウドが切った敵の人数を正確に把握していたのであった。

「…………」

 クラウドがぽかんとした顔でセフィロスを見つめているので、それだけでザックスはそれが真実であるとわかったようだった。

「そっか、えらいぞ〜!初仕事で13人切りか。俺の二倍以上だ。」

 ザックスはそう言いながらクラウドの背中をぽんぽん叩いた。その時クラウドをセフィロスの悪魔のような一言が襲った。

「クラウド、提出する書類は任せたぞ。」

 クラウドは目を白黒させてセフィロスの言葉に反論した。

「セフィロス!!駆け出しのペーペーの俺に提出書類がかける訳ないじゃないですか!」

 クラウドの言葉に他の一般兵が固まった、しかしザックスだけはげらげらと笑っていた。

「いいぞ、クラウドその調子だ。セフィロスにはびしっと言ってやらにゃな。」

 セフィロスがにらみつけるがザックスは平気な顔でその視線を受けていた。

「仕方がない、教えてやるから書け。」
「結局、俺が書くのですか!!」

 トップソルジャーで英雄相手に突っ込み入れまくる新入りの姿を他の一般兵は脅えた瞳で見つめていた。