FF ニ次小説
 ミッドガルに戻るとクラウドは、神羅の食堂でセフィロスとザックスに囲まれて提出する書類を半べそかきながら清書させられていた。
 しかし、クラウドのソルジャー二人相手に一歩も引けを取らない態度は、他の一般兵からすると驚異でしかなかった。

「なんだ、まだ書けないのか。」
「書いたことないのですから、仕方ないでしょう?!」
「まーまー、抑えろクラウド。にーさんこれでも神羅の英雄だぞ。」
「だからこそ事の区別ぐらい付けてください!!」
「興味ないな。」

 クラウドはセフィロスの言葉を聞いて首をがっくりとうなだれた。ザックスがそんなクラウドを励ます。

「俺もずいぶん泣かされたからなぁ、しまいにゃ諦めた。セフィロスって、マジで任務以外の事に興味が無いんだだから俺が面倒見てやんないとダメなんだ。」

 セフィロスがザックスをにらみつける。

「私はお前に面倒を見てもらった覚えは無いぞ。」
「くぅ〜〜〜!!これだよ!!クラウド聞いてくれよ〜〜!!俺がソルジャーになりたくてここに入った時、すでセフィロスはソルジャーでさ、腕はいいんだが、こういう奴だったんだ。あまりひどいんで毎年一般兵から出来のいい、我慢強い奴がセフィロスに付いたんだが、何しろこれだろ〜! すーぐ耐えられなくてクビになってたんだ。で、俺が入った時にお前と同じようなごたごたを起こして、セフィロスに助けてもらって…それからずっとにーさんに付いているんだけど。かれこれ3年、今だにかわらず…って所なんだよ〜〜」

「ザックス、よく3年も我慢したね。」
「それもお前と一緒だな。セフィロスの戦いっぷりに惚れてたからかね。」
「なるほどね。」

 クラウドは溜め息をつきながらザックスとがっちり握手をした。
 セフィロスとザックスを前に書類を書き上げたクラウドが、治安部ソルジャー課へと歩いて行く。その後ろ姿を見送りながらザックスがセフィロスに問いかけた。

「なあ、あんたはアイツのどういう所が気に入ったんだ?」
「お前より見込みがある所だな。」
「そりゃ悪かったな!」

 セフィロスにはザックスに伝えられなかった言葉が頭の片隅に残っていた。

(もしかすると…あいつは私をもしのぐ力をつける時がくるかもしれんな。)

 あっという間にクラウドの噂は治安部中に広まった。
 英雄セフィロスに突っ込みを入れる新入りなどこれまでいなかったのである。
 しかもセフィロスがそれを許しているという事実が治安部の中では信じられない事であった。

 ある日武闘場でクラウドがザックスと組み手の特訓をしていた。
 一般兵のクラウドがソルジャーであるザックスとほぼ対等に渡り合っている。
 それを見て他の一般兵が憧れの眼差しを向けている、その一般兵の中にカークとヘンリーもいた。

「すっげー。あいつ半年前はまだ可愛い顔してたのに、あっつー間に男の顔になったな。」
「俺達、あの時ぶっ倒されていて…よかったな。」

 激しい組み手は全く隙を見せずかなりの時間続いていた、そこにセフィロスが武闘場に入って来てザックスに声をかけた。

「代われ」
「セフィロス?へぇ〜〜〜珍しい。」
「セ、セフィロスと?!俺、一分でやられちゃいます。」
「私は一歩しか動かないという条件ならどうだ?少しでも身体に当たったら何か褒美をやろう。」
「はい!お願いします!!」

 クラウドの瞳が強いかがやきを持った、セフィロスがそれを知ってほくそ笑んでいる。

「久しぶりにあんたの戦いっぷりを見せてもらおうかな。」

 そう言ってザックスがセフィロスと入れ代わる。
 途端にクラウドが右ストレートを体重をかけて放つ、紙一重でセフィロスが交わし軽く左手で手の甲をはたく。
 クラウドが体制を崩して前のめりになるが床に倒れる前に態勢を整えた。
 後ろからクラウドが飛び掛かるがセフィロスはまだ背中を向けたままだった。
 クラウドの拳がセフィロスに襲いかかる寸前にセフィロスが回し蹴りを放つ。

 コートのすそと長い銀髪がふわりとたなびく、その姿に『何度見てもかっこいいな…』とザックスは見とれていた。

 セフィロスの長い足がふりかかる前にクラウドが下にくぐり込む。スカを食わせたつもりだったが、セフィロスの方が上手だった、足祓いをかけようとスライディングの体制に入ったクラウドを片足でジャンプして交わすとひらりと同じ位置に舞い降りる。

 クラウドがにやりと笑った。

「簡単には取らせてもらえないとは思っていたけど…やっぱり、セフィロスって凄いです!!!」

 セフィロスが冷静なまでのアイスブルーの瞳をクラウドに向けた、その瞳が怪しく緑色がかって来た。

 同時にクラウドからも先程までとは段違いのオーラが放たれていた。
 クラウドから繰り出される拳のスピードが跳ね上がった、それでもセフィロスが余裕で交わす。

 しかし先程までカスリもしなかったクラウドの拳に、いつしかセフィロスの髪が当たるようになっていた。

 それを感じ取ってセフィロスががらっと変わった。ザックスがセフィロスの放つオーラを感じ取って背中に冷たい物が走る。

(うっわ〜〜!!セフィロスの奴、若葉マーク相手にマジモードに入っちまった!!)

 クラウドの身を心配しつつ組み手の推移をザックスは見守っている。
 セフィロスが一歩しか動けないハンディを物ともしないのはさすがである。そのセフィロス相手にクラウドも一歩も引かない負けん気は見上げたものである。
 しかし実力の差はあっという間に現れた。

 セフィロスがクラウドの右フックを交わして手刀を首にお見舞いすると、クラウドが崩れるように床に倒れた。
 あわててザックスが駆け寄るがセフィロスがそれを静止した。

「一般兵相手に大人げなかったか…」

 そうつぶやくとセフィロスが軽々とクラウドを抱え上げて武闘場を出て行く。
 ザックスがその後ろから追いかけるようについていった。

 クラウドを抱えたまま部屋へ入るとセフィロスは華奢な体をベットに横たえてから、リビングのソファーに座ってザックスと今度の派遣のことで打ち合わせを始めた。

 クラウドが気がついたのはそれから小一時間も過ぎた後だった。

 ふらつく頭をちょっと振ると意識がハッキリする。クラウドはベットから降りて明かりの付いているリビングへと歩いて行った。

「よぉ、もういいのか?」
「はい、なんとか」

 ザックスにそう答えるとクラウドはテーブルに座っている二人のソルジャーにコーヒーをいれる。コーヒーの独特のアロマが部屋中に広がった。
 カップを2つテーブルに置くとザックスの後ろに立つ、下っ端の定位置であった。

「何やってる、そこに座れ。」

 つったっているクラウドにセフィロスが命令する、セフロスが指差した場所はザックスのとなりであった。

「お…俺は、まだ一般兵です。」
「セフィロスを本気にさせられるんだ。お前は俺の隣に座るのにふさわしいと思うぜ。」

 二人のソルジャーが自分を認めてくれた嬉しさでクラウドの頬が紅潮した。
 言われた通りザックスの隣にちょこんと座る。

「で、セフィロス。今度の派遣はミスリルマインだったな、あそこに行くには湿地を抜けるかコンドルフォートから行くかのどっちかだ。」
「湿地にはミドガルズオムがいる。コンドルフォートからだな。」
「ならジュノンから南に下るか。」
「まかせた。」

 クラウドは二人の会話を黙って聞いていた。

「そういえばクラウド、お前今度の試験受けれられ無くなるが、いいか?」
「え?!」
「試験の日と派遣の日が重なっているんだ。お前はもうシッカリ頭数に入っているから、悪いが来年受けてくれ。」

 クラウドはあまりがっかりしなかった。
 ソルジャーの試験などいつでも受けられる、今は自分をもう少し高めたい気持ちで一杯だった。

「俺、もっと強くなりたいから、ついていきます。」

 クラウドの言葉にセフィロスがちらりと視線を向けた。
 ザックスがクラウドの頭を撫でまくる。

「えらいぞ〜〜!!クラウド。来年なら確実に受かるぞお前!」
「ま、待てよ!!俺そんなガキじゃないです!!」
「まだ15だろ?十分ガキだ。」

 さんざん頭を撫でられてクラウドはすねたような目でザックスを見ていた、セフィロスはそんな二人のやりとりに全く興味を持っていないようだった。

「で、出発はいつですか?」
「明後日だ。」
「ならば、まだ一日ありますね。組み手の相手をお願いします。」
「セフィロス相手にあそこまでやれるなら俺が相手するまでもないだろ。と、言う訳でクラウドの相手はあんた事でよろしく。」

 ザックスがセフィロスの肩をポンとたたく。セフィロスは何も言わずに冷たい瞳をクラウドにしばし向けていた。
 そしてふっとそのアイスブルーの瞳をザックスに向けた。

「だらしなく負けるというのも面白いぞ。」

 まるでザックスがクラウドと対戦すると負けると言わんがばかりなのだ。ザックスもセフィロスの言外の意を悟ったがあえて切り替えした。

「じゃあ、セフィロスを負かしてやろうじゃねェの!クラウド!俺と組むぞ!」
「え?セフィロス相手に二人がかりですか?」
「いいだろう。明日はハンディ無し、本気で行くぞ」

 ザックスとクラウドはセフィロスの言葉を聞いて同時に叫んだ。

「アンタは!!俺達に死ねと言うのか〜〜〜!!」

 セフィロスは二人の言葉を聞いていつものように声を殺して笑った。しかしその瞳はいつものセフィロスらしくなく珍しく微笑んでいた。

 クラウドはこの時始めてセフィロスが笑ったのを見た気がした。