FF ニ次小説
 翌日、武闘場でクラウドとザックスはセフィロス相手に2対1の組み手をやった。
 ザックスは戦闘モードのセフィロスに初めて対峙してひそかにびびっていたが、クラウドはおかまいなしに右ストレートを仕掛ける。

 セフィロスが左腕でクラウドのストレートを受け右腕を繰り出そうとした隙に、ザックスが足蹴りをし掛ける。
 セフィロスがふわりとジャンプしてザックスにケリを繰り出すとザックスが腕をクロスしてそのケリを受ける。
 クラウドが後ろから飛び掛かってくるのを感じたのか、ザックスの止めた力をうまく使ってセフィロスが綺麗に背面宙返りをすると、すとんと少年兵の後ろ側に舞い降りた。

 予想していたのかクラウドは体制を変えて後ろ蹴りを繰り出した。セフィロスはくるりと身体を一回転してクラウドのケリを避けながら回し蹴りを浴びせる。
 セフィロスの回し蹴りを床に転がって逃れながらクラウドが態勢を整える。
 後ろからザックスが右ストレートを繰り出したのを、セフィロスが身体をひねって先程の回し蹴りの反動を使い、逆に回し蹴りを入れる。
 ザックスが避け切れずにセフィロスの回し蹴りを腹に浴びる。

「やっぱ、セフィロスは強ぇな…」

 そう言うと顔を両手でぱちんとはたき気合を入れた、先程までとは違った気配を感じ取りセフィロスがほくそ笑む。
 その冷たいまでのアイスブルーの瞳にクラウドは戦慄を覚えた。

(闘神だ…セフィロスは本当に闘うために産まれて来た男なんだ!!)

 クラウドの瞳がギラギラとした物にかわった。
 ザックスとクラウドはそうと知らずにいつの間にか連係プレーをとっていた、組み手で長いこと闘った事のある相手ゆえその特徴を良く心得ている。
 セフィロスの頬にクラウドの拳がかすった時、セフィロスが力を解放する。

 圧倒的なオーラをまとったセフィロスがそこにいた、雰囲気だけでザックスとクラウドが飲まれはじめている。

 それでも二人は連携を取りながらセフィロスにかかって行った。
 しかし本気になったセフィロスにいくら二人がかりとはいえかなうはずはなかった、クラウドの右ストレートを姿勢を低くして交わしがてら当て身をしその体制でザックスに振り返るとすぐに腹部に正拳突きをあてる。

 あっけなく二人がその場に崩れた。

 セフィロスが二人に気を入れると二人とも頭を振りながらよろよろと立ち上がった。

「久しぶりにセフィロスのマジモード見せてもらったぜ。」
「そうだな…」

 セフィロスはそう言うとクラウドを振り返って言った。

「お前は私の頬に拳をかすめた。約束だ、褒美はなにがいい?」

 クラウドはセフィロスの見事に整った顔に血の滴った後を見付けた、それを自分が付けたと言うのが信じられなかった。

「へぇ…それでセフィロスがマジになったんか、えらいぞ〜クラウド!」

 クラウドは少し照れたような顔でセフィロスに答えた。

「今、セフィロスがはめている手袋が欲しい。」
「なんだ、こんな物でいいのか。」

 セフィロスはその場で手袋をはずすとクラウドに手渡した、まわりで見ていた観衆から羨望のため息が漏れる。

 クラウドはセフィロスからもらった手袋をさっそくはめて見た。
 不思議としっくり来る大きさ、ちょっとつめたい革の感触、嬉しさに瞳を輝かせてもらった手袋をしばし見つめていた。

 その日の夜、セフィロスが珍しくクラウドをチェスに誘った。

「俺は戦略とかできねぇからこー言う奴は苦手なんだ。」

 ザックスはチェス盤を挟んで対峙するように座っている二人を、真横から見るように座った。

「にーさんは俺に何度もチェスで戦略を教えようとしたが元来、俺も単純で戦い方を考えることはしないタチなんだ。」
「だからお前は1st止まりなんだ。」
「くぅ〜〜〜!!キツいねぇ!!」
「でも、俺もチェスやった事ないのです。駒の進め方からお願いします。」
「よかろう。」

 一通り駒の進み方を教わった後で軽く一局対戦して見る。
 ともかくキングを取りにこようとするクラウドに対してセフィロスが用心深く駒を配置する。
 盤面を読み取ってクラウドがしばし考え込んだ。
 クラウドの駒の進め方が急にかわった、セフィロスの手をうかがうように駒を進めはじめた。
 一進一退の攻防になって来た、ザックスがイライラしはじめる。
 セフィロスの裏をかくためにどうすればいいか…
 クラウドの頭の中にはありとあらゆる盤面の状況の2手3手先が浮かんでは消えた。
 そうとは知らずにクラウドは戦略を考えはじめていたのである。

 セフィロスがワザと仕掛けてくる、クラウドはそれが罠と思わずにその仕掛けに乗った。

戦局が一転した。
 それはチェスを好まないザックスにも見て取れるようなまでの形勢だった。

「クラウド。まずいんじゃないの〜〜?!」
「ああ、やられた。せめて一矢報いてやる。」

 クラウドの負けん気もそこまで行けば見上げたものである。
 しかし、クラウドはだてにセフィロスの背中を憧れて見ていたわけではなかった、セフィロスがいつもどう闘っているのかが頭に浮かんだ。
 盤面はそのとおりに動いていたのでクラウドは次の手が思い浮かんだ。

 クラウドが動かしたナイトの駒がセフィロスの陣地の一番弱い所を付いた。
 セフィロスがそれを悟ってクラウドに視線を送る、いつも敵に浴びせるような冷たいまでのアイスブルーの瞳がクラウドを射すくめる。
 口元に不敵な笑みを浮かべてセフィロスが自分をまっすぐ見つめていた。

 クラウドがセフィロスの視線を受けて背中に冷たい物を感じる、実戦だったら次の瞬間に叩きのめされていた所であろう。
 しかしセフィロスはそれをあえて楽しむかのように次の手を繰り出した。
 黒いビジョップが白のナイトの場所を横取りするその一手はセフィロス側の陣地の壁の一角を切り崩すような手だった。
 クラウドがすかさず白のクイーンをセフィロスの陣地に飛び込ませる、クイーンの位置はあと一手でキングを捕らえることができる位置だった。

「チェック(王手)!」

 勝ち誇ったような瞳でクラウドはセフィロスに言った。
 セフィロスの瞳が怪しく光った。

「クックック…甘いな。」

 そう言うと白のクイーンを黒のルークで取ると一気にクラウドの形勢が悪くなった。
 それでも必死で態勢を整えようと次の手を繰り出すが、セフィロスがクラウドの裏をかいて一気にキングのまわりに襲いかかった。

「チェックメイト(摘み)。初めてにしてはよくやったほうだな。」

 白のキングを救う手は一つも残っていなかった。

「セフィロス、一般兵相手に大人げないんじゃない?」
「クラウドはすでにソルジャーに匹敵するほどの力を持っている。力のある男に手加減をする方が大人げない。」
「へぇ…つい一年前まではオカマ掘られそうになって固まってた可愛い子ちゃんだったんだけどね。」
「ザックス!殴られたい?!」

 クラウドが怒りを込めた瞳でザックスをにらみつけた。

「うわ〜〜!!冗談だって!冗談!!」
「世の中言って良い冗談と言っちゃいけない冗談がある!!」
「この間まで俺の言うことなんでも聞く良い子だったのになぁ。あっつー間に俺を追い越して行く気がする。」
「ほぉ、めずらしいな。」
「あ?!何がだ。」
「お前が正しい意見を言うのを初めて聞いた。」

 ザックスはセフィロスの言葉に一瞬固まったがすぐに切り替えした。

「じゃあ俺は宣言するぞ!いつか、あんたはこいつにボコボコに負ける。」

 クラウドはザックスの言葉に恐る恐るセフィロスを見た。
 セフィロスはザックスの言葉を聞いて怒るどころかいつものように冷たいまでのアイスブルーの瞳を静かに伏せた。
 長いまつげが一瞬揺れた。そして再び現れた瞳は先程までとは全く違う。
 獲物を狩るハンターのような ぎらぎらした瞳だった。

「その時がくるのを…楽しみにしているよ、クラウド。」

 ザックスとクラウドはその場に凍りついたように動けなかった。

 セフィロスが去ったリビングの椅子でやっと硬直から開放されたクラウドがザックスに対して文句を言った。

「なんであんなこと言ったんだよ!」
「だって!!悔しいじゃんか。」
「俺、セフィロスって憧れだ。いつかはセフィロスのようになりたいと思う。けど、セフィロスを叩きのめしたいとは思わない。」
「俺だってそうだよ。でも、あいつはそう思っちゃいない。強い奴が出てきたら、闘ってみたいと思う奴だ。ま、俺達がセフィロスと闘う事になるには10年はかかるかなぁ?」
「もっとかかるかも…」

 しかし、当のザックスもクラウドも、たった1年でそんな時が本当に来る事になるとは全く思ってもいなかった。