FF ニ次小説
 クラウドはある日神羅ビルの保健室に呼び出された。そこにいたのは白衣を着た男だった。
 秀でた額にはらりとかかる前髪、すこし冷たい雰囲気のするメガネの男の名は宝条と言った。

「クラウド・ストライフ、入ります!」
「君は今年入った新人でまだソルジャー試験を受けてないね。」
「はい、ミスリルマインへの派遣についていってました。」
「そう、じゃあ、まだこの予防接種も受けていないんだ。」
「予防接種ですか?はい、何も受けていません。」
「では、体温をはかって…ん、36.4℃平熱だね 体調は?」
「いたって健康です。」
「よろしい、では腕を出したまえ。」

 クラウドは素直に腕を出した。
 注射器がたくましくなった上腕に刺さり中のクスリを即座に注入する、その行為は何度も経験した普通の予防接種と同じだった。
 クラウドはおじぎをして保健室を後にした。

 保健室に残った宝条はクラウドが消えた扉の方を向いてほくそ笑んでいた。

「クァックァックワッ……あれがセフィロスのお気に入りか。まだ子供じゃないか。うまく動いてくれればいいがね、クァックァックワックァックァックワッ…」

 この男の正体は神羅のマッドサイエンティスト、自分の実験のためなら人命をも省みない男であった。

 その夜、クラウドは熱を出した。
 予防接種する際に発熱をともなう事があると聞かされていたので、熱にうなされながらもこんなものか…と、思っていた。

なあ…あんた本当に大丈夫か?!
ああ。大丈夫だ。
あの白衣の医者、怪しくなかったか?
ああ、怪しいと言えば怪しいな。
あれ、本当に予防接種だったのか?
そうなんだろう?
なんか…変だよな。
アンタ、誰だよ?!


 自分の頭に響いた声でクラウドが目を覚ます。
 まわりを見回すとザックスが自分をのぞき込んでいた。

「大丈夫か?クラウド。ずいぶんうなされていたぞ。」

 クラウドはベットから上半身を起こすと頭を軽く振る、どうやら熱は下がったようだ

「ああ、なんとか。」
「そうか、身体を治したら剣の扱い方を始めるぞ。」
「本当ですか?!」
「ああ、俺のバスターソードを貸してやる。」
「俺、明日にはよくなります!」
「ん〜〜〜、可愛い奴だな。」

 ザックスがクラウドの頭をぐりぐりと撫でた。

 翌日、クラウドはザックスのバスターソードを借りて剣の練習を始めた。
 思っていたよりもずっしりと重い、むやみやたらに振り回すだけでうまく立ち回れない。

「それが初任務で13人切りをやった男かよ。」
「おっかしいなぁ…」

 息を切らして剣を握るクラウドを壁に背中を預けたセフィロスが二人を眺めていた。クラウドはもう一度ザックスにかかって行った。

「脇が甘い!!」
「ちっくしょう!!」

 クラウドの瞳が怪しく燃えた、ザックスがその雰囲気にのまれる。
 壁際にいたはずのセフィロスがいつの間にかこちらへと歩いてきていた。

「ザックス、どうやらコイツは窮地に立たないと本気になれぬようだな。」
「みたいだね。やるかい?」

 ザックスが後ろに下がるとセフィロスが腰の正宗を抜き去った、クラウドは背中に冷たい物を感じた。

「安心しろ、ソード以外には刀は当てぬ。」
「お願いします!!」

 クラウドがバスターソードを構えなおすとセフィロスが正宗を下段にかまえる。
 クラウドが打ち込んでくるのをセフィロスは片手で弾き返す。
 細身の剣のどこにあんなパワーがあるのか?!
 クラウドはその力に驚くが身体が反応する。
 徐々に自分の中の血がたぎるような気がして来るとクラウドの剣のさばき方が一気にうまくなった、セフィロスがそれを感じてほくそ笑んだ。

 ザックスがあきれ返ってクラウドとセフィロスの対戦を見守っていた。

「クラウドの奴、強い奴とやればやるほど強くなる奴だな。」

 果てしない打ち合いは小一時間続いていた。
 セフィロスにそれだけ刀を交えたソルジャーは何処にもいない。
 クラウドが体力を使いはたして片ひざを付いた。

「勝負あり!…だな。」

 クラウドは肩で荒い息をしていた。
 一方セフィロスは顔色一つ変えず、汗も浮かんでいなかった。

「クラウド、強くなったな。」

 クラウドはセフィロスの言葉を聞きながら気を失った。

「こいつ、笑いながら気を失ってら。」
「ふふふ…」

 まるでライバルが生まれつつあるのを楽しみに待っているような顔をして、セフィロスがきびすを返すようにその場を離れた。

 それからしばらくの間、クラウドは相変わらず一般兵のまま派遣についていっては、ソルジャー並みの働きをして実力をどんどん付けて行った。
 そして神羅の治安部に採用されて2年が過ぎようとしていた。

「ザックス、クラウド、来い。」
「はい!」

 セフィロスについてザックスとクラウドは治安部長室へと入った、中には治安部統括部長のハイデッカーが机に偉そうにふんぞりかえっていた。

「はいるぞ!」
「セフィロス、来たかね。今度の派遣だが、魔晄炉が一つ異常動作を起こしているうえに凶暴な動物が発生している。そいつらを始末しつつ原因を見つけ出し、排除する。場所は…ここだ。」

 ハイデッカーが地図を渡した、セフィロスがその地図を開きもしないで答える。

「承知した。」

 セフィロスが地図をもってさっさと部屋を出たのでクラウドとザックスはあわてて後を追い掛ける。

「セフィロス、今度の行き先はどこだよ?」

 セフィロスが答える代わりに地図を渡した。

 ザックスがその地図を開いて見るとクラウドに尋ねた。

「クラウド。お前、確かニブルヘルムの出身だよな?」
「ああ、それが何か?」
「じゃあ、凱旋だな。こりゃニブルヘルムの地図だ。」

 ザックスがクラウドに地図を渡す、クラウドがそれを見て青ざめた。

「俺はまだ一般兵です。」
「地位だけはな、実力はすでにソルジャーだぜ。」
「でも、認められていない。」
「そういじけるなよ。」

ザックスはクラウドの肩をポンとたたくがクラウドは悲しげな瞳をしてつぶやいた。

「俺、ニブルヘルムを出る時に”必ずソルジャーになる”って言ったんだ。それをまだかなえていないのに…帰れないよ。」
「しゃあねえだろ、それともなんだ?セフィロスについていかないのか?」
「……行く。」
「ならさ、一般兵のヘルメット深々とかぶってりゃ判んないぜ。」

 その日の夜、セフィロスの部屋で打ち合わせをする時に、ザックスはニブルヘルムがクラウドの故郷である事を喋ってしまった。

「ザックス!!」
「あははは…だって事実だろ。」


 クラウドはその日が来るのが来なければいいと思っていた、しかしあっという間に派遣の日はやって来た。

 仕方なくクラウドはザックスに言われた通り一般兵の制服を着て、ヘルメットを深々とかぶりトラックへと乗り込んだ。