魔晄炉に来る前に、クラウドはセフィロスからのメッセージを受け取っていた。 そこには、自分がそばにいてはお前のためにならないと…そして願わくばクラウドの手で自分を殺してほしいと書かれていた。 そのメッセージはすでに業火に燃え尽きてしまっていたが、クラウドはどうして自分がセフィロスとともにいられないのか理由が知りたくて、魔晄炉へと駆け込んでいた。 扉を開けるといきなりザックスが吹っ飛ばされて機械に体を打ち付けてきた。 「ザックス!」 「クラウド…か…。もう、あいつは…おまえの知っているセフィロスじゃない…奴を…止めてくれ。」 息も絶え絶えに告げられた一言が悲しくて、クラウドはザックスのバスターソードを握った。 (どうして…どうしてこんなことになっちゃったんだよ…) セフィロスの優しい微笑み、温かかった腕の中しか思い浮かばない。しかし駆け寄った彼には微塵も優しさを感じられなかった。表情一つ変えずに氷のような冷たいまなざしで自分を見つめるセフィロスにクラウドは燃え尽きてしまったメッセージを思い出していた。 「どうして…どうしてなんだよセフィロス!」 答えの代りに正宗を向けられて必死で避ける。その必死さゆえかセフィロスの体にバスターソードが突き刺さった。まるで信じられないようなものを見るかのような顔で自分の体を貫く大剣をちらりと見た後、その翡翠色の瞳に怒りの炎がともる。 「図に…乗るなぁ!」 思い切り弾き飛ばされてしたたかに体を打ち付けたところに、セフィロスがやってきてクラウドに正宗を突き立て、そのまま体ごと持ち上げる。 「お前ごときに…」 セフィロスが何か言おうとした時、クラウドが自らの体を貫いていた正宗を両手で握った。逆にセフィロスに近づいて最後の力を振り絞り正宗を持つセフィロスごと持ち上げ振り回した。 片手に何かを持ったままセフィロスは魔晄炉の中へと落ちて行った。 クラウドはボロボロと涙をこぼしながら、扉の外に出たところで意識を失った。 ザックスが気がついたのは高濃度の魔晄の中だった。 もともとソルジャーとして変えられていたザックスの体は高濃度の魔晄の中にあっても意識を保っていられたようであった。食事の時間になると警備も手薄になることを悟り、脱走の計画をひとり練っていた。 チャンスはすぐにやってきた。部屋からだれ一人いなくなったのを確認すると、わからないように少しづつヒビを入れていたところに衝撃を与えてガラスを破り脱出に成功した。周りを見渡して誰にも気がつかれた様子がないことを悟るとすぐ隣のポッドに入れられていたクラウドを助け出した。 しかしクラウドはかなり酷い魔晄中毒を起こしていた。 ザックスが何を問いかけても返事もできず、視線はうつろなままだった。そんな彼を見捨てるわけにもいかずザックスはクラウドを連れてニブルヘイムを後にした。 脱走はあっという間に神羅カンパニーの治安維持軍へと知らされた。同時にタークスの耳にも入りツォンは旧知の仲の二人を保護すべく部下に命令を出していた。 その頃、ザックスはミッドガルへ行くトラックの荷台に乗せてもらっていた。 彼の脳裏によぎっているのは愛しい少女エアリスとの約束だった。 『大丈夫だよ、エアリス。俺がもし…遠くへ行って帰ってこれなくなっても、何とかしてミッドガルに…君に会いに戻ってくるから。』 持っていた携帯はすでに使えなくなっていた。 途中で寄ったゴンガガで出会った旧知の仲のタークスの一員から、自分たちが軍から脱走者として追われていることを知った。そしてエアリスから何通も手紙を預かっていることも教えてくれた。なんとなく長い間待たせていたことはわかっていたが、途中見知らぬ道路が開通していたりして、いったい自分はどのくらい気を失っていたのか不安でたまらなくなり、ミッドガルへと急いで飛んで行きたかったのだったが、クラウドを連れているので思うように進めなかった時のことであった。 渡りに船とばかりに乗り込んだトラックの上でザックスは相変わらず酷い魔晄中毒のクラウドに根気よく話しかけていた。 「なぁ、ミッドガルについたらお前、どうする?」 「………。」 クラウドから答えが戻ってこないことはわかっているくせに、ザックスはずっと話しかけていた。 「俺はあちこちに当てがあるんだ。みんなの世話んなって……あ、どの女の子も親と一緒に住んでるのか……そりゃマズいよな〜あ?」 「………。」 「俺、決めたぞ! 俺は『なんでも屋』になるぜ。面倒な事、危険な事。報酬次第で何でもやるんだ。こりゃ、儲かるぞ〜。な、クラウド。お前はどうする?」 その時、クラウドはまるで返事をするかのように声を出した。 「う…、ぁぁあ…」 「冗談だよ。お前を放り出したりはしないよ。……トモダチ、だろ? 」 ザックスは本当にクラウドを放り出すようなことはしなかった。 クラウドを連れてミッドガルが見下ろせる高台まで戻ってきたのだったが、ミッドガルに近づくにつれ軍の追手が激しくなってきていて、すでに周りを軍に囲まれてしまっていたのだった。 「派手なお迎え痛み入りますねぇー!いらっしゃいませー!」 クラウドを物陰に隠して一人大群に立ち向かったのであったが、いかんせん多勢に無勢。次第にザックスの動きが鈍くなっていった。 クラウドがもうろうとする意識の中でザックスを探し当てた時は、すでに彼は息絶えていた。 握っていたバスターソードを自然と持ち上げて、クラウドは無意識のままミッドガルへと歩いていった。 酷い魔晄中毒とかすかに戻る自分の意識。 そしてセフィロスへの想いだけがクラウドを動かしていた。 ミッドガルにたどり着いた時、自然と足が7番街スラムの駅に向かっていた。 理由は分からないが、そこへ行かなければいけない気がしてクラウドは駅のホームにたどり着いた時に、再び酷い頭痛に意識を失った。 ホームの端で倒れていたクラウドを通りがかったティファが見つけて、自らが働くセブンス・ヘヴンへと連れて帰った。
|