トラックが激しく揺れて止まったので、何があったか確認するため飛び出した運転手が、後ろのカーゴルームに向かって叫んだ。
「へ、変な動物が!! トラックに突っ込んで来ました!」
「モンスターのお出ましか…」
 そうつぶやくとセフィロスはザックスとクラウドを伴ってトラックの外に出た。正宗を抜き払うとモンスターに切りかかる。流れるように舞い踊る銀色の長髪とロングコートのすそがあまりにも綺麗で思わずクラウドは見とれてしまっていた。
「やっぱ…セフィロスは強いな。」
「ああ。」
 ザックスとクラウドはただ憧れの眼差しでセフィロスを見ていた。
そしてトラックはやがてニブルヘルムに着いた。

 セフィロスがクラウドにたずねた。
「どんな気分なんだ? 久しぶりの故郷なんだろ?どんな気分がするものなんだ?私には故郷がないからわからないんだ……」
「ええと…… 両親は?」
「母の名はジェノバ。私を生んですぐに死んだ。父は……」
 ザックスの問いかけにそこまで答えると、急にセフィロスは笑いだした。
「フフフフ……私は何を話してるんだ……さあ、行こうか。魔晄の匂いがするな。」

 村はひっそりしていた。
 みんな、モンスターを恐れて家に閉じこもっていたのか、それとも神羅が送り出したソルジャー達を恐れていたのかはわからなかったが、誰ひとりとして神羅の英雄と呼ばれているセフィロスを見ようと家から飛び出してくることはなかった。
「魔晄炉への出発は明朝。今日は早めに眠っておけ、見張りはひとりでいいからお前達も休んでおけよ。そうだったな、クラウド。家族や知り合いと会ってきても構わないぞ。」
 そう言うとセフィロスは一足早く宿屋に入っていった。

 翌日から魔晄炉の調査が始まった。
 セフィロスがあらかじめ頼んだのであろうか?クラウドの幼馴染のティファが魔晄炉まで案内することになって、先頭を切って歩いている。途中マテリアの泉をみつけたり、吊橋で落ちそうになったりといろいろとあったが、なんとか魔晄炉に到着した。
「私も中に入る!」
 そういうティファに神羅カンパニーの極秘事項である魔晄炉の中を見せるわけにいかず、表に残す。
 ティファの護衛をクラウドに命じた後、セフィロスとザックスは魔晄炉の内部へと入って行った。

 魔晄炉の奥では何やら大量の大きなカプセルと奥へと続く扉が控えていた。
「JENOVA…… 何だろう。ロックは…… 開かないか……動作異常の原因はこれだな。この部分が壊れているんだ。ザックス、パルプを閉じてくれ。」

 ザックスは言われたようにカプセルのパルプを閉じた。
「何故壊れた……?」
 そう言ってセフィロスはカプセルの中を眺めると一人納得したようにつぶやいた。
「わかったよ、宝条。でもな、こんな事したってあんたはガスト博士にはかなわないのさ。これは魔晄エネルギーを凝縮して更に冷やすシステムだ、本来はな。さて、更に凝縮すると魔晄エネルギーはどうなる?」
 セフィロスはザックスに振り返って聞いた。
「え、ええと…… そうだった! マテリアが出来るんだな。」
「そう、普通ならな。でも宝条はこの中にある物を入れた。……見ろ。窓から中を覗いて見ろ。」
 セフィロスが冷却システムのカプセルを指差した。ザックスがその中を覗くと中には異形の化け物が魔晄に浸かっていた。
「こ、これは!?」
「お前達、普通のソルジャーは魔晄を浴びた人間だ。一般人とは違うがそれでも人間なんだ。しかし、こいつらは何だ? お前達とは比べ物にならないほどの高密度の魔晄に浸されている。」
「………これがモンスター?」
「そうだ。モンスターを生み出したのは神羅カンパニーの宝条だ。魔晄エネルギーが創り出す異形の生物。それがモンスターの正体。」
「普通のソルジャーって? あんたは違うのか? お、おい、セフィロス!」
 突然、セフィロスが頭を抱えだした、顔色は真っ青だった。
「ま、まさか…私も?私もこうして生み出されたのか?私もモンスターと同じだというのか?!」
 セフィロスは狂ったようにカプセルを斬りつけはじめた。
「セフィロス…」
「お前も見ただろう! こいつらの中にいるのはまさしく人間だ。」
「人間!? まさか!」
「子供の頃からオレは感じていた。私は他の奴らとは違う。私は特別な存在なんだと思っていた。しかし、それは…… それはこんな意味じゃない。」
 セフィロスが鋭い視線をカプセルに向ける。
 と、その時カプセルの一つが大きく揺れたかと思うと中からモンスターが苦しそうに出てきた。その様子を見ていたセフィロスが漏らした言葉をザックスは聞き逃さなかった
「私は…… 人間なのか?」
 セフィロスが何を言っているのかその時のザックスには良くわからなかった。
 ザックスは何よりも神羅カンパニーがモンスターを創っていたという事にショックを受けていた。

 ザックス達はニブルヘイムへ戻った。セフィロスは宿屋に篭もり誰とも言葉を交わそうとしない。そして……ある日いなくなった。

 セフィロスが見つかったのはニブルヘイムで一番大きな建物で、村の人達は神羅屋敷と呼んでいた。
 クラウド達が生まれた頃にはもう空き家になっていたがそれ以前はその屋敷は神羅カンパニーの人間が使っていた。
 ザックスは知らせを受けて神羅屋敷へと向かった、しかし屋敷の中にセフィロスの姿は見えなかった。
「確かに、この部屋に入っていったのを見たんだけど…」
 見張りの兵士にそういわれてザックスは部屋に入ってみるが、セフィロスの姿はない。しかし壁が少し不自然になっているのを見つけ隠し扉になっているのを発見した、扉の奥は螺旋階段が地下へと続いていて地下は書庫になっており、そこにセフィロスはいた。

 セフィロスはそこにある書物を一心不乱に読んでいるところだった。
「2000年前の地層から見つかった仮死状態の生物。その生物をガスト博士はジェノバと命名した。×年×月×日。ジェノバを古代種と確認、×年×月×日。ジェノバ・プロジェクト承認。魔晄炉第1号使用許可…」
 セフィロスは本から目を離すとザックスに聞こえるようにつぶやいた。
「私の母の名はジェノバ…ジェノバ・プロジェクト…これは偶然なのか?ガスト博士、 どうして何も教えてくれなかった?どうして死んだ?」
 ザックスが話しかけようとすると拒絶するかの如くセフィロスが背中を向けた。
「ひとりにしてくれ。」
 それ以降セフィロスは神羅屋敷に篭もりきりになった。まるで何かに取り憑かれたかのように書物を読みあさり、地下室の明かりは決して消える事はなかった。


* * *



 高濃度の魔晄につけられていたモンスターはたしかに人間だった。
 ソルジャーも同じように魔晄を照射されて体を強化してる。しかし自分の強さは普通のソルジャーとは違うと思っていたセフィロスは一つの結論にたどり着こうとしていた。
「俺は…あのモンスターと同じように高濃度の魔晄に漬けられたというのか…。俺は…モンスターと一緒なのか…」
 自分が普通のソルジャーと一線を画していることはセフィロスにもうすうすわかっていた。
「俺は…人間ではないのか…クラウドと一緒にいることはできないのか…」
 自分が守りたいと思った唯一の少年。そんな彼すらもいつか自分はわからなくなり殺してしまうのであろうか…
「そんな…そんなことはさせぬ!俺からクラウドを奪うやつは何人なりとて許さん!」
 このとき、セフィロスは以前クラウドから聞いたニブルヘイムにいた頃の話を思い出した。

 小さいころから村八分にされ、仲間に入れてもらえずに、いつも一人ぼっちだった。本当は仲間に入れてもらいたくて、目で追いながらも『興味無いね…』って、感じで意地を張っていた。

 セフィロスは正宗を片手に神羅屋敷を飛び出していた。


* * *



 クラウドはセフィロスのことが心配でならなかった。
 しかしザックスに聞いた様子では、今そばに行くことはできない気がしてならなかった。自分のような何もできない奴がそばに行ったって、セフィロスの邪魔になるだけだと思っていた。
 そんな矢先、宿の外で悲鳴が聞こえ、いきなり火の手が上がった。
 クラウドはあわてて外に飛び出した。
「ど、どうして…」
 あわてて神羅屋敷へと駆け出そうとすると、目の前に村人を殺しているセフィロスがいた。
「セ…セフィロス…」
 目の前に繰り広げられている光景が信じられなくて、クラウドはその場で立ち尽くしていた。
 しばらくその場で立っているとザックスがやってきて声をかけてくれた。
「クラウド、大丈夫か?!」
「ザックス…セフィロスが…セフィロスが…」
「これはセフィロスがやったことなのか?」
 ザックスの問いかけにクラウドは力なくうなずいた。
 いつも沈着冷静で有能な指揮官だったセフィロスが、まさか無差別に村人を殺し、火を放ったなどと、本当は信じたくはなかった。しかし、自分もクラウドも見てしまったのである。
「あいつ…なにをとっちらかってやがるんだ!」
 ザックスがバスターソードを抱えてセフィロスを追いかけた。

 魔晄炉の奥にJENOVAと書かれた部屋があった。
 セフィロスは一人その部屋の中に入っていこうとしたところに、ザックスが追い付いてきた。
「セフィロス!なぜ村人を殺した!」
 ザックスの問いかけに答えずにセフィロスは目の前にある人形の形をした機械に話しかけていた。
「かあさん…また奴らが来たよ。母さんは優れた能力と知識、そして魔法でこの星の支配者になる筈だった。けど、アイツラが……何の取り柄もないアイツラが母さん達からこの星を奪ったんだよね。でも、もう悲しまないで。」
 そう言うとセフィロスは人形を引き剥がし、チューブをちぎった。人形から赤い体液が流れ出し、火花が飛び散る。そして人形の裏には『JENOVA』と銘打たれた人か化け物かわからない物が出てきた。
「クラウドの悲しみはどうしてくれる! 家族…… 友達……故郷を奪われたアイツの悲しみは!!あんたの悲しみと同じだ!」
「クックックッ…… オレの悲しみ? 何を悲しむ?オレは選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在だ。この星を、愚かなお前達からセトラの手に取り戻すために生を受けた。何を悲しめと言うのだ?」
 セフィロスの言葉にショックを隠せなかったザックスは自分の中で結論を出した。
「セフィロス…… 信頼していたのに……いや、お前は、もう俺の知っているセフィロスじゃない!」
 ザックスがバスターソードを掲げてセフィロスに斬りかかって行った。しかし圧倒的なパワーの違いに逆に斬りつけられて部屋の外まで飛ばされる。そこにティファを追ってやってきたクラウドが立っていた。
 弾き飛ばされたバスターソードを片手にふらふらとセフィロスのもとに歩み寄った。