クラウドのことはあっという間に治安維持軍の中でも有名になってしまっていた。一般兵としての実力もあったが、稀に見る美少年で笑顔が可愛いと評判になっていたのである。
 そんなクラウドにお近づきになりたい兵の数はあっという間に増えていったのであるが、その数が増えると同時に彼が既に英雄セフィロスの恋人であるという噂も同じスピードで広がっていったのであった。

 神羅カンパニー本社68Fの一室に狡猾そうな瞳のまだうら若い青年がいた。
 彼の名はルーファウス神羅。神羅カンパニー総帥の長男で副社長の地位にいた。彼のそばには常にタークスの時期主任と評判の高い男ツォンがまるでボディーガードの如く張り付いていた。
 自分の耳にまで届いてきた噂が信じられないルーファウスはいつも影のように寄り添って見守っていてくれるツォンに事の真相を訪ねた。
「ツォン。あのセフィロスの恋人が少年兵だと聞いたが…事実なのか?」
「はい、事実です。」
「まったく、困ったものだな。あの英雄が何を血迷ったのやら…」
「彼にとって良い変化が現れるかと思って今は見守っております。」
「あまり表には出したい噂ではない。それはわかっているな?」
「はい。」
「ならばお前のことだ、あとは任せる。」
 ルーファウスがデスクの上にある書類に目を通し始める、それは一連の会話の終了を示していた。


* * *



 相変わらず訓練をしながらミッションをこなしつつ、クラウドは確実に強くなっていった。
 しかし精神力の弱さからか、なかなかソルジャー試験には合格しなかったが、それでもその笑顔と実力で周りの兵たちからは一目置かれていた。
 秋が終わり年の瀬が近づき始めたころ、ミッドガルの街にはいろいろなイルミネーションが光り輝いていた。
 華やかな音楽が流れ、通りを歩く人々も早脚となっている。大きな店からはカラフルな包装紙につつまれたプレゼントの箱を持った人がたくさん出てきたりもしていた。
 巡回警ら中の一般兵たちはそんな人ごみの中を縫うように街を警らしていた。
「すごい人ですね。ミッドガルってこんなに人がいるんだ。」
「当り前だろう?もうすぐクリスマスだからなぁ、自然と人出も増える、だから警らもしっかりとやらなくちゃいかんのだ。」
 そう話す先輩兵に真剣な顔でうなずいて、クラウドは再び周囲に目を配った。幸せそうな顔で通り過ぎる家族連れやカップルをちらりと見ては、軽くため息をつきつつ任務をこなしていた。

(クリスマスかぁ…、一緒に過ごせたらいいけど、無理だろうなぁ。)

 そんなことを思いながら、住み慣れたアパートメントの部屋に入る。
 いつものように真っ暗な部屋に灯りをともすと、手慣れた様子でキッチンに入る。冷蔵庫の中身を確認してから着替えに行く。すでに習慣となってしまっている行動の中で思わず今日の警ら中によぎった思いがふと浮かんだ。
「うん…仕方がないよね。でも、少しでいいから一緒にいたいな…。」
 クラウドがキッチンに向かおうとすると、扉がいきなり開いてセフィロスが入ってきた。
「一体、だれと一緒にいたいというのだ?」
「え?あ…」
 いきなり翡翠色の瞳に見つめられたかと思うと、唇をふさがれる。息ができないほどの口付けに頭がぼーっとなっていると、いつのまにかセフィロスの膝の上に座らされていた。
「いつ、誰と、一緒にいたいというのだ?答えによっては…」
「こ…答えに…よっては?」
「そいつを殺す。」
 翡翠色の瞳の中にちらりと見える殺気の炎が、目の前の男の本気を示していた。しかしクラウドはきょとんとした顔で答えた。
「自殺するの?」
「は?!」
「俺が…クリスマスに一緒にいたいのは…セフィロスなんだけど。」
 真っ赤な顔で紡がれた言葉に一瞬目を見開いたセフィロスが、口元をゆるめて再びクラウドに口づけを落とす。
「クックック…そうか、俺だったか。しかしだな、クラウド。クリスマスの日はパーティーに拉致されたようなものだな。」
「やっぱりそうなんだ。」
「こら、そんなに寂しそうな顔をするな。大丈夫だ、必ず早く帰ってくる。俺もお前と過ごしたいからな。」
 真っ赤な顔をするクラウドの頬をするりとなでてから、クスリと笑う。そんなセフィロスの笑顔も自分にしか向いていないことをこのときのクラウドはまだ知らなかった。
 クリスマスはあっという間にやってきた。
 一般兵のクラウドにはセフィロスの出るカンパニー主催のパーティーに警護として参加することも許されず、一人で留守番をすることになっていた。真っ暗な部屋に戻ると明かりのスイッチを入れる。とたんに部屋の真ん中にあったクラウドの身長ほどあるクリスマスツリーが目に飛び込んできた。
「え?!」
 今朝、この部屋を出て行く時までは置いていなかったはずのツリーが置いてあることにクラウドはびっくりした。セフィロスと共に過ごせそうもないと思っていたので、ツリーを飾ろうとも思ってはいなかったのであった。買った覚えのないツリーの真ん中にメッセージが張り付けてあった。手にとって読むとセフィロスの几帳面な文字が並んでいた。





Merry Christmas

   ツリーもないクリスマスでは寂しかろう?  
   なるべく早く戻るつもりでいる、
  それまでにきれいに飾っておいてくれ。
   お前の料理も楽しみにしているぞ。 
          Sephiroth 



 セフィロスの気遣いがうれしくてクラウドはそばに置いてあったオーナメントをきれいに飾りつけ、せっせとクリスマスにふさわしい料理を作っていた。しかし料理が全部できても…その料理が完全に冷え切ってもセフィロスは戻ってきてはくれなかった。

(やっぱり…セフィロスがパーティーを抜けだして帰るなんて…無理なんだ。)

 リビングのソファでクッションを抱きしめてTVを見ながら、セフィロスを待っていると不思議と時間がゆっくりとしか過ぎない。ちらちらと時計を見上げては肩を落としてTV画面を見るという行為を繰り返しているうちについうとうととしてしまっていた。
 時計が間もなく新しい日を刻もうとしている時にセフィロスはやっと部屋に戻ってきた。
 既に寝ているであろう愛しい少年を起こすまいとそっと扉を開けると、明るいリビングにはTVからの音が聞こえてはいたが、ソファに座っているクラウドはやはり転寝をしていた。
 この姿勢のままでは熟睡できないであろうとそっと抱きあげてベッドへと運ぼうとしたら、かすかな振動を感じたのか掃天の空のような瞳がうっすらと見開かれた。
「う……ん……。あ、セフィ……ロス?」
「起こしてしまったか?」
「ご、ごめんなさい。俺、寝てしまったんだ…」
「いや、気にするな。こんな時間まで起きていることはない。」
「でも、約束したもん…ありがとう、クリスマスに間にあったみたいだよ。」
 ほんの5分しか残っていなかったが、それでもクラウドはセフィロスと一緒にいられることがうれしかった。そんなかわいらしいことを言う少年をそのままベッドへと下ろすとゆっくりとキスを味わった。
 あっというまに服を脱がされ滑らかな白い肌のあちこちに朱を散らしたようにキスの跡が浮きあがってきていた。欲情の大きな波に翻弄されつつもクラウドは不意に冷たいものを頬に感じた。ふと見ると鈍く輝く銀色のドッグタグであった。
 目の前にあるセフィロスのドッグタグに刻んである文字を見てクラウドは急に大声をあげた。
「え?セフィロスの誕生日って、明日なの?!」
「いや、もう今日だな。」
 セフィロスが示したまくら元の時計はすでに26日の時刻を指していた。
「し、知らなかった。どうして教えてくれなかったんだよ、おかげでお祝い何も考えていなかった。」
「いや…いい。」
 そう言いながらセフィロスはクラウドを追い上げていく。あっというまに何も考えられなくなったクラウドから甘い声が漏れ聞こえ、セフィロスをその華奢な体全身で受け止める。そんなクラウドが愛しくて、何度も…何度も貫く。
 いつの間にか気を失うように蒼い顔をして眠るクラウドを抱きしめながら、まだ告げるには早いと思っている言葉をささやく。
「お前さえ…そばにいてくれれば…それでいい。」

 しかし、彼の思いはしばらくクラウドに届くことはなかった。


* * *



 ずっと…変わらない日々が過ぎていくと思っていた…このままセフィロスのそばで暮せると思っていた。
 しかし、クラウドの誕生日が来るころに転機が訪れた。
 反九勢力があちこちの魔晄炉に一斉に攻撃を仕掛けてきたのだった。
 反抗勢力の攻撃はあっという間に終わったが、そのあとの魔晄炉の出力が不安定になっているところがあったので調査に赴くことになった。
 ザックスがミッションを言い渡されて、待機している兵のところへ歩み寄ると、見なれた顔がいるので笑顔を浮かべた。
「クラウド、久し振り〜〜!元気してたか〜〜?」
「あ、ザックス。」
「お前もこのミッションに行くのか?」
「うん、よろしく。」
 久しぶりに見たクラウドをザックスがかまっていると、黒のロングコートをまとったセフィロスがやってきた。
「準備はできたか?」
「ああ、セフィロス。俺たちはどこの魔晄炉にいくんだ?」
「ニブルヘイムだ。」
 ザックスの背後でクラウドが息をのむのが手に取るようにわかった。しかし、一切を無視してトラックへと乗り込んだ。ミッションが発動したらセフィロスはトップ・ソルジャーとして行動するようにと命ぜられていた。
 もちろんクラウドからも差別をしないでと願われていたので、ふつうの一般兵として扱っているつもりだった。ザックスがそんなちぐはぐな空気をかぎ取ったのかくすりと笑った。
 ニブルヘイムまでの距離を移動するうちにクラウドの乗り物酔いが酷くなってきたらしい。蒼い顔をして必死で吐き気を我慢していたようであった。
 そんなクラウドに気がついたザックスが声をかけた。
「おい、気分はどうだ?」
 クラウドは青い顔をしながら答えた。
「……大丈夫。」
「なあ、クラウド。気分悪いなら、そのマスク取っちゃえば?」
「ああ……」
「俺は乗り物酔いなんてなった事ないからな、良くわからないんだ。」
 クラウドに心配げにたずねてから、振り向きざまにもうひとりの兵士にも尋ねる。
「準備はOK?」
「おい、ザックスお前。もう少し落ちつけ。」
「新しいマテリア、支給されたんだ。早く使ってみたくて、落ち着かなくてさ。」
「……子供か、お前は。」
「俺はあんたみたいになりたくてソルジャーになったんだ。それなのにクラス1STに昇格したのと同時に戦争が終わってしまった。俺がヒーローになるチャンスが減ってしまった訳さ。だから、そういうチャンスがあるなら俺は 絶対にモノにしてみせる。な、どういう気分だ? 英雄セフィロスさん?」
 ザックスがセフィロスに話しかける、その時車が大きく揺れた。