しばらくワイワイと騒ぎながら料理を食べていると、入口付近の客が急にざわめき始めた。
 そのざわめきがだんだんとこちらに近づいてきたので、ふと顔をあげると黒いスーツを着こなしたセフィロスが悠然と入ってきていたのだった。
 男はちらりと店内を見渡して,ひときわ騒ぎが大きい一角を見付けるとそのテーブルに近づいた。
 山ほどの料理を取り合いながらワイワイと騒ぐ一団のテーブルに到着すると、クラウドの隣に座りながらセフィロスは苦笑いをしていた
「ずいぶん騒がしいな。」
「すみません。」
「なにもお前が謝ることは無い、これでは誰の為のパーティーだかわからぬと言う事だ。」
「たとえ騒ぐ為の理由にされても…俺、自分の誕生日をこんなに沢山の人に祝ってもらったことがないんです。だから凄く嬉しいんです。」
「そうか、しかし去年はすでにカンパニーの訓練所にいたのであろう?」
「俺、あまり友達いなかったし、寮仲間も夏休み休暇で自分の家に帰ったりで、去年は独りぼっちでした。」
 セフィロスとクラウドが話し合っているのに気がついたザックスが割って入った。
「くぉらぁ〜〜!セフィロス、後からきて主役を横取りかよ?そりゃないぜ。」
「どうせ貴様達がクラウドの迷惑も考えずに騒いでいただけであろうが?」
「うっわ〜〜当たっているだけきついわん★!」
「やめんか!気持ち悪い!」
 しなをつくって寄りかかってくるザックスの頭に ”ごいん★!”と、音を立ててセフィロスの拳骨がヒットすると、頭をさすりながらクラウドに泣きついた。
「あ〜〜ん、酷いよォ。英雄様ったらすぐに暴力に訴えるんだからァ。」
 ザックスに泣きつかれてクラウドはため息をついた。セフィロスがそんな姿を見てザックスを引っ剥がし、ほこりを払うようなまねをする。
「まったく。こう煩いと、かなわん。店を変える、いくぞクラウド。」
 そういうとクラウドだけを攫うように連れ去って行ってしまった。
 お約束とはいえ、あまりにもあらかさまな行動にその場に残ったメンバーがひとしきり愚痴をつぶやいていた。
「まったく、隊長もストライフもあれで"ばれていない"と思ってんのかな?」
「なあザックス。俺達いつまで知らないふりをしていればいいんだ?」
 隊員達の言葉にザックスが目を丸くした。
「なん?お前ら知ってたの?」
「知っているも何も…あれだけラブラブ光線出していれば、治安維持部の連中は皆知っていますよ。」
「しかし、ザックスよぉ。何とかしないと、俺たちが任務を言い渡しに行くたびに、目も当てられんのだぞ、と。」
「俺だって、いい迷惑なんだぜマジで!どんだけあいつらの犠牲になってんだか!」
 どう見ても好き合っている二人が、お互いの気持ちを伝え切っていないだけで、なぜ自分にとばっちりが来るのか分からないが、ザックスはこれがあの時エアリスの言っていたことなのか?と思っていた。
 しかし、それはまだ序の口であることは…このときの彼はまったくわかっていなかった。


* * *



 一方、クラウドをさらって部屋に帰ってきたセフィロスのご機嫌はかなり良い。
 車のハンドルをとりながら、鼻歌など聞こえてきそうな雰囲気である。そんなセフィロスの隣に座っていると不思議とクラウドまで嬉しくなってきていた。
 車は静かにアパートメントの地下駐車場へと滑りこみ、専用のエレベーターで二人が暮らしている部屋へと入った。
 明かりのスイッチを入れると、テーブルには小さなケーキとシャンパン、そして二人で食べきれないほどのごちそうが並んでいる。
「え?ど、どうして…」
「誕生日パーティーをやると言ったであろう?だから用意しておいた。」
 優しげな瞳で見つめてくるセフィロスに、思わず涙をこぼしながらクラウドが抱きついた。
「嬉しい。」
 腕の中にすっぽりと隠れてしまうほど華奢な体をそっと抱きしめてから、その丸い頬に唇を落とすと、セフィロスはクラウドをテーブルに座らせた。
「まだあまり食べていなかったようだが、これで足りるか?」
「余りそうなんですけど…」
「そうか。では、はじめよう。クラウド、誕生日おめでとう。」
 ぽふっと大きな掌で頭をなでられたかと思うと、その掌が顔をすっと滑り降りて顎を軽く持ち上げられる。セフィロスの瞳がるやかにほほ笑んで、そっと唇が重なった。
 ちいさなケーキにろうそくをともし、クラウドが息で炎を消すとセフィロスがちいさな箱を目の前に差し出した。
「誕生日プレゼントだ。」
 にっこりとほほ笑んで箱を開けると、中には明るい若葉色の宝石でできた角のような形のペンダントが入っていた。
「ペリドットと言ってお前の誕生石で守り石だそうだ。お前に何かあった時にそばに俺がいれば守ってやれるが、いつもそうとはいくまい。もっとも…気休めにしかならないかもしれんが、な。」
 そう言いながら、ペンダントを首にかけてくれたセフィロスに、クラウドは満面の笑みで抱きついた。
「ありがとう、すごくうれしいよ。」

 その夜、グラス1杯のワインを貰って頬を染めたクラウドを、存分に堪能して腕の中に抱きしめたとき、いつものように銀色のタグの裏に張ってあった小さなビニール袋を指先ではじいた。
「馬鹿だな、お前の命に代わるのであれば…俺の体だろうと命だろうと差し出すというのに…」
 疲れたような顔で眠るいとしい少年の額に唇を落として、きゃしゃな体をしかと抱きよせセフィロスはまぶたを閉じた。


* * *



 翌日、カンパニーに出社したセフィロスはザックスにつかまっていた。
「おい、セフィロス。昨日クラウドを連れ去ってくれたおかげで、プレゼントが渡せなかったじゃないか。」
「あんな安い店でパーティーをやるほうが悪い。」
「そりゃ、あんたが入る店じゃないですよーだ!ふん!…と、喧嘩しかけても仕方がねえや。でもよぉ、あんまり無理させんじゃねえぞ。あいつ、まだ15歳なんだからよぉ。」
「それがどうかしたのか?」
「だ〜か〜らぁ!訓練に出られなくなるぐらい犯るなっt…%&#”」
 話を端折られるかの如く振り下ろされた鉄拳に目の前がちかちかする。殴られたところを思わずなでながら、ザックスは大声ではるか上官のセフィロスに怒鳴りつけていた。
「あんたねーーー!俺がこれ以上馬鹿になったらどーすんのよ!」
「ほう…自分が馬鹿だと自覚しているのか。ならば、今のショックで脳の回路の接触が良くなって少しはマシになったか?」
「あ…あんたって人はーーーーーー!!!」
 ひとしきり怒って見ても、目の前の英雄は相変わらず冷静なまま、何も変わっていないように見える。怒るだけ無駄だと肩を落としてザックスはため息をついたのである。しかし、もしこの時クラウドがいたら、セフィロスの口元がかすかに笑みを浮かべている事を見逃さなかったであろう。かすかではあるがセフィロスが変化し始めていることをこの時に彼が知っていたら…何かが変わっていたのかもしれなかった。

 翌日、蒼い顔をしながら出社してきたクラウドは受け取ったプレゼントに顔を真っ赤にしていた。
「な、なんだよ!このプレゼントは!恋人に使えって?」
「あー逆、逆。お前が使うの。言っておくけど、ここにいるみんなは知っていたぞ。」
「え?!」
 この時、素知らぬふりをすればよかったものを、律儀にもクラウドは青ざめた表情で驚いてしまったのだった。
「あ〜あ、そんな顔したら”正解です!”って言っているようなものだぞ。」
 今にもこぼれそうな蒼い瞳が、部屋の中にいる隊員たちをぐるりと見渡すと、全員が苦笑を噛み殺したような顔をしていた。
 クラウドが青ざめたままの表情を変えないので、セフィロスが訝しむ様に紙袋を取りあげ、中身を見て瞬間的に般若のような顔になった。

(ぎょぎょぎょ!!!最低最悪のご機嫌だぜ!!)

 しかし紙袋の中に入っていたメッセージカードを見つけたようだ。ザックス達に向かってにやりと笑ってこういった。
「クックック…そうだな、せいぜい有効に使わせてもらおう。」
 クラウドは可哀想なぐらい真っ赤になっていたが、セフィロスの手にあったカードを受け取って読んで、ただでさえ大きな瞳を落っこちるぐらいに見開いて驚いていた。
 カードにはこう書いてあった。




  HAPPY BIRTHDAY  CLOUD  

  俺達からのプレゼントだ。

 使い方がわからなかったら、
     隊長殿に聞くんだな。 
きっと手取り足取り教えてくれるぜ!!

      セフィロス隊隊員一同より愛をこめて    

   可愛がってもらえよ!!   by Zack




 この日以来セフィロスはクラウドを大っぴらにかまうようになった。


* * *



 ミッションが入るたびに相変わらずセフィロスを呼びに行かされるのか、タークスのレノがザックスに泣きついた。
「ザックスよぉ…あんなものをプレゼントしたから、セフィロスのご寵愛がさらに酷くなったんだぞ、と。」
「言うな、俺たちだって激しく後悔しているんだ。お前らはまだミッションの呼び出しだろ?俺らは毎日あの濃縮はちみつ部屋に入らないと仕事ができねーんだぞ。」
「それも可哀そうだな、と。」
「はぁ〜〜〜、今日も濃縮はちみつ部屋に入るか。」
 盛大なため息を付きながらザックスが執務室を開けると、中には同じようにげっそりとした顔の隊員達と、ほんのちょっと頬を赤く染めて恥ずかしがりながらも少しはうれしそうな顔をしているクラウド。そのクラウドを自分の膝の上に乗せて真顔で机の上の書類を片づけているセフィロスがいた。
「お〜お、今日の仕事は書類の片づけなのねん?」
「あ、サー・ザックス。お願いですから隊長殿にやめるようにいってください。」
「ふん、誰がやめるか。貴様であろう?”クラウドを可愛がってやれ”と書いたのは。」

(そりゃそうですけどねーー!)

 ザックスが再び盛大にため息をついた。
「あのカードは真っ昼間からいちゃつけと言う意味で書いたんじゃねェよ。(T▽T)プライベイトでいいから可愛がってやれという意味だっつーの!」
「クックック…、俺の可愛いクラウドを狙う連中がいるらしいからな。虫よけも兼ねている。」
「お〜お、確かにクラウドは可愛いんだけどよぉ、それじゃまるでお人形だぜ。」
「人形…か。」
 ザックスの言葉にセフィロスは口元をかすかにゆるめた。