その日の任務を終えて、一足先に帰宅したクラウドは、いつものように食事の支度をしながらセフィロスの帰宅を待っていた。
 先に食べていればよいといわれているのにもかかわらず、クラウドはいつもセフィロスの帰りを待っていたのである。それを知ったザックスからは『うひゃ〜!新婚さんかよ?!』と囃されもしたが、一人で食べる食事の味気なさをクラウドはよく知っていたのであった。
 日付が変わろうとする頃、セフィロスがやっと帰ってきた。
 眠そうに瞳をこすりながら、シチューの鍋を温めるクラウドが背中越しにセフィロスに話しかけた。
「あのね。ザックスが来月の19日におれの誕生日パーティーをやってくれるんだって。」
「あいつが?なぜだ。」
「ちょっとわかんないや、でも隊の皆さんに声をかけちゃったみたいなんだ。」
「お前の誕生日は二人で過ごそうかと思っていたが…どうするかね?」
 そう言われるとクラウドは少し考え込んでしまった。セフィロスと二人っきりで誕生日を過ごすことはとてもうれしい、しかしそれではせっかく祝ってくれるという隊の皆さんの思いをむげにすることになる。
「あ、あの…パーティーの途中でさらっていただけませんか?」
「クククク…折衷案をとったか、しかしそれも面白そうだな。」
 ぽふっとクラウドの頭に手を置くと優しくなでる。それは今日執務中にいきなり求めてきた人と同じ人であるのか?と思うほどである。
 思わずはにかむと、セフィロスに食事を勧めた。
「夜遅いからあまり食べるといけないかなって思ったけど、シチューぐらいならいいよね?」
「まったく、いつも言っているだろう?俺に無理して合わせる必要はないと。」
「ごめんなさい、一人で食べるのって寂しいと思って…」
「俺は今までずっと一人だった、慣れている。」
 セフィロスの言葉にクラウドは顔を曇らせた。

 彼につき従うようになって3か月、その間にクラウドは、なんとなくセフィロスが普通の生活を経験していなかったのではないか?と、思う節が多分にあった。
 感情を表に出すことはごく珍しいほどで、『氷の英雄』という呼び名は、まさしくその通りだと思うのである。クラウドには優しくて…抱き寄せてくれる腕は情熱的であったが、ミッション明けで疲れていようとも、翌日に早朝からの特別訓練があろうとも、一方的に求められて限界まで貪り食われるように抱かれることもしばしばあった。
 クラウドにセフィロスを拒否できるわけがなかったので、仕方がない事だと思っていたが、ただ単に性欲のはけ口にされているのではないか?と思うこともしばしばあった。
 今日みたいに他の兵と仲良く話していたりすると、当てつけるように執務室でクラウドを抱こうとすることもあったが、なぜかいつもタークスに呼ばれて、ことに及ぶ前にセフィロスが執務室を後にすることになるのである。

 ため息をついたクラウドの頭をセフィロスが無言でぽふっとなでてからシチューを食べるためにテーブルに座った。


* * *



 翌日、執務室でいつものようにミッションの資料を作っていると、ザックスがノックもせずに現れた。
「うい〜〜す!クラウド、今日も頑張っているか?!」
「あ、ザックス。おはよう。」
「お〜お、相変わらず可愛い笑顔だぜ。ところで、昨日の話はどうなったん?」
「パーティーのこと?うん、いいよ。嬉しいなぁ、俺誕生日パーティーなんて開いてもらったことないんだ。」
「親とか友達いなかったのかよ?」
「うん…父さんは顔も知らないし…かあさん、俺を育てるために夜遅くまで必死で働いてくれていた。父親がいないせいなのか知れないけど、子供の頃、ずっと村の子供たちに邪魔者扱いされて育っていたんだ。」
「おま……え……」
 クラウドの言葉に思わずザックスがびっくりしたような顔をする。それもそうであろう、目の前の少年が育った環境は彼には信じられないほど過酷なものに映ったのである。何が理由でこの少年を邪魔者扱いしたのか、彼はその場にいたら理由を問い詰めたであろう。それほど憤りを感じていたのであった。
「もう、昔のことは考えるな、思い出すな。そんな連中こっちから縁を切ってやれ。お前は今天下の英雄と一緒に寝起きして、友達もたくさんいる。それでいいじゃないか。」
 思わずクラウドを抱きしめながらささやくように話していると、不意にソルジャーの目がきらりと光るものをとらえた。
「うわっしゃ〜〜〜〜!!!!」
 間一髪で避けたきらめきはセフィロスの繰り出した正宗の光跡であった。
「貴様!昨日と言い、今日といい!俺のクラウドに手を出すとは何事だ!」
「ま、まて!セフィロス。俺はただクラウドを慰めていただ…あひゃあ!!」
 問答無用で斬りつけるセフィロスと、見事なまでに正宗をよけまくりながら、執務室中を逃げまくるザックスの真ん中に、クラウドが割って入った。
「もう!喧嘩はやめてー!」
 ほんの一言叫んだだけであったが、セフィロスの攻撃がぴたりと止まった。思わずザックスが安堵の息をもらした。
「サンキュー、助かったぜ、クラウド。」
 ザックスはクラウドにウィンクしてからセフィロスに向き合う。
「あんたなぁ…ちっとはそのセリフを言う場所を考えろ!」
「なぜだ?」
「ここは執務室、つまり公的な場所だろ?あんたがクラウドの何であろうと、ここでは1stソルジャーのトップで英雄と呼ばれているんだぞ。」
「だから何だ?」
「あ、あんたって人はーーー!プライベイトな事を大っぴらな場所で出すもんじゃねえの!」
「昨日は違ったことを言ったではないか。」
「あん?あれはあんたがクラウドに何も伝えていなかったみたいだったから…」
「どう違うのだ?」
 セフィロスの一言にザックスががっくりと肩を落とした。
「はぁ〜〜〜、俺も人のこと言えねえけどよぉ…もうちょっとジョーシキって奴を身につけようぜ、お互い、ナ!」
「ジョーシキではなく常識(じょう・しき)であろうが?!まったく……クラウド、行くぞ。馬鹿が移る。」
 セフィロスが踵を返して、執務室から出ていくと、クラウドがあたふたと後ろを追いかけて行った。


* * *



 あっという間にクラウドの誕生日がやってきた。
 執務室でいつものようにセフィロスの仕事を手伝っていると、ザックスがニヤニヤしながら顔を出した。
「よぉセフィロス。今日、クラウドは定時に終われるのか?」
「今のところ至急の用はないから大丈夫だが、なにか?」
「いやさぁ、今日、こいつの誕生日なのよ。だから誕生会を開いてやるって約束していたんだ。あ、あんたも来るか?3番街の「サニーディッシュ」って店だ。」
「俺はまだ何時に終わるかわからんが?」
「あんたはこいつの指導をしているんだから、そんなもん、適当に終わらせて早く来るの!じゃあ定時にもらいに来るぜ。」
 そう言ってザックスは、一旦自分の仕事をするために戻って行った。

 そして約束通り定時に戻ってくると、にかっと笑ってクラウドを捕まえ、セフィロスに言い放った。
「じゃ、悪いけど貰っていくぜ。あんたもこいつのために早く来いよ。」
「ふん、約束はできんぞ。」
 パソコンのモニターから目を離すこともせず、セフィロスが答える。クラウドは少し悲しそうな顔をしてはいたが、強引にザックスが引っ張って行った。

 トラックに乗り込まされて、家族向けの大衆レストランに連れて行かれたクラウドは、大きなテーブルの真ん中に座らされた。
「ほら、主賓はここ。」
 一緒に座ってくれているのは同じ隊の人たちだけでなく、一度は顔を合わせたことのあるタークスの二人組も入っていた。
 場内にアナウンスがかかり、キッチンから大きなケーキが運ばれてきた。
『本日はクラウド・ストライフ君の15回目のお誕生日です、皆さんどうか拍手でお祝いしてください。」

(うわぁ!なんだよこの店?!は、恥ずかしいじゃないか。)

 この店のサービスの一環なのであるが、田舎出身のクラウドには解っていないうえに、周りにいる客が自分を見ていると思うと、恥ずかしくて仕方がなかったのであった。
「あん?恥ずかしいのか?クラウド。きゃっわゆいなぁ…ここはこのサービスがあるからわざわざ誕生日を祝いに来る客が多いんだぜ。ほれほれ、おまえがこのローソクを消さないと始まんねえんだよ。」
 ザックスに背中をポンとたたかれて、クラウドは戸惑いながらも15本のろうそくを吹き消すと、それが合図のようにウェイター達が料理を載せたワゴンを押してきた。
 その量の多いこと!!
 今テーブルに座っているのは10人だったのであるが、どう見ても30人前ぐらいはありそうだ。その大半が揚げ物や肉料理というのはお約束なのか?ともかくワゴンに乗った料理を見た他の客が、思わず目で追いかけてしまうほどである。
 ずらりと隙間なく並べられた皿に山盛りに盛られているフライ物やサイコロステーキ、ボイルしたソーセージを前に思わず『こ、こんなに頼んで大丈夫なのか?』と思ってしまうであろう…と、クラウドは思っていた。
 一緒のテーブルに座っていた隊の仲間の一人がザックスに声をかけた。
「あれ?ザックス、これで足りるのか?」
「テーブルの大きさを考えろよ、これは第一弾だって、なあ、兄ちゃん。」
 ザックスが確認するように問いかけると、ウェイターの一人がいささか顔を引きつらせながらも答えた。
「は、はい。あとこれと同じ量の別のお料理のご注文を承っております。」
「ちょ…ちょっとザックス、そんなに頼んで食べられるの?」
「あん?何いってんの。俺たちゃ軍人だぜ、そのぐらい軽いもんだ、なあ?」
 同席している人たち全員がうなずくのを見ると、ウェイターたちも少し安心したような顔をして、一礼して戻って行った。
「じゃ、いただっきまーーーっす!」
 満面の笑みでナイフとフォークをもったザックスがサイコロステーキを取り分けたのがきっかけで、10人の腕がいっせいに料理に伸びた。
あっという間に料理の山が、少なくなっていくので、クラウドはあっけにとられていたが、自分の食べる料理がなくなってしまうと思い、あわてて料理に手を出し始めた。