FF ニ次小説


 カボチャをくり抜いたオブジェの前に、とんがり帽子の可愛らしい魔女の衣装を着てクラウドはカメラ目線で微笑んでいた。
 ミッドガル8番街にあるアーケードショップから、ハロウィンの広告を出したいと依頼があってそのポスターを撮影していたのであった。

            HAPPY HALLOWEEN


 8番街のアーケードにクラウディアの「ハロウィン・フェアー」のポスターが張られている。
 何度見ても自分の女装姿を正面から見る事が出来ないクラウドは思わず顔を赤らめてうつむいてしまった。
 それを見て巡回中のパートナーであるキースがけらけらと笑った。

「なに?おまえクラウディア様に惚れているの?やめておけよ、彼女はキングのフィアンセだからな。」
 クラウドは大きな声で間違っていると言いたかったが、そんな事をしたらこの女性が実は自分であると教えるようなものである。
 ぐっと我慢してこの場はキースに合わせる事にした。
「だって…可愛いじゃない。」
「お、一人前に男だねぇ。」

 ポスターの自分が座っている南瓜のオブジェを指差して、クラウドはキースにたずねた。
「なぁ、キース。何故かぼちゃをこんなふうにランタンにしちゃうんだ?食べ物なのに勿体ないだろう?」
「はぁ?!おまえハロウィンを知らないのかよ?!」
「うん、ミッドガルに来て初めて知った。俺の村は田舎で寂れているから、お祭りみたいな事もあまりやらなかったんだ。」
「俺も詳しい事はわからないんだが、魔女やお化けに仮装した子供達が『トリック・オア・トリート(Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)』と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねるんだ。訪ねられた家はその子供にお菓子をあげる習慣があってな。パーティーなんかやる所もあるって話しだ。」
「ふう〜ん、カンパニーの中ではそう言う事をやらないんだね。」
「ぶっ!!おまえガキか?!いくつまで「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。」が通じるんだよ。」
「俺、まだ16のガキだもん。」

 そうやって拗ねるクラウドが可愛くて思わず頭をくしゃくしゃと撫でてやると、キースは巡回を終えた後クラスA執務室でその話題を持ち出した。
「なぁ、ブライアン。クラウドがさ、ハロウィンをやりたいんだと。」
「はぁ?!お前って、ああ…まだ子供だったな。」

 クラスAソルジャーの全員が正式なソルジャーで20才を過ぎている。それは今まで一般兵や若くしてクラスAの実力を持つ者がいなかっただけであった。
 それをクラウドがあっさりと9月末にあった武闘大会でくつがえしたのであった。
 まだ一般兵に組み入れられてたった半年の軍歴しか無いとはいえ、クラスAソルジャーを連続で3人勝ち抜いた実力は、いくら幼いからとはいえ目の前の少年を見下す訳にはいかないものである。
 だからクラスAソルジャー達は皆、クラウドが自分達と同等だと思っていた。

 ランディが横から口を出した。
「姫の言うことなら何でも聞きそうな奴を知っているけどなぁ。」
「リックだろ?」
「特務隊、影の隊長とまで呼ばれるリックが目の前のお姫様には、メチャクチャ弱いもんなぁ。」
「う〜〜〜!!」

 ”姫”と呼ばれる事に対してクラウドはまだ違和感がある、しかしクラスAに上がった途端にランディ、パーシー、ゴードンと言うクラスAの実力者がいきなり自分を”特務隊の姫君”と呼んだのが始まりで、それからずっとクラスAソルジャー達から”姫”と呼ばれていた。
 そのせいか治安部内でもクラウドの呼称は、その実力と共に徐々に広がっていたのであった。

 扉を開けて別のクラスAソルジャー達が入ってきた。
 目の前でクラウドが青い瞳に涙を溜めながら3人の仲間を睨みつけている。
 中の一人であるエドワードがクスリと笑いながらクラウドに近寄ってきた。

「どうしたんだ?姫」
「あ、エディ。酷いんだよ〜〜皆、俺の事を子供だって言うんだよ。」
「何があったんだよ?」

 優しい笑顔でエドワードがクラウドの頭を撫でながら話を聞こうとすると、クラウドがにっこりと笑う。
ランディが面白がって茶化した。
「エディ、お似合いだぜ。」

 クラスAbPいい男と言われているエドワードは、性格の優しさから何かあるとクラウドに泣きつかれている。
 おかげでリック以下、クラウドに惚れていると公言している特務隊の隊員の嫉妬の嵐にさらされていた。
「やめてくれ。ただでさえリック達にこの間シメられたんだ。」
「おーお、もてる男は違うねぇ。」
「シメてやるぞ。」

 陽気で明るい仲間たちが、気さくに話しあえる雰囲気はクラウドも好きだった。
 遊び好きで、なんでもカケの対象にするのは一般兵ともあまり変わらない。ブライアンが小ずるそうな顔でにやりと笑った。
「やるか?ハロウィンパーティ・イン・治安部。」
「何をやるんだ?」
「俺達が”お菓子をくれないとイタズラするぞ”では部下達に笑われるだろう?」
「セリフを変えればいい。たとえば”酒をくれないとイタズラするぞ”とか。」
「俺、まだ酒飲めない。」
「お前は”報告書”が一番効くんじゃないの?」
「キース、それはあまりにもピンポイントだな。」
 面白おかしく笑いながらも、クラスAソルジャー全員が”ハロウィン騒ぎ”に対してやる気になっていた。

 具体的に考えようとしてアランがブライアンにたずねた。
「でも全員で動いてはまずいだろ?」
「チーム別け行くぞ!衣装調達、装飾調達、あと何がいる?」
「食料!」
「じゃあ3チームだな。」

 ブライアンがクジを作りはじめる。
 人数分のクジを作り全員がクジを引いてチームを別け、各チームでリーダーを決めて話し合いを始めた。

「ブライアン、衣装チームのリーダーは俺だ」
「装飾チームは俺がまとめる。」
「食料調達は俺がリーダーだそうだ」
「ランディとゴードンとバージルね。OK!では、それぞれ別れて静かに密かに行動すること!」
「アイ・サー!」

 あまりにもまとまりが良いのでクラウドがあっけにとられるように見ていた。隣りでエドワードがそんなクラウドの顔を見ながら苦笑している。
「副隊長だとて真面目で堅物って訳ではない。遊ぶ時は遊ばないと俺達だって息抜きも出来なくなるだろ?」
「そうだね。」
 エドワードと話しているクラウドにランディがたずねた。
「あ、姫!おまえの衣装だけど魔女にする?メイドにする?」
「Jack the Ripper(切り裂きジャック)がいい!!」
「却下!!おまえ女顔なんだし、そんなの似合わないぜ!!フェアリーとかスノー・エンジェルなんてのどうだ?」
「い・や・だーーー!!!」

 そんな仮装などしたら自分がモデルのクラウディアだとバレてしまう。
 クラウドは何がなんでも女装だけは避けたかった。
 しかし衣装担当のクラスAソルジャー達が、クラウドに着せたがっているのはなぜか女の子用の衣装だったのである。当日まで内緒にしておかないと、クラウドは絶対着てくれないのは目に見えている。こっそりとウィッグまで手配をして、ハロウィン当日まで箝口令を引いていた。

 一方当のクラウドは装飾担当になったため、チームの皆とカボチャの買い出しに行き、大きなかぼちゃを一箱買い込んで皆でくり抜いてジャック・オ・ランタンを作り上げ、中にロウソクを入れ込んで行く。
 食料班はキャンディーとか保存のきく物から買い込んで行く。
 それらをこっそりとクラスA執務室の片隅に段ボールのまま置いておく。
 たまに報告書をもってくる下級ソルジャー達が、積み上げられた段ボールに首をかしげるが、クラスAソルジャー達が厳しい顔で対応しているので、誰しも中身がパーティーグッズとは思いもしなかった。

 クラスAソルジャーが何か企んでいるのは、上官であるクラスSソルジャー達もうすうすわかっていたが、それが何を企んでいるのかはわからなかったので仲間うちで何やら相談してみた。
「クラスAは何を考えているのだ?」
「さあ?どうやら箝口令が出ているのか全く漏れてきません。」
「時期的にハロウィンか、副隊長クラスがか?!」
「いや、それしかなさそうだが。」
「はぁ、副隊長とはいえまだ心は子供だと言う事でしょうか?」

 クラスS三銃士と呼ばれているランスロット、トリスタン、パーシヴァルが顔を寄せ合って内緒話をしていた。
 そこにセフィロスが入ってきた。

「ランス、やたらクラスAが浮ついているようだが?何か知っているか?」
「箝口令が引かれているのか全く情報が入ってきませんが、時期的にハロウィンだと思われます。」
「ハロウィン?何かの行事か?」
 セフィロスの問いかけにに、懐かしげにガーレスが答えた。
「子供のころにお菓子をもらいにお化けの格好をして近所を回ったものです。」
「宗教行事なのですが、今では大人でも仮装してパーティーを開く家庭もあります。」
「しかし、あのクラスAがそんな事を発案したとも思えません。」

 クラスS三銃士の答えを聞いて、セフィロスは愛しい少年の顔がすぐさま浮かんできた。クラウドの住んでいた村はかなり貧しい村なのでそんな行事や遊びなどしたことがないはずだ。
 セフィロスは苦々しげな顔をした。

「クラウドだな、あいつの過ごした村は貧しい村だ。ハロウィンどころか誕生会すら経験した事はないであろう。」
「姫に言われたからと、あのクラスAが動きますかね?」
「動いたから、浮かれているのであろう?さて、どうしたものかな?」

 なんだかんだと言いながら最愛のパートナーが発端となっている為、セフィロスとて強く規制を掛けたくはない。
 そのせいか口元がゆるやかに笑みを浮かべているのを見逃すような連隊長仲間ではなかった。

「まったく、氷の英雄とも呼ばれた御方が。」
 おもわずランスロットがため息をつくが、決して強い批難はしない。
 それは感情を全く他人に見せたことがなかったセフィロスが、一人の少年兵のおかげで、感情を次第に表に出すようになってきていたからだった。

 孤高の英雄が自分達の身近な存在になってきているのを実感しつつも、自分達とそう変わらないと言うことまでは想像がつかなかった。
 想像付かないほどセフィロスはクラスSソルジャー達に取っても、憧れの存在だったのであった。
 ガーレスがランスロットに言って聞かせた。
「考えても見ろ、キングとて普通の23才の青年と一緒ではないか。」
「ガーレスはキングより年上だからそう言うことが言えるのだ。」
「考え方を切り替えるか、こうなったら俺はキングの親友になる!」
「なれる物ならなって見たい物だな。」
「戦友から親友になれるものなら私とてなりたいものです。」
「ならば、このまましばらく見守るしかなさそうだな。」

 いつもの様にクラスSソルジャーはため息交じりでその場を解散した。