FF ニ次小説

 ハロウィンの仮装をして連隊長クラスに入って行ったクラスAソルジャー達を、扉の前でリック以下特務隊のトップ隊員達が待っていた。

「無事だったか。」
「まったく、ひやひやさせるな。」
「よく切り刻まれなかったな。」 

 クラスAとて特務隊のトップ隊員達の実力は嫌と言うほど知っていた。
 そのせいか、たとえ自分の方が上官の地位にいるとはいえ格下扱いすることはできないような男たちなのである。

「ああ、なんとかな。」
「キングらしくなかったな。」
 片息をついたようなブライアンとエドワードの言葉にリックが冷たく言い放った。
「当たり前だろ、あれはクラウドと知っていてわざとやっている。」
「だからやたら芝居がかっていたのか。」
「凄いなお前、何処でそんな事がわかるんだ?」
 リックは二人のクラスAソルジャーから、ティンカーベルの格好をしたクラウドを受け取りながら、二人のクラスAソルジャーに呆れたような顔をする。

「おまえら、女を抱き上げた事ないのか?まちがってもこいつみたいに、こんなに筋肉ついちゃいないだろ?」

 言われて見ればその通りである。
 いくら目の前の少年兵が華奢で女顔であろうとも身体は男性、しかもそれなりに鍛えているはずなのである。
 ふつう女性が鍛えていても、男性とは筋肉の付き方が違うのか、ステロイド剤でも使わない限りムキムキのマッチョにはならないはずであった。

 ブライアンとエドワード、そしてリック達にかこまれてクラウドが食堂に入ると、他のクラスAソルジャー達が色々な”戦利品”を持って寮の食堂に戻ってきた。
 食堂にはジャック・オ・ランタンが沢山並べられ、食堂のおばちゃん達が簡単なパーティー料理を用意してくれていた。
 ふつうなら副隊長であるクラスAソルジャーはソルジャー専用の寮か、寮から出てカンパニーのそばに部屋を借りて住んでいるが、今日ばかりはたくさんの人が楽しめるようにと、食堂のおばちゃん達に話をして一般兵用の寮の食堂を使う事にしていたのだった。
 おばちゃん達も喜んで19:00までならと貸してくれた。
 19:00からは寮住まいの兵達の食事の時間になっているので、その時間には撤収するように約束もしていた。

 いまだに仮装を解かないクラスAソルジャー達が面白おかしく騒いでいると、一部の一般兵たちも同じようにありあわせの材料でお化けの仮装をしはじめる。
 携帯のカメラでお目当ての上官との写真を撮る者までではじめて、食堂が明るい笑いに包まれていた。

 包帯をぐるぐるに巻いた昔の寮仲間のアンディーがクラウドを見つけて話しかけた。
「クラウドー、可愛いぜ!!」
「あ、アンディ。久しぶり!」
「写真いいか?」
「アンディならいいか。」

 女装している為なるべく写真に写りたくないクラウドは、どんな兵にねだられても一緒に写るのを断っていた。
 しかし昔の寮仲間だったアンディに頼まれると流石にいやとはいえなかった。
 携帯で写真を撮ったあとでアンディは先輩の一般兵に取り囲まれて携帯をのぞかれていた。
 そこへ扉が開いて黒装束の一段が入ってきた。

 それまで知り合いとのんびり酒を飲んでいたリックが急に顔色を変えた。
 黒装束の一人が黒のマントのフードを脱ぐと、他の黒装束が次々とフードを脱いだ、その脱ぎ方はまるで何かの映画で見た”理力を操る者”の脱ぎ方だった。

 入ってきた男たちの正体に気が付いて既に近寄っていたリックが中の一人に声をかけた。
「た、隊長!!それにクラスSの皆さん、一体どうされたのです?」
 リックの質問にセフィロスが答える前にランスロットが答えた。
「こういう楽しい事をやる場合は我らにも一言欲しいものですな。」
「我らとてわからずやでは無い積もりだが?」
 セフィロスは仲間の話しを聞いてはいなかった、彼の視線は目の前にあるくり抜かれた南瓜のオブジェに釘付けになっていたのであった。
「それにしても、なんだ?このかぼちゃは。」
 ジャック・オ・ランタンを見ながらセフィロスがつぶやいた、そんな彼にランスロットが呆れたような顔をする。

「セフィロス、これはハロウィン名物のランタンです。お化けみたいで恐いと思いませんか?」
「恐い?ふん、恐さを現わすならヒゲだるまの顔でも張っておけばよかろう?」
 セフィロスの言葉にその場にいる隊員達が苦笑をするが、腹を抱えて笑ったのはクラスAソルジャーのキースであった。

「くぅ〜〜!!!副隊長が副隊長なら隊長も一緒か。リック、お前苦労するぜきっと!!」
「はぁ?何か変な物でも食ったか?」
「いや、どこぞのティンカーベルも同じこと言ったんだよ。カボチャくり抜いて勿体ないって、な。」
「ふふふ…惚れた相手の事にかける苦労は苦労とは言わないだろう?」

 にやりと笑って缶ビールを煽るリックにキースが苦笑をする。
 ザックスがクラウドのそばに張り付いてあちこち引きずり回しては、「今度上司になった”弟”です。」と明るく紹介して回っていた。

 楽しく時間を過ごしていると誰かの腕時計からアラームが鳴り響いた、時計を見ると18:40分をさしている、食堂のおばちゃんと約束した撤収の時間であった。
 ブライアンがスーパーマンのマントを取り綺麗にたたんで置くと凛とした態度で声を発した。

「総員、撤収!!」
 ブライアンの声にクラスAソルジャー達が一斉に敬礼し撤収を始めた、あらかじめ担当が決められていたのであっという間に撤収が終った。
 忙しそうにキッチンでたくさんの兵の食事の支度をしているおばちゃん達に、クラスAソルジャーが花束とお菓子の袋を差し入れた。

「場所を提供していただきありがとうございました!!」
 食堂のおばちゃん達が笑顔でおたまを振って挨拶する。
 黒いローブを着たままのクラスSソルジャー達の前にクラスAソルジャーが並ぶと、全員が揃って敬礼し、クラスSが全員返礼した
「解散する、ご苦労であった。」

 セフィロスの一言をきっかけに、その場で飲んで騒いでいた兵達がそれぞれの場所へと戻って行った。
 クラウドもティンカーベルの衣装を脱いで、クラスAの白いロングコートを再びまとうと、衣装をランディにかえしてバイクを停めている駐車場へと歩いて行った。
 エンジンに火を入れてスロットル全開でカンパニーの駐車場から出ると、一気に高速を駆け抜けて愛しい人と過ごすアパートメントへと入ると急いで料理にかかろうとした途端、セフィロスが帰着した合図がインターフォンからもたらされた。
 やがて部屋に入ってきたセフィロスは意地悪そうな顔でにやりと笑っていた。

「な、なに?」
「いや、食事の支度がまだなんだろう?食べに行かないか?」
「ううっ…、ティンカーベルの衣装はもう着ないからね!」
「ああ、そう言えばおまえは世界の妖精と呼ばれるようなモデルだったな。外食はやはりドレスを着てくれるのだろう?」
「ううう……。」

 セフィロスの手には黄緑色のふわふわしたドレスがあった。
 ティンカーベルの衣装ほど露出はないが、どう考えても兵士の着る服では無い。
 しかしセフィロスと一緒に外食するにはクラウディアになるしか方法は無い。
 仕方がなくドレスを受け取って着替えて髪を整え化粧を軽くすると、いつのまにかスーツに着替えていたセフィロスがゆっくりと手を差し出した。
恥ずかしげに頬を染めてセフィロスの手を取ると、車に乗り込む為地下駐車場へと歩き出した。

 その日の夜ミッドガルの街はお祭り騒ぎだった。
 あちこちでお化けや魔女の仮装をした人達が行き交い陽気に笑っている。
 南瓜料理がおいしいと評判の店でジャック・オ・ランタンに囲まれながら食事を終えると、しばらく街を歩いたがこの日ばかりは自分達の姿を真似た市民が沢山いた為いくら本物の”英雄”セフィロスと”世界の妖精”クラウディアといえども民衆に囲まれる事なく楽しい一時を過ごせたのであった。


The   End