カーム郊外の一角に外壁を白で統一したお屋敷がそびえ立っていた。
神羅カンパニー治安部統括で、英雄とまで呼ばれた男セフィロスの屋敷だった。
普通の家の4軒分はあろうかと言う敷地に立つ白い豪邸は、一階部分がキッチンとリビング、そしてゲストルームと応接間と水回り二階部分が家族の部屋となっていた。
広い庭には芝生が植えられて綺麗な緑色が屋敷を引き立てていた。
FF7 パラレル小説 変わりなき日常 その1
その庭に愛犬とあそぶ3人の男の子が居た、カダージュ、ロッズ、ヤズーの3人は3つ子の兄弟だった。
長男のカダージュはちょっと神経質で次男のヤズーはやんちゃ坊主、3男のロッズは甘えっ子で、3人ともとても仲のよい兄弟だった。
「ねぇ、おなかすいたよね?」
「おやつだー!」
「今日のおやつはなーにかな?」
そんな会話をしていると窓が開いて金髪碧眼の美しい女性(?)が顔を出した。
「カダージュ、ロッズ、ヤズー、おやつの時間よ。」
「はぁーい!!」
3人の兄弟はそれぞれ玄関横にある散水のための蛇口で手を洗うと、元気よく玄関を開けてキッチンへと走っていった。
3人の子供がキッチンへ現れると、手作りのクッキーをテーブルに載せていた女性がにこやかにわらっている。
「おかあさん、おとうさん今日はやい?」
「僕、おとうさんと遊んでもらうんだー」
「ロッズ、ずるいー!!」
ここの家の主人は多忙な職務をこなしているため遅くまで仕事をしていた。それは3人の子供だけではなくその母親まで少し寂しい思いをさせていた。
「大丈夫よ、きっとお父様は早く帰ってきてくれるわ。」
母親らしき人物が優しげに微笑むと3人はうなずいてクッキーを食べはじめた。
3人の子供は皆セフィロス似にて銀色の髪と緑色を帯びたアイスブルーの瞳、その3人がクッキーをほおばりながら母親ににっこりと笑い掛ける。
金髪碧眼のどう見ても女性にしかみえないこの母親、実はれっきとした男。しかも歴戦のソルジャーであるセフィロスすらも倒せるだけの力を持っていた。
ゆったりしたセーターに細身のGパンをはいているので男とも女とも見えてしまう、彼こそがセフィロスの愛した唯一の人物、クラウド・ストライフである。
男同士でも遺伝子を取り出して分離し、二人の遺伝子を合わせ、細胞分裂しはじめた卵子の遺伝子と入れ換える事で、遺伝的に見ても100%二人の子供といえる子供を得る事に成功し、今では多くの同性婚をしているカップルでも子供を持っていた。
同性婚の場合、遺伝子をかけあわせても親と同じ性別で産まれてくる、遺伝子情報がその性別の物しかない為それは致し方ない事であった。
遺伝子の分離、結合はクラウドがまだソルジャーをやっていた時から既に完成していた技術であったが、人工子宮の技術が無かった為、胎児を生育させる環境がなかなか出来上がらなかったのであるが、それも科学技術の進歩とガスト博士の努力と研究に寄って完成したのであった。
カダージュ、ヤズー、ロッズの3人もそうして生まれてきたのであった。
いきなり3つ子の両親となったセフィロスとクラウドだったが、彼らに子育ての知識がある訳なく、クラウドの母親であるナタリーに協力を仰いだ。
ニブルヘイムから呼び寄せた時にナタリーのたっての願いで、カームの郊外に売り出されていた古い屋敷を買い取って新品同様に改築しそこに3世帯同居という形でしばらく生活をしていた。
そして数年がたっていた。
3兄弟をもうけた時にモデルのクラウディアはほとんど引退していたが、クラウドは3兄弟の母として、セフィロスの妻として忙しい日々を過ごしていた。
屋敷の前に車が止まり中から黒いコートに見を包んだ見覚えのある男が降り立った。
おやつを食べ終わって庭に出てきた3兄弟にその男が捕まっていた。
「あ!リックおじさんだ!!」
「カダージュ、オジサンはないだろう?!お兄さんと呼べ!」
「リックおじさん恐い。」
「うえっ…ひっく…。」
リックと言うのはセフィロスの部下で、少し厳めしい顔をしているので、彼を見るたびロッズはいつもびくびくしていた。
「おいおい…ロッズ、泣くなよ。」
「えぐっ…。な、泣いてなんかないやい!」
「ひ、姫〜〜!!助けてくれよ〜〜!!」
”姫”というのはカンパニー時代のクラウドの呼称であった。
涙をボロボロとこぼしはじめた子供を目の前にすると、どうしていいのかわからないリックは、この子たちの母親であるクラウドを呼び出したのである。
一端キッチンに入っていたクラウドがリックの悲鳴を聞きつけてあわてて庭に飛び出してきた。
ロッズに泣かれてとまどっている昔の仲間で、鬼の上官だったはずのリックがクラウドにはとても新鮮だった。
「リック、鬼の警護副隊長がそんな子供に負けててどうするんだよ。」
「あ、姫。お前まだそんなカッコしてたのかよ?!今日は4時からミッドガルで仕事がはいっていたはずだろ?!」
「え?!あ、忘れてた!!うわ!どうしよう?!」
仕事というのはおおげさな表現だが、クラウドはセフィロスが何かのパーティーに借り出される時や式典行事の時など、今だにカンパニーから呼び出されていたのであった。
母親が仕事に行かねばならないことを聞いて三兄弟が悲しげな顔で聞いてくる。
「かあさん、お仕事なの?」
「行っちゃ嫌だーー!!」
「うえ〜〜〜ん!!!」
あまりの騒がしさにクラウドの母親が2Fから降りてきて見渡すと、庭で黒いロングコートを着た男が3人の孫に囲まれて困った顔をしている。
その男をよく知っているナタリーが声をかけた。
「リックさん、お久しぶりです。今日もクラウドを呼びに見えたのですか?」
「ええ、奥様にあらせられましては、本日のパーティーをお忘れになっておいででしたので、ご主人の代わりに迎えに参りました。」
ナタリーはクラウドが乗り物に酔うのを知っていた。
しかし自分が運転する時と、セフィロスの運転する車と、リックの運転する車に乗る時は不思議な程よわなかったので、クラウドが用事を忘れていると、わざわざミッドガルからリックが迎えに来るのが慣例になっていた。
「クラウド。お仕事なんでしょ?いってらっしゃい。」
「ええ?!かあさんもいないの?!」
「僕も一緒に行くーー!!」
「お父さん、約束…。ぐずっ。」
「ロッズ、泣かないで。お父様も今日の事を忘れていたんだよ。約束は必ず守ってくれるから今日は我慢してね。」
クラウドが3人の息子を抱きしめると3人も渋々納得します。
元々3人とも母親であるクラウドが用事でミッドガルへ行かねばならない事は幼いながらも納得していたのであった。
3兄弟の父親が英雄とまで呼ばれた男である上に、クラウド自身も元々美人モデルとして活躍していた過去が有る、今だに2人とつながりのある人達が彼をモデルとして登用しているのであった。
町で時折見かけるポスターに綺麗に着飾った母親が写っているのを見た時、3兄弟は目を見張ってびっくりしたが、自分の母親はこんなに綺麗なんだと誇らしげに思った物であった。
「おばあちゃんと待ってるー」
「僕も泣かないよ。」
「でも。早く帰ってきてね。」
「うん、なるべく早く帰ってくるよ。母さん、3人をお願いします。」
必死になって我慢をしようとする3兄弟に、クラウドはそう言うと、2Fに駆けあがり10分ぐらいで支度を終えて戻ってくる。
3人の息子のほっぺたにキスを残して、リックの運転する車の後ろ座席に乗り込むと、車は一路ミッドガルへと走り始めた。
車のハンドルを取りながらリックが後ろ座席に座っているクラウドに話しかけている。
「誰に似たのかな〜、ちゃっかりお前を独占したがってるよ。」
「そ、そうかな?」
「ああ、長男のカダージュなんて、統括殿にソックリじゃないか。統括殿を目の敵にしてない?お前にぞっこんな顔をしてたぜ。ヤズーのやんちゃぶりはお前にも統括殿にも似たな、ロッズはお前に似たかな?甘ったれの泣き虫だ。」
「ところでリック。今日は何のパーティーだったっけ?」
「姫〜〜!!頼むぜ。カンパニーの創立40周年記念のパーティーだよ、そんな事忘れていたら社長が泣くぜ。」
「泣かせとけばいいんだよ、ルーファウスなんて俺を何だと思ってンだあいつ。」
「世界の妖精とまで呼ばれた美人モデルだろ?」
そういうとリックはクスリと笑って、ハンドルを忙しなく動かしては少しでも路面の平らな場所を瞬時に選んで車を走らせていた。
カンパニーが魔晄の力を使わなくなったので、反抗勢力も反抗しなくなり、強いモンスターもすべて倒した。
そのため治安部が縮小せねばならなくなった時に、治安部に居る兵の大半を辞めさせる為、ランスロットではなく求心力のある英雄と呼ばれる男に『お前は不要だ』と言わせる事にしたため、セフィロスが第一線を退き治安部統括に就任した。
セフィロス以外の男の隣に立ちたくなかったのと、自分自身が副業のモデルでかなりの収益があった為、クラウドも自然とカンパニーのソルジャーの職を辞める決心をした。
クラウドが治安部を辞めた時、治安部内ではその理由がわからない兵士達が多く存在していた。
クラウドのように誰もが認めるトップソルジャーが、真っ先にリストラされる理由がわからず、兵士達が不安に思っていた。
そこに部外秘で社長のルーファウスから、クラウドがカンパニーを辞めた理由は、すでにセフィロスと入籍していた為であったと事実の通達があった。
その内容に驚きを隠せない者もたくさんいたが、大半の兵士達は何度もあやしい雰囲気の二人を見ていた上に、上官達が全く驚かないで平然と任務をこなしているので、既に承認されていたことと認めていた。
ソルジャーを退任した後もルーファウスにしばらくモデルとしてカンパニーの人材派遣に登録してほしいと言われて、モデルとして仕事をしていた。
しかし性別を偽ってまでモデルをやっていたくないクラウドはスタッフ達と話し合った結果、モデル契約をする時や更新する時に事実を話してそれでも契約を結ぶという企業やデザイナーと契約する事にした。
あっというまに事実がミッドガル中に浸透した。
それでもクラウディアでなければダメと言う人も多く、男であるにかかわらずクラウドは今だにクラウディアにならざるをえなかった。
しかし性別を偽る事が無くなっていた為クラウドも以前よりは気がずいぶん楽であった。
そして何よりも一番心配だったのはニブルヘイムに居る母親への嫌がらせと、7番街で住み込みのバイトをしながら大学に通っているティファの反応だった。
ニブルの母親に電話を入れると明るい声で答えが帰ってきた。
「安心しなさい。あんたはこの村を変えてくれたんでしょ?魔晄炉を封鎖してすぐに作物が取れるようになったわ。ずいぶん豊かになったわよ、誰もあんたのやる事を悪く言わないわ。」
魔晄炉を封鎖した地域はそれまでの痩せた土地が一転して、豊かな実りをもたらす土地となっていたのであった。
そしてティファの反応と来たら。今、思い出しても腹立ちものだった。
電話がかかってきて店に呼ばれた時に、腹を括ってセフィロスをつれて7番街のセブンスヘヴンに訪れた時、店長のバレットと共に大笑いをして迎えてくれたのだった。
「キャハハハハ。嫌だ〜〜!!本当クラウド可愛い!!まさかセフィロスつれてくるとは思っても見なかったわ!!」
「だ…だって、ティファ。あの時の電話の声恐かったよ。」
「当たり前でしょ?!幼なじみの私にどうして黙っていたのよ?私、同性婚に差別意識ないよ。だいたい貴方達、凄くお似合いじゃない。」
「まぁ、俺も銀鬼と地獄の天使が事実上の夫婦と知った時は驚いたけど、守りたい者をそばに置いておきたい気持ちは俺にもわかるぜ。だいたいお前さんには女よりも女っぽい所が有るから違和感は全くなかったな。」
「むう〜〜、二人とも嫌いだぁ。」
そういってぶんむくれたクラウドをゆるやかな笑みを浮かべて、セフィロスが髪の毛をすくように頭を撫でている姿を見てふたたびティファとバレットにげらげらと笑われたのであった。
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