リックの運転する車はミッドガルの喧騒とした町並みに入ると、一気に高速へと上がりシェフォード・ホテルへと走っていった。
 ホテルの中に有る一室へ入るとマダムセシルがドレスをもって待っていた。
 マダムは今だにクラウドをモデルに登用している一人であった。
 クラウディアスタッフだった一人、スタイリストのミッシェルが、マダムと共に並んで笑顔で立っていた。
 ミッシェルはクラウディアの仕事が減った現在では、マダムセシルに登用されて、彼女のブライダルスタッフの一人として活躍していた。

「クラウド君ひさしぶり〜〜!!今日も思いっきり綺麗にしてあげるからね。」
「ほどほどにしてくれよ。俺、男だぜ。」
「ダーーメ!セフィロスの奥様なんでしょ?男言葉禁止!」
「うげーー!!それじゃ昔と変わんないよ。」

 クラウドはそう言いながらもマダムの持っているドレスに着替えると、ミッシェルがいつものように手際よくメイクを施し髪型をいじる。鏡に写った自分はやはり何処からどう見ても女性にしかみえなかった。
 扉がノックされるとマダムが誰何をすると、どうやらセフィロスが迎えに来てくれたようであった。

 扉を開けて入ってきたセフィロスはタキシード姿が余りにも似合っていたので、思わずクラウドが見惚れているとミッシェルが呆れたような声を出した。
「うっわ〜〜!!クラウド君、結婚してもう何年経ってるのよ?!それなのにまだ旦那さんを見惚れるの?!」
「う、うるさいよだって、セフィ。いつ見てもかっこいいもん。
「はいはい、もう。相変わらずラブラブなんだから、あまり惚気ないでね。」
 そう言うとクラウドの背中を軽く押してセフィロスへと渡す。
 セフィロスがクラウドをエスコートするとザックスとリックが迎えに来て、二人に先導されてパーティー会場へと入って行った。

 会場はかなりの数のゲストがひしめき合っていた。
 扉を開けて銀髪の美丈夫と金髪碧眼の美人が入ってくると、ほぼ全員と言っていいほどが二人を注目していた。

 ルーファウスが向こうから軽く手をあげながらクラウドに近づいてくる。
「やぁ、久しぶりだね。クリスマス以来かな?」
「ええ。あいかわらずお元気そうで。」
「まあ何とかやっているよ。それよりもほら、親衛隊が煩いぞ。」

 ルーファウスが指を差す方向にはグラスを持った元クラスSソルジャーで、現在ではカンパニー人材派遣の教育係をやっているランスロット、パーシヴァル、トリスタン、ガーレスが笑顔でこちらを向いていたのでセフィロスが毒づいた。

「まったく、何が親衛隊だ。」
「親衛隊ではないですか。」
「もともとが貴方に憧れていたのですから、そう呼ばれると光栄です。」
「私は姫の親衛隊に入りたいですな。」
「それは私だって。」
 セフィロスと共に戦場に立ち、クラウドを隣に立たせる事に共感していた男たちが会話をしている間に、いつのまにかガーレス達の後ろに会場警備をしながら聞き耳を立てていたカイルが殺気立って立っていた。
「残念ですが、姫は自分達が守ります。」
「まだ腕落ちていないと思うんだけどなぁ。」
「お前はもう剣など持つ必要もなければ、マテリアを使用する必要もない。おとなしく私の腕の中にいるんだな。」
「おとなしくしていたくないんだけど。」

 クラウドとセフィロスはカイルに軽く手をあげてその場を離れると、次々にカンパニーに関係のある財界人がクラウド達に挨拶をしに来た、その中に見覚えのある男が居た。
 元特務隊のトップソルジャーの一人、ジョニーだった

 彼はセフィロスが第一線を退いた後、ザックスに一ヶ月ほど付いていたが、彼がクラスSに昇格した直後に自ら進んで治安部を退職した。
 そしてグランディエ財団に飛び込むと、もともとあった才能を開花させ、あっという間にやり手のビジネスマンとなった。
 戦場に立っている時とは大違いの柔らかな笑みを浮かべたジョニーにセフィロスが声をかけた。
「ジョニーではないか?生きていたかね?」
「残念ながら自分はかなりしぶといようですよ。」

 そう言ってウィンクをするジョニーの隣りには見覚えのあるブラウンヘアーの女性が立っていた。
「両親から手紙をあずかっています。読んでいただけますでしょうか?」
「ええ、かまいません。」
 そう言うとセフィロスは女性から手紙を受け取ると、中を一瞥し口元をにやりとさせて女性にお礼を言った。

「ありがとうございます。」
 クラウドがセフィロスから手紙を受け取ると中を読んだ。
 目の前の女性はジョニーが退官してすぐに正式に交際をはじめた本命の女性で、クラウドとセフィロスにも縁が浅くない人物だった。
 元々相思相愛だったので、話はとんとん拍子に進み、あっという間に結婚してしまったのである。
 結婚パーティーに呼ばれたクラウドとセフィロスが、この女性の両親に挨拶した時に、過去の非礼を始めてわびたのでずっと心のどこかに引っかかっていた重荷が取れたのであった。
 それ以来、彼女の両親とは、何かあると連絡を取り合う仲になっていたのであった。
 サウスキャニオンにいるであろうその二人の穏やかな笑顔をクラウドは思い出していた。
「カーク氏もエリカ様もお元気そうで何よりです。スケジュールを見て良ければ是非お邪魔いたします。」
「おいおい、マイラ。いくらなんでも俺抜きで話を進めるなよ。」
「あら?言わなかったかしら?来月両親がミッドガルに遊びに来るから、クラウドさんも誘おうって言ったじゃないの。」
「ああ、その話しか。隊長殿がああいったんなら大丈夫だろう。」
 退職して既に何年経ったことか。それなのにジョニーは今だにセフィロスの事を”隊長殿”と呼んでいた。おそらく長い軍隊生活で癖になっているのであろう。
 セフィロスは苦笑をしながらジョニーに話しかけた。
「私はいつまでお前の上官なんだ?」
「多分ずっとですよ。」
「じゃあ私はずっとシェフォードホテルのイメージキャラをやらないといけないのですか?」
「あったりまえだろ?姫と旦那は今だに結構人気有るんだぜ。」
「そんなもの、嬉しくも何ともないよ。」

 クラウドがカンパニーに在籍していた時に、なにかと世話になったジョニーは、退役する少し前に自分が父親の運営するホテルを任されるようになったらイメージモデルをやってほしいと頼まれていた。
 クラウドもその時は自分がそう長くイメージモデルを努める事になるとは思っていなかったので、笑顔で了承をしていたのであった。
 しかし約束は約束である。クラウドはそう言うと片手を上げてジョニーたちと別れた。

 そのあとも色々な人が入れ代わり立ち代わりセフィロスとクラウド達に挨拶した。
 二人が挨拶に辟易した頃パーティーが閉会した。
 残った料理をプラスチックの入れ物に詰めながらクラウドは気だけがあせっていた。
「あ〜〜ん、もうこんな時間じゃないか3人とももう寝ちゃってるかな?」
「そうだな、家に帰ると10時過ぎになるな、寝ているだろう。」
「早く帰るって約束してたのに、ごめんね。」

 そう言いながらも料理をしっかりと詰め込むとセフィロスを急かして車に乗る。
 セフィロスが一気にアクセルを吹かすと、ミッドガルの高速を抜けて、郊外へと走って行き一路カームに有る自宅へと向かった。

 カームの家に帰ると家は既に暗くしんと静まり返っていたが、鍵を開けて家に入ると何処からか泣き声がした。
 あわててクラウドが2Fに駆けあがると夫婦の寝室から泣き声が聞こえた。
 どうやらカダージュが起きてきて誰も居ない部屋を見て泣き出したのだった。
「うえ〜〜〜ん!!!おかあさんがいないよ〜〜!!」

 扉を明けてクラウドが部屋に飛び込むと部屋で泣いているカダージュを抱きしめた。
「ごめんね。母さんちょっと出駆けていて遅くなっちゃったの、カダージュどうして起きてきたの?」
「僕おしっこ。」
「そう、偉いなぁ。」

 ひとしきり頭を撫でてやりながらカダージュが泣きやむのを待ってトイレに連れて行くと、そのまま子供部屋につれてベットに寝かせる。
 しばらく手を握ってそばに付いていてやるとカダージュはすやすやと眠りはじめた。
 寝息を立てて寝るカダージュに布団をかけてやると、やっと子供部屋から出たクラウドは夫婦の寝室でぶすっとした顔をしてセフィロスがワインを飲んでいたのを見つけた。

「自分の息子とはいえ、一瞬殺気を覚えたぞ。」
「え?どうして?」
「いくら母親が恋しいとはいえ、もし私とのSEXの最中だったら、部屋の扉が開いたその場でスリプルかけているな。」
「ば、馬鹿ァ。」
 一瞬で頬を真っ赤に染めてうつむくクラウドは以前と全く変わっていなかった。
 結婚してすでに10年近くが経っているというのに今だに初々しい表情を見せるクラウドに、セフィロスが唇を寄せると艶やかな色香がすぐに表情に出てくる。
 そんな愛しい妻を抱きしめながらセフィロスは深い口づけて追い上げていく。
 やがてクラウドから意味不明の喘ぎ声しか漏れなくなった頃、セフィロスはベッドの上でそのしなやかな肢体を十分に堪能するのであった


* * *



 翌朝。めざましの音と共にクラウドがベットからこっそりと抜け出すと、裸のからだにさっと服を着込みキッチンへと入る。
 まだ夜が明ける前ではあるがこの時間から取り掛からないと、子供とセフィロスのお弁当を作るのに間に合わないのである。
 いそいそとキッチンに立つクラウドはいつものように手際よく料理を開始します。
 サンドウィッチを作り卵焼きを焼いてコーヒーを煎れサラダやデザート、タコさんウィンナーと子供が喜びそうなおかずと、セフィロス向けにピーマンとモヤシの炒め物とか作っては見栄え良くランチボックスに詰め込みます。
 支度をしながら朝ご飯の用意も抜かりがありません。

 全部支度終るとセフィロスを起しに行きます。
 寝室に入りベットに横になるセフィロスを起こすと、毎日のように抱きしめられてキスを浴びせられますが、忙しいのですぐに引き剥がすとさもつまらないような顔をします。
 軽く唇をあわせてからセフィロスをベットから引きずり出すと、シャツを着せてあげてから今度は子供たちを起しに行きます。
 子供たちもめざましと共にクラウドの声を聞くのが大好きなんです。

「カダージュ、ヤズー、ロッズ、時間ですよー」
「はーい!」
「お母さんおはよう。」
「おはよう!」
「う〜〜ん、3人とも良い子ね〜〜大好きよ。」
「わーい、僕も母さん好き〜」
「僕だって好きだよ。」
「でも、かあさん僕たちよりも父さんのほうが好きなんでしょ?」
「同じぐらい好きよ。でもねお父様がいなかったら3人とも産まれてこなかったのよ。」
「僕、お父さんになりたかった。」

 カダージュはそう言うとベットから降りてキッチンへと歩いて行った。
 クラウドはそんな息子を見て溜め息をついた。
 キッチンに入ってからのカダージュはそんな事微塵も出さずに、いつものようにクラウドの作った朝ご飯をたっぷりと食べてお弁当をもって保育園へとクラウドの車で出掛けるのであった。