一方、ミッシェルは何度か隊員達の話も聞いていたので、リックがクラウドに惚れていると公言しているのを知っていた。
最初はリックからこちらに流れてこないクラウドの事を聞く為、そして向こうに流れないこちらでの出来事を教える為の関係だったが、付き合って行くうちにリックの真面目な性格を知り、表の姿に隠された真実の姿を垣間見ることができるようになってきた頃、クラウドがソルジャーを辞めると聞いた。
ソルジャーを辞めてモデルとしてカンパニーに所属することになったので、クラウドの動向はすべてスタッフ・サイドで管理することになった。
最初こそクラウディアが男だとクラウドが明かした為に、色々と忙しい日々を過ごしていたが何かが足りなかった。
そしてクラウディアの件が一段落した後は、モデル依頼ががくんと減り少ないがクラウディアでなければという依頼をそつ無くこなしていた。
順調ではあったが何かが違う…そう感じていた。
その頃、マダムセシルからブライダルスタッフとして働かないかと打診があった。
幸せそうな花嫁をメイクしていると、いつのまにか(自分の時は…。)と思いはじめ、ふと気がつくと恋人らしい人も居ないのに、なぜ自分の花嫁姿を想像するのかわからないまま仕事をこなしていた。
そんなある日クラウドがリックに送られてスタジオに入ってきた。
それまではちょくちょくあった事だったが、久しぶりに見たリックがクラウドばかり見ていたので少し暗い気分になったのだった。
リックがクラウドに惚れていると公言していたのだから、それは当然と言えば当然なのだろう。
クラウドが帰る時にリックがちらりとミッシェルを見て片手を上げた。
そんななにげない仕草だったのだが、リックが自分の事を忘れていなかった事が嬉しくて、次はいつ会えるのだろうかと考えている自分がいた。
なぜそんな事考えるのかよくわからなかったが、マダムのブライダルスタッフとして花嫁をメイクしているうちに、自分の花嫁姿だけではなく隣に立つ男性を想像するようになっていた。
その男性の顔が見えた瞬間、ミッシェルは自分の気持ちに始めて気がついた。
お互いがお互いの事を気にしはじめた時に、ジョニーが結婚すると聞かされた。
結婚パーティーに招かれた時、広い会場の中をお互いがお互いを探していたのか、始まってすぐに巡り合うとそのままずっと一緒に居たのであった。
そしてパーティーがお開きになった時に、自分の借りているマンションへ帰ろうとするミッシェルをリックは近くまで送る事にした。
しかし、何も言えないままマンションのエントランスまで到着すると、いつもなら片手を上げて帰ろうとするリックが重い口を開いた。
「あ、あの。また電話してもいいですか?」
「電話だけでいいの?」
「す、すみません。自分なにしろ女性と付き合うの初めてなので…。」
「いいわ、また会ってくれるならね。」
「ほ、本当ですか?!」
「ええ。じゃあね。」
そういってミッシェルはエントランスの中に入ろうとして、ふと振り返るとまだその場に立っていたリックの元に駆け寄り、ちょっと背伸びをして軽く唇にキスをしたあとエントランスの中に入った。
リックは何が起こったのか最初は理解出来なかったが、唇に残った感触と唇を触った指にのこった口紅の色が事実を伝えていた。
こんな感じで始まった二人の恋は、終始ミッシェルのリードでリックが振り回されているという感じだったのだが、二人に取ってそれがちょうど良い関係になっていた。
そして治安部特務隊が要人警護の仕事へと変わった時に、リックはミッシェルにプロポーズして、その年にカームの教会で結婚したのであった。
結婚式に招かれたクラウドがあっけにとられたのが、二人の結婚よりも挙式が行われた日時と場所の事だった。
自分達が結婚した教会で全く同じ日時に挙式をするとは、良くミッシェルが許した物だと思っていた。
後で聞いたらミッシェル自身も呆れたらしいが、リックがセフィロスを崇拝している事を知っているので、そのぐらいではめげてはいなかったのであろう、あっけらかんとしてミッシェルが言い切ったのであった。
「この人ね、とことんセフィロス・マニアだってわかったら、呆れると言うよりも可愛いって思えてきちゃって。」
もはや余裕の発言であった。
そんな理由でこの家庭はミッシェルがリックを立てながらも、しっかりと裏でコントロールをしているのであった。
クラウドは手にしたターコイズをもって、ふとそんな事を思い出していた。
「なんだか、カンパニーにいた時が凄く昔に感じるよ。」
「さほど時間はたっていないはずだが?」
「俺、セフィロスに憧れて一生懸命トレーニングして、カンパニーの治安部にスカウトされた時は大喜びでミッドガルへ来た。でも、その時はこんな未来が来るとは思っていなかったよ。」
「で?お前にとって今の自分はどうなのだ?」
クラウドは一瞬セフィロスに聞かれた事が理解出来なかった、しかし先日彼が言っていた事をふと思い出してふわりと微笑んだ。
「あの時は考えられなかったような素敵な現在が手に入っているよ。」
クラウドはそう言いながらセフィロスの胸にもたれ掛かるように抱きついた。
いい雰囲気になって来たぞとセフィロスがほくそ笑んだ時に、大声を上げながら3人の息子が部屋に飛び込んで来た。
「お父さん、お母さん、御飯にしようよー!!」
「あ!!お父さん、またお母さんを泣かせたーー!!」
「おばあちゃんに言ってやろー!!」
セフィロスは泣かせたつもりは全くないのだが、クラウドが涙ぐんでいるのは確かであった。
クラウドの涙は今に始まったことではないが、嬉しくても泣くと言う事を子供たちはまだ理解出来ていない。
セフィロスはクラウドの肩を持って優しく話しかけた。
「クラウド、息子達に私が苛めた訳でないと言ってくれないか?」
「え?あ、もう…。」
クラウドはクスリと笑うと3人の息子を抱き寄せて、それぞれの頬にキスをしながら話しかけた。
「俺はね、お父さんが大好きだって思ったら、嬉しくて泣いちゃっただけなんだよ。」
「ほんとー?!」
「嬉しいの?」
「でも、泣いてるーー」
子供たちの言葉にクラウドがセフィロスに抱きついてワザと泣きまねをした。
「いいの。泣きやむまでお父さん独り占めしちゃうから。」
「えーーー!!ずるい!!」
「僕たちのお父さんだよー!」
「お母さんばかりズルいー!」
3兄弟がクラウドに負けじとセフィロスに抱きついたのでセフィロスは腕を伸ばして3兄弟を抱きしめた。
「まったく、お前達は本当にクラウドに似ているな。」
そう言うと3人息子のほっぺにキスを送りキッチンへと行く為に夫婦の寝室を後にした。
それはよくある日々のうちのほんのひとコマ、これから繰り返されるであろう変わりなき日常であった。
「変わりなき日常 その1」 The End
|