さんざん遊び疲れたのか3兄弟ともお風呂に入った後は、ベットに直行してぱたんきゅーと音が出そうなぐらいの勢いで寝てしまった。
 すやすやねむる子供たちのゆるやかな笑顔はいつまでも見ていてあきないのであるが、もう一人大きな子供(w)がいるので子供部屋を後にする。
 夫婦の部屋に入るとセフィロスは少しブスッとしたような顔をしてはいるが、以前のように近づきがたい雰囲気を背負ってはいなかった。
 クラウドはセフィロスに背中から抱きついた。

「セフィ、ありがとう。」
「まったく、この私ともあろう者が。」
「いいお父さんだと思うよ。」
 クラウドが背中越しにしなだれかかってくるのを感じていたセフィロスは、身体をひねるとひょいとクラウドを抱き上げるとそのまま膝に乗せてソファーにすわる。
 クラウドの青い瞳に欲情の炎がちらついて見えるのを認めると、ゆっくりと唇を奪い抱きしめた。
「家族と言うのはこういう物なのか。」

 つぶやくようなセフィロスの言葉にクラウドは胸を締めつけられるような気がした。
 セフィロスにはずっと家族らしい家族がいなかったのである、クラウドは思わず聞いてしまった。
「セフィに取って家族ってどう言う物なの?」
「そうだな、温かくて、たまに重たくて鬱陶しくなるが悪くはないぞ。」
「じゃぁ、よかったんだ。子供たちの事も、かあさんと同居した事も。」
「良かったのだろうな。いくつかある選択肢の中から、私なりに最良の道を選んできたつもりだ。だから悔いは無いぞ。」
「セフィ、ずっとそばに居てね。」
 セフィロスは何も答えない代わりにクラウドを抱き上げてベッドへと歩いて行った。


* * *



 またいつものように一日が始まった。

 いつものようにクラウドのキスでベットから起こされると、セフィロスは着替えてキッチンへと入る。
 朝食を取っていると子供たちが寝ぼけ眼で起きてきてセフィロスに挨拶をする。

「おとうさん、おはよ。」
「おはよう、おとうさん。」
「おはよう、おとうさん。」
「おはよう。」
「カダージュ、ヤズー、ロッズ、顔を洗ってきなさい。朝ご飯よ。」
「はーい!」

 クラウドがミルクをコップに3つ注いでテーブルに置くと、3兄弟が顔を洗って戻ってきた。
 それぞれ椅子に座ると挨拶をして食べはじめる。
「いたーだきます!」
「はい、召し上がれ」
 3兄弟の言葉にクラウドが笑顔で答える。
 毎朝行われている光景はごくあり触れた食卓の光景だった。
 にぎやかで明るい笑顔があふれている。
 食事を終えるとセフィロスはスーツに着替えカンパニーへと出掛ける準備をする。
 そしてクラウドから今日のお弁当とキスを受け取り、3人の息子のあふれんばかりの笑顔に見送られて、セフィロスは車に乗り込むと一路ミッドガルへと走っていくのであった。

 神羅カンパニーに出社したセフィロスは、いつもの執務室へと入って行く。机に座るといつものように引き出しにクラウドのお弁当を入れてから、机の上のパソコンを立ち上げ、仕事の依頼メールをチェックする。
 内容を確認し依頼をこなせそうな人物のスケジュールをチェックする。
 それからその人物を呼び出して依頼内容を確認後、依頼主と接触させる。
 ソルジャー時代から培っていた支配下に置いた者の能力を記憶出来る能力が、セフィロスの仕事を楽な物としていた。

 順調に仕事をこなしているとあっという間に昼になった。
 引き出しを開けてクラウドの作ったお弁当をもってふらりと出掛ける。
 以前、治安部の訓練所があった場所はかなり縮小されて大きな公園ができていた。
 その公園のベンチに腰かけてお弁当の袋を開くと、中から愛しい妻が栄養や健康を考えて作ってくれた見栄えのいいお弁当が出てくる。

 セフィロスが毎日お弁当を食べるようになったのはクラウドが治安部を退官してからだった。
 最初こそソルジャー仲間に揶揄されたり、下級ソルジャーに”愛妻弁当”と羨ましがられ、特務隊の連中やルーファウスにいたっては何度もセフィロス相手にお弁当の中身をくすねようとしては手痛い目にあっていたのであった。
 しかしそれも毎日続けば流石に揶揄される事も羨ましがられる事も、くすねようとする奴らもいなくなったのであった。
 お弁当を食べていると向こうからランスロット達がコーヒーをもってやってきた。

「やぁ、セフィロス。今日も美味しそうなお弁当だな。」
「よくもまぁ、毎日続くもんですね。」
「たしかお子様達も毎日お弁当なんですよね。」
「それはそれは、料理上手の奥様で良かったですな。」
 にこやかな笑みを浮かべてコーヒーを手渡され、いつものように周りを取り囲まれる。
 それは毎日のように繰り返されてきた事だったのでセフィロスも特に何も言わなくなっていた。

 変化が無いようで確実に少しずつ変化してきたセフィロスの周囲。
 いや、ランスロット達に言わせると、一番変わったのはセフィロスが笑顔を見せるようになったことであろう。

 最初は口元をゆるめる程度だったのであるが、しだいに目もともゆるやかになって行き、今では誰しもがはっきりと”笑っている”といえるだけの笑顔をたまに見せる。
 流石に歯を見せて笑うような事はないが、氷の英雄とか万年氷河期と言われていたセフィロスをこれほどまでに変えてくれた一人の少年に、ランスロット達は感謝してもし切れないのであった。

 囲まれた男たちにセフィロスが皮肉気な笑みを浮かべて答えた。
「悔しかったら嫁さんに作ってもらうんだな。」
「セフィロス、今だに独身の私達をそうやって苛めるのは辞めて下さい。」
「ただでさえ我らは貴方の奥様を間近で見ているだけあって、望みが高くてしかたがないんです。」
「くっくっく、貴様達も考えが浅いな。クラウドとて最初からあれほど料理がうまかった訳はない。あいつはあいつなりの努力してああまでになったのだ。」
「はいはい、セフィロスの言いたいことはわかっていますよ。自分の為に一生懸命努力してくれるそう言う相手に巡り会えというんでしょ?」
「我々にはそう言う相手が近くに見つからなかったから、今までずっと独身なのです。」

 いつもの会話になってくると大抵は昼食の時間が終わりを告げ、チャイムの音と共にそれぞれの仕事場へと戻って行く。
セフィロスが執務室に戻ると部屋の中にリックが居た。
 持っていた何かをセフィロスの机の上に置いて話しかけてきた。
「統括殿。これ先日奥様がお忘れになった物だそうです。」
「ん?ああ、そのようだな」
 リックが持っていた物はターコイズのペンダントであった。
 以前クラウドの寮仲間であるウェンリーが治安部を退任する時に彼に渡した守り石であった。

「直接渡せばいい物を。」
「それなりに忙しいようですから。」
「他人行儀だな。自分の妻だろうが。」
 セフィロスの一言にリックが一瞬はにかんだような顔をした。
「まさか自分が結婚する事になるとは思っていませんでした。」
「私もクラウドに出会うまではそう思っていた。」
「統括殿は姫と巡り合われてからずいぶん変わられました。良い変わられ方をされたと思いますよ。」
「おまえもな。」

 リックはセフィロスに片手を上げると執務室を後にした。


* * *



 仕事を終えてカームの自宅に戻ったセフィロスはクラウドにリックから渡されたペンダントを手渡した。
「あ、ミッシェルから?」
「ああ、直接お前に会えばよい事だろうと言っておいたぞ。」
「色々と忙しいんでしょ?仕事だってあるし、次はいつ会えるか…忘れた頃に呼び出すんだもん。」
「この石の事は知っていたのか?」
「ん?彼女は流行を先取りしないと仕事の出来ない人だよ。宝石の意味ぐらい知っているだろうし、それ以前に何度も見てるよ。」

 クラウドはセフィロスからターコイズを受け取るとミッシェルに電話を入れる。
「あ、ミッシェル?クラウドです。ターコイズ今受け取ったよアリガトウね。」
「ああ、遅くなってゴメンね。先日のパーティー終った時、支度室に置いてあったんだけど、他のレンタルしてきた宝石に混ざっちゃってて。」
「そう、それで今ごろ。」
「うん。レンタル先が貸した覚えのないペンダントが有るって言うから。あ、次の予定教えておこうか?」
「一週間前でいいよ。早いと忘れちゃう。」
「じゃあメール入れておくわ。それと当日の朝に連絡する。でもね、それをやると貴方に会えないって、ウチの旦那がちょっと悔しがるってどう言う事よ?!」
「いいじゃない、リックにはミッシェルの半分も会えないんだから。」
「それさえなければいい人なんだけどね。あ、噂してたら来た。」
「そう、じゃあ俺もこれで。」
「じゃあ、また。」
 ミッシェルが電話を切るとリックがにこやかに立っていた。

 この二人はクラウドの結婚ミッションの時に出会い、それから一年後のクリスマスパーティーでひと騒動あった後、利害が一致してお互いが仕事の事を知らせあううちに、しだいに引かれ会い正式な交際に発展した。

 しかしリックはしばらくの間”友達以上恋人未満”の関係からワザと先に進めなかったのであった。
 その理由がリック自身の仕事から来る事ぐらいミッシェルにだってわかっていた。
 神羅カンパニー治安部でクラウドやザックスと同じ特務隊に居る事や、そこが第一線を担当する部所であることは知っていた。
 『いつ死んでもおかしくない部所にいる』という事実が、リックに何年も恋人どころか女友達を作る事をさせなかったのであった。

 ミッシェルとリックの関係を一転させたのはクラウドの退役だった。
 クラウドはまだモデルとしてカンパニーに所属してはいたが、ソルジャーは完全に引退してしまった為、リックとミッシェルをつないでいたクラウドの動向が、完全にクラウディア・スタッフに渡ってしまい、急に疎遠になってしまったのだった。
 自分の憧れていた男であるセフィロスも第一線を退いて治安部統括に就任し、しだいに減っていく治安部のソルジャーや一般兵達のおかげで治安部自体が閑散としてくる中、突発的な危険の為に特務隊だけは自ら退官したジョニーをのぞいて全員所属の変更が無かった。

 それまでたくさんの仲間に囲まれていたリックは寂しさを感じていた。
 時折セフィロスに頼まれてクラウドを迎えに行く時は、逆に浮き浮きした感覚があったのだが、意外だったのはクラウドに久しぶりにあった時でなく、ミッシェルに会えた時の方が心臓がどきどきしていたという事だった。