病院の待合室には疲れたような顔のザックスと、安堵した顔のイファルナと複雑な顔のガスト博士が居た。
3兄弟を従えてクラウドとセフィロスが顔を出すと3人とも立ち上がって迎えた。
「にーさん、クラウド。来てくれたんだ。」
「当たり前だろ?エアリスとは友達なんだ。」
「で?人間なんだろうな?」
「ひっでー!!兄さんったら相変わらずいけずぅ〜〜!!」
いつものようにふざけるザックスは3兄弟にも目線をあわせて挨拶をする、3兄弟も遊んでくれるザックスが大好きだった。
「よお、来たか?ガキ共」
「ガキ共じゃないやい!」
「僕ヤズーだよ。」
「ザックスおじちゃんお名前呼んでくれないよ〜」
「わぁったってば。ともかく見て行ってくれよ、もう俺に似て可愛いんだ〜〜!!」
ザックスの言葉にエアリスの父親であるガスト博士がむっとした顔で横から口を出した。
「何を?!イファルナは私に似ているといっておるぞ!」
「もう、二人揃って親馬鹿なんだから。」
困惑するような顔をするイファルナの言葉を聞いてセフィロスがいつものような冷淡な笑みを浮かべていた。
「馬鹿ザルは親になっても馬鹿か。」
「ぐずん。にーさん、ひでぇ。」
なんだかんだ言いながらもザックスはセフィロスやクラウドに取って大切な親友であった。
その結婚相手であるエアリスとの間に子供が誕生したばかりなのである。
ザックスは神羅カンパニーのソルジャー試験に受かった時に魔晄を浴びて身体を強化していた。
魔晄を浴びる事で身体の筋肉や反射神経が強化され、普通の人間ではない速さや強さを手に入れることができたのであったが、その代償として遺伝子が変化して子供をなすことができなくなっていた。
しかしガスト博士がソルジャーから魔晄の力を抜く事を条件にカンパニーの科学部門に再登用された時から新規のソルジャー採用を辞め、魔晄の照射を辞めた。
そしてガスト博士はソルジャーから魔晄の力を抜く事に成功したのであった。
魔晄の影響を受けなくなってしばらくすると身体が本来の機能を取り戻しソルジャーだった者も結婚後、子供を儲けることができたのであった。
クラウドが3兄弟を連れてエアリスの所に行くとエアリスのベッドの横に小さなベットが置いてあった。
両腕で抱えられるほどのベッドの中には顔を真っ赤にさせた赤ん坊がすやすやと眠っていたのであった。
3兄弟が精一杯背伸びをして中で眠る幼子を覗き込んだ。
「まっかっか。」
「おさるさんだー!」
カダージュが人差し指でつんつんとほっぺたをつついた。
「ふにゃふにゃだー」
赤ちゃんがふにゃふにゃと動くと手近に有ったカダージュの指をつかむ。
その瞬間赤ちゃんの瞳が開き口元に笑みをうかべた途端、カダージュが固まってしまった。
「…………。」
エアリスがそんなカダージュを見て笑顔で頭を撫でながら囁いた。
「カダージュ。この子はね、産まれたばかりでまだ弱々しいの。だからカダージュが守ってあげてね。」
「ぼ、僕…?」
「うん、そうよ。一緒に遊んでくれたりお勉強してくれたり。それだけでいいの。出来るよね?」
「うん!僕できる!!」
カダージュはそう言うとそっと赤ちゃんの頭を撫でた。
「早く大きくなぁれ。大きくなったら僕と遊ぼうね。」
息子の小さな誓いをクラウドは嬉しそうな顔で見つめていた
あまり長い間邪魔をしている訳にはいかないので、ザックスに挨拶をしてからミッドガルを後にする。
カームの家に帰ると3兄弟は揃って家に居たナタリーに、今日起こった事を我先に報告するのが出掛けた時の日課になっていた。
「あのね、ソニアちゃん家でリチャード君達と遊んだんだよー」
「僕ねソニアちゃん家のお庭で転んじゃったの。」
「それからねー、ハリネズミおじちゃんの赤ちゃん見てきたよー」
「ハ、ハリネズミ?」
母親のナタリーが困惑するが3兄弟の後ろで子供たちの会話を聞いていたクラウドが思わず吹き出していた。
セフィロスがカダージュの頭を撫でて話しかける。
「お前の人物観察はなかなか鋭いな、ザックスはハリネズミか、そうかそうか。」
ゆるやかな笑みを浮かべて自分の頭を撫でる父親が珍しいのか、カダージュがセフィロスをじっと見あげている。
しかし本来カダージュとて父親が大好きだったりするので、嬉しくて満面の笑顔を見せた。
その笑顔のまぶしさにセフィロスがびっくりしたが、流石に表情には出さなかったつもりだった。
一通り子供たちとの会話を楽しんだナタリーがキッチンのお鍋を指差した。
「今日はおばあちゃん特性のスープだよ、手を洗ってきたら食事にしようね。」
ナタリーの声に子供たちが大声で返事をしてから手を洗いに行った。
クラウドに付いて走っていった3兄弟を見送るとナタリーがセフィロスに振り向いた。
「セフィロス、何をびっくりしたような顔をしているの?」
「いや、カダージュの笑顔がクラウドに似ていたなと思って。」
「そうよ、だってあなた達の子供でしょ?カダージュは貴方にもにてる所が有るしクラウドにも似ていて当然だわ。」
「そう言うものなのか?」
「そういうものよ」
そう言って微笑むナタリーはやはりどことなくクラウドに似ている。セフィロスはうなずいて彼女に伝えた。
「クラウドは、貴女に似ている」
「もう、いつになったら”かあさん”って呼んでくれるのかしら?一緒に暮らしはじめて何年経ったって言うのよ。」
「…………。」
「わかってるわ、照れくさいんでしょ。あいかわらずね。」
そう言ってキッチンに歩いて行くナタリーにセフィロスは何とも言えない視線を投げ駆けながらキッチンへと急いだ。
キッチンに入ると3兄弟がちょこんと座ってセフィロスが来るのを待っていた。
「お父さん、遅い。」
「遅い遅い。」
「お腹空いたよー。」
「ああ、では食べようか。」
そのまま座って食べようとするセフィロスにガタージュが声をあげた。
「ダメダメ、お父さんお手手洗ってない。」
「バイキンばっちいよ」
息子に言われてセフィロスが渋々手を洗いいくとクラウドがにっこりと笑っていた
セフィロスはそんなクラウドに問いかけた。
「ん?なんだ?」
「ううん、子供たちの言う事なら聞くんだね。」
「悪かったな。」
テーブルに戻るとクラウドがスープ皿を持ってやってくる、全員の前に置くと焼きたてのバケットをカゴに盛って置くとナタリーが子供たちに声をかけた。
「今日のご挨拶は誰だったかしら?」
「はーい!!僕!手を合わせて下さい、いたーだきます!!」
どこでで覚えてきた挨拶なのかはわからないが3人が喜んでやりはじめたのだった。
ニコニコ顔のナタリーとクラウドに比べセフィロスは仕方がなく付き合っている、やらねばまた子供たちに文句を言われるのである。
(私も甘くなったものだな)
そう思いつつも悪い気はしないのであえてゆるやかな時の流れに身を任せている。
ごくありふれた一日のごくありふれた夕食はこうして過ぎて行くのであった。
夕食の後キッチンで片づけをしているクラウドは背中越しに聞こえてくる声に思わず吹き出しそうになるのをこらえていた。
「だめだよー、お父さんハミガキ!」
「虫歯で痛い痛いしちゃうよ」
「歯医者さん恐いよ」
自分達が歯を磨いているのにセフィロスだけは歯を磨いていないので、子供に注意されているのであった。
「やれやれ、氷の英雄と呼ばれた私が…。」
ボヤキの一つも出ようと言う物である。
しかしソルジャー時代とは違って最低最悪の寒気団を背負い、周りにブリザードを発生させる事はなくなったようであった。
子供と並んで歯を磨いている姿など、セフィロスに憧れていた治安部の連中には間違っても見せられないな…と、一人クラウドは思っていた。
キッチンの片づけを終えて洗面台で歯を磨いていると、今度はリビングから子供たちの声が聞こえてきた。
「ねーねー、お父さん遊んで!」
「今日はねー冒険ゴッコしよー!」
「僕、剣士!!」
「僕、ガンマン!」
「僕、武闘家!」
「では私は何だ?」
「お父さんは魔王!!」
口の中の歯磨き粉を思わず吹き出しそうになったクラウドは、あわててうがいを終えて3兄弟の元へと行く。
「お母さんも入れて。」
「いいよー!」
「お母さんは何かな?」
「もちろん!囚われのお姫様!!」
3兄弟の後ろでナタリーが必死になって笑いをこらえていた。
セフィロスがむすっとした顔して床に座り込むと、あぐらをかいてクラウドに腕を伸ばしてあぐらの上に抱き寄せると、満足げな笑みを浮かべひとりごちった。
「ふむ、魔王も悪くはないな。」
そう言うとクラウドの細い顎を捕らえて自分に振り向かせ、子供を見てにやりと笑いながらクラウドの唇を奪った。
そんな両親の姿を見ると、いきなりヤズーが掃除道具入れに走っていきほうきを手に持って戻ってきた。
カダージュも掃除道具入れに走っていったかと思うとハタキをもって戻ってくるとセフィロスに向かって見栄をきった。
「やい、魔王!姫を返せ!」
「いやだと言ったらどうする?」
「このライフルで撃ち抜いてやる!!」
ヤズーがそう言いながらハタキを振るとセフィロスがワザと腕を抑える。
「ああ、痛い。腕に穴があいた」
セフィロスの棒読みのセリフは昔ゴールドソーサーのイベントスクウェアで劇をやらされた時と同じ人物には思えなかった。
もっともあの時は相手が正宗を向けてその刃先を避ける事が出来た唯一の人物であるザックスだったので、かなり本気モードだったのであろう。
子 供たちが何やら掃除道具をもってポーズを決めて技の名前を言い出した。
「りゅうせい!!」 それはアーロンだっつーの!
「どるふぃんぶろう!!」 それはティファのリミットブレイク!
「くいっくとりがー!!」 それはユウナ!
一体なんの遊びなのだかよくわからないがともかく子供が満足するまで、付き合ってくれているセフィロスの膝の上に座らされていてもクラウドはニコニコとしているのであった。
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