俺の名前はエドワード・メイソン。神羅カンパニー治安維持軍所属のクラスAソルジャーだ。 自分で言うのも何だが、面倒見の良さと持ち前の優しさで事務のお嬢さんたちには人気があった…はずだった。 しかし…あの金髪の天使がクラスAに現れた日から、俺の人生は180度違った方向へと走りつつあった。 大きなため息をついたエドワードは、現在ミッドガル8番街を巡回警ら中であった。 ペアを組んでいるため隣を歩く男こそ、ため息のもとの少年クラウド・ストライフだった。 じっとエドワードが見つめていたのであろうか?クラウドが愛らしい瞳をくりくりっと動かして小首をかしげながら彼をうかがった。 「どうしたの?エディ。」 「ん?いや…なんでもないよ。」 クラウドは神羅カンパニーのナンバー1可愛い子ちゃんと有名である。そんな彼に心配げな瞳を向けられれば普通のやつなら一撃でノックアウトであろう。ところがエドワードはそれまでの習性で思わず周りを見回して、目の前の美少年の過保護な保護者がいないかどうかを確かめる癖が付いてきていた。 心配げな顔をする相棒のちょっとはねた髪の毛をぽふっとなでながら、いつものように笑顔を浮かべると純真な天使が満面に笑みを浮かべる。この笑顔を見るたび、エドワードはいつも自分が間違いを犯さないよう言い聞かせているのであった。 (こいつは男!しかも憧れの上官サー・セフィロスの最愛の伴侶なんだぞ!間違っても手を出すな!) そう思っていても、実際以前付き合っていた彼女よりはるかに可愛らしい。おまけに副業のおかげなのか、ちょっとした仕草すらその辺の女よりも愛らしく、清楚であった。 「おまえ…そういうしぐさの一つ一つがそのまんま副業だよなぁ。」 「え?そうかな?」 「無自覚かよ…。」 究極と呼ばれている召喚獣を四体も従え、自分の上官達すら倒せる実力を持つ目の前の少年は、その実力とは裏腹にモデルと言う副業を持っていた。自分の愛している人のそばにいるために自ら進んで契約したとはいえ、女装してまでまったく別の人物にならなくてもよいのでは?と思うこともしばしばあるが、いまではそのモデルが、天使の笑顔と高貴な気品のなかにほのかに見える妖艶な色香で巷の男どもを虜にし、サー・セフィロスだけを一途に慕う姿勢が世の中の恋する女の子に共感を持たせたのであった。 その仕事ゆえ自然と愛らしいポーズも身につくというものであろう。こいつもこいつで大変なんだなと、いらぬ心配までするのはエドワードの優しさゆえのことであった。 巡回警らをしていると教会前の広場の人ごみの中に車が突っ込んできたと思ったら、いきなり爆発炎上した。 「エディ!行くぞ!」 「おう!」 しゃにむに走りだしたクラウドに一歩遅れてエドワードが駆けだしながら、携帯を取り出していた。 「ブライアンか?ポイント08・18、八番街の教会の前で車が爆発炎上した!今からけが人の救出にあたる!」 「ラジャー、俺もそっちに行く!」 携帯をたたむとクラウドが燃え盛る車にアクアブレスをかけている。見ていると自分が発動させた時よりも水の泡の量や大きさが足りないようである。 (おいおい、わからないでもないが…周りを気にしすぎて弱くかけすぎじゃないのか?) そう思いながら燃え盛る車をぐるりと回り込み、教会の建物に延焼していないか確認すると、一つの建物が崩れていた。 その建物に駆け寄って、下敷きになった人がいないか確認する。 「おい、誰かいるのか?!」 エドワードががれきを避けていると、背中越しに声がかかった。 「姫、これを!」 聞き覚えのある声はクラスSソルジャーの一人、サー・マリスである。バングルに装備していたマテリアを手渡すと、すぐにエドワードの隣に走ってきた。その姿はスウェットとGパンと言う普段着だった。 「サー・マリス、非番だったのですか?」 「ああ、偶然近くにいたんだ。」 先ほどまで晴れていたというのに、いつの間にか雨粒が頬を濡らす。しかし目の前の空は青く晴れ渡っていた。その理由に気がついたエドワードは首をめぐらして空に目的の召喚獣を見つける。 「ご自分で発動された方が早かったでしょうに…」 「俺は姫のように小さくかけることはできないんだ。それに、姫に力仕事させるわけにもいくまい。」 言われてみると50mを超す巨体を誇るはずの水竜リヴァイアサンが、少しどころかずいぶん小さく感じる。これでは大海嘯を起こしても水の及ぶ範囲はごく限られているだろう。しかも車の周りにはいつのまにかウォールが張り巡らされていた。 「さすがというか…一瞬にして3つの魔法を発動させるのか、あいつは!」 魔法部隊の副隊長だからか到着したブライアンが呆れるように見ている。到着してしてすぐに魔法発動に視点が行くあたりはさすがである。 「おい、ブライアン。姫に見とれていると後が怖いぜ!」 「おっと!人命優先!」 ブライアンが瓦礫の除去に参加すると、次から次へと巡回中のソルジャー達が集まってきた。あっという間にがれきが取り除かれていくと下敷きになっていた人たちのうめき声が聞こえてくる。 「ケアル!」 一般人相手に強い魔法をかけることはいけない。魔法があまり強すぎると、弱っている体に逆にダメージがかかる。だからごく弱く回復魔法をかけて応急処置を施していく。 テキパキと手順が良いのは軍歴が長いからであろうか?、瞬時に被災者の状況を判断して危急を要する人から手当をしていると、炎を無事消したのか、クラウドが駆け寄ってきた。 応急処置をしている被災者のほとんどは子供であった。 「どうしてこんな子供が…」 クラウドが思わずつぶやいた言葉に、おろおろしながら駆け寄ってきた教会の神父が答えた。 「そ、その子たちは身寄りのない子たちで…この教会で里親が見つかるか、成人するまでお預かりしているのです。」 神父の元に無事だった子たちが集まってきた。どの子もおびえた目をして細かく震えている。そんな子供たちを見てちょっとショックを受けたのか、クラウドはしばらく黙ったまま回復魔法を使っていた。 やがて、下敷きになっていた子供たちが全員助けられ、建物のがれきも取り除かれたので、ブライアンが撤収の声をかけた。 「よし、総員撤収!」 クラウドは後ろ髪をひかれるような思いで、カンパニーのトラックに飛び乗った。 クラスA執務室に戻っても、クラウドの顔は暗いままだった。 第二班で巡回に当たっていたチームが戻ってくると、真っ先に陽気な男が動いた。 「なんだぁ?クラウド。暗い顔してよぉ!どっかの旦那が浮気でもしたのか?」 ザックスの言葉に隠れセフィロス・フリークのリックが敏感に反応する。思わず詰め寄ってつるしあげ、睨みつける。 「なんだとぉ?この馬鹿猿!!あの隊長殿が姫以外の人に浮気するものか!」 「わっかんねえぞ、そんなもん!クラウドを嫁にするまであのおっさん、どんだけ浮名を流しまくったか忘れたわけじゃねえだろうなぁ?!」 いつもだったら、クラウドがここで制止するのだが、彼はいまだに暗い顔で何かを考えているようだった。ブライアンがそんなクラウドに声をかける。 「まだ、あの教会の子供たちが気になっているのか?」 「う…ん。あの建物だって建て直さないと…住むところがなくなっちゃうよね?」 「まあ、そうだろうなぁ。」 「あまり裕福そうな教会じゃなかったみたいだけど…、大丈夫なのかな?」 その場にいる全員が黙り込んでしまった。クラウドが心配することではないのだが、車を突っ込ませてきたのはカンパニーに対する反抗勢力なんだから、あながち関係ないとは言い切れない。 どうやって答えたらよいものか思案していたブライアンの肩をポンとたたいて、エドワードが口をはさんだ。 「つまり、おまえはあの教会のために何かをしたい、しかし何をしたらよいか分からない…と、言うことか?」 エドワードの言葉を機敏に悟ったクラウドが蒼い瞳を輝かせた。 「エディ、何かいい考えがあるの?」 「まあね、バザーに炊き出し、慰問とあるが…なにがいい?」 「エディ…」 きらっきら目を輝かせているクラウドにエドワードはやさしげな瞳でうなづいた。 「ああ…付き合ってやるよ。」 「うわ!エディ、優しいから好き!」 今にも飛びつこうとするクラウドを後ろからザックスが抱えて止める。 「こら、クラウド!抱きつくならお兄ぃちゃんにしなさい!」 ほぼ同時になぜかエドワードがリックに腕を取られてねじり上げられていた。 「いてててて…な、何しやがる!」 「貴様…姫に手を出すなと、何度言えばわかるんだ!」 エドワードが顔をしかめさせた瞬間に、ブライアンが両手をたたいた。 「はいはい、そこまで!まったく進歩しない連中だな。さて諸君、姫からあの教会を救うべく提案があった、どうしたい?」 ブライアンの声にクラスAソルジャーたちが集まってきていた。その中の一人、ランディが片手をあげて話し始めた。 「その前に逆に聞きたい。今回が初めてではないと思うのだけど…過去はどうしていたか知っている奴いるか?」 「いや…、何度か現場で戦ったり、救出活動はしたことあったけど、その後は確か別担当じゃなかったっけ?」 「と、なるとタークスか?」 クラスAソルジャーたちが出した答えは、以前自分も個人的に使ったことがある。かるくうなずくとクラウドは携帯を取り出して目的の人物の番号にかけた。 「あ、ツォンさんですか?クラウドです。今、話してもよいでしょうか?」 電話口の向こうで常に冷静で落ち着いている男の声が答えた。 「はい、なんでしょうか?」 「あのですね…今までカンパニーへの反抗勢力で壊された建物とか傷ついた人たちって…何か保証しているんでしょうか?」 「ある程度の保証やケアはいたしておりますが、すべてではありません。」 「全部じゃあ無いの?」 「当然です。反抗勢力が仕掛けてこなかったら何も起こらないのですよ、事を起こした連中にも相応の負担をさせています。」 「それって…実行されているかどうかまでは、わからないよね。」 「ええ、しかし一応法で裁かれていますのでわが社としてはそれ以上追及できません。」 「そうなんだ…。」 再び暗い顔に戻ってしまったクラウドが、そっと携帯をポケットに戻した。その顔を見ただけで仲間たちが答えを想像できてしまった。ランディがその答えを口にした。 「全額じゃあ…なさそうだな。」 ランディの答えにクラウドが何も言わずにうなずいたのをみて、ブライアンが話を続ける。 「では、再びみんなに聞く。八番街の教会の施設の復興に手を貸すべきか、否か?貸すと言うもの…」 パラパラと手が上がり始める。人数を数えると過半数を超えて20人が賛成している。 「と、言うことは…何をするべきか…だな。」 キースが手をあげて発言した。 「まず最初に資金だよなぁ?そうなるとバザーか?」 「いや、俺たちはソルジャーだぞ。どっちかと言うとチャリティーオークションの方が収入になるとおもうが?」 「まあな、特に姫ならソルジャーとしても英雄の隣に並ぶ美少年と有名だからなぁ…小さなハンカチでも日ごろ使っているやつならいい値段が付くんじゃないの?」 パーシーが言ったことにクラウドの目が輝くと同時に、リックがすかさず睨みをきかす。 「カンパニーとランスロット統括とクラスSの許可はどうするんだ?特にうちの隊長の許可なしに俺達が何かできると思っているのか、お前たちは!?」 その一言にクラスAソルジャーたちは全員固まった。 過去の例を見ればすぐわかる、クラウドが絡むと冷静でいられないのがセフィロスである。自分たちの憧れで、今でも一緒の戦地に立ち共に戦いたい氷の英雄と呼ばれる男が、最愛のパートナーのこととなると戦場での姿はどこへやら?感情がないとまで言われていた過去があっという間に遠いどこかへと行ってしまっていたのであった。 しかし、氷の英雄をノックアウトした張本人がケロリとした顔で答える。 「大丈夫だよ。ルーファウスもサー・ランスロットもクラスSの皆様も優しいからきっと同意してくれるよ。」 (それはお前にだけ優しいんだよ!) その場にいたクラスAソルジャーたちは言いたいことをぐっと抑えていた。 |