クラスAソルジャーたちが言いたいことをぐっと抑えていると、エドワードがクラウドに話しかける。 「じゃあ、許可をもらいに行くか…。」 「うん!わかった。」 ニコニコの笑顔でエドワードの後からクラウドが歩き出すと、いつものようにリックが後ろをつけようとする。それをブライアンに止められた。 「おいおい、影の旦那。いいかげん過保護な保護者も辞めろよ。あいつはもう一人前に扱ってもいいと思うぜ。」 「しかし、姫に何かあったら…」 リックの首にがっちりと腕をまわしてザックスがニッカりと笑う。 「ばーか、ここはカンパニーの中。つまり危険人物は一人もいないどころか…このカンパニーの中である意味最強なのはクラウドなんじゃねえの?」 「違う、このカンパニーで一番強いのはサー・セフィロスだ!」 「流石、隠れ英雄マニアのお前の答えだな。だがな、その英雄殿は最愛の姫君にちょっとかわいらしく「お願いv」なんて言われると、二つ返事でOKするんじゃないのか?」 「…………。」 ぶすっとした顔でリックは首を縦に振る。その様子があまりにも彼らしくてクラスAソルジャーたちがけらけらと笑った。 その頃、クラウドは満面の笑顔で隣を歩くエドワードに話しかけていた。 「ん〜とね、ルーファウスに許可を取る前にツォンさんを口説いた方が早いんだ。だからまずタークスの部屋に行こう。」 通りすがりの兵たちが聞こえてきた言葉に、びっくりして思わず立ち止まっているのが、エドワードにもわかる。こういうときはそれなりに理由を聞かせておかないと、あとで何と言われるかわからない。 「しかし、ツォンがチャリティーやバザーをOKするかなぁ?」 「それは大丈夫!だってツォンさんって優しいんだよ。」 (それは…お前だけに…だろ?) タークス達が『クラウディア』のファンであることぐらい、治安部に属していれば耳に入ってくる。その本人が泣くようなことを彼らがするわけがない!当然そのことをエドワードもよく知っているので、にっこり笑ってクラウドの肩をたたいた。 「じゃあ、おまえに任せるか。」 「うん!任せて!」 嬉々としてクラウドは本社の68Fにあるタークスの部屋へとはいって行った。中にはだらしなくネクタイをひっかけて机に腰掛けている赤毛の男と、まじめに仕事をしているスキンヘッドの大男、そして数人の同じ服を着た目の鋭い部下に囲まれてテキパキと指示を出している黒髪の男がいた。 クラウドの顔を見たとたん、赤毛の男とスキンヘッドの男が声をかけた。 「よう、仔チョコボ。何しに来たんだぞ、と。」 「仕事ではなさそうだな。」 「うん、ツォンさんにお願いがあって来ました。」 「私に?なんでしょうか?」 常日頃の冷静な表情ではなく、口元に笑みを浮かべたタークスの主任をエドワードは初めて見た。 にっこりと笑ったクラウドがちょこちょこっとツォンの前に歩み寄ると、おねだりモード全開でお願いする。 「あのね、今日の8番街の事件なんだけど…俺たちに何かできないかなって思って…バザーとか、慰問とかやりたいな〜〜〜って…」 一瞬にしてツォンの額に縦じわが走ったと同時に、その様子の変化を機敏に悟ったのか、クラウドがいきなりシュンとして上目使いの悲しげな瞳を向けた。 「やっぱり…ダメ…なんだ。」 少し涙声なのは演技なのか、それとも本心なのであろうか?しかしクラウドを泣かせたら後が怖いのはタークスも一緒だったらしい。あわててレノとルードがクラウドのそばに来る。 「な、泣くなってば、よ。お前が泣くと困るんだぞ、と。」 確かにその通りである。あとでどこぞの英雄が乗り込んできて「誰がクラウドを悲しませた?!」と言ってその愛刀で叩き切られるかもしれない。命にかかわることなので必死で目の前の少年をあやしている。 「大丈夫だ。些細なことだからきっとOKもらえる。」 「ツォンさん、何とかしないといけないんだぞ、と。」 ツォンとて、クラウドを泣かせたくはない。渋い顔でうなずくと軽く注意事項だけを言う。 「では、カンパニーからの支給品を使わないという約束で、ルーファウス様の許可を取りましょう。」 その一言でクラウドの瞳が再び輝いた。 「ありがとう、よろしくお願いします!ツォンさんってやっぱり優しいんだね。」 満面の笑みを残して、クラウドはエドワードを引っ張って部屋を出て行った。ワンフロア降りると統括の部屋をノックする。 「第13独立部隊副隊長クラウド・ストライフ入ります!」 書類とパソコンと格闘していた統括が顔を上げると、神羅カンパニー治安部の美形コンビが入ってくるのを見てびっくりしていた。 「いかがなされました?姫。こちらからお呼びした覚えはないのですが?」 「はい、お願いがあるのですけど…本日8番街の教会の施設が反抗勢力によって破壊されました。そこは身寄りのない子どもたちの生活の場だったらしいのです。復興に対しての保証は全額されていないというので、クラスA全員でバザーとか炊き出し、慰問をしたいと思っています。ルーファウス社長の許可はツォンさんが取ってくれるそうなのであとは統括の許可が欲しくてやってまいりました。」 ”いいことをしているでしょう?”、と言わんがばかりに胸を張っているクラウドと、その隣で苦笑を必死にこらえているエドワードを見ると、どうやらこの少年の発案のようである。 ランスロットは冷静に治安部統括として判断しようとした。社員が慈善活動をすることはカンパニーとしても禁じてはいない。しかし一般兵ならまだしも、副隊長を張るクラスAソルジャーたちが進んで行うことでもないとは思うし、過去の実例もない。 「クラスAが行うことではないと思いますが?」 しかめっ面で答えたランスロットを見てクラウドの瞳がうるうるっとなる。 「ダメ…なんですか?」 (こ、これは…セフィロスに殺される!) 自分が知っている限り、セフィロスは愛妻に仇なす者に対して容赦は一切ない。クラウドを泣かせようものなら、その愛刀で叩き斬られるであろう。ランスロットはあわてて首を振ると必死になって笑顔を作る。 「い、いいえ。規定のどこにも副隊長が慈善活動をしてはいけないとは書いてありません。」 「え?本当ですか?じゃあ、いいのですね!?」 大喜びするクラウドの横でずっとエドワードは苦笑している。 「あ、しかし姫…って。もう出て行かれたのか…。」 明けっぱなしになっている扉に思わずため息をつきながら、苦笑していたエドワードに話しかける。 「エドワード、姫のお守ごくろうさん。伝えておいてくれ、カンパニーの支給品はバザーに出してはいけないと…」 「それはタークスにも言われました。では、失礼いたします。」 「ああ、セフィロスに凍らされるなよ。」 「……もう、何度も凍らされているので、いささか慣れ始めている気がします。」 退出間際にエドワードが漏らした言葉に、英雄の親友になりたい男が思わずやきもちを焼いた。 「ちぇ!うらやましいなぁ。あいつ、セフィロスに魔防鍛えられているぜ。」 半ば泣き落としでカンパニー側の了承を取ったので、残るはクラスS。特にセフィロスの許可であった。しかし、それも多分あっという間に許可が出るであろう。 今度からカンパニーや上官達に無理難題なミッションを押し付けられそうになったら、絶対クラウドに中に入ってもらおう!と、エドワードは思っていた。 前を歩くクラウドはその歩調までも朗らかで、すでに頭の中は何をバザーに出そうということを考えていた。 「ハンカチとか、愛用のペンとかでは…あまり高いお金がつかないよね?でも…さすがにあの服を出すわけにもいかないしなぁ…」 「白のロングは支給品だからダメだぞ。私服で売れそうなものってなにかあるのか?」 「ある。山ほどあるけど…”俺”が売るわけにもいかないよ。」 「ああ…妖精の衣装一式、ね。」 一点物のデザイナー・ブランドであり、有名モデルが着た服ならどれだけの値段で売れるであろうか?しかし、その服をこの少年が持っている理由を問われると答えられない。そうなると本物であるという証拠もなくなるのである。 小声で話しながら歩いていると、あっという間にクラスS執務室の前に到着していた。 クラスAソルジャーに昇進してからすでに一年以上、何度となく訪れている部屋である。しかし、エドワードはこの部屋に入るのに、いまだに緊張してしまうのであった。 隣の少年はすでに慣れてしまったのであろうか?ニコニコ顔で扉をノックしている。 「失礼いたします。クラウド・ストライフ、入ります。」 扉を開けて敬礼すると、黒ロングを着た各隊の隊長達がそれぞれの仕事をしている。その中央に光を集めたような長い銀髪の美丈夫が厳しい目でこちらをうかがっていた。 「呼んだ覚えはないぞ。」 「いいえ、隊長殿にお願いがあってきました。すでに統括から連絡があったと思いますが、バザーや炊き出し、慰問の許可をください。」 「ああ、聞いている。8番街の教会だそうだが、副隊長クラスがやることとも思えぬな。」 「しかし、直接見てしまったからには何か行動したいのです。」 「理由は分からないでもないが…教会側が喜ぶとも思えぬな。」 「あ……。」 セフィロスの一言にクラウドは押し黙ってしまった。 その通りである。建物が破壊されたのは神羅カンパニーの反抗勢力のせいである。しかしその目的は神羅カンパニーの行っていることに対する反対の意を唱えているのであるから、原因を責められ忌み嫌われる場合もある。 神羅カンパニーが行ってきたことのすべてが正義ではない…と、改めてクラウドは実感した。そしてついさっきまで意気揚々と輝いていた瞳が一瞬にして曇り、ただでさえ華奢な体が一回り小さく見える。どんなモンスターにも臆することのない、気の強い少年が肩を震わせ落ち込む姿は、それまで険しい顔をしていたトップソルジャーすらあっという間に陥落させる。 「だ、だから泣くなクラウド。何も「クラウド・ストライフ」でなくとも、慈善事業はできると言っているではないか。」 「え?どういうこと?」 「相手は8番街の教会なのであろう?ならばどこぞのモデルのマネージャーを通して寄付をすることもできるし、それこそ慰問にも行けるではないか。」 「あ、そうだね!事務所が8番街にあるからティモシーにも頼めるんだ!」 「それに…クラウディアが動けば私が動ける。私が動けば…クラスSやクラスAが動いてもおかしくはなかろう。」 セフィロスの厳しかった視線がふと緩やかになった。とたんに絶対零度まで冷え込んでいた執務室がいきなり温かくなったように感じる。 「ほんと?!本当にセフィもやってくれるの?!」 「ただし、ティモシー次第だがな。」 「大丈夫、ティモシーなら絶対OKしてくれるよ!」 クラウドはそう言ってピンクの携帯を取り出した。右手にある物体を見とがめたエドワードが苦笑している。 「まーったく、スーパーモデルらしい可愛らし携帯だな。」 クラウドが手に持っていた携帯には可愛らしくリボンやクリスタルでデコレーションしてあったのである。 「これ?ミッシェルがやったんだよ。女の子の携帯ってこんなものだっていうんだけど…そうなの?」 「まあ、15,6の女の子ならこのぐらいありだろうなぁ。しかし伝言ゲームみたいだな、次はマネージャーだっけ?」 「うん、エディは先にクラスAに戻ってて、俺ティモシーに連絡入れたらすぐに戻るから。」 「では、サー・セフィロス。チャリティー・オークションの準備をしてお待ちしています。」 エドワードが敬礼してクラスS執務室から退出した。 |