クラスA執務室に戻ったエドワードをいきなり仲間が囲んだ。
「どうだった?また凍らされたか?」
「アラン、また賭けでもやってたのか?残念だが凍らされなかったよ。」
「え?!お前と姫が一緒に歩いていてサーが怒らなかったのか?」
「おいおい、お前ら何を期待していんだよ…。」
 あきれ顔でエドワードが話を続けようとした時、扉があいてクラウドが飛び込んできた。
「エディ!ありがとうね!手順は今夜にでも決めるけど、チャリティー・オークションは本決まりになりそうだよ。」
「ああ、マネージャーが許可したのか、よかったな。」
 満面の笑みを浮かべるクラウドの頭をぽふっとなでてエドワードがさわやかに笑うと、すかさずリックが間に入り込み、聞き始めた。
「クラウディア・スタッフが絡むって…どういうことだ?」
 クラスAが慈善事業をやる許可をもらうために社長や統括、クラスSの許可を取りに行ったはずである。リックが不思議に思うのもおかしくはない。
「うん、あの教会が破壊されたのは反抗勢力のせいでしょ?だから原因の一端である神羅カンパニーの協力を良しとしないかもしれないって…隊長がおっしゃったんだ。しかし俺にはもう一つ顔があるだろ?事務所が8番街にあるんだ。同じ地域にあるんだから寄付だって慈善活動したっておかしくはないだろう?」
「なるほど…クラウディアが慈善活動すれば隊長殿が表立って協力できる。隊長殿が協力すれば…クラスSやクラスAが続いてもおかしくはないということか。」
 手順はかかるがそういう理由ならカンパニーの部隊長、副隊長クラスが行動を起こしても何ら不思議はない上につじつまも合う。リックが軽くうなずくとクラウドがニコニコ顔でさらに報告している。
「クラウディアのイメージにもいい事だっていうんで、ティモシーも寄付とチャリティー・オークションへの出品と、慰問はすぐに調整してくれるって言ってたんだ。」
 笑顔のクラウドにザックスが呆れた顔で突っ込みを入れた。
「いいーんかよ、クラウド。そうなったら慰問に行くのはヒラヒラのドレス姿ってことになるんだぜ。」
「あ……。そ、そうだった。」
 ちょっとシュンとしたクラウドの頭をわしゃわしゃとかき乱すようになでると、ザックスはぽんっと背中をたたいた。
「ったく、可愛いなぁお前って!でも、最後にはやりたいことはやれるんだろう?」
「うん!」
「結果良ければすべてよしってな、あとで旦那とスタッフとでしっかりと手順を決めておけよ。」
「はい。」
 クラウドとザックスの会話を聞いていたブライアンがエドワードの肩を軽くたたいた。
「手順はあいつに任せて、俺たちはオークションの登録とか出品の準備を始めようぜ。」
「ああ…。」
 エドワードは終業後ブライアンの部屋を訪れる約束をした。


 ■ ■ ■ 



 執務を終えてソルジャー寮へと戻り、やや遅めの夕食を食べているとエドワードの周りにクラスBやクラスCソルジャーたちが集まってくる。クラウドとペアを組むようになってしばらくすると毎日のようにこうして下級ソルジャーが寄ってきては、あれやこれやと彼らを一気に追い越して行った少年兵のことを聞きに来るのであった。
「どうした?今日は何も話すことなどないぞ。」
 エドワードが話しかけると、クラウド親派の下級ソルジャーたちは顔を見合わせてから、一番実力のある兵が答える。
「いえ、サー・クラウド達が行おうとしているチャリティー・オークションのことなのですが…我々も出品させていただきたいのです。」
「ああ、協力してくれるのか?あいつもきっと喜ぶぜ。しかし、カンパニーからの支給品はダメだぞ」
「はい!ありがとうございます!」
 一礼すると、下級ソルジャーたちはすでに何を出品するかという会話になっている。エドワードは口元に笑みを浮かべながら目の前の食事に手をつけようとしていると、今度は自分の直属の部下たちがやってくる。
「副隊長殿、先ほどクラスB仲間に聞いたのですが、チャリティー・オークションをやるというのは本当でしょうか?」
「まったく、情報が早いな。まだ日にちは決まっていないがやることはやるぞ。」
「じゃ…サー・セフィロスやサー・クラウドの愛用品を…競り落とすことも可能なんですね?!」
「バーカ、あの二人の私物がお前らの安月給で競り落とせるわけないぜ。悪いけど、食事させてくれ。」
 部下たちを片手でおいやってエドワードはそろそろ冷めかけた食事をやっと食べ始めた。

 エドワードだけでなくクラスAソルジャーたちは下級ソルジャーたちの同じ質問にあっていた。特に部下の多い隊の副隊長であるパーシーやキースは対応に大わらわである。次第にクラスAソルジャーたちが集まり始めてそこここで相談し始めた時に、TV画面が世界の妖精の姿を映し出した。
 ホールがいっせいに静かになったとたんにあちこちからため息が漏れ聞こえてくる。放送されている内容は今日あった8番街の教会施設の爆発事件と、その教会にモデルのクラウディアが寄付をしたというニュースだった。
 妖精になりすましている少年が、見なれた天使の笑みでレポーターに答えていた。
「同じ8番街に事務所がありまして…他人事ではないと思いましたの。でも…不思議ですわよね?神羅カンパニーは魔晄の力を使わないようにすると約束して、ゴンガガの魔晄炉を封鎖したのでしょ?なぜ反抗勢力の方はいまだに反抗していらっしゃるのかしら?」
 小首をかしげてレポーターに問いかけるクラウドは凶悪なまでに可愛らしい。あれでは反抗している連中が悪いとしか思えない。
 食事を終えてトレイを片付けながらエドワードはいささか感心していた時、迷惑そうな顔をしたブライアンがやってきた。
「エディ、おおごとになりそうだぞ。」
「ん?ああ、オークションか、当然のことだろうな。オンラインでやるなら相当のサーバーを確保しないとパンクするぞ。」
「だろうな、俺もサー・セフィロスの私物ならハンカチでもいいから欲しいって思うからなあ。」
 そこへ珍しく青い顔をしたパーシーとキースが助けを求めてきた。
「ブライアン、エディ。これは何とかしないと大変なことになるぜ。」
「どこかにこういうことに慣れた事情通っていないものか?」
 クラスAソルジャーたちが額を寄せあって相談している時に、背後をクラスCソルジャーたちが通り過ぎて行った。その中にすでに旧知の仲になった男の顔を見つけてエドワードが声をかけた。
「おい、ジョニー。少し良いか。」
「あ、サー・エドワード。それにクラスAの皆さん、うわっヤベ!」
 情報通だけにすでになぜ自分が声をかけられたか想像できたらしい。あわてて逃げようとするジョニーを逃がすまいと、クラスAが囲い込んだところに、リックとザックスがやってきた。
「おーお、やっぱり捕まったか。」
「人気あるねえ、さすが経済学部卒!」
 なじみの戦友に最後通牒を突きつけられて、半ばあきらめたところにジョニーの胸ポケットにある携帯が小刻みに震えた。着信先を見るとクラウドのようであった。
「チェック・メイト…だな。」
 彼がため息をつきながらクラウドからの電話に出ると、やはり一連のことに対する協力のお願いであった。
 その言葉にクラスAソルジャーたちが安堵の息をつくと、電話を終えたジョニーをしっかりと拉致して、ミーティングルームへと移動するのであった。

 ミーティングルームで打ち合わせと称してジョニーに一連のオークションのことを相談すると、彼の出してきた提案は想像もつかない金額のかかりそうなものであった。
「おい…それでマジにオークション専門業者を使うよりも安く上がるのか?」
「シェホード・ホテルの一室を借りきって、そこでオークションをするのはわかる。そこにネット回線引いてどうのと言うのは…一体どこのだれが資金を出すんだ?!」
「あん?あそこのホテルの一番広い会場なら設備済みだよ。だいたいチャリティー・オークションなんだろ?会場の費用もタダに出来るぜ…なにしろ発案者がうちの隊長とその嫁だからなぁ。おめでたくも自ら協力したいっていう経済界の連中なら山ほど知っているぜ。」
 そう言ってジョニーが並べた会社の名前は、いくら戦うことが専門のクラスAソルジャーたちと手よく聞く名前の会社ばかりであった。
「本当にそんな一流企業がこぞって参加するのか?」
「まあ、見ててみろ。ともかく開催の日程だな、それが決まらないと部屋を抑えられない。あとはどこぞの妖精にオークションを開きたいと言わせればおしまいだよ。」
 そんなに簡単に事が進むものか…と思っていたが、それが現実になるとは…このとき誰も想像できなかった。


 ■ ■ ■ 



 翌日、出勤したクラウドが昨夜のことを報告する。
「あっちのスケジュールを考慮してオークションは今度の早出の時に行うことになったんだ。だから早くて2週間後だね。それまでの間にするべきことがあるかな?」
「ジョニーが言うには…どこぞの妖精が困った顔で「オークションを開きたい」って言うだけで解決だってさ。」
「そんなことで解決できるのかなぁ?」
「あいつに言わせると妖精や英雄に近づきたい企業は山ほどあると…ちょっと可愛らしく一言お願いすれば自ら進んでただ働きするってさ。」
「それで全部解決するなら、すぐにでも手配するんだけど…。」
「どうだろうなぁ?あいつ、めちゃくちゃ自信ありげにそう言ったんだが、俺には信じられないよ。」
 しかし、クラウドはジョニーの裏の顔を知っている。シェフォード・ホテルグループの総帥ジャック・グランディエの長男で経済界の重鎮すらファーストネームで呼び合う間柄である。財界に通じている彼が言うのであれば本当であろう。
 軽くうなずくと、ブライアンとエドワードを捕まえて次の予定を考えようとした。
「まあその辺はジョニーにお任せして大丈夫だと思う。オークションはもう決まったも同然だから慰問の事を決めようよ。」
 ブライアンとエドワードがクラスAの予定表を見ながら、自由にできる時間に丸をつけていく。
「しかし、ミッションで出かけると慰問も行けないぞ。」
「この間、釘をさしたておいたからしばらくは大きな争いはないと思うよ。」

(可愛い顔をして、やることが怖い…)

 ブライアンとエドワードが思わず顔を見合わせていた。
「あ、取材が入っているから残業しないからね!それとリック、ザックス。特務隊としても何かやらないとダメだろ?おれちょっと忙しいから何か考えておいてくれない?」
「はぁ?!んなもん俺に頼むな!せいぜいオークション会場の警らだぜ。」
「それだったら隊長補佐の俺はどうすればいいんだよ。いないわけにはいかないじゃないか!」
「あ、そうだな。リック、どうするべ?」
「特務隊は名前だけは有名だが、顔を知られているのは隊長と姫ぐらいなものだ。クラスAソルジャーのお前と準クラスAの俺は所属クラスだけでモノが売れるが…やっぱ会場警備だな。」
 普段の冷静なリックらしい答えにザックスがうなずくと、ほかのクラスAソルジャーたちも何を出品するか悩んでいた。
 その日の夕方にわざと見つかるようにセフィロスとシェフォードホテルに出かけたクラウディアは芸能レポーターに囲まれていた。
 レポーターに教会への寄付行為のことを聞かれてわざと寂しげな顔をしたクラウディアがぽそりとつぶやく。
「教会の方にお聞きしたのですけど…施設の復興には資金が足りないそうなんです。持っているドレスで不要なものとかを売れないものかしらと思っているのですけど…どうしていいのか…。」
 まるで泣きそうに肩を震わせている華奢なモデルは、どこからどう見ても日頃のきつい瞳の少年には見えない。TV画面を食い入るように見つめていたエドワードがぽつりと周りにいた仲間たちにつぶやいた。
「なぁ…俺が彼女できなくなっちまったのって…絶対あいつの責任だと思うんだけど…違っているかな?」
「姫とペアを組んでいるだけで美男美少女っていうんで妙な噂が立ちまくりだもんなぁ。」
「そんなのを彼女が見たり聞いたりしたら、邪推されてもおかしくはないよな。」
「あれ?今でも一人でいれば逆ナンされてるんじゃないのか?お前。」
「最近、どっかの誰かさんのおかげで目が肥えちまってなぁ…いささか辛いぜ、美人のお姫様のお守は。」
 TV画面を見つめながらため息とともに吐き出したエドワードの言葉は、クラスAソルジャーたちの共感を呼んだ。