ミッドガルにある神羅カンパニーは私設軍隊を持っていた。
その私設軍に今年も訓練所から卒業生が入ってくる時期が来ていた。
訓練生達は全員あちこちの地域でスカウトされたそれなりの実力を持つ男たちで、一線を退いたソルジャー達に徹底的に教育されていた。
色々な地域からスカウトを受けて訓練生となっているだけあって、年齢や体格はばらばらであったが、中に一人飛び抜けて華奢で可愛らしい顔だちの男の子がいた。
彼の名はクラウド・ストライフ、まだ15才の少年だった。
FF7 パラレル小説 − KNOCKIN'ON YOUR DOOR −
訓練所へと寮の同僚と歩いて行くクラウドに通りすがりの一般兵達が思わず振り返る。
目に鮮やかなハニーブロンドとクリッとした青い瞳、まだ幼さを残す顔だちは男所帯の中にあってははっきりいって”可愛い”部類に入る。
幼い頃から生まれ育った村でクラウドは自分の容姿を揶揄され、同い年の子には仲間はずれにされて育ってきた。
すでに慣れた視線にクラウドはいささかげんなりしながら無視を決め込んでいた時、正面から来た他の一般兵に声をかけられた。
「ねえ、君。名前教えてよ。」
「貴方に名前を教えてどうなるのですか?」
「いや、だって可愛いから…。」
そこまで一般兵が口走った時だった、クラウドはジャンプしながら回し蹴りを放っていた。
「俺は男だーーー!!!」
一般兵が壁までふっ飛んで行くと派手に音を立てて崩れ落ちた。
その音に周りにいた一般兵がびっくりして振り返る。
あわててクラウドのそばに居た同僚のアンディ,ルイス,ウェンリーの3人組が声をかけた。
「ダ、ダメだよ、クラウド〜〜」
「うるさい!!人を馬鹿にして良いって事はないだろう?!」
「だ、だから……、クラウド〜〜」
「いくらなんでもこの人一般兵なんだよ。」
「それがどうした!!訓練生に一発でぶっ飛ばされる程度って事じゃないか。」
「クラウド、お前の気の強いのもいいかげんにしないと…。」
4人の訓練生を次第に一般兵が取り囲もうとした時だった。
「そこ!!なにをしている!!」
訓練所の教官レイナードがかけた一声で一般兵が蜘蛛の子を散らすように霧散した、そしてその場に残っていた4人組の中心人物を見て教官が思わずため息をついた。
「ストライフ、また貴様か。」
「否定しません。あの男は俺を侮辱しました。」
「お前は確かに強いんだが、その気の強さを直さないと入隊出来ないぞ。」
「すみません、サー。」
クラウドが敬礼するとレイナードはため息をついた。
組み手、剣術、マテリア学、射撃、破壊工作、戦術と、何を教えても砂が水を吸うかの如く覚えて行く目の前の少年はやたら喧嘩早くて気が強い。
まもなく入隊する部隊を決めて部隊別の訓練に入る予定であったが、レイナードはこの少年をどの部隊に入れるべきかいまだに悩んでいたのであった。
昼食時 下級兵用食堂
トレイに乗ったパンをかじりながらクラウドは寮仲間のアンディー達と談笑していた。
「だってそうだろ?いつもクラウドってカッとなると口でいうよりも手の方が早いんだし…。」
「そうそう、でもクラウドって強いよなぁ。」
「もう、いいじゃないかよ、そんな話は!」
他の訓練生と友達になる事を自ら拒絶しながらクラウドは神羅カンパニーに所属していた。
さすがに同僚の3人とは24時間行動が一緒だったので関る事に慣れてきていたが、他の訓練生や一般兵が近づこうとしてもクラウドは見えない壁を築いてしまっていた。
お近づきになりたくてもなかなか近づけなかったクラウドを囲む3人の寮仲間を周りの男共は羨ましげに見ていた。
そこに朝クラウドに一発でノックアウトされた一般兵がやってきて絡もうとした時だった。
「お、わるいわるい!!お前か?訓練生のくせに一般兵をぶっ飛ばした奴って?」
いきなり黒髪の男がクラウドの隣に割り込んできた。
クラウドはその男に頭を撫でられ首をがっちりとホールドされてカチンときた。
「いやぁ…俺、ザックスって言うんだけどさー」
その男が爽やかに自己紹介しようとした時いきなり立ち上がって男の座っていた椅子を蹴飛ばし、目の前の男を床に体落としで転がすと思いっきり腹に肘うちを食らわした。
「むぎゅう……。」
「あんたが誰か知らないけど、二度と俺にさわるな!!」
そう言って気絶した男にクラウドが息巻いていると目の前のアンディー達どころか周りで見ていた一般兵達が、彼のちょっと上を見て顔を青ざめさせていた。
不意にクラウドの頭の上からやや低い声がかかった。
「なるほど、この髪は堅いわけではないのだな。」
容姿を揶揄される事の次に髪型を揶揄される事が気に入らないクラウドは振り向きざまに右フックを繰り出したが軽々と右手を止められた。
クラウドは自分の右腕を握っている男を見て目を見開いた。
軽く190cmは越える長身を黒革のロングコートに包み長い銀髪、背中に背負った刃渡り2m近い剣、目の前の男はあまりにも有名だった。
クラウドは思わず男の名前をつぶやいていた。
「サ…サー・セフィロス?」
「貴様がザックスを気絶させたのか?」
「す、すみませんでしたサー!」
あわてて姿勢を直し敬礼するが目の前の男は床に倒れていた男をじっと見ていた。
すぐに伸びていた男が腹を撫でながら立ち上がった。
「つぅ〜〜〜 まいったな、不意打ちとはいえ訓練生にノックアウトされた。」
「ザックス。ミッションの打ち合わせで執務室に11時30分に集合せよと連絡が行ったはずだが?」
「あーーー!!忘れてた!!すまん!セフィロス!!」
「おまえの馬鹿さ加減には呆れるな、少しは目の前の訓練生に教えてもらえ。そこの訓練生、おまえも周りに敵ばかり作るな。ミッションで後ろから味方に撃たれることになるぞ」
「ア、アイ・サー!」
クラウドが敬礼した時、彼の唇だけが何かをつぶやくように動いた。
しかしそれに気がついたのはセフィロスただ一人だけであったが、彼は何も言わずにじろりとクラウドを見下ろすと、ザックスの後ろ首を掴んで強引に食堂から出て行った。
「うわぁ、本物だよな?」
「うん、本物。」
「お、俺一度でいいから目の前で見たかったんだ。」
浮かれまくる同僚の横でクラウドはどんよりと黒い雲を背負ってぼそりとつぶやいた。
「俺、クビかな?トップソルジャーのサー・セフィロス相手に、知らなかったとはいえ殴ろうとしちゃった。」
「クビなら注意などされないって。」
「でも、午後の授業の前にまた教官からお小言だろうね。」
ルイスの言った通り下級兵用食堂で起こったこの事件は瞬時に教官の元までとどいていて、話を聞いて担当教官のレイナードは頭を抱えていた。
たしかにクビになるのであればサー・セフィロスはその場でどんな兵でもクビにできる人物である。
注意で留まっているのはクラウドに見込みが有るからであろうが、このままではどの部隊に入れても本当に味方である兵に背中から撃たれかねない。
レイナードはこの訓練生をどう扱ってよい物か悩んでいた。
扱い方一つでこの少年は大きく変われると思う、レイナードは教務員室の机に戻って何か書類を一枚書きあげて満足した顔でうなずいた。
神羅カンパニー 治安部 クラスS 執務室
扉をノックすると訓練所の教官が入ってきた。
中に居る男共がにこやかに振り返ってレイナードの名前を呼んだ。
「レイナードではないですか、どうかしましたか?」
「実は私が教えている訓練生の事なのですが…。」
「ああ、聞いた事がありますよ。マテリア学の授業でいきなり"ラ"系の魔法をつかったとか…。」
「一般兵を一撃でノックアウトした子の事か?」
「射撃の訓練でパーフェクトをたたき出している子なのであろう?」
「ほぉ、今年はいい子がたくさん入ったようだな。」
「い、いえ。全部同一人物の事なんです」
神羅カンパニーのソルジャーの階級は”クラス”と呼ばれる物で区別されていた。
頂点をスペシャルと言う意味でS、そしてクラスSソルジャーと言うのは全員部隊長達であった。
クラスは上から順にS,A,B,C,1st,2nd,3rdとなっていて、その下が一般兵であった。
その部隊長達の執務室に訓練所の教官がやってくるというのは非常に珍しい事であったが、過去に無かった訳では無い、所属部隊の配属を決める時期になると配置で悩む生徒の事でこうして相談に来るのである。
何かに突出していれば配置に迷う事はない、中には落ちこぼれの生徒もいたがそれは採用をせねばよい事である。
今回の様にすべての分野で突出しているのは何処に入れても本来ならそれなりにいい兵士、いいソルジャーとして育って行くはずなのであるが、問題はそれ以前の行動にあったのである。
栗色の髪の男がレイナードに問いかけた。
「それで、その子がどうかしたのですか?」
「やたら喧嘩早くて気が強くこのまま一般兵に組み入れてうまくやって行けるか心配でして。」
「そのぐらいなら何とかなるのではないか?」
「いえ、うまくやって行けるか心配なのはその原因の容姿なんです。」
レイナードは持っていたプロフィールと写真を目の前のソルジャー達に手渡すとクラスSソルジャーがよって集まった
日に映えるハニーブロンドとくりっとした大きな青い瞳、まだ幼さを残している顔だちはかなり整っていたが印象は”可愛らしい”だった。
栗色の髪の男が目を見張って聞いた。
「これは、男ですよね?」
「はい」
レイナードがクラウドの事を軽く説明しはじめた。
実力と容姿が反比例する為揶揄されやすく、当人はそれが気に入らずすぐに実力で相手を黙らせようとしていた事やなかなか仲間に打ち解けにくく自分の周りに壁を作るタイプであることをその場にいたクラスSソルジャーに伝えた。
「なるほど、この容姿でその性格では喧嘩になるであろうな。」
その時後ろから逞しい腕が伸びてきてプロフィールと写真を奪った、あわててクラスSソルジャー達が振り返って敬礼した。
「キング、おかえりなさいませ。」
「どうかされましたか?」
「ふん、こいつか。この訓練生がどうかしたのか?」
「ご存じなのですか?」
「ああ、昼に会った。私の目の前で油断していたとはいえザックスを気絶させた。」
「あのザックスを…ですか?」
「ザックスの油断だけではなかったようだな。こいつがどうかしたか?」
「卒業後の事ですが彼だけはどの部隊に配属させればよいかと・・」
キングと呼ばれたのは神羅カンパニーのトップソルジャーで英雄とまで呼ばれる男セフィロス。
その男がにやりと口元をゆがめて冷たい笑顔を浮かべた。
「パーシヴァル、ガーレス、トリスタン、リー、こいつを2週間でどこまで育てられる?」
「魔力は伸びを計算するとクラスB相当かと思われます。」
「腕を見て見ないとなんともいえませんが、クラス1stまでぐらいなら大丈夫でしょう。」
「今でも1stを倒すぐらいの実力を持っているようなので、下手すればクラスAあたりまで」
「そうですね、コレだけの数字ではなんともいえませんが、クラスCかB。」
「第13独立小隊なら実力主義の隊だ。この容姿を揶揄される事も無かろう。」
「御意に」
訓練所の教官は敬礼をしてクラスS執務室をあとにした。
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