午後からの訓練の前にみっちりと教官からお小言をもらったクラウドは、その後何事もなくカリキュラムを終えて訓練所の講堂へ歩いて行った。
 教官達の前に整列し訓練所長の話しを聞く事になっているのであった。
 所長が講堂の演台に立つと目の前の訓練生達を見渡しながら話しはじめた。
「本日をもって諸君の基礎訓練のカリキュラムが終った。明日からは配属に向けての訓練となる、各自の配属先はまだ言えないが、順次それに見合った訓練へと移行する事になる。あと一ヶ月で実戦配備だ気合を入れてやるように、以上だ!」
「アイ・サー!!」
 訓練生が全員そろって敬礼するのを見ると所長が満足げな顔でうなずき続けた。
「では、配備に向けた区分けをおこなう。呼ばれた者は各教官に付いて行くように。」

 訓練生の名前が呼ばれて行く、まず最初に訓練生の半分以上が呼ばれて講堂を出て行った。
 そして残りの半分が呼ばれ、残ったのが7人足らず。
 再び6人呼ばれ、いつのまにか講堂に残っているのはクラウド一人だけであった。
 そのクラウドの目の前に体格のいい4人の男が現れた。
 全員ニットのセーターとカーゴパンツといういでたちであったが全く隙が無い、クラウドは目の前の男たちからにじみ出る雰囲気に思わずからだが小刻みに震えていた。
 クラウドの教官であるレイナードが直接クラウドに説明した。
「ストライフ、お前はこの4人の特別教官達に2週間徹底的に扱いてもらう。お前の配属先はそれほど厳しい所だから覚悟しておけ。扱きに耐えられなかったらカンパニーをやめろ。」
「イェス・サー!!」
 クラウドが敬礼から直るのを見て目の前にいた男が表情を変えずに事務的に用件を伝えた。

「ストライフ訓練生。君は明日朝7時から休憩を挟んで二時間ずつ我々4人に順番に教育されることになった。そして残りの二週間は実際の配属先の連中に扱かれるから覚悟しろ。」
「さて、君の1番得意な攻撃分野は何かな?」
「はい、魔法です。野外演習授業でファイラをかけた事があります。」
「なるほど、では私が一番最後ですね。」
「次は?」
「剣術です、ジャン教官から一本取った事があります。」
「なるほど、では逆に苦手は?」
「組み手です。リーチ不足とパワー不足があります。」
「順番が決まりましたな。」
「ええ、明日からが楽しみです。」
 にやりと笑う目の前の4人の男たちをクラウドは背中に冷たい物を感じていた。

 その翌日からクラウドは4人の特別教官達に徹底的に扱かれては疲れ果てて寮に戻る日々を過ごしていた。
 寮仲間たちはクラウドがボロボロの状態で戻ってくるのでさぞかし凄い訓練を受けているであろうとは推測していたが、自分達も付いて行くのがやっとの厳しい訓練を受けているので彼をかまっている暇が無くなっていた。


 その頃ゴンガガ西100kmの地点に、セフィロスは自分の部下たちとともにミッションのため来ていた。
 ちょうど昼食を交代で食べようとしている時、ふとセフィロスは空を見あげてしばらく動かなかったので隊員達が不思議そうに首をかしげていた。
 食事を取ろうとしていたザックスがそんなセフィロスに声をかけた。

「セフィロス、食わないのかよ」
「ザックス。貴様は誰かに”どうかご無事で”と言われた事があるか?」
「いーや。ソルジャーにその言葉は冗談にも程があるぜ。」
「そうであろうな。」
「何?セフィロス、あんた女にそんな事言われたのかよ?」
「貴様、誰に向かって言っている。」
「だよなー、あんたみたいなこの世で一番強い男にそんな事言う奴の顔が見たいぜ。」
「私はさほど強くは無い、貴様達よりは多少強い程度だ。」
「それでも必ず生きて帰ってきているんだろ?それだけで十分強いさ。」
「…………」

 先に食事を取る為テントに戻って行くザックスの背中に何か言いたげな視線を送ると、セフィロスはもう一度空を見あげてから食事を取る為テントに入って行った。


* * *



 クラウドが4人の特別教官に扱かれはじめて二週間が経過した頃、クラスS執務室に訓練所の教官だったレイナードが扉をノックして入ってきた。
 クラウドを鍛えている特別教官達を見付けると近寄って話しかけた。
「失礼いたします。その後ストライフはいかがでしょうか?」
「約束通り明日には第13独立小隊に引き渡せます。」
「あいつはそれほど能力が高かったのですか?」
「ええ、予想以上でした。きっとキングもお喜びでしょう。」
「それはよかった。ではコレで失礼いたします。」
 レイナードは敬礼をしてクラスS執務室を後にした。

 ちょうどその頃、クラウドは訓練所でリーの魔法訓練を受けていた、そこへ黒革のロングコートをひるがえしセフィロスが入ってきた。
 セフィロスの姿を認めた時、リーの意識はセフィロスに向けられていたのでクラウドの唇が何か動いたのを知らなかった。

「キング、どうかされましたか?」
「ストライフ訓練生に用事がある、あとは任せろ。」
「御意に。」
 リーが深々と一礼すると魔法訓練所から出て行った。
 クラウドは窓も何も無い部屋にセフィロスと二人きりになった。

「貴様に聞きたい事がある、なぜこの私に『どうかご無事で』とか先程など『ご無事でよかった』などとつぶやいたのだ?」

 クラウドはセフィロスの言葉にびっくりした。
 声に出すとどんな声でも聞こうと思えば聞けると教えられたソルジャーの聴力ゆえ声に出さずに密かにつぶやいただけの言葉をセフィロスは正確にとらえていたのである。
 まっすぐな瞳で姿勢を正し敬礼したクラウドがセフィロスに言い返した。
「大変失礼いたしましたサー。しかしサーのご無事を願うことはいけない事なのでしょうか?自分はそうは思わないのでそのようにつぶやきました。」
「それはありがたいが、明日からはそれも出来ないような所に貴様を配属する事にした。配属先は第13独立小隊、そこがなんであるか知っているか?」
「イェス・サー!第13独立小隊、通称・特務隊。サー・セフィロス率いる最前線担当の精鋭部隊であります!」
「よく知っているな。では付いてこい!」
「はい!」

 きびすを返してセフィロスが治安部の廊下を歩きはじめた、クラウドは付いて行くだけで必死であったがなんとか引き離されない間に一つの部屋にたどりついた。
 セフィロスがノックもせずに扉を開けて中に入ると隊員達がさっと整列しセフィロスを敬礼して迎え入れた

 隊員達の前に悠然と立ちセフィロスが全員に言い渡した。
「注目!新入りを紹介する。クラウド・ストライフだ。貴様達も噂ぐらいは知っておるであろうが、不意打ちとはいえザックスを気絶させた訓練生だ。明日よりここで戦略のコーチと実践的な訓練に入る!クラウド自己紹介しろ」
「はい!クラウド・ストライフと申します。よろしくお願いいたします!」

 びしっと敬礼するクラウドの目の前でどこかで見たような男がニヤニヤとしていた。
 黒い髪をオールバックにして黒いノースリーブのニットにカーゴパンツというどこかで見たようないでたちの男はつい2週間前に食堂で気絶させた男だった。

「へぇ、お前ここに来たの。そりゃいいや。」
 その男の隣りに立っていた男が男に声をかけた。
「おまえ、本当にこの訓練生に気絶させられたのかよ?」
「ああ、おかげでそこの隊長殿に拳骨食らったよ。」
 そう言って爽やかに笑う男の瞳をクラウドはしげしげと見つめた。

 (不思議な瞳の色をしている あ、この男 ソルジャー!!)

 クラウドの背中に思わず冷たい物が流れたような気がした。
 あわててソルジャーであろう男の名前を記憶の中から探し出して問いかけた。
「あ、あの。サー・ザックスでしたよね?貴官の着て見える服は制服でしょうか?」
「いんや、1stまでは制服なんて無い。好きなカッコをしていていいんだぜ。それにしても…クラウド。お前は俺がソルジャーとわかった途端に態度を変えて・・・俺としてはあの時みたいにタメ口で話してくれたほうが好きなんだけどな。」
「で、できません!!ソルジャーに対してタメ口なんて…」

 ザックスとクラウドが話を続けていた時、セフィロスが話しを切った。
「ザックス、無駄口が多いぞ!リック、カイル、ジョニー!明日から3人でこいつを扱け。戦略は私はやる。」
「アイ・サー!」
「リック、カイル、ジョニー。言い忘れていたがクラウドはガーレスから最終的には一本取ったぞ。」
「な!!」
「うわ!!」
「ヒュー!!サー・ガーレスから一本取るなんて並じゃないな。」
「って、待てよおい!!まさか他の3人からも?」
「そのぐらいでなければここにはつれてこない。」

 クラウドはこの会話を聞いて自分を鍛えてくれた特別教官達がやはり名前の通ったソルジャーであると確信した。
 しかもその一人であるサー・リーがサー・セフィロスの事を「キング」と呼んでいたのを思い出すとクラウドはその事実に顔を真っ青にさせた。
「あ…まさかあの4人の特別教官殿は……、ナイツ・オブ・ラウンド?」

 ナイツ・オブ・ラウンド クラスSソルジャー達の別称であった。
 英雄セフィロスに無条件で従うような姿勢はまるで王に傅く騎士のようであったから付いた呼称である。
 セフィロスが冷たい笑顔でにやりと笑った。
「どうした?今ごろ気がついたか?」
「そ、そんな。凄い人達とは思っていましたがまさかクラスSソルジャーとは…」
「気にする事はない。この隊に入隊する者は全員同じことをしている。もっとも、あいつらの扱きに耐えられぬ様な輩はこの隊では生き残れない。明日からが楽しみだな。」
 セフィロスはきびすを返して執務室を出て行った。

 クラウドはその場で固まったままであったのでザックスに再びがしっとホールドされる。

「歓迎するぜ、クラウド。」
「や、やめて下さいサー!」
「いんや!やめねー!!お前が俺にタメ口使うまで俺が教育してやる!」
 セフィロスが居なくなると同時にザックスがクラウドをかまいはじめた。
 隊員達が呆れたような顔をしている。
「馬鹿やってろ。」
「あれで1stだぜ。」
「治んねえよ。なにしろ隊長にタメ口の男だぜ。」
「馬鹿ザル!あまり新入りを苛めるなよ。」
「かぁーーー!!ったく、あれで一般兵だぜソルジャーに対する態度かよ?」
 執務室を後にするリック達の背中にザックスが毒づいた。

 そのあと教官に呼び出されてクラウドは正式に配属命令書を手渡された、一緒に配属に伴う転寮手続き書も入っていたのでクラウドが教官に尋ねた。

「今の寮生達と一緒に過ごすことはできないのですか?」
「ミッションでいつ飛び出さねばならないかわからない隊だぞ。それに同じ隊の隊員の方が相互に起こせるから良いと言う方針で、訓練所を出たら隊ごとあつまって暮らす事になっている。」
「了解いたしました。」
「頼むから問題を起こすなよ、もう私は庇ってやれないぞ。」
「わかりました。」
 教官に敬礼をするとクラウドは間もなく後にするであろう自分の寮へと戻って行った。