翌日からクラウドは第13独立部隊の執務室へ出向き午前中はセフィロスの戦略シュミレーションを午後はリック、カイル、ジョニーと言うこの隊の一般兵トップ3を相手にした実践的な組み手というカリキュラムをこなすことになった。
朝一番に執務室に入るとクラウドは軽く掃除をすませ、パソコンを起動させる。
セフィロスがやってくるとパソコンのモニターにセフィロスが六角形の沢山並んだ地図を表示させ、そこに敵と味方の兵をいくつかのキーを叩いて配置していく。
配置が終るとセフィロスはクラウドに尋ねた。
「この配置をどう思う?」
「はい、茶色いコマの配置が良く有りません。この場合茶色のコマを……。」
パソコンのモニターを挟んでクラウドはセフィロスと1vs1で話し合っている、その内容はよくわからないが伝わってくる雰囲気はほんわりと温かかった。
ときおりクラウドの頭を撫でるセフィロスを見て隊員達がびくびくしていた。
それをザックスがいぶかしげに尋ねた。
「一体どうしたんだよ?」
「いや、あの隊長が…なあ。」
「あんな隊長見た事なくて…。」
「天変地異が起こらなければいいな、と。」
そんな事を言われて初めてザックスがセフィロスを振り返ると目を丸くした。
「な?!なんだよあれ?!明日は血の雨が降る!!」
ザックスが目を丸くするのも不思議では無い。
いまだかつてセフィロスが自分の隊員の頭を撫でると言う事などしたことがないはずだった。
ところが戦略シュミレーションをしているクラウドの頭を何度も撫でているのである。
しかもその行為は次の日も、その次の日も続いていた。
最初の日だけならまだしもセフィロスをよく知る隊員達に取っては天変地異と言うより、”熱でもあるんじゃないのか?!”状態であった。
隊の中で1番在任期間が長いリックがセフィロスに問いかけた。
「隊長殿、あの訓練生はそれほど能力が高いのですか?」
「何故そんな事を聞く?」
「隊長殿が下級兵をそれほど可愛がるとは思っていませんので…。おかしいですよ。一般兵など捨て駒だと我々におっしゃっていた隊長が、まだ足手まといの訓練生の頭を撫でるなど自分には信じられません。」
「この私が、そんな事をしていたのか?」
「隊長…。」
まさか無自覚だったとは思っていなかったのでリックはそれ以上の言葉を継げなかった。
しかし彼の様子がおかしいと思っているのは第13独立小隊の隊員達だけではなかった、セフィロスは同じことをクラスS執務室でbQであるランスロットにも言われた。
「キング、いかがされました?」
「何だ?」
「最近ご機嫌がよろしいようですが、何か良いことがありましたか?」
「いや、特に無いが。私が機嫌が良いだと?」
「ええ、この所ご機嫌が良い様にお見受けいたします。」
「ふざけるな!機嫌が良いなどとあり得ぬ!」
クラスSソルジャー相手に怒鳴りつけては見たが思い当たることはあったのでセフィロスは自問自答した。
(あの訓練生の頭を撫でただと?機嫌が良いだと?!この私がか?覚えてはおらぬな。まあ飲み込みは早い方であるし能力も高い。それは認めるが、なぜそんなことをしたのであろうか?わからんな、明日からは気をつけてみるか。)
そう思いつつ、自分の居室があるアパートメントへと愛車を走らせていた。
* * *
第13独立部隊に編入してしばらく経った時、クラウドは訓練生仲間だった同僚に言われた。
「クラウド、何かあったの?」
「何かって、何?」
「何だかお前、最近変わったよな。」
「変に突っ張らなくなったって言うか、うん。何かいい事あったの?」
「特に無いよ。毎日上官達に苛められているだけだけど」
「でも、凄いよなー。クラウドって俺達の中でもずば抜けて出来たけど、そのせいでサー・セフィロスの精鋭部隊入りだなんて、俺同僚としても鼻が高いよ」
「そういえば、あの時クラウドが気絶させたザックスって人、サー・セフィロスの副官だと聞いたけど本当?」
「うん、それ本当。俺、凄い人を気絶させたんだって思ったよ。でも、あの人俺をかまい倒すんだよ。何とかしてくれって。」
「あ、それ先輩から聞いたけどあの人に気に入られた証拠なんだって。」
「やめてくれ。俺は男だぞ。」
「じゃあ、サー・セフィロスならいいの?噂ではかなり気に入られてるみたいだね。」
クラウドはルイスの言葉に思わずドキリとした。
自分が知る”英雄セフィロス”は誰にも感情を見せる事なく、常に冷静で強いと言われていたが、実際接して見ると優しいとすら思ったのである。
戦略シュミレーションをやっている時に自分の頭を撫でてくれる大きな手にびっくりして、顔を向けたら口元がゆるやかな線をえがいていた。
(あ、笑ってくれた)
クラウドはその時そう思ったので思わずにこりと微笑み返していたのであった。
シュミレーションの結果が良いたびにクラウドはセフィロスに誉められた。
そしてそのたびに頭を撫でられて嬉しかったのであった。
心臓が跳ね返るのを感じながらもクラウドはごく当たり前の返事をした
「サー・セフィロスは特別だよ。」
「そうだよな。あの人に認めてもらえるなんて普通ありえないもんな。」
「俺も認めてほしーーい!」
「俺達平凡な一般兵には当分無理!」
それぞれのベッドで毛布にくるまりながら話し合っていたがそれぞれ疲れていたのですぐに寝入ってしまった。
翌日、いつものように執務室でクラウドの戦略シュミレーションがはじまった。
いつものようにすいすいとクリアして行くクラウドはいつまた誉めてもらえるか期待していたが、セフィロスは目が合うとすいっと目をそらしてしまったのである。
一度ではなくそれからずっとだった為クラウドは急に不安になって来た。
(俺、何か失敗したのかな?サーに嫌われちゃったのかな?)
不安が不安を呼びクラウドは常に暗い顔をするようになっていた。
クラウドが暗い顔をするのに比例してセフィロスは次第に苛つきはじめていた。
セフィロスの苛つきは日を増すほどに酷くなりクラウドの落ち込みは今では誰でもわかるほどであった。
午後からの立ち会いがだんだんとおかしくなってきていたので真っ先にリックが気がついた。
「クラウド、どうしたんだよ?力は入ってないし気はそぞろだし、先週までとは全然違うじゃないか」
「ご、ごめんなさい。」
「おまえ最近食べているのか?ちょっと痩せたんじゃないか。」
「何か悩みでもあるのかよ?」
親身に聞いてくる先輩兵達にクラウドは思わず聞いた。
「俺…、サーに嫌われているんでしょうか?」
「はぁ?!お前が嫌われているならとうの昔にこの隊を追い出されている。」
「どっちかと言うと気に入られていると思うぜ。」
「でも…。」
クラウドが口ごもったのでジョニーが訪ねた。
「でも、何だ?」
「視線を外すって嫌われている証拠じゃないんでしょうか?」
「俺達だってお前とこうして話していてもたまに視線を外してるぜ。」
「じろじろ見ている方がおかしいだろう?」
「じゃあ何だ。お前は隊長殿の視線だけが気になるだけって事か。」
「うわー、まるで恋する乙女だね!」
「おかしい奴!」
先輩たちに笑い飛ばされてもクラウドはまだセフィロスが視線を外す事が気になっていた。
(俺、やっぱりおかしいのだろうか?たしかにリックさんやカイルさん達が視線を外してもどうって事ないのに、サー・セフィロスの視線だけが気になるなんて・・憧れ過ぎて変になっちゃったのかな?でも、優しい瞳で見つめてくれていたんだよな。またあんな風に見つめられたいと、思うんだ。へへへ…。おかしいや、本当に恋してるみたい。)
クラウドはふたたびどっぷりと落ち込んだ
あまり落ち込んでいるので心配したザックスがクラウドに食事でも奢ろうと連れ出そうとした。
「クラウド、お前大丈夫かよ。最近ろくに飯も食っていないって聞いたぞ。今日は俺が奢ってやるから、ほれ!一緒に来る!!」
クラウドに有無を言わさずザックスは腕を掴みぐいぐいとカンパニーの駐車場へと引きずって行こうとすると通りすがりの一般兵達がザックスに対して立ち止まって敬礼しているのでクラウドがあわてて嫌がった。
「ちょっと、やめて下さい。サー・ザックス!!」
力を入れて突き飛ばそうとするがザックスがその気になったらクラウドにかなう訳がない、あっさりとずりずり引きずられだんだんと駐車場が見えてきた時だった。
ザックスとクラウドの後ろから声が掛った。
「ザックス、貴様そこで何をしている?!」
声をかけたのはものすごい形相をしたセフィロスだった。
(うわっ!! やべーー!!セフィロスのご機嫌が最低最悪だぜ)
ザックスは背中に冷たい物を感じて立ち止まった。
セフィロスがザックスの目の前に来るとさらに顔をしかめた。
「貴様がなぜクラウドを連れている?」
「こいつ、最近ろくに飯を食っていないから美味しい物を食べさせてやりたいって思ってさ。」
「ほぉ、貴様にそのような余裕があったとは思えないな。たしか先日のミッションの報告書は本日の19時が締め切りだったはずだ。」
「うえ!!クラウド、すまん!また今度奢ってやるから!!」
そう言うとザックスはあっという間に何処かに走って行ってしまった。
クラウドも居づらくてセフィロスに一礼すると宿舎へと戻って行こうとした時だった。
セフィロスがクラウドの背中に声をかけた。
「クラウド。貴様、食事をろくに食べていないと言うのは本当か?」
クラウドは振り返ると首を垂れて頼りなげに答えた。
「はい、あまり食欲が無いのです。」
「それはいけないな。食べねば体力も付かぬ上に遠征にも付いてこれないぞ。」
そう言いながらセフィロスはクラウドの瞳が自分に向けられていない事に気がついた。
その事実に思わず苛ついたがふと気がつくと何故そんな事で自分がイライラしているのかわからなかった。
クラウドに背を向けて歩き出そうとしたがなぜかもやもやとした感覚が自分の中に残っている。そんな時に後ろから声が聞こえてきた、宿舎に戻ろうとしたクラウドを見かけた誰かが声をかけたのであろうか?セフィロスが振り返ると声の主はクラスSソルジャーの一人でクラウドの特別教官の一人だったパーシヴァルだった。
「やあ、クラウド君ではないですか?」
「あ、サー・パーシヴァル。お久しぶりです。」
「おや?顔色が悪いですね。何かありましたか?」
「ちょっと・・食欲が無くて。」
「リック達に苛め抜かれているようですね、有望な証拠です。」
「では、失礼いたします。」
「あ、まった!食欲が無いのはいけない事です。私がいい食事を知っています奢りましょう。」
「そ、そんな!!」
否定してもがっちりと肩を抱かれて引きずられるように駐車場へと連れて行こうとして、パーシヴァルが思わず固まった。目の前に不機嫌この上ない顔をしたセフィロスが立っていた。
「パーシヴァル、クラウドを連れて何処へ行くつもりだ?」
「食欲が無いと言うので食事を奢ろうと…」
「ほぉ、珍しい事がある物だな。部下でもない一般兵に貴様が食事を奢る?明日はミッドガルに雪でも降るのかな?」
セフィロスに睨みつけられてパーシヴァルは両手を上げて降参のポーズをしながら、にこりと笑うとセフィロスに背を向けクラウドの頭を軽く撫で話しかけた。
「はやくソルジャーになるんだな。そうしたら私の副官に引き抜こう。」
クラウドはクラスSソルジャーであるパーシヴァルに認めてもらえたのが嬉しくて、にこりと微笑みおじぎをした。
「ありがとうございます!」
セフィロスはパーシヴァルに向けられたクラウドの笑顔を見てむっとした。
パーシヴァルからクラウドを引き離す為に腕を取って自分の愛車へと連れ込み助手席に押し込むと一気にアクセルを吹かしカンパニーを後にした。
残されたパーシヴァルがあっけにとられてセフィロスの行動を見ていた。
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