ミッドガルでもセキュリティーが高い事で有名なアパートメントの地下にセフィロスの車が滑り込むように入ってきた。
 車を止めるとクラウドを助手席から下ろすと高層階専用エレベーターに乗り込んだ。ほどなくして目的の階に到着したのか扉が開くと、すこしひろいエントランスの向こうにがっしりとした扉が一枚あった。
 セフィロスはクラウドの手を引いたまま、つかつかとその扉に向かい何かのパスコードを入れ、何かをのぞき込みそして右手をかざした。
 扉が静かに開くとそのままセフィロスはクラウドを扉の中へと誘った。

 扉の中はクラウドの寮の部屋が軽く3つは入るほどの広いリビングとキッチンがあり落ち付いたインテリアがまるでショールームの様に並べられていた。
 インテリアや照明はこだわりを感じさせたが、なぜかクラウドには違和感を感じた。
 まるでこの部屋が作り物の部屋の様で、もしこの部屋で生活する人が居るのであればそのひとはあまりこの部屋を好んで使っているようには思えなかった。
 ただ単にここに戻って寝るだけの憩いも何も無い空間、それがこの部屋から来る印象であった。

 クラウドがそんな事を感じながらぼーと突っ立っていると、セフィロスがキッチンの冷蔵庫から何かを探し出していた。
 クラウドが不安げな顔でセフィロスに訪ねた。
「あ、あの。サー・セフィロス、ここは?」
「ああ、私の部屋だ。」
「ええ?!」
「ろくに食べていないのだろう?ここには食料が沢山ある。食べて行け。」
 クラウドはあわててキッチンで何か支度をしているセフィロスのそばに駆け寄った。
「そ、そんな勿体ないです!これはみんなサーがご自分用に用意されたものではないのですか?!」
「ほとんどが何かの試供品だったり何処かのレストランの試食用だ、そんなもの喜んで食べたいとは思わんな」
 クラウドがセフィロスの手元を見ると冷凍になった丸鳥が袋に入っていた。
袋には調理の手順も書いてある。

「サン…ゲ…タン?」
「ああ、薬膳料理と聞いた。お前の様に食欲のない奴にはぴったりだ。」
 そういうと鍋に冷凍の鶏肉を入れて付属のスープを入れると火をつけてあたためる。
 便利ではあるがたしかに味気ない。

「すみません、冷蔵庫を開けさせてもらいます。」
 そう言うと冷蔵庫を開けて中身をチェックする。
 じゃがいもとベーコンがあったのでじゃがいもをさっと皮を剥いて薄くスライスし、フライパンで玉ねぎのみじん切りとベーコンを炒める。スライスしたじゃがいもを炒め塩と胡椒で味を調整しミルクを入れて少し煮立てる。
 ミルクがどろっとしてじゃがいもの芯が無くなった所で耐熱皿に入れ、上からパルメザンチーズをたっぷりとかけてオーブンで10分焼く。
 クラウドが母親から教えてもらった簡単なポテトグラタンの作り方であった。
 オーブンからチーズの芳ばしい香が漂ってくる頃鍋の「参鳥湯」が暖まった、深め皿を用意して鍋の鶏肉を取り出そうとしてクラウドは熱せられた鍋の淵に腕をちょっと付けてしまい思わず叫んでしまった。

「あっ!」
「どうした?」
「あ、いえ。ちょっと火傷しちゃったようです。」
「見せろ。」
 そう言うとセフィロスはクラウドの火傷した腕をみる。
 不意にセフィロスの唇がクラウドの腕に触れるとすうっと火傷の痛みが消えた。
 ただ単にセフィロスの唇が触れただけでクラウドの身体に電流の様な物が流れた
 跳ね返るような心臓の音を必死に押さえながらクラウドはセフィロスにお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。」

 どうやらケアルでもかけてくれたのであろう、既に水ぶくれもなくなっていたがクラウドは頬を赤くしてうつむいてしまった。
 再び鶏肉を取り分けようとトングをつかむが手が震えて巧くつかめない。

 (ど、どうしちゃったんだよ、俺?!ただ単に鶏肉を取り分けるだけなのにこんなに緊張するなんて…)

 クラウドが何とか鶏肉を取り分けてテーブルに並べると食事をはじめた、セフィロスと向かいあって座っているのであるが彼には何を話していいのかわからなかった。
 時折ちらりと覗き込む様に上目使いに見上げると、セフィロスがやわらかな視線を自分に向けているのが見える。
 すると自分の心臓がふたたびドキドキして押さえられなくなっていたのであった。

 (う、うわ!!ど、どうしよう?!お、俺…俺、サー・セフィロスに…)

 クラウドの頭の中はパニック状態であったので何も話せないのであった。
 もし何か話していたらとんでもない事を口走ってしまいそうで恐かったのであった。
 セフィロスは頬を赤らめて食事をするクラウドが可愛らしくてしかたがないので見ているだけで満足していたのであった。
 食事は静かに始まり静かに終った。
 後片づけをするとクラウドはカンパニーに戻るためにセフィロスに御礼を言って部屋を出ようとした。
「ごちそうさまでした。今日はありがとうございました。」
「なんだ、もう帰るのか?」
「はい、23時までに帰らないと消灯の点呼に間に合いません。」
「ならばもう少しなら良いな。久しぶりに美味しい物を食べさせてもらった。せめてその礼ぐらいは言いたい物だが?」
「あ、あの。そんなにいい物じゃないですから…」
 両手をわたわたと振って否定をするクラウドにセフィロスはゆるやかな笑みを浮かべて話しかけた。
「いや、私は私個人の為に作られた料理など久しぶりに食べた。おまえは料理がうまいな。」
「俺、母親と二人で暮らしていたんです。母は仕事で遅くまで働いていて、いつのまにか俺は母の代わりに食事を作っていましたから田舎料理ならできます。」
「そうか、母親仕込みか。」

 セフィロスがやわらかな視線でまっすぐクラウドを見つめている、それだけでクラウドは心臓が跳ね返るような気がしてきた。
 次第にクラウドの顔が赤くなって行くと視線を合わせることができなくなってきて思わず顔をうつむかせてしまった。
 クラウドの瞳が隠れてしまったのでセフィロスがちょっと苛ついた、クラウドの頬を手でなぞり細い顎を捕らえて自分を正面から見つめさせた。
 しかしクラウドの青い瞳はセフィロスを見ようとはしていなかった。

「おまえも私が恐いのか?」
 セフィロスはついクラウドに尋ねた。
「いいえ、サーこそ俺を嫌っていらっしゃるのではないのですか?」
「はぁ?嫌っているだと?何をもってそう思う?」
「最近サーは俺がシュミレーションでいい点を取っても全然誉めてくれなくなりました。だから…俺。俺、貴方に嫌われていると…」
 クラウドの青い瞳から涙がぽろりとこぼれ落ちた時、セフィロスの中で何かが弾けた。

「嫌っていたらお前を部屋になど入れぬ。もう泣くな、お前に泣かれたらどうすればいいのかわからなくなる。」
 そう言いながらクラウドを抱き寄せた。
 セフィロスはこの部屋にクラウドを連れ込んだ理由が思い当たらずにいたのであったが、ただ一つだけ言える事は腕の中のクラウドが何処へも飛んで行かないようにと思う自分がいたと言う事である。

 なぜそう思うのかセフィロスは自問自答して見た。
 クラウドの瞳を見ていたいのは確かであった。
 パーシヴァルに微笑みかけたクラウドを見ると苛ついた。
 つまりクラウドの瞳が自分に向けられるのは良いが他人には向けてほしくないと思っている。

 なんだ、そうだったのか。
 セフィロスの中で答えが出た。

「クラウド、どうやら私はお前を寮に帰したくなくなってきた。」
「え?!」
「誰にも渡したくない。私のモノになれ。」
「ええ?!ど、どういう…」
「どうやら私はお前を独り占めしたいらしい。」
「サー…」

 クラウドの青い瞳がこれ以上無いぐらい大きく見開いている。
 セフィロスから告げられた言葉が頭の中を過った。

   俺を……寮に帰したくないって…
     俺を独り占めしたいって…
       それって、まさか…

 クラウドの顔が一瞬にして恥ずかしさで真っ赤になるが心のどこかで嬉しいと思う気持ちがあった。

 クラウドはその童顔からよく一般兵にナンパされていた。
 男と付き合う趣味など無かったので一般兵にナンパされた時は嫌悪感しかなかったが、セフィロスの言葉を聞いた時は”嬉しい”と素直に思った。

     ああ、俺。この人が…セフィロスが好きなんだ。
       そして、たぶん…セフィロスも…

 クラウドはどぎまぎしながらセフィロスに聞いた。
「俺、男ですよ。」
「ああ、知っている。」
「俺…あ、あなたが…」

 クラウドが言葉を継ごうとしたがその言葉はセフィロスの唇に遮られた。軽くついばむようなキスを受けてクラウドの瞳はまん丸く見開かれていた。
 そんな初々しい表情を見てセフィロスがにやりと笑いながら話しかけた。
「キスをする時は目を閉じるのが礼儀だぞ。」
「え?あ、はい。」
 素直にクラウドが瞳を閉じたので再びセフィロスは唇を重ねた。

 抱き寄せている身体は力が入ってかちんかちんであるうえ、年齢を考えればクラウドにこの手の経験が無いのは目に見えていたのでセフィロスは思わず苦笑する。

 (まったく、教えがいがあるとはいえ、とんだお子様を口説いた物だな。)

 そう思いながらも、セフィロスはどこか浮かれている自分を感じていた。

 触れるだけの口づけからちょっと舌をだしてクラウドの唇をなめてみると、身体をふるわせながらも受け入れてくれた。
 そのまま舌をクラウドの口の中にさし込むと、一瞬瞳が見開かれたが、抵抗される事なく瞳も再び閉じられた。
 深く、軽くと何度もキスをされているうちに、クラウドの身体のこわばりが消え、すべてをセフィロスにゆだねるかのように力が抜けてきた。
 セフィロスはそんなクラウドにほくそ笑むと、軽々とその華奢な身体を抱き上げて、ベッドルームへと誘うのであった。