神羅カンパニー 訓練所 寮
夕食後のゆっくりとした時間を寮長が過ごしていた時に外線の直通電話が鳴り響いた。アレックスは電話に表示された電話番号を見ていきなり電話を取る手が震えた。
(自分の記憶が正しかったら今表示されている番号は…)
そう思いながらかかってきた電話を取った。
「はい、こちら神羅カンパニー 訓練所寮です。」
「セフィロスです。ストライフ訓練生が食欲が無かったので、栄養を付けさせようとしたのですが、どうもお腹を壊したようなのです。私の不行き届きなので医者に見せたい、済まぬが外泊を許可されたい。」
「サ、サー・セフィロス?!なぜ貴官がストライフ訓練生を?」
「彼は私の部下だ。」
「そ、そうでありましたか?!知らぬ事とはいえ大変失礼いたしました!ストライフをよろしくお願いいたします!!」
電話の向こうでまるで直立不動で敬礼していそうな雰囲気である、セフィロスは思わず苦笑しながら返事をした。
「配慮に感謝する。」
そう言って電話を切った。
アレックスが受話器を置いて安堵した時、彼の前を偶然ザックスが通りかかったので声をかけた。
「ザックス、ストライフは貴官の所に配属されたのか?」
「ん?はい、そうですが?」
「食欲が無いとか言っていたらしいが、本当か?」
「ああ、本当。夕食に何か美味しい物を食べさせてやろうと思ったけど、書類の提出があったからダメだったんだ。」
「そうか、教えてくれてありがとうな。あいつはああ見えて素直でいい子だから、仲良くしてやってくれよ。」
「おう!それは任せてくれ!」
胸をポンと叩いてにっかりとわらう彼を見て、アレックスはどこかホッとした物を感じていた。
目の前の青年は人当たりがよく、世話焼きで部下の面倒見が良い。
そんな青年と一緒に居れば、あの訓練生もそのうち喧嘩をしなくなるのではと思ったのであった。
その場から去って行こうとしたザックスが、急に思い出したようにアレックスに問いかけた。
「あ、ところでクラウドって、明日か明後日あたり転寮ですよね?もう相棒決まっているのかなぁ?」
「残念だがそれは教えられないことになっている。」
「まあいいさ、その日になればわかるし、どっちにしろ俺達の中の誰かだしね。」
「そう言う事だな。」
片手を上げてザックスがその場を去って行くと、アレックスは点呼表のクラウドの欄に『腹痛による通院の為外泊』と記入しておいた。
* * *
翌朝、訓練所の寮長のところにセフィロスが出向いた。
昨夜の電話を覚えていたので、寮長のアレックスは心配げな顔で対応した。
「サー。ストライフはまだ治らないのですか?」
「ああ、かなり酷い様だ。今日は転寮の日と聞いているが、あの様子ではまだ戻せぬな。済まぬがクラウドの着替えが欲しい」
「お待ち下さい」
そう言うとアレックスは内線電話でどこかに連絡をした、数分後現れた訓練生はクラウドの同僚達であった。
目の前に立っている男を見てつい大声を上げてしまった。
「あ、サー・セフィロス!!」
「うわ!!」
「おい。敬礼!!」
がちがちに固まったまま敬礼をする訓練生達だったが、アンディの持っていたリュックを見て寮長がうなずいた。
「ストライフは昨夜腹の調子を崩したようでな。この着替えはあずかるぞ。」
そう言って訓練生からリュックを取り上げ中身を確認すると、間違いなくクラウドの着替えと制服、身の回りの物一式が入っていた。
訓練生はがちがちに固まったまま、回れ右をして元来た道を帰って行った。そんな様子に寮長が苦笑いをしながらセフィロスにリュックを渡した。
「ストライフの転寮は元気になりしだいでよろしいでしょうか?」
「そうだな、早く元気になってもらわねばミッションに連れて行けぬ。」
そう言いながらセフィロスはアレックス寮長からリュックを受け取り執務室へと戻って行った。
第13独立小隊執務室では、いつもなら一番に顔を出すクラウドが今日はまだ顔を見せていないので、隊員達がうわさをしていた所にザックスが入ってきた。
ザックスはクラウドがいない事に気がつくと周りの隊員に聞いた。
「あれ?クラウドは?」
「まだ顔を見ていません。」
「あいつがこんなに遅いなんておかしいぜ。」
「昨日の夜、やっぱり無理やりにでも飯食わせに行けばよかったかなぁ?」
「ああ、だいぶ食欲が無かったみたいだからな。」
ザックスや隊員達が雑談を繰り広げていると、ノックもなしに扉が開いた。途端につい先ほどまでのんびり雑談を繰り広げていた隊員達が一斉に整列し敬礼した。
扉を開けて入ってきたのはセフィロスだった。
目礼するとセフィロスは話しはじめた。
「ご苦労。ストライフだがどうやら昨夜食べさせた物が悪かったらしい、食あたりで寝込んでいる。」
ザックスがセフィロスの言葉を聞いてびっくりして聞き返した。
「って、セフィロス。まさかあんたが?」
「私が、何だ?」
「訓練生に食事を奢った…て、事なんですか?」
「否定はせぬ。しかし私とて上官には変わりなかろう?」
「それはそうですけどね。まあ、いいか。クラウドは無事なんだな?」
「死にはしないとだけ言っておこう。」
相変わらずのセフィロスの様子に隊員達のほとんどは納得していたが、一人だけ憮然とした顔をしていた男がいた。
影の隊長とまで呼ばれている男、リックであった。
自分が付き従ってきた5年の間に、セフィロスが隊員に食事を奢ったと言う事は一度も無かったはずであった。
しかし、この時はふと違和感に気がついただけだったので、すぐに入ってきたミッションへの対応に追われて、感じた違和感すらどこかへと忘れ去られてしまった。
ミッションの内容はコンドルフォート南の島にある遺跡の調査という事だった。
生息モンスターもかなり強く、まともな地図も無いうえに厄介な事に遺跡には、いろいろな先人達の仕掛けがあると言う噂だ。セフィロスがそうであるようにリックも、このミッションをいかに遂行するかを考えはじめていた。
やがて昼食の時間になった、隊員達がそれぞれ昼を食べに行こうとした。
ザックスはセフィロスに声をかけた。
「セフィロス、昼飯に行こうぜ。」
しかしセフィロスはすでに扉を開けて部屋から出て行こうとしている所だった。
「残念だが先約がある。」
それだけ告げると早足でどこかへ去って行った、そんなセフィロスを見てザックスが憮然とする。
「相変わらずつれない奴だ。」
「隊長相手にランチ行こうと声をかけるだけ凄いって。」
「貴様のその根性だけは誉めてやる。」
隊員達がそれぞれ昼を食べにどこかに出掛けた。
執務室を一足早くでたセフィロスが向かった先は駐車場だった、愛車に乗り込むとアクセルをべた踏みしてタイヤをきしませながらカンパニーを後にする。
セフィロスの乗った車はあっというまに高速を駆け抜けて、自宅のあるアパートメントの地下駐車場へと吸込まれるように入って行った。
自室のある階へと降り立つと、ドアのキーを解除しようとするが中から鍵が開いて扉が開いた。
扉の向こうには金髪碧眼の訓練生が、ややうつむきながら頬を染めて立っていた。
「あ、あの おかえりなさい。」
上目使いの青い瞳にちょっと拗ねたような口元、どれをとっても可愛らしいことこの上ない。
思わずセフィロスは抱き寄せてその頬にキスをする。
「大丈夫か?」
「あ…え、ええ。」
「明日からミッションだ。コンドルフォートの南の島へ3週間の予定だ、行けるか?」
「はい。行きます。」
「仕事先では区別はせぬぞ。」
「はい。」
クラウドは多少頼りなげに立ってはいるが顔色は悪くはなかった。
うなずくクラウドを抱き寄せて部屋に入って行くと、キッチンから良い香りがしていた。
ふと見るとテーブルの上にサンドウィッチとポタージュスープ、野菜サラダとヨーグルトが綺麗に並べられていた。
セフィロスは目を丸くしてクラウドを見た。
「お前…。」
「俺が出来る事なんて、こんな事しかないですから。あ、午後からミッションのための会議ですよね?俺、行きますから。」
「それでは、お前は寮に入る事になるな。私は帰したくないのだが?」
昨夜のうちに思いを通じあえた二人は、もうすでにお互いしか目に入っていない状態で、お互いのいない生活などすでに考えられなくなっていたのであった。
昨夜はクラウドの体調不良を理由に外泊出来たが、出社すると言う事は体調不良も治ったと言う扱いになりクラウドも寮に戻らねばならなくなる。
今夜また体調不良で外泊すると、明日からのミッションには連れてはいけないと言うことになる。
それはクラウドの意思に反する。
寮の外で生活するにはクラウドは、まだ一般兵で収入もあまり無い上に、任務上の都合と言うことも通用しないし、近しい親戚もミッドガルにいない。
一旦寮に戻ってしまえばクラウドに外泊の自由は無いはずであった。
しかしセフィロスはクラウドの意志を嬉しくも思っていた。
相反する思いが瞬間的に駆け巡ったが結局クラウドの意志を尊重する事にした。
軽くうなずくとセフィロスはクラウドに話しかけた。
「クラウド、リュックは一応持って行け。会議後2時間で出発する。」
「はい!」
クラウドは元気よく返事をすると勢いよく食事をほおばりはじめた。
* * *
お昼の休憩が終わる頃、リュックを背負ってクラウドがよたよたとゲートを通り、そのまま第13独立小隊の執務室に顔を出す。
その5分後、セフィロスの車がカンパニーの駐車場へと滑り込み悠然と執務室へと歩いて行った。
第13独立小隊の執務室の扉をノックしてクラウドが現れた。
まだ隊員達は昼食から戻ってきていないのか誰も居なかったが、クラウドは自分のデスクの上に置かれたミッションの書類を取り上げて読みはじめていた。
そこへザックスが戻ってきた。
「お、クラウド。大丈夫かよお前?」
「あ、サー・ザックス…。うっ!!」
ザックスに気がついて立ち上がって敬礼しようとしたクラウドが急にうずくまったのでそれを見てあきれた声でザックスが話しかけた。
「なんだぁ?お前まだ寝ていないとダメなんじゃないか?」
「あ、でも。もうほとんど大丈夫です。それに俺、絶対このミッションについて行きたいのです。」
「まあ、わからんでもないけどな。移動に時間がかかるから、むこうに付けば普通に動けるか。クスリを忘れるなよ。」
「ありがとうございます!」
クラウドがザックスに向かって敬礼した時に他の隊員達がぞろぞろと戻ってきた。
全員クラウドの顔をちらりと見ただけで何も言わずにそれぞれのデスクにつくので、ザックスが呆れたような声を出した。
「あら〜〜、冷たいのねん?」
「ここにいると言うことは完治したと言う事だ。何を気づかう?」
「自分で判断した事を俺達が何を言っても仕方がない、ただ言える事は一つ。足手まといになるなよ」
「もとより承知です!」
クラウドの強い意志の瞳を確認しリック達が軽くうなずいた所でいきなり扉が開いた。
隊員達が瞬時に整列する、扉の向こうからセフィロスが現れた。
隊員達を一瞥するとおもむろに話しはじめた。
「全員いるな?今からミッションに対応する為の会議を始める。尚、このミッションは会議後2時間で発動する。会議終了後各自装備を揃えて滑走路横の駐機場に集合、クラウド貴様の装備は会議後に渡す。では、始める!」
ミッションの会議が始まった。
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