黒いスーツの男は軽くクラウドの肩に手を置いただけで、少年兵の動きを牽制した。ルーフウァスがにやりと笑うと、黒服の男が軽く会釈をした。
 ルーファウスは何も無かったかの様に話を続けた。
「あとは君たちしだいなのだが、クラウド君だったかな?特に君に相談したい事がある。君が副隊長まで駆けあがれば、社外の何処で生活しようと我々の関与する事は無い。しかし一般兵のままセフィロスと共に暮らすと、先程僕が言ったよりも遥かに嫌な事を言われると思う。セフィロスの為にも、それを避けたいとは思わないかね?」
「サーの為?」
「セフィロスの恋人が、女性であれば誰も文句は言わない。それはわかるだろう?だから君は寮で生活し、普通の一般兵として暮らすのが1番だ。」
「それは認めぬ。クラウドの潜在能力はかなりのモノだ、下手な一般兵達と共に過ごすよりは、士官候補生として徹底的に教育する。」

 セフィロスの言葉にルーファウスは皮肉気な笑いを見せた。
「素直じゃないね。恋人を手離したくないだけじゃないのか?」
「教育するなら同じ隊の者が教育するのが筋であろうが。」
「ああ、認めないのか。それならいい、せっかく君たちの味方になろうと言うのにね。僕ならクラウド君をまったく別人として君の恋人にできるんだけどなぁ。」
 ルーファウスが肩をすくめるように書類を机に置くと、思わせぶりなため息をついた。
 しばらくクラウドがうつむいて何かを考えていたようだが、意を決したのか顔を上げてまっすぐルーファウスを見て話しはじめた。

「自分はサーの足手まといにはなりたくありません。サーのマイナスになる事もしたくはありません。ルーファウス社長が考えた事がサーのためになるのであれば、自分は従います。」

 クラウドの言葉にルーファウスがにやりと笑った。そしてクラウドに対してプリントされた写真を一枚見せた。

「これ、誰だと思う?」
「自分です。」
「コラージュしてみると。ほら、こうなる。」
 ルーファウスがもう一枚のプリントをクラウドに見せた。
 プリントされていたのは金髪碧眼の可愛らしい少女である。白いコットンドレスが良く似合っていた。が、クラウドがルーファウスを睨みつけた。

「自分が女みたいだと言う嫌みですか?」
「この写真をカンパニー系列のデザイナー数人に見せたら、モデルとして登用したいと返事をしてきた者が二人いた。そこで提案だがね、クラウド君にモデルと言う副業を斡旋しよう。もちろん収益が上がれば収入を与えよう。クラウド君が一人の女性を演じればセフィロスのそばに居る事を認める事にした。」
 ルーファウスが手を鳴らすと3人の男女が部屋に入ってきた。
 ツォンが3人をクラウドとセフィロスに紹介する。

「ティモシー・ルーサー、法律事務所勤務の司法試験所持者。ミッシェル・ファビオン、スタイリスト兼メイクアップアーティスト。グラッグ・レイズ、カメラマンのホルスト・ペイジの弟子です。」
「君たち3人にはこの子をモデルとして売り出してほしい、できるかな?」
「男の子だったのですか。私が呼ばれた理由がわかりました。」
「カンパニー所属の兵士ですか?可愛い女の子だと思っていたのに。でも、面白そうだわ。」
「自分は仕事が出来て収入が得られるのであればそれでいいです。」
「さて、どうする?」

 ルーファウスが椅子に座って足を組み、クラウドとセフィロスに向かって意味深な笑みを浮かべていた。
 セフィロスは何も表情を変えずにその場から立ち去ろうとした時、クラウドが顔を上げた。

「それが本当にサーの為になるのであれば、やります。」
「君ならそう言うと思ったよ。期間は君がソルジャーとして大きく肉体が変わってしまうまでで、どうかな?」
「ほんの2、3年なのですね?わかりました。」
 クラウドが了承すると、ルーファウスが書類を一枚クラウドに渡した。

「モデルとしての契約書だ。隅々まで読んで納得したらサインしてくれ。」
「クラウド、やめておけ。お前ならすぐに誰しも文句を言わないほどの士官になれる。」
「その間にサーに何かご迷惑をお掛けする訳にも行きません。」
 セフィロスの言葉にそう答えると、クラウドが契約書に目を通しサインを入れた。
 セフィロスが苦々しげな顔をしてそれを見ているのをルーファウスが冷たく笑いながらすかさず揶揄した。

「おや?気に入らないみたいですね。」
「当たり前だ。何を望む?!」
「嫌ですね、貴方にへんな風評被害が及ばない様に考えただけなのに、それを好意と取ってはくれないのかね?」
「取れぬな。」
「貴方への風評被害はわが社への風評被害です。私が手を貸してもおかしくは無い。ああ、そうだ。クラウド君の初仕事だがね、カンパニーの一般公開用のポスターだよ。セフィロスと共に今すぐ撮影に入ってくれ。」

 有無を言わせずにスタイリストのミッシェルが、クラウドをガシッとつかまえて用意された控え室へと連れ込むと、白いコットンドレスに着替えさせられ、付け毛をピンクのカチューシャで止め軽く化粧を施した。
 その出来栄えにスタイリストのミッシェルが満足する。
「う〜ん、想像以上!」

 鏡に映っているのは何処からどう見ても正真正銘の美少女である。
 クラウドは思わず自分の手をちょっと動かして見た。すると鏡の中の女の子も手を同じように動かすのであったので、思わずつぶやいた。
「これ…俺ですか?」
「間違いなく君よ。」
「俺、こんなに女顔だったんだ。」
 軽くため息をつくとミッシェルと共に部屋から出る。
 部屋から出た途端、その場にいた全員の視線がクラウドに集まったので、おもわずうつむいて頬を赤らめてしまった。

 クラウドのスタッフになる二人が呆れたような声を出した。
「これは、参りましたね。」
「何処からどう見ても抜群の美少女だ。」
 ルーファウスやツォンにいたっては目を丸くして唖然としてクラウドを見ている。
 いつもと何も変わらないのはセフィロスだけであった、憮然とした顔をしてルーファウスに向かって話しかける

「一般公開用のポスターだと?そんなもの毎年の奴を使いまわせばよいではないか?」
「彼のデビューとしては最高だと思うのだがね。君はいつもの様に撮影で知り合ったと言えるだろ?」
「茶番だな。」
「しかし筋は通るぞ。」
 しばらくセフィロスはルーファウスを睨みつけていたが、不意に立ち上がりカメラマンであるグラッグに声をかけた。

「さっさと終らせろ、何処でどう立てばよい?」
「あ、そうですね。サーはそのまま腕を組んで彼を見て下さい。君はそのままサーの前に立って。」

 クラウドがセフィロスの前に立つと恥ずかしさから、うつむきがちの上目づかいでセフィロスを見あげている事になる。その顔がまた可愛らしいことこの上ない!  by 英雄視点
 思わずセフィロスの視線がゆるやかになり、口元に自然な笑みが浮かんだ。
 その瞬間を逃さずにグラッグがカメラのシャッターを押した。

 この時、運命の歯車が一つ小さく動きはじめた。
 小さな歯車はまだ何も動かす力は無いが、やがて大きなうねりとなってあらわれるであろう。しかし今はまだ誰もそれを感知する事は出来なかった。

 翌日、カンパニー内外に張り出されたポスターの美少女に、問い合わせが殺到した。
 大半は美少女の素性を尋ねる電話であったが、中にはモデルとして使いたいという申し込みも少なからずあった。
 ある程度の反応はあると踏んでいたルーファウスが、ほくそ笑んだのは言うまでもない。
 治安部内でもそのポスターは物議を醸し出していた。
 兵士達のほとんどはポスターの少女の可愛らしさにノックアウトされていたのであったが、クラスSトップソルジャー達の見方はちょっと違っていた。

「どこかで、出合っているような気がするのですが、気のせいでしょうか?」
「私もそう思えるのですけど。」
「おや、同じ意見ですね。」
「やはりそう思いますか?実は私もです。」
「お前達、気がつかないのか?この少女は、お前達もよく知っている少年だ。」
「まさか?!あの子ですか?」
「顔をよく見ろ、間違いなかろう。」
 ランスロットに言われてポスターの少女をよく見ると、次第に自分達が教えた訓練生の顔だちと一致した。

「やはりクラウド君か、どう言う事だ?」
「若社長が何を考えて彼に女装させたのかはわからぬし、我々がキングのプライベートに関与することはできない。何があっても見守るしか出来ないとは思うが?」
「しばらくは様子見ですか、しかしコレは使えますね。女性が必要なミッションに彼を使うことはできませんか?」
「確かに使えるな。」
 クラスSトップソルジャー達が密やかにうなずいた。

 クラウドの知らぬ所で大きな動きが動きはじめていた、
 しかしその動きが表に出てくるまでに、まだしばらく時間がかかるようであった。

− KNOCKIN'ON  YOUR  DOOR −  The END