その日の執務を終えて、セフィロスが自室のあるアパートメントに戻って行く。
いつもと変わらない様子は、クラスSソルジャー達に何も疑問を浮かべさせる事はなかった。しかし愛車のドアを閉めた途端に、思わず笑みが浮かんでくるのを抑え切れなかったのであった。
(まさか…クラウドかこれほどまでに潜在能力があったとは…これで寮に帰さずにすむ。)
セフィロスはたしかに士官候補生を育てた事はなかったが、バハムートを召喚出来る一般兵という理由は大手を振ってクラウドを自分と一緒に生活させるだけのモノがあると思っている。
それは誰にも文句が言えるモノでもないはずであった、が!!たった一人不満に思っている男がいた。
神羅カンパニー総帥プレジデント・神羅の長男で社長のルーファウスであった。
治安部より提出されたセフィロスの士官候補生育成の申し込みを見て、ルーファウスは自分の配下の人物であるタークスのツォンを呼びつけた。
「ツォン、あのセフィロスが士官候補生を育てたいと申し込んできた。かつて何度頼んでも断ってきた男だぞ、何かあると思わんか?」
「治安部よりその話は聞いております。一般兵がクラスSですら呼ぶことが難しい竜王バハムートを召喚したらしいです。」
「それが理由になるとも思えないな。」
ルーファウスが持っていた書類を手渡した、ツォンはその写真を見て目を丸くする。
「たしかにバハムートを呼べるようなイメージではないですね。」
「絶対何か裏がありそうだ。彼は今までどんな優秀な兵でも育成したは事ない。裏があるなら弱点になる、握っておいたほうがいいんじゃないのかな?」
「まず十分に調べてから行動に移しましょう。」
ルーファウスに一礼するとツォンはタークスの執務室に戻り、部屋の中で半ば遊んでいた赤毛の男の顔を見て、その男がたしかセフィロスの部下と仲がいいと言う事を思い出した。
「レノ、おまえ確かサー・セフィロスの部下と仲がよかったな。」
「ああ、ザックスですか?まあ、遊び仲間だな。」
「では任務だ。金は公費で持つからその男からクラウド・ストライフ二等兵の事を聞いてこい。」
「へぇ…ありがたいんだな…っと。」
黒いスーツに赤いネクタイをだらしなくぶら下げてレノが部屋から出て行った。
その夜、遊び友達の誘いに乗って遊びに出掛けたザックスが、レノの言葉の罠にはまってあっという間に洗いざらい話してしまうのに時間はかからなかった。
ザックスの愚痴のような話しに相槌を打ちながら、レノは自分の聞いた話を信じられないまま、こっそりと録音していたのであった。
翌朝、その録音を聞いたツォンとルーファウスが目を丸くしたのも当然であった。
まさかかのサー・セフィロスともあろう男が選んだ恋の相手が少年兵だったとは思いもしなかったので、レノの報告と録音を聞いてしばらく立ち直れなかったのであった。
「本当にウィークポイントだったとはね。ツォン、うまくイニシアチブを握れないモノかな?」 注)イニシアチブ = 主導権を取る(握る)の意味
「士官候補生としてサー・セフィロスと共に彼が過ごす事になれば、あっというまにいろいろと風評が広がります。治安部内でもいざこざが起こるでしょう。前途有望な兵士ならば彼を守ると言う意味でも何か考えねばなりません。」
「有能なのは有能らしいんだな、っと、治安部のトップソルジャー達がぜひ育てたいと申し込んだらしいが隊が違うと断ったらしいんだな。」
「理にはかなっています。」
「ふん、クラスSはそれで誤魔化せても、先程の話を聞けば誤魔化せぬ。しかし可愛い子だね、女の子にしても十分通用しそうだ。ふふふふふ…セフィロスの驚く顔もみたいな。」
「了解しました。手順通り面接の手配をしておきます。」
「ああ、ツォン。もう一つ頼みたい事がある。」
ルーファウスはツォンになにやら相談事をもちかけていた。
長い事話し合っているうちにツォンはうなずいて社長室から出て行った。
一方、クラウドの意識はその日やっと戻った。
最初はなぜ自分が広いベッドの上で寝ているのかわからなかったが、起きてベッドルームから出るとそこがセフィロスの部屋であるとわかるまでしばらくかかった。
ぽつんと広いリビングのソファーに座っているとお腹がなったので、どうしようかと迷っている時に玄関がいきなり開きセフィロスが入ってきた。
扉を開けて目に飛び込んできた光景にセフィロスがびっくりするが、すぐにクラウドのそばに駆け寄った。
「いつ起きたのだ?」
「あ、ほんのつい先程…俺、一体?」
「バハムートを召喚したのは覚えているか?無理をして召喚獣を召喚し、精神的ダメージを受けてほぼ3日意識不明で寝込んでいたのだ。」
「み、三日も経っているんですか?!」
「現在ミッドガル標準時で4月21日12:15分だ。」
「あ、じゃあ隊長殿は…」
「お前の様子をみがてら昼食を取りに来た所だ。」
そういうとセフィロスはクラウドの額に軽くキスをしてからキッチンへと入り、冷凍庫の中からリゾットのレトルトを2つ取り出すとレンジで温める。深めの皿に中身を開けるとクラウドの座っているリビングのソファーまで持ってきた。
「そ、そんな!!」
あわてて立ち上がろうとしたクラウドは、3日間食べていなかった為かふらふらっと立ち眩みをしたあげく、その場にしゃがみこんでしまった。
「無理をするな。飲まず食わずで3日も寝ていれば誰しもそうなる。午後からは出られるのであれば、事後処理で出てもらうからしっかり食べろ。」
「は、はい。」
大きくうなずいてクラウドがリゾットを食べようとした時、セフィロスの手がすっと伸びて細い顎を捕らえられて正面を向かせられたと思ったら、いきなり唇を奪われ軽い口づけを受けたかと思うと抱きしめられた。
耳元で聞こえる安堵したような長いため息は、クラウドの聞き間違えでは無かった。
「生きた心地がしないと思ったのは、これが初めてだな。頼むから無茶をするな。」
震えるような声、強く抱きしめて来る腕が、トップソルジャーであるセフィロスがいかに自分を心配していたかを伝えてくれていた。
しかしクラウドにも譲れない想いがあった。
「今は無理かもしれないけど…俺、いつか貴方の隣りに立ちたい。貴方を守るなんて無理な事かもしれないけど、せめて俺だけはそう言う気持ちを持ちたいんだ。」
「それは嬉しいが、もう少し力をつけてからにしてくれ。」
もう一度ついばむように唇を重ねるとセフィロスはキッチンへと行き、自分の昼食用の食事を温めて持ってきた。
テーブルを挟んで向き合って食事をするが気の効いた話ができる訳でもなく、ただ黙って…時折向けられる優しげな視線に頬を赤らめるだけのクラウドであった。
午後から出社したクラウドを待っていたのは先のミッションで入手したマテリア、バハムートの扱いとセフィロスの育成する士官候補になれるかもしれないと言う報告であった。
会議室で居並ぶクラスSソルジャーを前にバハムートのマテリアを、ミスリルセイバーから取り出してテーブルの中央に置いたクラウドは、クラスSソルジャー達にバハムートのマテリア取得の状況を聞かれ、遺跡の中で出合ったドラゴンの事を話すと、クラスSソルジャー達が目を丸くした。
バハムートの姿を見て恐がる事もなく、その声まで聞くことが出来る力を持つ少年を、クラスSソルジャー達は、自ら盟主と崇める男が育成する事に何も疑問を持たなかった。
クラスSソルジャーを代表してランスロットがセフィロスに話した。
「我々はストライフ二等兵をキングの育成する士官候補生と認めます。しかしキング、いまだかつて士官を育成したことのない貴方が、特例とはいえ近くに一人置くとありとあらゆる風評が広がりますよ。」
「そんなもの言わせておけばよい。クラウドならばあっという間に実力で跳ね返す。」
「クラウド君にその覚悟は有りますか?君がセフィロスと24時間一緒に過ごすと、実力ではなく君のその顔だちや、下賎な奴など身体で取り入ったと言われますよ。」
「そ、それは…」
クラウドが顔を青くした時に、セフィロスの携帯が鳴り響いた。
携帯の番号を見たセフィロスが軽く舌打ちをして携帯にでた。
「なんだ。ああ、書いたが?ふん、仕方がないな。」
セフィロスが携帯をポケットにしまうとクラスSソルジャー達を一瞥した。
「ルーファウスが士官候補生の面接をしたいらしい。バハムートは自ら召喚主をクラウドと認めたからクラウドのモノだな。クラウド、そのマテリアをバングルにはめろ。行くぞ。」
「あ、はい!」
クラスSソルジャーが近寄ろうとしても、結界で阻まれていたマテリアを目の前の少年兵が軽々と持ちあげて、バングルにはめるのを羨望の眼差しで見ていた。
セフィロスの後ろに従って本社ビルの69Fにある社長室に入ると、目の前に白いスーツを着た金髪碧眼のまだ若い男が立っていた。
にこやかに話しかけるが目だけは笑ってはいなかった。
「やあ、セフィロス。久しぶりだね。」
「ふん、貴様の顔など見たくも無いわ。」
「そう嫌わなくても…君の味方になろうって思っているというのにな。」
ルーファウスの言葉にセフィロスがかた眉を跳ね上げると同時に、何処からか声が聞こえてきた。
『へぇ、そのガキそんなに力もっているのかよ?』
『持ってるさー、俺が持てないような召喚マテリアを召喚しやがったんだ。』
『それは凄いんだな、だからサー・セフィロスとあろう方が士官候補生としたいのかよ。』
聞き覚えのある声はザックスの声である、もう一方の声もセフィロスには聞き覚えがあった、ザックスの遊び友達でタークスの赤毛の男レノであろう。
ルーファウスの手のひらの中で再生される声は、どうやら相当きげんがよいようだ。レノの巧みな誘導にザックスが調子に乗って喋りまくっているようであった。 しかししばらく聞いているとレノの声が急にかわった。
『嘘だろ?あの英雄さんが少年兵と?』
『俺も嘘だと思いたいよ。でも、あれは本気だぜ。』
ルーファウスがそこで音声の再生を止めて、セフィロスに冷たい笑みを浮かべた。
「さてセフィロス、何か言いたい事はないかね?」
「何が聞きたい?」
「同性愛や同棲婚は認められているがまだ一般的に広く受け入れられてはいない、君はわが社の顔とも言えるソルジャーだから女性との恋愛遍歴は見逃していたが少年ともなると控えてほしいといいたいのだが…」
「断る!私のプライベイトまで管理しないでもらいたい。」
「君ならそう言うと思ったよ。だからこの子に是非会いたかった、想像以上に可愛いじゃないか。フリルとかレースがさぞ似合うだろうね。」
ルーファウスの言葉にクラウドがかっとなって立ち上がろうとした時、後ろの扉が開いて黒いスーツを着た黒髪の男が入ってきた。
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