リックの言った一言が隊員達に一つの波紋を呼んだ。
「どう言う事だ?あの隊長殿が?」
「女なんて、よりどりみどりの英雄だぜ。」
「よりによって少年兵だぜ、そんな事ありえるのかよ?」
隊員達の疑問も当然の事である。
セフィロスほど整った顔だちをしていて、有名で力を持っているソルジャーはいない。
当然有名な女優やモデル、有閑マダムなどが一夜でいいからとその相手になりたがっていた。掃いて捨てるほど恋の相手が居ると言うのに、なぜ?!理由がわからなくて全員リックに問いかけるのも当たり前の事だった。
しかしリックはその答えをすでに見つけていたのであった。
「ザックス、さっきクラウドが意識を失う前、何て言ったか覚えているか?」
「たしか、『よかった。』って言っていたっけ。」
「何が『良かった』だと思う?」
「それは、無事でよかったって…、ああっ!!」
ザックスの頭の中に、前回のミッションでのセフィロスの言葉が、いきなりリフレインした。
(ザックス。貴様は誰かに”どうかご無事で”と言われた事があるか?)
「あ、あれは、あの言葉を言ったのはクラウドだったのか!」
「お前一人で納得するなよ!」
「何を知っている?」
「前のミッションでゴンガガの西に行った時に、セフィロスが青空見あげてたそがれてたんだ。声をかけたら”誰かに『どうかご無事で』と言われたことあるか?”って。」
「それがクラウドだったって事か。」
ザックスはジョニーに言われた事に、うなずきながら自分に納得させるかのようにつぶやいた。
「心配されたことのないセフィロスを心配したあげく体を張って守ったって事か。」
「それは、いくら隊長殿と言えども…、だな。」
「で?どうする気だ?」
「どうするも、見守るしかないだろう?ほら、もう遅い全員就寝!」
リックの一言で警ら当番以外の全員が、それぞれ決められた場所に置いてある寝袋にもぐりこみ、その夜は過ぎて行った
翌日になってもクラウドは目を覚まさなかった。
セフィロスが撤収の命令を下すと、テントがたたまれてトラックへと搬入されて行く。全てが収納を終え隊員達が乗り込むと、セフィロスはクラウドを抱き上げたまま、トラックの荷台へと入り込み、運転席のすぐ後ろに陣取ってあぐらをかいて座った。膝の上にクラウドを横たえると、運転席のリックに聞こえる様に怒鳴った。
「リック、出せ!」
「アイ・サー!」
リックがゆっくりとアクセルを踏み込むと、トラックがゆっくりと進みはじめる。
あまりサスペンションが良くない為、シェイカーと呼ばれるほどであったが、リックの運転の腕がよいのかほとんどといってよいほどショックが来ない。
半日かけてトラックが海岸に到着すると、輸送機が停泊していたのでトラックごと乗り込む。
隊員達がせまいカーゴルームから輸送機のシートに座り込んだ時、輸送機のパイロットがリックに声をかけた。
「キングはどちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、隊長ならまだトラックの中だろう。油断なら無い状態の隊員がいるんだ。隊長でなければ対処出来ない。」
「わかりました、なるべくショックの無いように飛びます。」
「ああ、頼んだぞ」
ザックスとカイルがリックの隣りに来て、ヒソヒソと話しかけた。
あまり声を立てるとソルジャーであるパイロットに聞こえるので、用心しながらの会話だった。
「おまえ、天才的にうまいな。」
「まあね。」
「でも、マジでどうするんだ?」
「俺達ではどうしようも出来ない事ぐらいわかっているだろ?」
「まあ、そうなるかな。」
「なんでぇ、振られたような顔をして」
ザックスの一言にリックとカイルがじろりと睨みつけた。
「あ、まさか…、マジ?」
「仕方ないだろ?可愛かったんだから。」
「いくら男所帯だと言え、お前らが?」
「あの笑顔とあの青い瞳は一撃必殺だぜ。」
「ハハ…ハハハ…(^^;;」
3人の中で気まずい空気が流れた。
輸送機は何事もなくミッドガルへと飛行を続けていた。
順調に航行を続け、エアポケットに入る事もなくミッドガル上空へと到着した、すでに夜の帳が降りていてミッドガルのあちこちは魔晄炉による光であふれていた。
ゆっくりと機体が高度を下げて目の前に滑走路の誘導灯が見えてきた。
滑走路にアプローチを開始したのか、輸送機が激しく揺れてやがて止まった。
リックがハッチを開けて後ろのカーゴスペースのタラップを降ろし、タラップを一気に駆け登りトラックの運転席によじ登り、ゆっくりとトラックをバックさせて滑走路へと降ろした。
「隊長殿、クラウドの様子は?」
「まだ覚せいしないようだ。このまま駐車場へトラックを持っていってくれ。」
「わかりました。」
リックがゆっくりとトラックを動かしはじめた。
残った隊員達は自然とザックスが集めていた。
「MISSON 4812649 MISSON CLASS A コンドルフォート南の島の遺跡の調査、コンプリート。諸君の協力に感謝する。以上、解散!!」
「アイ・サー!」
ザックスがミッションの終了を隊員達に言い渡した。
隊員達が敬礼をすると、それぞれの部屋へと一旦入ろうと歩いていた。
ザックスもカイルやジョニーたちと一緒に寮の自分の部屋へと歩いていた時、寮長のアレックスがザックスに近づいてきた。
「あ、寮長。」
「おや?ストライフはどこだ?」
「ああ、あいつなら無理して召喚獣呼んで意識不明。」
「な?!なんだと?!それで無事なのか?!」
「命の別状は無いが精神が心配だっていうんで今、セフィロスが付いているけどあとはクラウドの精神力だけが頼りだそうだ。」
「そうか、サーが付いていらっしゃるのか。それしか助からんかも知れんな。それにしても召喚獣を呼ぶのか?一般兵が?」
「1stの俺も弾くような強い召喚マテリアを、ですよ。あいつクラスAあたりまであっという間に駆けあがるだろうな。」
「また寮の相棒を考え直さねばならんな。」
それだけ言うと足早にアレックスはその場を去って行った。
* * *
翌日、クラスS執務室にセフィロスは現れなかったので、クラスSソルジャー達が珍しく顔を出す。
「ザックス、リック、キングはこちらではないのかね?」
「隊長殿ならこちらにもまだいらっしゃってはいません。」
「クラウドが無理して召喚獣呼んで倒れたんですよ、セフィロスにしかケア出来ないんじゃないかな?」
「は?一般兵が召喚獣を?まさか!」
「クラウド君ならばシヴァやイフリートあたりなら呼べますよ。」
「それが並じゃない奴を呼んだのですよ。竜王バハムート。」
ザックスが言った一言がクラスSソルジャー達の目を丸くした。
竜王とまで呼ばれる強い召喚獣バハムート、その強さゆえ自ら召喚主を選び、認められた召喚主の言うことしか聞かないと言われていた。
ザックスの言う事が信じられずに、魔法部隊の隊長リー・トンプソンがリックに聞いた。
「カイル、リック、ザックスの言うことは本当か?一般兵がバハムートを?」
「はい、確かにバハムートをこの目で見ました。」
「シヴァやイフリートを呼べるのか、あいつは。」
「っていうか、俺の言うことは信じられないと言う事ですか?」
「ザックス、考えても見ろ。普通一般兵がバハムートを呼ぶなど信じられるか?」
ザックスが首をぶんぶんと横に振った。
そこにいきなり扉を開けてセフィロスが入ってくると、その場に居る全員が一斉に並び敬礼した。
セフィロスが違和感を覚えて一通り顔を見ると、いつもはこの部屋に居ない人物達を見つけた。
「ランスロット、パーシヴァル、リー、貴様達なにをやっている?」
「キング、お帰りなさいませ。」
「クラウド君が意識不明だそうですが?」
「バハムートを呼んだと言うのは本当ですか?」
セフィロスが何も言わずに、クラウドのミスリルセイバーをその場にさし出した。剣の柄の近くに赤い召喚マテリアがはまっていた。
リーが手を伸ばしてマテリアに触ろうとするが、バリアに弾かれてしまった。
「た、たしかにバハムートですね。」
「それで、クラウド君は?」
「まだ意識不明だが悪い兆候はない、思ったより強い奴だな。リック、ザックス、クラウドの分まで報告書を書いておけ。」
「え〜〜!!しゃあねえなぁ、可愛い弟分の為か。」
「隊長殿、いったいバハムートを呼べるような一般兵を我々はどう扱えばよいでしょうか?」
「半年は二等兵だ、しっかり扱いてやれ。」
「了解。」
敬礼するリックに目礼も返さず、ミスリルセイバーを片手にセフィロスが執務室から出ると、その後ろをクラスSソルジャー達が少し離れて追いかけるように付き従って行った。
クラスS執務室にもセフィロスの机はあった。
その机に座ると横にクラウドのミスリルセイバーを置いて机にたまっている書類に目を通し出す。
執務室に居るクラスSソルジャー達が、ミスリルセイバーにはめられている赤いマテリアに気がつき、そのアンバランスに目を見張る。
ミスリルセイバーは入隊直後の一般兵に渡される二等兵用の剣であった。
クラスSソルジャーに取っては初心者マークのようなモノである。その剣に相応しくない赤い輝きは間違いなく召喚マテリアであった
普通、二等兵に手渡されるマテリアは回復と治療のみなので、クラスSソルジャー達が首をかしげるのも仕方がないのであった。
パーシヴァルがセフィロスにたずねた。
「ところで、キング。それほど潜在能力が有る一般兵をこのままにして置いてもよろしいのですか?」
「何が言いたい?」
セフィロスの答えにリーが返事をした。
「私が士官候補生としておあずかりいたしましょうか?」
「いくら魔力が高いとはいえ、よその隊の隊員を魔法部隊の隊長が育てるのか?それこそ愚の骨頂だな。それに魔力だけ育てるわけにもいかぬであろう?精神力を鍛えないとバハムートを呼ぶたびに倒れては使えまい。そのためにもトータルで育てねばなるまいな。」
「ならば私があずかりましょうか?」
「貴様とて自分の隊があろうが、クラウドは私が育てる。」
「いまだかつて士官候補生を育てた事のない貴方がですか?」
「仕方がなかろう?ザックスではあれは持てないのだ。」
セフィロスが”あれ”というのはクラウドのミスリルセイバーであった。
顔色一つ変えずに淡々と理論的に説明するセフィロスに対して、何も言えないままクラスSソルジャー達はそれぞれの執務に戻った。
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