穴の先に進んだクラウド,リック,エリックとセフィロスは再び穴だらけの場所へ出た。
 何かに気がついたのかクラウドが急に一つの段を飛び降りた。

「あいつ!!」
 リックがあわてて後を追い掛ける。
 クラウドは小さな人影を追い駆けていたのだが、それは誰にも見ることができなかったのだった。
 穴の中を出たり入ったりするうちに、クラウドはその人影に追いついたような気がした。その時どこかで”がちゃり”と音がして、いつの間にかクラウドは大きな扉の前に立っていた。クラウドが恐る恐る扉を開けると、中には大きな部屋が広がっていた。
 部屋の中ほどに、ドラゴンがうずくまるようにしてクラウドを見つめていた。

 クラウドはドラゴンの瞳がとても気になっていた。
 なぜか悲しげで、そして凛とした強さを持つ瞳は、自分が好きになったあの人にどこか似ていたので、横たわるドラゴンに思わず笑顔浮かべていた。

   おぬしは…私が恐くないのか?
 (うん、不思議だね。恐くないんだ。)    
   何故?並みの人間なら恐れおののくのが普通だ。
 (俺が好きな人の瞳に…、あなたの瞳が似てるんだ。強くて、凛々しくてそれでいて優しくて…、どことなく悲しげで、俺なんかが守れるような人じゃないけど、そばに居たい人の瞳に……。)

 クラウドがそんな事を思っている時に後ろの扉が開いた。
 リックとセフィロスが追いついてきたのだった。
「クラウド、そんなところで何をやってる?」
「あ、リックさん。今ドラゴンが…」
「ドラゴンだと?モンスターなど何処にも居ないではないか。」
 クラウドが一旦リック達に振り返っている間に、さっきまでいたはずのドラゴンが消えていた。しかし、このときズボンのポケットに何かあまり重たくはないものが加わったことに、クラウドはまだ気がつかなかった。
 リックが壁に描かれた絵を見てつぶやいた。
「また奇妙な部屋ですね。壁画だらけだ。」
「先人達の残した物か。よくわからぬが、かなり高度な知識を持っていたらしいな。」
「おかしいなあ、さっきここにドラゴンが…。」
「今、いないモノをどうする気だ?それよりも目の前の仕事!」

 クラウドはリックにいわれて壁画の写真を細かく撮影しはじめた。
 部屋の奥に神殿の模型の様なモノが台の上に置かれていた。
「隊長、どうします?」
「下手に触らないほうがよい、こう言うモノは概して自爆装置になっている事が多い。」
「では、写真だけでも撮っておきます。」
 クラウドが4方向から模型を撮影した。
 3人が元の部屋に戻ると隊員達が整列していた。ザックスが隊員達の聞きたかった事を聞いた。
「何があったんだ?」
「へんな部屋が一つあっただけだ、その先は無い。」
「これだけのようだな。戻るぞ。」
 セフィロスの一言で隊員達が出口に向かって歩きはじめていた。
 クラウドだけはちょっと後ろを気にして振り返るが、あいかわらず何も無い。首をかしげながら石作りの遺跡の中から外周道路へと出た。

 急いでつり橋の向こうのベースキャンプに戻りデーターを転送していたら、次第に天候が悪くなってきていた。
 テントの天幕を雨が激しくたたきつけている。
 どこからか獣の咆哮が聞こえてきた。

「見てきます。」
 隊員の一人ブロウディが自らテントを出ようとして、頭をテントから外に出した時だった。
「モンスター発見!でかいです!!」
 ブロウディの報告と共に全員がテントから飛び出した。
 目の前には巨大なドラゴン型のモンスターが、激しい雨を物ともせず悠然と舞っていた。
 ザックスがバスターソードを掲げてモンスターに駆け寄って行く後ろから、セフィロスが正宗を握り締めて追いかけて行く。
 一歩遅れて隊員達がそれぞれの武器をもってモンスターに駆け寄って行った。
 クラウドも与えられた装備のミスリルセイバーを鞘から抜いてモンスターに駆け寄った。

 目の前に居るドラゴン型のモンスターは、先程クラウドが奇妙な部屋で見かけた物とは違い、禍々しいまでの気配でコチラをにらんでいた。
 ザックスがそのモンスターに切りかかって行った、そして追いついたセフィロスや隊員達が、銘々にドラゴン型のモンスターに攻撃をしかけて行った。
 モンスターは激しいブレスや激しい風を巻き起こしたり鋭い爪、太い尻尾を振り回して、隊員達の攻撃に対抗していた。
 クラウドが剣を振りかざしてドラゴンに切り込もうとした時に、鋭い爪が死角から襲いかかってきた。

「クラウド、危ない!!」
 ザックスが庇おうとするよりも早く、黒い影がクラウドの前に覆いかぶさった。爪がその影を切り裂いて行った。
「た、隊長殿!!」
 クラウドに覆いかぶさっていたのはセフィロスだった。
 背中の切り傷から血が流れている、あわててザックスがケアルの呪文をかけた。セフィロスを抱きかかえたままクラウドは涙をボロボロと流していた。

 (あ…ど、どうしよう。セフィロスが怪我を……守らなくちゃ、俺が…守らなくちゃ!!)


 その時クラウドの頭の中に声が直接響いてきた。

  力が欲しいか?ならば我を呼べ。我が名は…。

 クラウドが一旦セフィロスをその場に横たえると暖かい力が伝わってくるポケットに手を伸ばした。
 隊員達が切りかかっているモンスターに対して立ち上がり剣を取ると、その剣にポケットから取り出した赤い石をはめ込んで剣を掲げた。

「召喚、バハムート!!」
 クラウドの剣にはめ込まれた赤い石から、眩しいほどの晄が放たれたかと思うと、上空に竜王と呼ばれる召喚獣バハムートが悠然と空を舞っていた。
「召喚魔法!メガフレア!!」
 クラウドがモンスターに対して剣をかざすと、バハムートが咆哮をあげる。同時にはげしい晄を目の前のドラゴン型モンスターに浴びせかけた。

「バハムート?!メガフレアだと?!」
 ザックスが丸くした時にセフィロスがゆっくりと身体を起した、彼は目の前の光景に自分の目を疑った。
「なぜバハムートが?」
「わかんねえよ。」
 メガフレアの激しい晄が止んだ時、ドラゴン型のモンスターはすでに立っていられないほどのダメージを受けていたので、リックが正確に喉を攻撃するとモンスターは事切れた。
 バハムートはまだ悠然と雨空の中を舞っていた。

「ありがとう、戻って下さい。」
 クラウドの命令にバハムートが従いくるりと上空を一回転したかと思うと、剣にはめ込まれた赤いマテリアへと戻って行った。
 同時にクラウドのからだがその場にゆっくりと崩れ落ちた。

「クラウド!!」
「ザックス、エーテルを持っていたな?!」
「あ、ああ。」

 つい先程、穴に落ちた時に退治したモンスターから奪い取ったエーテルターボをセフィロスに手渡す。セフィロスがビンの口を歯で切り取って、そのまま中身を口に含み気絶したクラウドを抱き起こして口渡しで中身を飲ませようとしていた。
 隊員達が囲むように覗き込む中、セフィロスはクラウドにエーテルを飲ませ続けた。
 丸1本のませた所でクラウドの瞳がゆっくりと開いた。
「あ…。た、隊長殿…、よかった。」
「無茶な事をしたな。精神的なダメージが残っているはずだ、今は眠れ。」
「はい。」

 クラウドは涙をひとつこぼして再び気を失った。
 セフィロスがクラウドを抱き上げてテントの中に入り、簡易ベッドに横たえた時、ザックスが心配そうに顔を出した。
「なあ、セフィロス。こいつ大丈夫か?」
「一旦意識が戻ったのだから大丈夫とは思うが、あとは本人の精神力だな。」
「しかし、バハムートなんて…無茶だろ?」
「自殺行為だ。」

 召喚マテリアを使いこなす為には魔力も高く、精神力も強くなければ使いこなせないと言われていた。
 しかもバハムートの様に強い召喚獣を使いこなす為にはそれなりの実力を持った上に、召喚マテリアが呼ぶ事を認めないと、バリアで弾かれて持つ事すら許されないのである。

「表にクラウドの剣が落ちているんだけど、俺じゃ持たせてもらえないんだ。俺が見ているから持ってきてくれないかな?」
「まったく、1stですら呼べない召喚獣をよく一般兵の初心者が呼んだものだ。」
 セフィロスはかすかに笑うとその場を立ってクラウドの剣が落ちている所に歩いて行った。
 いつの間にか雨が止み、雲の切れ間から星がのぞいていた。

 ミスリルセイバーにセフィロスが手を伸ばそうとするとバリアで弾き飛ばされそうな気がした。
「バハムート、あいつを気に入ったのか?ならばおとなしくしていろ。今連れて行ってやる。」
 セフィロスがひと声かけると不意にバリアがゆるんだ、思わず苦笑しそうになる。
「一応、お前はカンパニーに渡る事になるが、お前に召喚主を選ぶ権利はある、しかし呼ぶたびに倒れていては使えんな。」

 貴様が、我が主の守りたい男か。大丈夫だ、我が主はすぐに我を自在に扱えるようになる。

「そうか。」
 セフィロスはゆるやかに微笑んで剣を拾うとテントに戻って行った。
 テントに戻りザックスと入れ代わりクラウドの様子を除き込む、まるで息をしていない様な青い顔をした少年兵を見ると心臓をわしづかみにされているようだった。
 脈を調べるとしっかりとした鼓動が伝わってくる。セフィロスは思わずその手をとって神に感謝するかの如く跪いていた。
 まるで祈るようなセフィロスの後ろ姿に、覗き込んだ隊員達が目を丸くして見ていた。

「どう言う事だ?あれ、隊長殿だよな?」
「見ての通りセフィロスだ。」
「まるで別人だぜ、隊長らしくない。」
「やっぱりこうなったか。」
 リックの中にあったもやもやとしたモノが今一つに繋がった。
 誰にも感情を見せる事なく孤高の人であったセフィロスが、いくら才能が有るからとはいえ隊員の頭を撫でてゆるやかに笑ったり、食欲不振だからと食事を奢ると言うことは過去に無かったはずであった。
 それをこの少年兵はあっさりとくつがえしたのであった。
 そんな事、出来る理由はただ一つ。

 (隊長殿がクラウドの事を気に入った…、というよりは、むしろ好きになってしまったと言うことなのであろう。)

 リックの中でそう結論が出た。
「クラウドは隊長殿の思い人だ。」
 その場にいた全員が突然のリックの発言に凍りついたように止まった。