「あなたに 会いに来ました。」

 そんな誘い文句が、また何ともいえずに可愛らしさを強調しているポスターは、神羅カンパニー治安部の一般公開のお知らせポスターであった。


 FF7 パラレル小説 ー 運命のルーレット ー


 兵士達がちらちらと見あげるポスターの横を、気まずい顔で素通りする少年がいた。実はこの少年がこのポスターに映っている少女であることは、その場にいる兵士達は誰も知らないはずであった。
 いつものように第13独立小隊の執務室に入って行く姿は、ごく普通の少年兵であったが、実は将来有望な士官候補生で、セフィロスが育成を担当することはクラスSの部外秘となっていた。
 執務室の中でもポスターの話しで持ち切りだった。

「っとに可愛いよなぁ、あの子。」
「ふふふ、可愛い…ねぇ」
「リック、あんな可愛い子見ても何とも思わないのかよ?」
「ザックスの”女と見ればすぐ惚れる”が出たか?」
「まあ、可愛い事は可愛いと思うが?」
「それよりも、そろそろグラスランド行きの準備をしたほうがいいんじゃないか?」
「グラスランド行き?何の事ですか?」
 入ったばかりの新人であるクラウドは、毎年この時期恒例となっているこの隊の遠征を知らなくても当たり前であったので、リックが説明する。

「この時期、うちの隊は毎年の様にグラスランドに遠征して、ミッドガルズオルム相手に腕を競う訳。」
 ミッドガルズオルムと言うのは、グラスランドの湿地帯に住む30mを越す巨大なヘビ型モンスターであった。かなり狂暴でとてもでは無いが腕試しの相手には不向きである。
 そんなモンスターを相手に腕を競うと言うのは、この隊がかなり実力の高い隊であることの証明であるが、クラウドにとっては驚異でしかなかった。

「そんなモンスターと対峙するのですか?」
「ん?ああ、お前は始めてか。俺も去年はびっくりしたけどな。」
「大丈夫だ、お前はいざとなればバハムートを呼べるだろう?」
「召喚マテリアは隊長殿にしばらく使うなと言われました。」
 クラウドの言葉に全員がうなずいた所にセフィロスが入ってきた。
 リックがセフィロスに尋ねる。

「隊長殿、今年のグラスランド行きはいつになさいますか?」
「ふむ。そうだな、来週初めから行くか。」
「了解。」
 リックが了承すれば、あとは実行に移されるだけのはずだった。しかしクラウドが携帯を見てしかめっ面をしていた。

「来週すぐですか?う〜〜ん、こまったなぁ。」
「どうかしたのか?」
「カンパニーからの仕事が来週の水曜日に入っているんです。」
「カンパニーからの仕事??」
「なんだよ?そのカンパニーの仕事って。」
 携帯のスケジュールから顔を上げたクラウドは隊員達にすっかり囲まれていた。

「あ……。(^^;;」
 すっかり取り囲まれてどうすればいいのかわからないクラウドは、取り合えず携帯をポケットにしまって何とか切り抜けようと考えていたが、さっと携帯をザックスに取り上げられた。

「5月7日水曜日、13:00から8番街マダムセシルの店??なんじゃこれ。」
「マダムセシル?お前があそこに行くの?冗談キツいぜ。」
「ジョニー、知ってるのか?」
「ああ、知っているも何も。フォーマルウェアの専門店で、テイラーメイドかパターンメイドしか扱わない高級店だ。とてもじゃないがクラウドの収入じゃ何も買えない店だぜ。」
「なん??そのなんとかメイドって??」
「注文服ばかりで既製服が無いって事。つまりかなり高額な商品ばかりの店だ。」
「で?おまえが俺にも無縁の店に行く理由はなんだよ?」

 ザックスの目がクラウドの顔に釘付けになった。あまりじろじろと顔を見るので、クラウドもだんだんと恥ずかしくなって鬱向きがちになっていく。
 上目使いの青い瞳を見た時、ザックスが叫んだ

「ああ〜〜〜!!!お前かァ?!あのポスターの可愛い子ちゃん!!」
 クラウドが何も言えずにその場で固まっていると、ザックスが見る見るうちに背中にどんよりとした雲を背負い、しょぼくれて行った

「久々ヒットの俺の天使だと思ってたのに、男かよ。ああ〜〜〜!!俺の目もこんなに悪くなったのか〜〜〜!!!」
 ザックスの落ち込むそばで他の隊員達がヒソヒソと話し合っていた、皆訳がわからずお互いの推測を確かめあっているようである。
 ザックスがクラウドに突っ込んだ事を聞きはじめた。
「でもよぉ、おまえがなんで女装してポスターに写らないといけないんだ?まあ、お前より可愛い女の子も早々いないだろうけどよ」
「俺は男だーーーー!!!」

 女の子扱いされるのが嫌なクラウドは、ついいつもの癖でザックスに回し蹴りを放ち、不意を突かれて体制を崩しかけたザックスの延髄にケリを入れた。
 見事に決まった延髄蹴りのおかげでザックスはその場に崩れた。

「お見事!」
「すっげー。不意打ちとはいえ、この馬鹿ザルは1stソルジャーのトップだぜ。」
「実際に目にするまで信じられんかったが、コレで2度目か。」
 先輩隊員達に言われてあわててクラウドがザックスを助け起こす。
「す、すみません。サー・ザックス」

 まだくらくらする視界に、心配そうな青い瞳の可愛い子が写り込んだおかげか、ザックスがいきなりクラウドに抱きついた。

「おっじょうさ〜〜ん!!俺と付き合って!!」
「な?!」
 クラウドがいきなりで対処出来ないまま抱きつかれ、再び爆発しそうになった時、ザックスが突然いなくなったと思ったら壁までふっ飛んでいた。
 隊員達が青い顔をして壁にぶち当たったザックスを見送ると、飛ばした男を見た。
 そこには不機嫌この上ない顔をしたセフィロスがいつでも正宗を抜ける状態で立っていた。

 頭をさすりながらザックスが身体を起しセフィロスに文句を言う。
「って〜〜、ってセフィロス酷いじゃねえかよ」
「煩い、貴様先程なんといったのかわかっておるのか?!こともあろうにクラウドにお嬢さんと言ったのだぞ!」
「だって、こいつがあのポスターのお嬢さんなんだろ?」
「どっちかと言うとお嬢さん呼ばわりよりも、その後の方が問題だったりして。」
「へ?俺、なにかした??」
 ザックスがきょとんとした所にセフィロスが正宗の柄でザックスをしたたかにぶん殴った。

        ばこっ!!

「いって〜〜な!!暴力反対!!」
「わかっていないようだから思い出せるように手伝ってやっただけだ。」
「ったく、ちょっと口が滑って『付き合って』って言ったぐらいでなんでえ!俺はクラウドを弟と思ってんだからマジで取るなよ。」
「え?マジじゃなかったのか?」
「てっきりマジかと思った。」
「これ以上ライバルが増えてたまるか。」
 リックの一言で執務室の空気が一気に冷え込んだ。
 窓に結露,壁に霜が付きはじめ、冷凍庫も真っ青な程に空気がキンと冷えた。リックが恐る恐る首をめぐらせると、視線で殺されそうな程睨みつけているセフィロスがいた。

「や、ヤバ!」
 リックが背中に冷たいモノを感じた時、クラウドがくしゃみをした。
「クシュン!!」
 とたんにさっきまでの冷たい空気が一気に元に戻った。
「大丈夫か?クラウド。」
「あ、はい。でもヘンですね、急に冷房が強くなったんでしょうか?」
 この時隊員達が全員白い目で、自分達の隊長と新入りの少年兵の二人を見ていたのは言うまでもない。ザックスが口火を切った

「ったく、いくら恋人を横恋慕されたからって執務室を絶対零度にするなよ。」

 知らない顔をしていればよいものを、律義にクラウドが反応してしまった。身体をびくつかせて少しびっくりしたような顔でザックスを見てしまったのである。
 その反応だけでザックスの言った事が正解であるとわかってしまうので、リックがため息交じりにフォローを入れた。
「大丈夫、俺達は否定はしない。どちらかと言うと黙っていた事の方が癪だ。」
「大体クラウドは俺とリックと同僚になっているんだ。アレックス寮長とクラスSのサー・ランスロットから理由を聞いているし、前のミッションでお前がぶっ倒れた時の隊長を見れば一発だ。」
「俺はレノから聞い…、痛!!」

 話しはじめていたザックスが再びセフィロスにぶん殴られた。
 ザックスは殴られた理由がわからず再びセフィロスに怒鳴りつけた。
「ったく、何で何度も殴られなければいけないんだよ!!」
「貴様がレノに余計な事を話さなければクラウドがあんなことをせずに済んだのだ!!」
「へ?俺、何か言ったかな??」
「記憶に無いか?貴様クラウドの事あの赤毛に聞かれて、調子良く聞かれた事ならなんでも喋りまくっていたな。簡単な誘導尋問に引っかかって洗いざらい喋っていたのは何処の山猿だ?」
 ザックスが先日レノと遊びに行った時のことを思い出した。
 いつもレノと遊びに行く時は割り勘だったのだが、珍しくその日はレノの奢りだと言うので、気分良く美味しい酒とうまい料理に舌鼓を打ちながら、気のおけない仲であるがゆえに日ごろの愚痴を喋りまくって、調子に乗っていた時入ったばかりの新人がいる事を聞かれてそのまま喋りまくった覚えがある。
 その時にレノから『クラウドはセフィロスの育成士官候補生になるかもしれない』と聞かされて、それだけの能力がある事とか自分でも扱えない召喚獣を召喚してぶっ倒れた事や、セフィロスがクラウドを庇ったこととか、もしかすると二人が恋仲であるのではということを話してしまっていた。

「あ……。(^^;;」
 蛇に睨まれたカエル、いやいやセフィロスに睨まれたソルジャーが青くならない訳がない!!
 するりと抜かれた抜き身の正宗を向けられて、じりじりとザックスが後ずさりをする。
「うわ、やめて!よして!殺さないで!!神様!セフィロス様!!」
「煩い!!馬鹿は死ななければ治らんと言う、一度死んで来い!!」
 執務室内を正宗の切っ先をよけつつ逃げまくるザックスと、それを追うセフィロスと言うこれから先なんども繰り広げられるであろう光景がこうして始まった。
 呆れて物が言えない隊員達の中で唯一解決策を考えられたのがリックだった。

「クラウド、止めてやれ。」
「え?俺で大丈夫でしょうか?」
「ああ、お前でなければ止まらんよ、あの方は。」
 リックに言われてクラウドがセフィロスの腕を掴んで小首を傾げた。
「あ、あの隊長殿。ザックスはソルジャーですよね?隊長殿が切る訳にも行かないのではないでしょうか?」

 すがりつくような瞳が何ともいえずに可愛らしいことこのうえない!!
 思わず口元をゆるめたセフィロスがせき払いを一つしながら正宗を鞘に納めた。
「そうだな。馬鹿ザルとはいえソルジャーの端くれだったな。」
「た、助かったぜクラウド。」
 ザックスはその場にへたり込んだ。