FF ニ次小説

 クラウドの正面に立っていたホテルマンは、部隊仲間のジョニーであった。
 目を丸くするクラウドに、素知らぬふりで対応している姿は、はた目からみると完全なホテルマンの一員であった。
 固まったまま動かないクラウドに、びっくりしたジャック氏があわてて近づいてくる。

「どうかされましたか?」
 しかし駆け寄ったジャック氏も、クラウドのそばにいたホテルマンを見てびっくりした。
「ジョ、ジョニー!」
「よお、ひさしぶり。」
「おまえ…、いったい今まで何処に?」
「神羅カンパニー本社治安維持部第13独立小隊です。」
 ジョニーの言葉を聞いてジャック氏は顔を青くした。神羅カンパニーと関係が浅くはないので第13独立小隊がどういう隊か知らない訳では無い。
 最前線を担当する精鋭部隊の一員であるという、目の前の青年を見て涙すら浮かべていた。

「すみませんでした。このバカは不肖の息子でして、4年前から音信不通だったのです。」
 ジャック・グランディエの言葉にクラウドは一瞬目を丸くしたが、二人に向かってにこりと微笑んだ。
「よろしかったですね。」
「いえ、任務です。終了しだいカンパニーに戻ります。」
「おまえの上官の命令か?」
「そう言う事です。」
 冷静に、それでもきっぱりと自分の意志を通すジョニーに、ジャック氏は軽くうなずと、スタッフに一礼してお詫びを入れた。
「私事でお仕事を中断させてしまい済みませんでした。お続け下さい。」

 そう言うとスタッフの後ろに周り一連の撮影を遠くから眺めていた。
 ジョニーはどうやらセフィロスの命令で、ホテルスタッフに潜入していたらしい。
 さりげなくクラウドの周囲を注意しながら、ホテル側のスタッフに交じっている姿は、何処からどう見ても十分にホテルマンとして通用する。

 (そういえば、ジョニーさん。『俺と付き合えば将来社長夫人だぜ』って言って口説いてたって言うけど。あれ、冗談だと思っていたけど、本当の事だったんだ。)

 クスリと笑いながらクラウドはその日の撮影を終えた。
 翌日、顔を合わせたジョニーはちょっと渋い顔をしていた。

「あれから、何か言われたのですか?」
「ん、まあな。それは俺の問題だからどうでもいいけど。家の事は冗談で済ませたいから、なるべく人に話さないでほしい。」
「どうしてですか?」
「お前は知らないか。俺の親父がやっている財団は、人の目を変えちまうぐらいの莫大な資産があるんだ。俺はそんな目で見られるのは嫌なんだ。」
「そうなんだ。でも、知ったからには利用出来る物は利用するかも。」
「俺を利用するなら倍返しだぞ。」
「アハハハハ…、覚えておくよ。」

 この時は冗談半分で話していたのだが、この話が本当になって行くとは、二人ともこの時は全く思っても見なかったのであった。

 ジョニーとクラウドが笑顔で話していると、ちょっとむっとした顔でリックが割り込んだ。

「こら、bR!憧れの姫君を独り占めするな!」
「うわ!数字呼びですかい?!」
「あこがれの姫君??」
「そ、俺達の憧れの姫君!」
「女の子なんていませんけど?」
 青い瞳をクリッと見開いて、きょとんとしたような顔で小首を傾げるクラウドに、隊員達が頭をわしゃわしゃと撫でながら話しかけた。
「無自覚の可愛い子ちゃんには、どうしたらいいのかね?」
「お前、俺達だからそんな顔をしても襲われ無いんだぞ。」
「隊長殿、このお姫様にあんまり可愛い顔をするなと説教してやってくださいよ。」
「私の仕事になるのかね?」
「しっかりとポケットにでも隠しておくか、さっさと”自分のモノ宣言”しないと、クラウド狙っている奴は掃いて捨てるほどいますからね。」
「覚えておこう。」

 何の事だかよくわかっていないのは当のクラウドであった。
 周囲にいる隊員達をつかまえては、リックの発言の意味を聞きまくる。
「ブロウディさん、リックさんが言ってることって?」
「お前が可愛いって事か?それとも他の事か?」
「なんで”お姫様”なんですか?あれ、俺の事ですよね。」
「お、わかってるじゃないか。」
「だから!!なんで姫なんですか?俺、男ですよ!」

 クラウドの大声に隊員達が集まってくる、皆クラウドよりも10cm以上背が高く、体格もがっしりとしていた。自然と囲まれたクラウドが華奢で可愛らしく見える。
そこへザックスが入ってきた。

「よお…って、なにやってんの?」
「ああ、クラウドが無自覚の可愛い子ちゃんだって話。」
「今ごろ?そうやってガタイのいい連中に囲まれると、可愛らしさ倍増だぜ。おとぎ話のお姫様とそのナイトって所だぜ。」
「お、俺は男だーー!!!」

 囲みを突破してザックスに近づくと、回し蹴りをボディに放ち、身体が崩れた所で背中にエルボーを落す。

「あべしっ!!」
 ザックスが不意を突かれてまたノックダウンされた。
 くすくす笑いながらリックが近寄って、クラウドの頭をガシガシと撫でながら諭すように説明をしはじめた。
「大人しく”姫”って呼ばれていたほうがいいぜ。お前は隊長の隣りにしか立ちたくないんだろう?」
「隊長がクラスSでキングと呼ばれているのは知っているな?王様の思い人であるお前に”姫”と付けないでなんて呼称を付ければいいんだ?」
「ううう、姫って女の呼称じゃないですか。」
「じゃあクイーンか?でもまだ嫁じゃないよなぁ。」
「もう嫁になったも一緒じゃないのか。」
「1stをぶっ飛ばす嫁とソルジャーで一番強い旦那?世界最強の夫婦だね、夫婦げんかのとばっちりだけは受けたくないよ。」
「大丈夫、犠牲者はサー・ザックスになりそうだ。」

 背中を押さえながらやっとのことで立ち上がってきたザックスが、訳のわからないような顔をして周囲を見る。
 リックが苦笑いしながらジョニーの言葉に答えた。

「ちょっと悔しいな。隊長の信を得ていると思っていたのに、おふざけの相手はザックスか。」
「なんでえ、俺がまるで100%おふざけで生きているみたいじゃないか。」
「そう言う意味じゃないよ。お前は誰とでもすぐに仲良くなれる奴だって、いささか羨ましいと思うぐらいだぜ。」
「あん??誉められてるの?」
 ザックスの言葉に周りを囲んでいる隊員達が爆笑した、

 しかし一人だけ憮然とした顔でいたのはクラウドだった。
「だから、なんで俺が”姫”なんですか?」
「お?とうとう呼びはじめたか?」
「ああ、他の隊にかっさらわれたくないからね。」
「クラウド、諦めるんだな。一度ついた呼称は、他の隊の連中が認めてしまえば、おそらく変わる事はないぞ。」
「ううう…。いいもん、認められないように強くなってやるんだもん!」

 クラウドの決心はしっかりと守られるのであったが、その決心が更に自分の呼称をしっかりとした物へと変えて行く事になるとは、この時は想像もつかなかった。


* * *



 翌日、クラウドがいつものようにリックとカイル,ジョニーと一緒に訓練をしていると、先日の反抗勢力決起の時に一緒になったソルジャーが現れた。
 居並ぶ兵士達が姿勢を正して敬礼する前をつかつかとクラウドに近寄って軽く一礼し話しかけた。

「やあ、先日は俺の所の隊長が大変失礼な事をしたらしいね。」
「い、いえ。とんでもありません!」
「はっきり聞くけど、君は誰と一緒に戦いたいのかな?」
「はい、サー・セフィロスであります。自分にその力があれば、いつか隣りに立って剣をふるいたいと思っています。」
「じゃあ、ライバルだな。手合わせを頼む。」
「ハンディは頂けませんか?」
「そうだな、最初の1分はこちらからの攻撃は無しというのでどうだ?」
「入隊1年目の一般兵とクラスAとの対戦でのハンディには思えませんが?」
「君の実力を見ているからね、妥当だと思うよ。」

 ランディがすっと剣を抜くと、クラウドが同じように剣を抜いた、この時点でクラウドがランディの与えたハンディを了承したことになる。
 剣と剣が軽く振れあうと同時にクラウドの雰囲気がいきなり切り替わった。
 下段に剣を構えながら、すり足で自分に近づいてくるクラウドを正面から見据えていると、ランディは自分の地位もかなぐり捨ててその場から逃げ出したくなった。
後ろで見ていたリックが苦笑をしていたので、隣りにいたカイルが話しかけた。

「どうした?」
「いや、この試合もう決まったなとおもってな。」
「やっぱりサー・ランディか?」
「いや、クラウドだ。よく見て見ろ、あいつの型は隊長殿ソックリだ。何をどう教えたかはしらないが、気の出し方まで似ている。たったの2ヶ月でこれだけ吸収出来る奴なら、隊長殿も教えがいがあるだろうな。」

 リックの言った通り1分も掛らずに、ランディの剣を弾き飛ばしたクラウドは、その場にいる一般兵の拍手を浴びていた。
 ほおを紅潮させてはにかんだ笑顔を浮かべたクラウドに、目を丸くしながらも立ち上がって握手を求めたランディが話しかけた。

「なるほど、君ならキングの隣りに立ちたいという思いを叶えられるかもな。」

 リックがランディのそばに近寄って話しかけた。
「うちのお姫様を見初めてくれたのは嬉しいが、かっさらわないでくれよ。」
「お姫様?それはいい!今度から君の事は姫とでも呼ぶよ。」

 片手を上げて去って行くクラスAソルジャーを、クラウドはうらめしそうな目でみていた。



The End