8番街の『ダイアナ』のメイン・デザイナー、デヴィッドに面会し、明日の撮影衣装を入手しようとして、スタイリストのミッシェルとクラウドは、マネージャーからのイメージコンセプトを伝えた。
 デヴィッドは軽くうなずいて一旦店に戻ると一着のドレスを手に戻ってきた。
「これなんかイメージにぴったりだけど、ちょっと着て見てくれる?」
 ミッシェルにつつかれてクラウドは渋々ドレスを受け取ると、カーテンに囲まれた更衣スペースにはいった。
 しばらくごそごそとしていたが顔を真っ赤にさせながらカーテンのすき間から顔をのぞかせた。
「こ、こんなの着るの?」
「なんだったら女の子にしてあげようか?」
「ううう…、ちょっと恥ずかしいよォ。」
 クラウドがカーテンから出てこないのでミッシェルがつかつかと近寄って、ばっとカーテンを引っ張って開けてしまった。
 クラウドが恥ずかしがっていたのはスリットが右腰のあたりまで入っている為すらりとした足がチラチラと見えるのであった。
 ミッシェルがクスリと笑ってちょっと戻りカバンからウィッグを取りだしクラウドにかぶせてデヴィッドに振り返った。
「どうですか?デヴィッドさん。」
 デヴィッドはミッシェルのとなりに立っている少年だったはずの少女に目を見開いた。
 170cmぐらいのすらりとした身長に見事なハニーゴールドの金髪、大きくて愛らしい青い瞳にほのかに赤く染まった頬、どこをとっても先程まで凛とした雰囲気を放っていた少年兵には見えなかった。

「すばらしい!しかし不思議な魅力だね。カンパニーの青い一般兵の制服を着せるなんて勿体ないや。」
「ついでに私服も何枚か買ったらどう?その制服で一日中過ごす訳でもないんでしょ?」
「あ、でも俺まだそんなに給料無いから…。」
「ドレス着ている時は男言葉禁止!そうだな、ユニセックスな服を一式。それと女の子の服を一式用意してあげるけど、契約デザイナーは他には作らないって事でどう?」
「マダムセシルも契約デザイナーですけど。」
「マダムと僕では分野が違うから、それはOKだよ。彼女はフォーマル専門で、僕はフォーマルにも着られる普段着専門だ。そうか、じゃあマダムも知っているんだ。」
 ミッシェルがデヴィッドの言葉にうなずくと、彼もそれがどういう意味か解ったようで、それ以上詳しい事を聞かなかった。

 デヴィッドがクラウドに似合いそうなオフホワイトのニットのセーターと、Gパンゆったりとしたブラウスシャツとキュロットパンツ、そしてフレアスカートとワンピースを選ぶ。選ばれた服はミッシェルが見てもセンスが良く、クラウドの雰囲気を優しくしていた。
 クラウドは服を受け取ると少し複雑な顔をしていたがミッシェルが不服を言った。

「一つ足りないわ、ひざ上20cmぐらいのミニスカートもお願いします。」
「ええ?!な、なんでミニスカートなんですか?!」
「男の子の君は女の子らしい足の使い方を知らないでしょ?実際ミニスカートをはいて、下着が見えないように気を使うのが一番!」
「ああ、そうだね。すぐに持ってこよう。」
 デヴィッドが再び店に戻るとすぐに一枚の布きれをもって戻ってきた。
 黒いタイトスカートで、横に5cmぐらいのスリットが入っていたが丈はかなり短く、たしかに下手に足を開いたら下着が見えそうであった。
 クラウドが迷惑そうな顔をしたがミッシェルが冷たい笑顔で鋭く切り込んだ。
「あらら?クラウド君、まさか契約破棄なんてしないよねぇ?」
 契約破棄などしたら自分はセフィロスと一緒に居られなくなる。それはクラウドに取って一番嫌な事だったので、ぐっと我慢して受け取った。
 デヴィッドがフリルの付いたブラウスを一枚一緒に渡す。

「じゃ、コレと一緒に着替えて。今から治さないと明日は撮影なんだろ?スリットの入ったドレスだから下手な足裁きをするとすぐ男ってバレるよ。僕がコーチしてあげるから。ああ、靴もヒールのある奴にしないとだめか。」

 デヴィッドに言われてミッシェルが店に戻ると5cmぐらいのヒールのある靴を探し出し
 クラウドに持ってきた、履いて見るとほっそりとした靴はサイズこそ合わせてあったが、どうしてもはくことができず横幅の大きなヒールの靴を持ってきてもらった。

 なんとか持ってきてもらった靴を履く事ははけたがふらふらする。
 女の人って良くこんな靴で歩ける物だなとクラウドは妙に感心した。
 デヴィッドに渡された服に着替えて、ヒール付きの靴をはき、再びエクステンションを付けると、すらりとした白い足が魅力的な可愛らしい少女の姿になってしまう。
 そのまま大きな鏡の前に立ち、まっすぐ歩かされると、クラウドは足元ばかり気になって、姿勢が悪い歩き方になってしまった。
 デヴィッドが手を打ち鳴らした。

「ダメダメ!!背筋をまっすぐ!正面を見て!踵から足を降ろす!」

 必死になって言われた通りに歩くがぎこちないことこの上ない。
 しかしミッシェルがニコニコとしている所をみると、先程よりはマシになったようである。
 しばらく歩き方の練習をしてやっとデヴィッドからOKの合図が出た時には、すっかり暗くなり時間もかなり遅くなっていた。
 クラウドの携帯が不意に鳴り響いた
 パタパタと荷物に走って行く姿はどうみても女の子の後ろ姿だった。

「はい、あ!ごめんなさい。今8番街のダイアナと言う店に居ます。ええ?!あの…。いいけど。俺、今凄いカッコしてるから、引かないでね。」
 ぱたんと携帯をたたむとほんのりと頬を赤く染めています。
 それだけでミッシェルには誰からの電話だったかがわかって、羨ましくなったのか思わず声をあげてしまった。

「も〜う!迎えに来てくれるんでしょ?ラブラブじゃないの?!いいなぁ〜私なんて恋人居ない暦20年よ!うらやましい!!」
「え?!ちょ、ちょっとミッシェル!」
「何いってんの!ここにきてくれるなら相手が誰かばれちゃうでしょ?ならば隠す事も無い!」
「クラウド君の恋人が迎えに来てくれるのかい?ならば裏口を教えておかないと、君は正面から入ったから、 店員に顔を見られているからね。ポイント08.62を北に入ってくれと伝えてくれるかい?」
「あ、はい。わかりました。」

 クラウドが再び携帯を取り出して、デヴィッドの言葉を伝えてから10分ぐらいすると、非常口に通じる扉がノックされたので、迎え入れるために扉を開けて…その場に固まった。

「サ…サ…サ…。」

 セフィロスはそんなデヴィッドの姿に目もくれず、まっすぐクラウドの前に歩いていくと、意味深ににやりと口元をゆるめた。
「なかなか綺麗な足だな。」
「…………。」
 真っ赤な顔で鬱向きがちに見あげてくる青い瞳が何ともいえずに可愛らしい。お互いの事以外OUT OF 眼中になってしまった二人にかわりミッシェルがいまだに固まっているデヴィッドの肩をポンとたたいた。

「びっくりしました?そう言う訳なんですよ。」
「まったく、心臓によくない。なぜ彼みたいなソルジャー候補生が、女装してまでモデルをやらねばならないのかわかったよ。」
「うふっ、可愛いでしょ?ああいう所、妹にしたいな〜って思っちゃう!」
「ううう…。ミッシェルが苛める。」
「くくく…。たしかに女の子にしかみえないな。」

 クラウドがむっとした顔をするが、セフィロスに髪をすかれるように頭を撫でられると、思わずにっこりとほほえんでしまう、そんな様子もまた微笑ましかった。

「また明日、17:30に事務所で待ってるからね。」
 そう言いながら手を振るミッシェルに、挨拶をするクラウドを抱き寄せて、セフィロスはその場からさらうように連れ出すと助手席に乗せてアパートメントに車を走らせながらも、ちゃっかりと太ももを触りまくり、手をつねられていたのであった。

 翌日、17:30分に事務所でスタッフと落ち合ったクラウドは、シェフォードホテルへと向かった。
 ホテルのオーナーであり依頼者であるジャック・グランディエに面会する為に、少し大人っぽいイメージのブラウスとスカートを履いてナチュラルメイクをしていた。
 ロビーに入っていくと恰幅の良い紳士が入ってきたクラウドを見つけ歩み寄ってきた。

「はじめまして、私がジャック・グランディエです。」

 一礼する紳士を見てクラウドは、どこかで出合っていたような気がして仕方がなかった。

「はじめまして、クラウディアと申します。」

 ちょこんと膝を曲げるように挨拶する仕草は、先日デヴィッドから厳しく教えられていた。後ろで見ているスタッフが内心びっくりしながら見ていた。
 この少年はなんでも素直に言うことを聞くだけではなく、すぐに"モノ”にするという素質もあるようで、見事なぐらいに美少女モデルになっていた。
 ジャック氏も軽くうなずきながら満足げな顔で話しかけているのがよくわかる。
 ティモシーが仕事の事で打ち合わせにはいった。

「マネージャーをさせていただいておりますティモシーと申します。クラウディアと契約をしていただき光栄です。さっそくですが本日の依頼を教えていただけますか?」

 ティモシーの話しにジャック氏が依頼内容を話しはじめた。
 今回の依頼は宿泊客用のパンフレットモデルで、ロビーでの撮影と客室での撮影を依頼された。
 ミッシェルが用意した衣装を持って、クラウドを連れて支度部屋に入る。しばらくすると支度が出来たのか、二人が戻ってきた。

 先日デヴィッドから借りた白のスリット入りドレスではなく、フェミニンではあるが品のあるマーメイドシェイプのスカートにキャミソールの上からボレロをまとって髪をアップにまとめた姿はちょっとしたLADYであった。
 グラッグが思わず見とれているのでティモシーが苦笑を漏らした。

「グラッグ、モデルに見とれるようではカメラマン失格だな。」
「俺が言うのもなんだが、とびきりのLADYだぜ。」
 ティモシーが意味深に笑うとグラッグがカメラを構えた。
 自然な様子でクラウドがロビーを歩いているとホテルマンが近寄ってくる。
 クラウドの正面で深々と一礼し丁重に言葉をかける。
「ようこそいらっしゃいませ。Lady Cloudea。」
 一礼したホテルマンの顔を見てクラウドは目を丸くした。