キッドが自分の入隊したばかりのころの話しを、クラウドにしはじめた。それはクラウドにとって、信じられない話しであった。
「おまえは入隊していきなりウチに来れたからいいけど、普通の一般兵なんてパシリで荷物持ちで捨て駒なんだぜ。むさくるしいヘルメットだって簡単には脱げないし、活躍したくても出来ない上に手柄は先輩に取られる。半年に一度の入れ替え試験が無かったら、今ごろ俺だってあいつらと一緒だよ。」
「あれが有るおかげで。実際に誰が実力が有るかはっきりわかる。一般兵でトップ20に入れば、文句なくウチの隊に来られるんだ。サー・セフィロスの元で働けるって、皆目の色が変わるんだぜ。」
「あ、20人ですか?俺、入れるかな?」
ジョニーが隣りでクラウドの背中をしたたかに叩きながら笑いはじめる。
「お前可愛いなー!!もう入っているんだから出ろと言われた時は、ソルジャーになってよその隊に引き抜かれた時だよ。」
「ソルジャーになれるのは身体が出来る18才の誕生日を過ぎてから、それまでお前なら多分よそに行く事も無いだろうね。」
「一般兵であって頭一つ抜きんでてるもんな、もっとも俺達みんなそういわれてこの隊に入隊してきたんだ。」
第13独立小隊以外の隊は年功序列と実力主義とが入り交じっていて、ある程度いい仕事をすれば階級が上がるが一足飛びに上がる事はない。
しかしそれでは真に実力のある隊員が現れた場合、その実力がつぶされかねない。
そんな兵士を救済する措置として始めたのが、半年に一度ある『階級見直しの武闘大会』であった。
10月までの間に自分は頑張って強くならないと、この隊にいる資格が無いのではないかとクラウドはこの時、少し不安に思っていた。
一方、もっと不安に思っているのは他ならぬセフィロスであった。
クラウドに戦士としての力があるのを他の士官に認められるのは、自分としても嬉しいのではあるが、彼を隣に立たせたいと思っているのは、自分だけではないということを改めて感じていた。
このままではクラウドが誰かに奪われてしまう気がして仕方がなかったのであった。
会議を終えてクラスS執務室に入ると、いきなり周囲をぎろりと睨みつける。
セフィロスが入ってきた事で全員が注目していたのであったが、睨みつけられてほとんどのクラスSソルジャーがフリーズした。
不機嫌このうえない顔で自分の机に座ると机の上に乗っている書類に目を通しはじめた。
すぐ近くでランスロットが迷惑そうな顔をしていた。
「キング、一体何があったのですか?」
「何がとはなんだ?」
「何か嫌な事でもあったのではないのですか?」
「ああ、そうだな。私の副官になるべき男を、横からかっさらおうとする輩がいるようだからな、機嫌も悪くなる。」
セフィロスに睨みつけられて、ライオネルが小さくなっていた。
それを見てランスロットが苦笑した。
「キング、あなたの副官はザックスではないのですか?」
「ふん、わかっているなら聞くな。」
「あの少年にはそれだけ魅力が有ると言う事です。私とてソルジャーに上がってきた時はと思っておりました。」
ランスロットの言葉を聞いて、セフィロスの機嫌がさらに低下する。そんな彼を見てランスロットは両手をあげた。
「わかっております。キングが望まれるのであれば我らは諦めます。しかし、一つだけお願いがあります。ミッションで必要であれば彼を貸していただけないでしょうか?」
「クラウドを貸す様なミッションなど何があるというのだ?」
「女性が必要だが危険をともなうミッションです。先週噂になったモデルは彼ですよね?」
「さあな、クラウドに聞くのだな。しかしクラウドはどの隊にも貸す事はなどはせぬ。そんなミッションが有ればミッションごと引き取ってやる。」
「二言はありませんぬな?」
「諄い!二言などあるか!!」
有言実行をモットーとしているセフィロスは、一度口に出したからには約束を破るような事はなかったのであるが、この時わざとランスロットはこの言葉を口に出させたのであった。
したり顔で口元をゆるめながらランスロットはセフィロスに言った。
「では、覚えておきますのでその時はよろしくお願いいたします。」
セフィロスはこの時のランスロットのしたり顔が気になったが、執務が忙しいのと次の会議の時間が迫っていたのでとりあえず様子をみることにした。
その日の仕事を終えてからクラウドはティモシーに呼び出されていたので、事務所になっている部屋へと顔を出した。
中でスタッフの3人が手招きをしていた。
「クラウド君、君の契約企業がきまったからね。」
「はぁ…。」
「『はぁ…。』って、メチャクチャやる気無さそうな返事ね。」
「俺、男ですから。どうせ女として契約したのでしょ?」
「ふふふ…、契約書の隅から隅まで読んでも君が女性であるとは書いていない。きちんと仕事をこなせるのであれば性別は問わないと書いてあるんだよ。もっとも相手は君を女と思っているとは思うけどね。」
クラウドはそういわれて自分が契約した時の契約書を思い出した。
文字がやたら細かくて隅から隅まで読んでおかないと、知らないうちにへんな契約までさせられそうだという感覚があった。
「まさか、俺との契約まで同じような事やってないだろうね?」
「一応君の契約書を読ませてもらったけど、さすがにそれは無かったね。ルーファウス社長も社員である君に悪い契約はしないと思うな。」
「そんな契約しても”彼”が居るから大丈夫じゃない?」
「おいおいミッシェル、表立って言わないのが約束だろ?」
クラウドのスタッフは契約する時に、仕事を通して知った事を外部に漏らす事を一切禁じられていた。
マダムセシルは神羅カンパニーからの紹介のデザイナーではあったが、既製服がないというのは顧客情報の管理もしっかりしていると踏んでのメインデザイナー登用であった。
その他、契約した企業はクラウドでも知っている企業が多かった。
「ドレスデザイナーとしてマダムセシル。普段着を『ダイアナ』のデヴィッドさん。二人とも君の事はルーファウス社長に聞いているみたいだから大丈夫よ。」
「ところでシェフォードホテルにツテでもあるのかい?優先してくれって言ってたね。」
「あ、はい。先輩のお友達が働いているみたいなんです。」
「と、いうことは君の所属している隊の隊員は知っているということだな?」
「ごめんなさい、ばれちゃいました。」
クラウドが素直に謝るとスタッフから笑顔が漏れる、その素直さがスタッフに取って”この少年なら一緒に仕事をしてもいい”と思わせるのであった。
マネージメントを担当するティモシーは、クラウドに直接接触しながら予定をあらかじめ組んできていた。
「明日、そのシェフォードホテルのパンフレットモデルをやりに行くからね。ここの事務所に17:30分でどうだい?」
「明日なら今の所ミッションも入っていないので大丈夫だと思います。」
「ティモシー、今からクラウド君をダイアナに連れていっていいかしら?」
「ああ、明日の服のイメージはどちらかというと高貴で頼む。」
「OK!じゃあクラウド君、お買い物行こうか?」
「ううう、いきたくないけど…。」
「ダーメ!君が決めたんだろう?」
「ううう…、はやくソルジャーになりたい。(T▽T)」
ぶつぶつ文句を言いつつも、契約したからには約束は守らなければいけない。
ミッシェルに引きずられるようにクラウドは事務所からでてタクシーに乗り込み8番街の商業ビルが立ち並ぶエリアへとやってきた。
道の両側には綺麗にディスプレイされたウィンドーが並び、行き交う人も買い物を楽しんできたのか紙袋を持って歩いている人が多かった。
タクシーが一つのビルの前に止まった。
白い外観は大理石を模しているのであろうか、艶やかな光を放っていた。
ミッシェルが扉を開けて中に入って行くと店員が挨拶する。
「いらっしゃいませ。」
一礼する店員を無視してクラウドの腕を掴みミッシェルがずんずんと店の奥に入っていくと、店の奥から一人の男性が出てきた。
「おや?ミッシェルじゃないか。」
「お久しぶりです、今日はちょっとご相談に参りました。」
デヴィッドがミッシェルの連れている金髪碧眼の少年をひと目見ると軽くうなずいた。
「ええ、どうぞ。奥のプライベイトオフィスでコーヒーでも飲みましょう。」
と、言って店員が入れないスペースへと案内してくれた。
コーヒーメーカーに入っていたコーヒーをカップに入れながらデヴィッドが話しかけた。
「その子が噂の新人モデルなんだ。結構男っぽい子じゃない。」
「まあ、一応男の子ですから。」
「で?今日は何のご用事かな?」
ミッシェルがクラウドの脇をつついているが、クラウドは何を話したらいいのかわからない。
そんな様子をデヴィッドは微笑ましげに見ていた。
「ダメでしょ!きちんと自分から言わないと!」
「ええ〜!?だって、何を頼めばいいのかわからないよ。」
「じゃあ業務連絡と思って明日の予定だけでも伝えなさい。」
ミッシェルに言われて業務連絡なら何とかなると思い、いつもの調子で(すなわち軍隊連絡調)でクラウドは話しはじめた。
「明日、18:00時。シェフォードホテルにて撮影が行われます。その時の衣装をご提案下さい。」
クラウドの口調に隣でミッシェルが頭を抱え込んだが、デヴィッドがけらけらと笑い始めた。
「本当に軍人の口調だね、ソルジャー候補生というのは間違えないのか。まったく、人は見かけで判断してはいけない物だね。」
デヴィッドは神羅カンパニー経由で聞いた目の前の少年の本来の姿が、真実であると納得していた。
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