金髪碧眼の可愛い子ちゃんだと思っていた少年兵が、これほどまで腕が立つと思っていなかったランディは、クラウドの動きを見てあっけにとられていた。
 反抗勢力の真ん中で剣をふるう姿は頼もしくさえあった。
「さすがリックやカイルが認めた兵士だって事か。」
 そうつぶやいているクラスAソルジャー・ランディは以前第13独立小隊に一般兵として配属された事があった。
 その時隊長のセフィロスではなく、一般兵のリックとカイルに扱かれて、自分が強くなって行ったのをやっと思い出した。
 ランディはにやりと笑うとしばらく腕を組んで見物を決め込んだ。

 一方反抗勢力のまん中で剣をふるっていたクラウドが、敵の向こうに銀色の晄を見付けると、口元にふわりと笑みを浮かべ剣を握りなおしてその晄に向かって切り込んで行った。
 やがてクラウドの前にゆるやかに微笑むセフィロスが立った時、反抗勢力はその力を殆ど削がれていたのであった。

「ランディ、腕を組んでばかりいないで少しは働け。」
「あ、アイ・サー!」

 セフィロスに言われて、あわててランディが残っている反抗勢力をまとめていくと、隊員達が縄で縛っていく。リックがランディにたずねた。
「どうだ?卒業生。」
「あれで入ったばかりかよ。」
「あと半年もしたら、追い抜かれているかもよ。」
「入隊半年でクラスAを抜ける男がいるものか。」
「お、そう言う事を言うか。カイル、意地でも抜かしてみせようぜ。」
「ああ、いいねぇ。10月の階級見直し武闘大会が見物だぜ。」
 あまりにも自信満々にいうので思わずランディはクラウドの方を見ると、先程チラチラと見えていた赤い晄の正体に気がついた。
 クラウドのミスリルセイバーの中に、ぽつんと赤いマテリアがはめられているのを見つけたのであった。

「召喚マテリア? 一般兵が?」
 すっとクラウドの持つミスリルセイバーに手を伸ばそうとして、まるで電気が流れたように強いバリアに弾かれる。
 その事実にランディは思わずびっくりして叫んだ。
「嘘だろ?!クラスAの俺を弾くマテリアをなぜ持てる?!」
「クラスAどころか、お前の隊長ですら弾く召喚マテリアだ。サー・ランスロットに聞いた話によると、隊長ぐらいしか触らせてもらえないそうだ。」
「…って、一体なんの召喚マテリアだよ」
「おまえやお前の隊長殿では呼べないような奴って事だろ?」

 ランディはカイルに言われた事を頭の中で理解しようとしたが、どうしても受け入れることができないでいた。
 しかし実際目の前の少年兵は、自分すら弾くような召喚マテリアを平気でもっている。
 ランディはクラウドに尋ねた。
「その召喚マテリアは何だ?」
「はい、バハムートであります。サー」

 召喚獣バハムート
 たしかに自分では召喚主と認めてはもらえないような召喚獣である。
 しかしそんな強い召喚獣をまだ一般兵になったばかりの少年が召喚出来るとは思えなかった。
「そんな強い召喚獣を呼べるのか?」
「一度呼んだことありますが、すぐに倒れて3日ほど意識不明でした。」
 クラウドの返事にランディはまだ信じられない顔をしているが、目の前の少年兵だけならまだしも、その後ろに控えている男たちが嘘をつくとは思えない。
 ましてやサー・セフィロスがありもしないような話しを認めるような事はない。
 ランディはうやむやなままではあるが納得する事にした。
 第13独立小隊の隊員達が全員セフィロスの前に並ぶと、隊長の横にザックスが立つ。
「反抗勢力は鎮圧された諸君の協力に感謝する。」
 セフィロスの言葉と共に一斉に隊員達が敬礼をし、セフィロスとザックスが返礼をする。
 非常線まで歩いて戻るとトラックに乗り込み、カンパニーへと帰って行った。

 執務室に帰るとそれぞれ報告書を書きはじめるが、報告書嫌いのザックスが他の隊員…特にクラウドをかまいまくる。

「なぁ、クラウド。俺の書類も書いてくれ〜〜!!」
「ええ?!じょ、冗談はやめて下さいサー。俺が気を失っていた時のサーの事なんてわかりません!」
「じゃあさ、俺が喋るから書いてくれ。」
「話が出来るなら書けると思います。」
「ぶう…。エリックチャ〜〜ン、愛してるから書いて〜〜!!」
「冗談はやめて下さい。」
 取りつく島もないエリックとクラウドの様子に半ばしょげながらも、ザックスが机に向かおうとした時、ポケットの携帯に電話がかかってきた。

「はい、ザックス……。げげ?!今帰って来たばかりじゃねえかよ?!あん?そうだけどよぉ…、わあったってば!!」
 壁に立てかけてあったバスターソードを背負ってザックスが執務室を出て行こうとした。
「何処に行く気だ?」
「リックはグループFだろ?俺のグループAは今から市街地の警ら。」
「お、書類から逃げるいい手だ。」
「提出期限は譲らんぞ。」
「ひ〜〜〜ん!クラウド、こいつらお兄ちゃんを苛めるんだよ〜〜。」
 わざとらしく泣き付くザックスに苦笑いしながら、クラウドはどうするべきかちょっと迷ったが、ここで手助けしたら今後ずっと書類を手伝う羽目になりそうなのでわざと冷たくすることにした。
「兄貴を名乗るなら弟の俺の書類も頼めませんか?俺、買い物もしたいし掃除もしたいし、やりたいこと一杯あるのですけれど。」
「うっわ〜〜!!所帯染みちゃって、お兄ちゃん悲しいよぉ〜〜。まるでいけ好かない奴に妹を嫁に取られた気分。」
「俺は男だーーーー!!!」

 ザックスの”妹”発言にかちんときたクラウドが、いつもの様に正拳付きを思いっきり腹部にあてた。思わず前かがみになるザックスの少し曲がった膝を土台にジャンプしたクラウドの踵落しが見事に決まった。

「ハラホロヒレハレ…。」
 伸びたザックスにジョニーがふざけてカウントを入れる。
「3、2、1、ノックアウトーーー!!」
「これでとうとう3回め。」
「あ、ごめんなさい!!」
 あわててザックスの頬を軽く叩くと頭を振って目を覚ました。
「ったく、この間ノックアウトされた時より強かったぜ。」
「当然だ、ミッドガルズドオルム相手に何度剣をふるったと思っているんだ?おまけに今日の反抗勢力の鎮圧だってそうだ。戦えば闘うほど強くなるのは普通だろ?」
「サー・ランディに無茶苦茶な事宣言したかと思っていたけど、たしかにうちの隊に居ればクラウドなら簡単に強くなるだろうな。」
「ああ、クラスAにまで駆けあがれば一気にこの隊の副隊長だ。クラウド、白いロング着て隊長の隣りに立てるんだ、頑張れよ。」

 ソルジャーでも士官しか着ることの出来ないロングコートはカンパニーに入った兵士であれば誰しも憧れる物であった。
 3rd,2nd,1stまでのソルジャーは制服が無くて私服で戦闘に邪魔にならないような、動きやすい服を着ると言う事になっていた。
 小隊長が在籍するクラスCが赤い革のロングコートを、中隊長が在籍するクラスBは青い革のロングコートを、そして副隊長が在籍するクラスAは白のロングコートを、隊長クラスであるクラスSは黒い革のロングコートを制服として着ているのであった

 セフィロスの隣りで色ちがいとはいえ同じロングコートを着られる。
 もちろん同じ色である黒のロングの方が憧れは強いがそれは隊長の証であるがゆえ、同じ隊にはいられない事になる、クラウドに取っては望まない事であった。
 だからリックの言った一言にクラウドは思わず嬉しくなって力強く返事をした。

「はい、頑張ります!!」
 目をキラキラとさせて元気一杯に答えるクラウドに、リックやカイルだけではなく密かにセフィロスが嬉しく感じていたことはこの時はまだ誰もわからなかった。

 さてはてザックスが警らに出ていって静かになってから、クラウドはなんとか報告書を書きあげて提出し、ランチに行こうと執務室を出ると扉の前にクラスSソルジャーのライオネルが立っていた。

「あ、サー・ライオネル。隊長殿にご用事でしょうか?」
「あ、いえ。なにやら我が隊の副隊長があなたに無礼を働いたようですが。」
「え?自分にですか?自分はそうは思っていませんのでお気になさらないようにお伝え下さい。」
「では、その男から貴方への伝言を…、”いつでも来い、待ってる”私には意味がわかりませんが、奴はそう言っていました。」
「わざわざすみません。」
 クラウドはぺこりとおじぎをしてライオネルと別れた。

 しかしクラスSのソルジャーであるライオネルがわざわざそれだけの為に、自分に会いに来る事などありえないはずである。
 クラウドが首をかしげていると後ろからセフィロスがやってきた。
「ライオネル、こんな所で何をしている?」
「あ…いえ、ちょっと。」
「ふん、お前が何を考えているのかわからぬではないが、クラウドはどの隊にも渡さないぞ。」
「わ、わかっておりますとも…、ええ。」

 気まずそうな顔をしてライオネルが小走りに走っていくのを見送ると、セフィロスはクラウドを見下ろした。
「浮気するなよ。」
「ちょっと!!隊長殿!!どのようにとればよろしいんですか?!」
「文字どおりだ。お前が立つのは私の隣りだと覚えておけ。」

 それだけ言うとセフィロスは何処かへ行ってしまった。
 色々な用事のあるセフィロスは、仕事の合間についでに食事を取ることが多かった。
 クラウドが寂しそうな顔をしていると後ろからキッドやエリックに肩を叩かれる。

「おう、クラウド。早く行かないと行列になるぜ。」
「あ、はい!」
「おっしゃ!今日はパアーッとBランチにしようか?」
「それでパアーっとかよ、寂しいな。」
「うっさい!給料前なんだ!」

 3人は小走りに下級兵用の食堂へと駆込んで行った。
 食堂でキッドとエリックと食事を取っていると後から来たブロウディやユーリ、ジョニー達が加わって冗談を交えながら楽しく食事をしていた。
 そこへクラウドの同僚だったアンディが通りかかった。

「あれ?クラウドじゃないか、久しぶり!」
「アンディ!!元気だった?」
「ああ、何とか生きているけど、一般兵ってなにかと大変だな。」
「あ、やっぱり荷物持ちとか食料調達とかいろんな事やらされてるんだ。」
「クラウドも一緒か、よかった。じゃあ、またな。」
 アンディが手をあげて去って行ったが横からケインが補足説明をしはじめた。
 ケインが話した事はクラウドには信じられない事だった。