その日も照りつける太陽の中モンスター相手に演習をした。
ミッドガルズオルムとの腕試しでザックスやリック達の戦い方を見た時、クラウドはその力強い戦い方に思わず見惚れてしまったが、”セフィロスの戦いが見たい”と密かに思っていた。
ボーッと見ていたクラウドにリックが声をかけた。
「クラウド、お前次だぞ!」
「はい!」
名前を呼ばれて目の前の湿地に足を踏み入れると、かなり大きなミッドガルズドオルムが鎌首をもたげて姿を現わした。
その大きさに後ろで見ていた隊員達が思わず声をあげた。
「うわ!!でっけえ!!」
「40mオーバーか。まあ、クラウドなら大丈夫だろう。」
リックの後ろに居る隊員達は自分達が対峙したミッドガルズオルムよりも、一回り大きい奴に気おくれする事なく切りかかって行く新兵に目を丸くしていた。
大きなミッドガルズドオルム相手に四苦八苦しながら、クラウドがなんとかミッドガルズドオルムを倒した時はすでに体力を使いはたしていて立っているのがやっとだった。
「あきれたな、本当に倒しやがった。」
「だが、あれでは立っているのがやっとだな。」
「あ、俺が抱いて行ってやろうか?」
「じょ、冗談はやめて下さい、自分はまだあるけま…。」
クラウドが意地になって歩こうとした時、やはり体力の限界かその場にゆっくりと崩れた。
あわててリックが駆け寄るよりも早く、セフィロスがクラウドに駆け寄って抱き上げる。その素早さを見てリックが思わず苦笑をした。
「隊長殿、あまり見せつけないで下さい。」
「なんの事だ?」
「いつもなら隊長殿は、気絶した俺達を姫抱きになどしませんからね。水ぶっかけられてお終いですよ。」
「で?そのお姫様の代わりの食料調達係りは誰だよ?」
「自分がクラウドの兄貴分だと思うならお前が行くのだな。」
「へいへい、エレファダンクの10匹ぐらい軽く狩ってきましょうかね。いくぜ!!エリック、ケイン」
「ええ〜〜?!サー・ザックスとですか?嫌だなぁ、後始末大変なんだけどなぁ。」
「うっさい!!付いてくるの!」
ザックスと2人の隊員がライフル片手に草原へと出掛けて行った。
セフィロスがクラウドをベースキャンプの中の簡易テントに寝かせた後、ずいぶん経過してザックスとエリック、ケインがエレファダンクを重たそうに引きずって帰って来た。
「たっだいま〜〜!!」
やたらご機嫌で帰って来たザックスを見ると、彼がどれだけ仕留めたかは容易に想像がつく。調子に乗って喋りだす前にセフィロスが冷たく一言言いはなった。
「クラウドを起して見ろ、二度と起きられなくしてやるぞ。」
まるで地の底からはい上がってくるような声でセフィロスに脅されると、ザックスは両手を上げて青い顔をした。
「なんでぇ。気分よく狩りが出来たって言う報告も聞けないのかよ。」
「お前の大声でクラウドが起きるだろ?」
「あっまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!セフィロスがクラウドに甘いのはしゃあねえもんなぁ。30近い男のマジな恋だ、恋人に甘くもなるのはわかるけどよぉ、なんでリックまでが甘いんだよ。」
「誰が30近いだと?私はもっと若い。」
「俺がクラウドに甘い?ふふん、色々と訳があって甘いんだよ。」
ザックスの言葉にセフィロスとリックがそれぞれ返事をしていた時、ベースキャンプからクラウドがあわてて飛び出して来た。
「す、すみません!」
リックとセフィロスの視線がザックスにつきささって、すぐにクラウドに向けられる。あまりにも対照的な視線にザックスがブチブチ文句を言う。
「何でえ、何でえ。そりゃクラウドは可愛いけどよぉ差別だぞ差別!」
一人ふてくされるザックスではあるが、クラウドが近寄ってにこりと笑うと、思わずはねた髪をぽふぽふと撫でてしまった。
「貴様も十分クラウドには甘いな。」
「俺は兄貴分だ!だいたい俺には…。」
そこまで口走ってザックスは思わず口をふさいだ。
男だらけの軍隊で、とびっきりの美少女に出会ったなどと口走ってしまえば、その子が他の連中に狙われると思ったのであった。
実際、ジョニーも女好きでザックスと同じぐらい事務のお姉さんを口説き回っている。
いつもふざけた口調で『俺、とある企業の次期社長なのよね〜』というナンパ言葉は事務の女性に有名であった。
しかし、ある事実にザックスが気づきジョニーに話しかけた。
「そう言えばジョニー。おまえ最近、事務のお姉さん口説き回っていないな。」
「俺?リックやカイルと一緒!クラウドが気に入ったから辞めた。」
ジョニーの一言で空気が冷え込むかと思って身構えていたザックスが、一向に冷え込まない空気にびっくりするが、リックもカイルもにやりと笑っただけで突っ込みを入れる事はなかったどころか、可愛い恋人に横恋慕されるのを嫌うセフィロスが平然と聞き流しているのを見てふたたび憮然とした。
「あ、そうなのねん。結局俺は信頼されてないって事なのねん。」
「お前は隊長殿の信を得られるような事をしているのか?」
「書類を溜めて隊長殿に迷惑を掛け、あまつさえここに来たほとんどの1stソルジャーが1年でクラスAまでステップアップして行ったと言うのに貴様は今だに1st!そんな男の何処に信頼出来るというのだ?!」
最前線に出ることの多いセフィロスの隊は、実際隊員の入れ代わりが激しいのであった。ほとんどの兵士はあっという間に才能を開花させ、上級ソルジャーになり他の隊へ引き抜かれて行ったし、ソルジャーになってから入隊した者はほとんど一年から1年半で副隊長が在籍するクラスAソルジャーまであっというまに駆けあがり、他の隊の副隊長として重宝されているのであったが、リック達の様に魔晄の耐性がないとソルジャーにもなれず、かといって実力は折り紙つきの為、常にセフィロスと行動を共にしていた。
ぶつぶつ文句を言いつつも、クラウドがせっせと食事の支度をはじめていたので、隊員達がすぐに手伝いはじめる。
「おまえ疲れているんだろ?コレは俺がやるわ。」
「クラウドはそっちで火を起しておいてくれ。」
ユーリに炎のマテリアを手渡されて薪を積み上げた場所へ向かい、クラウドがマテリアを片手に呪文を唱えた。
「ファイヤ!」
瞬時に薪が轟音を立てて燃えはじめる。
その炎の強さを見てザックスがびっくりした。
「って、まてクラウド。おまえ、今のがファイヤだって?」
「え?ダメだったのでしょうか?」
「いや、ダメなんてもんじゃない。お前の魔力って凄いんだな。」
クラウドはザックスの言う事がよくわからなかった。
小首を傾げるようにザックスに聞き返した。
「どう凄いんですか?」
「ファイヤって下級魔法だろ?それなのにこの威力じゃないか、最上級魔法をマスターしたら恐いものがあるぜ。バハムートを召喚出来た訳だな。」
ザックスが改めてクラウドの才能を認識した。
やがて夕食の支度が整い隊の全員でたき火を囲みながら夕食を取っていた時、セフィロスの携帯が鳴り響いた。
「私だ。ああ、今グラスランドだが。ふむ、わかった。」
セフィロスの表情が厳しくなった。
携帯をたたむと隊員に向けていきなり命令を下した。
「明日ミッドガル3番街のポイント03・45にて反抗勢力の決起が有るとリークがあった。総員撤収!ミッドガルへ戻るぞ!!」
「アイ・サー!!」
隊員達が返事をすると、てきぱきとベースキャンプがたたまれ、トラックへと積み込まれていく。最後に薪についた炎を消すと全員がトラックに乗り込みミッドガルへと帰って行った。
12時間後、トラックがミッドガルの神羅カンパニーに到着すると隊員達は装備を確認する。
バングルに治療と回復のマテリアをはめ込み、それぞれ得意とする武器を持つ。
クラウドもバングルに回復と治療の他に念のためソードにバハムートのマテリアを装備する。
全員がトラックへと戻るとリックがトラックを3番街へと走らせた。
トラックに乗り込んだ隊員達がぶつぶつ文句を言いはじめた。
「ちぃ、よりによって3番街かよ。」
「ったく、少しは場所を考えて決起してほしいものだな。」
「3番街って何があるんですか?」
「市民病院だ。」
ジョニーが吐き捨てるようにつぶやいた。
クラウドも病院が近いと被害がおよぶといけないので顔を青くする。
やがて3番街に到着すると、そこにはあらかじめ他の隊により非常線を張られていた。
その場のリーダーであろうか?一人の男が一歩前にでてセフィロスに敬礼する。
「第21師団副隊長のランディです。何人か随行させましょうか?」
「足手まといだ、一般兵はいらぬ。そうだな、高位魔法をかけられるソルジャーを3人、隊の後ろから補助として借りたい。」
「アイ・サー! トニー、レイス、特務隊の援助に回れ!」
「了解!」
「アイ・サー!」
特務隊というのは第13独立小隊の別称であった。
常に第一線を任され、特別な任務にあたる事もあった為、いつしか”特務隊”と呼ばれる様になっていたのであった。
セフィロスが自分の隊に振り返ると4手に別けた。
「リック、右へ行け、クラウドお前は左だ、ザックスは背後から。カイル、おまえはザックスの補助だ。力バランスを考えて各自別れろ!」
隊員達が均等に4つに別れた。
先程の副隊長がびっくりしたような顔をした。
「だ、大丈夫ですか?こいつたしか今年入ったばかりのニューフェイスですよね?」 その問いかけにリックが答えた。
「クラウドは下手すればお前より強い。」
「ええ?!」
「心配ならクラウドの後ろに付いて行って見るのだな。こいつの心配は体力とパワーぐらいなものだ」
「見せてもらおうじゃないか。」
ランディがクラウドの後ろについた。
セフィロスが隊員達を見渡して言い放った。
「ただいまより反抗勢力鎮圧のミッションに入る!総員、必ず生きて帰ること!以上!!」
敬礼と共にセフィロスの正宗が抜かれる。
戦闘開始の合図の様にきらりと光ると、隊員達が指示された方向へと走っていった。
ランディは目の前の少年兵をちらりと眺めていた。
どちらかと言うとまだ幼さを残した可愛らしい顔だちに青い瞳、凛とした態度は一端の兵士であったが、
(イマイチ、心配だよなぁ。)
と、思っていた。
クラウドがソードを抜くと、後ろに控えている隊員達に一旦うなずいて、先頭を切って走っていった。
やがて反抗勢力が見えてくる。
マシンガンの弾をうまくよけながら、クラウドがソードを片手に切り込んで行った。
その太刀筋の正確さにランディが後ろで思わず唸っていた。
そして時折、クラウドの操るソードから赤い晄がチラチラと見えるのに気がついていた。
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