FF ニ次小説
 グラスランドに到着しテントを張って荷物を運び込み、ベースキャンプを作ってから南に2Km進むと目の前に湿地帯が広がっていた。
 湿地帯の向こう側には雪を頂いた山が見える。
 ここがミッドガルズオルムの生息地域であった。

 クジですでに順番が決められていて、一番手のケインが一歩湿地に踏み込むと、大きなヘビが鎌首をもたげて現れた。
「20mか?まあ小さい方だな。」
 ケインがナイフ片手にミッドガルズドオルムに組みついて行った、牙には猛毒が有るので背中からの接近であったが敵も簡単には背後を取らせない。
 ポケットから手榴弾を取り出し、ピンを口で引っ張り、3まで数えてミッドガルズドオルムの目をめがけて投げつけると、狙った通りに左目の前で爆発する。
 痛さなのか、ミッドガルズドオルムがのたうち回っているところを、うまく喉元にナイフを突きたてる。
 しかしその程度で倒れるようなミッドガルズドオルムでは無かった。
 ケインに向かって尻尾がふりおろされようとした時リックが命令を下した。

「クラウド、行け!!」
「アイ・サー!」
 リックの一言と共にクラウドがソードを掲げてケインを助けに入った。
 暴れくるうミッドガルズドオルムの身体を避けつつ、正確に攻撃を加えて行くクラウドをリックは満足そうな目で見ていた。
 後ろで見ている先輩隊員達が呆れたような声を出している。
「へぇ、あいつやるじゃん。」
「当たり前だ、俺達3人が束になってやっと勝てるんだからな。」
「ちょっとまった。俺、リック達に一度も勝った事ないよ?!」
「3人がかりで負けるっていうのも悔しいぜ。」
「一般兵にソルジャーがノックダウンさせられる訳だよなぁ」
 ザックスがつぶやいた時ミッドガルズドオルムの動きが次第に悪くなってきた、ケインがとどめのソードをミッドガルズドオルムの頭に突きたてた。

 セフィロスがケインに声をかける。
「ケイン、20m程度で助けが入るようではマダマダだな。」
「精進いたします!」
「次!ブロウディ!」

 隊員達がリックに寄って一人一人呼ばれるが常に危なくなった時に、リックはクラウドを参戦させていた。
 一人では不味いと思う隊員は2人一組でパーティーを組んで対峙したが、やはり危険になってきた時にはクラウドに助けさせているので、動きたくてうずうずしているザックスがリックに尋ねた。

「なあ、リック。なんでアイツなんだ?」
「危険な状況下で冷静な判断を下す事は冷静な指揮につながる。クラウドはお前みたいに猪突猛進ではなく冷静に状況を判断している、実に指揮官向きの男だ。」
「要するにお前もあいつを士官として育てているって事か、負けていられねえなぁ。」
「その前に書類を溜めるのを辞めるんだな。」
「ぐを!!クリティカルヒット。」
 ザックスがワザと胸を掴んで苦しそうな顔をすると、その場にいた隊員達から笑い声が飛び出した。

「まったく。1stに上がってから隊に入ってきた連中は、あっという間に副隊長クラスまで駆けあがって行ったと言うのに、お前は一年たってもクラス1st。脳味噌が入っているのかその頭の中身!!」
 リックの言い方があまりにもセフィロスとソックリだった為クラウドがびっくりする、隣りでエリックがくすくす笑いながらクラウドに話しかけた。
「びっくりしたか?リックはまるで隊長のコピーだからな、だから影の隊長とまで呼ばれているんだ。」
「そういえばリックさんもカイルさんもジョニーさんも、もうソルジャー試験を受けられるのになぜソルジャーじゃないんですか?」
「魔晄との相性が悪くてな。俺みたいに一般兵の半分ぐらいは魔晄照射の際に精神値がレッドゾーンに入る寸前にまでなって照射をやめている。実力のおかげで一応1st扱いはされてはいるが正式には一般兵のままなんだ。」
 クラウドはリックの言葉に真面目な顔でうなずいていた。

 セフィロスは一連の隊員達の行動をすぐそばで見ていた。
 何も言わずに隊をリックに任せている所をみると、セフィロスもこの男の事を暗に認めているようである。
 悠然と組み立ての椅子に座って動かない。
 順番に日が傾き掛けるまで湿原でミッドガルズドオルム相手に腕試しをした後、ベースキャンプに戻り食事の支度をしようとした時エリックがクラウドにライフルを手渡した。

「食料品を仕入れに行くぞ。」
「え?」
「このミッションは一応非公式なものだ。最低限の食料しか持ってこれないんだ、だから下っ端の俺達が食料品の調達係なの。」
「はあ、要するに狩りに行くと言うことですか?」
「手っ取り早く言えばそう言う事。」

 クラウドとエリックがライフル片手に草原に出て行った、しばらくすると遠くからライフルの発砲音が聞こえ、モンスターの咆哮が何度か聞こえる。
 繰り返して聞こえてきた音が途切れてしばらくすると、かなりの数のレブリコンをハンティングしたのか重たそうに首を掴んで引きずりながら、エリックとクラウドがキャンプに戻ってきた。残っていた隊員達が声をかけた。
「お、ご苦労さん。」
「どうだった?」
「どうだったも何も、俺よりもこいつの方が間違えなく上!!」
「10匹か、7ー3って所か?」
「俺8ー2にかけていたんだけど。」
「まったく、何でも掛けの対象にするなよ。しかし二人ともハズレだ。」
「え?9ー1か?」
「いや、10−0だ。クラウドのライフルの音には癖があった、その音の後咆哮が聞こえたから間違いでは無かろう。」
「さすが隊長殿、正解です。こいつ、狙い所がやたら正確で、俺の出る幕ありませんでした。」

 エリックの報告にセフィロスが満足げにうなづくと、クラウドを隊員達が取り囲んだ、頭を撫でられたり小突かれたりと誉められているのか何なのかわからないがクラウドはそれでも嬉しかった。
 そんなクラウドを見てザックスとリックが話をしていた。
「まったく、可愛い顔をしてやる事が凄いぜ。」
「ザックス、あっという間に抜かれるから覚悟しておけよ。」
「あいつ、俺をもう2度も気絶させているんだぜ。軽くぶち抜かれても不思議じゃないと思うけど。」
「可愛い顔をして…か、マジで女顔なんだけどね。」
「ふふふ、可愛いね。あまり言うと後が恐いと思うな。」
 セフィロスに頭を撫でられてにこにこと笑うクラウドを横目で眺めながら、隊員達がひそひそと話し始めた。

「隊長ってたしか”キング”って呼ばれているよな?」
「ああ、クラスSからそう呼ばれている。」
「キングのお相手ならクイーンか?」
「馬鹿、ばれたらどうする気だ?クラウドは何処の隊にも渡さん!」
「ならばプリンセス、姫でどうだ?」
「怒ると思うぜ、クラウドは女扱いされるのが大嫌いみたいだからなぁ。」
「なに、呼びつづければ慣れるさ。」

 どうやらクラウドの呼称を影で決めていたようであった、
 この呼称はその後あっという間にカンパニーに知れ渡ることになり、クラウドがいくらやめてほしくても誰しも認める呼称となって行くのであった。

 レブリコンを遠くで捌いて肉の固まりにしてから串にさして火にくべる、しばらくすると肉の焼けるよい香が漂ってきた。
 気がつけばどっぷりと日が暮れている。
 たき火の赤い炎にてらされて全員で食事を取ると隊員達でクジを引いた。
 当直の順番きめである。

「うわ〜〜、俺1番ですかい?!」
「俺5番、って事は明日か?」
「だな、俺8番って明後日の早朝かよ。」
「うひゃ!!俺3番かよ」
「あ、俺4番」
「四人で一晩だからクラウドは早朝ってことか。俺ザックスの後って深夜じゃん。うわ〜〜〜、夜の草原って恐いんだよな。」
「はいはい、当番表に書いておくぞ。1番ザックス2番ケイン、3番リックで4番クラウドが今晩の当番な。明日の1番がジョニーで6番引いたの誰だ?」
「俺、7番がエリックだぞ。」
「はい、2日間の当直が決定。隊長、これでいかがでしょうか?」
「誰が当直でもそうは変わらんであろう?」
「ええ、そう思います。」

 セフィロスはリックに向かってそれだけ言うと当直表を見もせずに木を火にくべている。
 クラウドが新しい木をもって火の近くに行くと火の粉が飛ばない程度の所に置いた。
セフィロスがクラウドを振り返る事もなくそっと話しかけた。
「リックに頼りにされているようだな。」
「そ、そうですか?」
「ああ、危険な時に使えると思われていると言うことはそう言う事だ。」
「嬉しいです。」
 クラウドの頬が赤く感じるのは炎のせいだけでは無かった。

 その日、早めにシェラフに入って眠りにつき夜警を担当する時間の30分前に、腕に巻いたタイマーのおかげで起きたクラウドは眠い目をこすりながらテントから出た。
外はまだ暗く何も無い草原はしんとして少し冷え込んでいた。
 ふと天を仰ぐとまるで落ちてくる様な満天の星が光り輝いていた。
 しばらくその星に見とれているとリックがやってきた。

「なんだぁ?星が珍しいのか?」
「1年近くミッドガルにいたけど、あそこは星が無かったから…。」
「お前の郷は?」
「ニブルヘイムです。こんな星空がいつでも見られました。」
「そうか。あ、クラウド。これから冷えるからもう一枚羽織ってこい。」
「あ、はい。」
 素直にクラウドが上着をもってくるとリックがポンと肩を叩いてテントへと入って行った。

 クラウドは火の近くに座るとライフルを立てかけて周囲の気配を読もうとするが、炎の熱で暖かくてついうとうととしてしまいそうになる。
 居眠りをしていたのか急にがくっとなってびっくりしてはね置きあたりを見回すと(こ、こんなようではだめだ!)と、頭を振っては周りを歩いたりして時間を過ごしていた。

 やがて東の空が白んできた。
 次第に赤く染まりはじめると大きな太陽が徐々に顔を出しはじめた。
 クラウドは陽が登って行く瞬間をこの時初めて見つめていた、あまり心を奪われていた為かいつの間にか隣り人が立っていたのかわからないままだったが、いきなり抱き込まれてその人がセフィロスだと言う事に始めて気がついた。

「た、隊長殿。どうして?」
「お前の足音があちこちと動いていなかったので、少し心配になってな。陽が登るのを見るのは始めてか?」
「はい。」
「そうか。」
「間もなく起床時間です、隊の皆さんが起きてきますから、あの…。」
「ああ、そうだな。では、今日もしっかりやるのだぞ。」

 そう言いながらセフィロスはクラウドの唇を掠め取って行った。