クラウディアの誕生会は、翌日の芸能トップニュースで報じられていた。もちろんセフィロスがクラウディアにエンゲージリングを贈った事も、大々的に報じられていた。
そのニュースを報じるラジオを聞きながらクラウドは潮風に吹かれていた。
さきほどジュノンの港を離れたフェリーはたくさんの人や車や物資を乗せてゆったりとコスタ・デル・ソルへと航行している。船酔いするといけないのでクラウドはデッキで海を見ていたのであった。
あまり波も立っていない静かな海原はどこまでも青く、時折跳ね飛ぶしぶきが日の光を反射していた。
そんなクラウドに一人の男が近寄ってきた。
「あ…あの、お一人ですか?」
「え?」
クラウドが困惑の表情を浮かべると同時に逞しい腕がクラウドを抱き寄せた。声をかけた男がその男を青い顔をして見つめていた。黒い髪にアンバーの瞳をもつ2M近い長身の男がじろりと男を一瞥していた。
「私の妻がなにか?」
「あ、いえ。何でもありません!!」
声をかけた男がその場を逃げるように後にしたのを見送ると、長身の黒髪の男がクラウドに声をかける。
「まったく、まだ船に乗って30分と経っていないと言うのに、お前はモテる奴だな、コレで何人目だ?」
「知らないよ。だいたいセフィロスも俺を一人にして何処へ行っていたのさ?」
「ん?お前の母親に電話をしに行ってきた。なにしろ嫁にもらいに行くのに、アポなしでは断られるだろう?」
クラウドを抱き寄せている長身で黒髪の男は、セフィロスの変装だったのである。ジュノンにはカンパニーの支部があるので”英雄セフィロス”の事は一般市民ですら知っていて、その姿を見ると芸能人よりも街が混乱するのである。
だからセフィロスは髪の毛を黒いカツラで隠しカラーコンタクトを入れているのであった。
「あ、でも…その姿で会うの?」
「いや、これは家に入れてもらえたら元に戻すつもりだ。」
「で?俺の母さん、何て言ってた?」
「息子さんの事でお会いしたいと伝えたら、私の名前を聞いてびっくりしていたな。」
ニブルヘイムは田舎の村である。
昔は神羅カンパニーが魔晄炉を建設するとか言って、一時的ににぎわっていたようであるが、建設要員が去ると村は元の静かさを取り戻した。
それだけならまだしも魔晄炉の影響か村の近くの畑で作物が取れにくくなってきたのである。
必然的に村人は貧しくて村全体がさびれた印象をもたらしていた。
そのカンパニーを代表する男ともいえる彼が村に入ってきたとしたら、村人達は敵視するであろう。クラウドはニブルに行きたいと言ったセフィロスにこう伝えたのである。
「俺の母親はカンパニーに対して敵意は持っていないみたいだけど、村人は村をさびれさせた張本人だと思っているから…」
クラウドの母親がカンパニーに対して敵意を持っていない事事態が珍しいと思うが、それでも自分がカンパニーの看板である以上、敵意を持っていてもらってはクラウドを妻にする事が出来なくなってしまう、
セフィロスはクラウドに聞かされてホッとした物であった。
フェリーがコスタ・デル・ソルに到着すると船腹から車が次々に吐き出されてくる。その中にセフィロスが操るシルバーメタリックの車も交じっていた。
コスタ・デル・ソルを抜けて南下すると思っていたら、セフィロスは車を西に走らせていた。クラウドがそのことに気が付いてハンドルを握っているセフィロスに声をかけた。
「ねエ、セフィロス。こっちからはニブル山があって村にはいけないんだけど。」
「ニブルには魔晄炉があるのであろう?建設物資はロケット村から運び入れているんだよ、そのための坑道があるはずなのだが、これはカンパニーの部外秘になる。見たことは誰にも話すなよ。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
しばらく走るとコスタデルソルとロケット村を隔てる山が見えてきた、その山の麓まで行くと何かの扉のような物がそびえていた。
セフィロスが一旦扉の前で車を降りて何かを探している、キーボックスを探していたようで見つけ出し、パスコードを入力したのか扉が重い音を立てて開いた。
こうして山の中を貫くトンネルを抜けて、ロケット村の南に出ると進路を南に変える。ふたたび山が迫ってくると、同じように麓の扉をパスコードで開き、あっという間にニブルヘイムの北側へとでたのであった。
「すごいや、俺がニブルヘイムからミッドガルに来た時は、2日かかりだったっていうのに。」
大きな屋敷の前を通り抜け生まれ育った家の前に車を停めた。
クラウドが家の扉の前で大きく深呼吸をしてから扉を叩いた。
「はい、どなた?」
中から懐かしい母の声がした、
扉を開けると母親がびっくりしたような顔で迎え入れてくれた。
「クラウド、おまえ…」
クラウドの後ろに見慣れない長身の男が立っていた。男が一礼するので半日前の電話を思い出した。
「では、あなたが?ともかくこんな所では何ですのでお入り下さい。」
家の中に入るとセフィロスがかぶっていたかつらを取ると、下から流れるような銀髪がさらりと音を立てるようにこぼれてきた。
何度もクラウドの持っていた雑誌に乗っていた”神羅の英雄”と呼ばれる男セフィロス、クラウドの母親は今だになぜこの男がクラウドの事で話があるのか全く想像がついていなかった。
クラウドの母親がごく普通の挨拶をした。
「はじめまして、息子がお世話になっています。私がクラウドの母親です。」
「はじめまして、セフィロスと申します。本日は息子さんのクラウドの事で、折入ってお願いがあって参りました。」
クラウドの母親がセフィロスの隣にいる自分の息子を見てびっくりした。
今、目の前にいる息子はどことなくモジモジとして頬を赤らめている、そんなクラウドの表情などあまり見た事はなかった。
セフィロスが急に驚いたような顔をした母親に、ゆるやかに微笑みながら話を続けた。
「お母様は同性婚に対してどう思われますか?」
「え?否定はしないけど、積極的に賛成はしないわ。」
「実は、息子さんのクラウド君との結婚を考えています。」
「あ、貴方と言う人は!あのモデルさんはどうする気なの?!」
「かあさん。あれは俺なんだ。」
「え?!どう言う事なの?!」
クラウドは母親に何故自分が少女モデルをやらねばならなくなったか、その理由の一部始終を母親に説明した。
クラウドの母は眉をしかめて話を聞いていた。
それでもまっすぐな目でクラウドが自分を見ていた。
その瞳はクラウドがソルジャーになると言って、神羅カンパニーの勧誘を受けると母親に告げた時の瞳と同じであった。
その真剣さを知っていた為に母親は諦めに似たため息をついた。
「クラウドが送ってくれていた仕送り、クラウド名義で貯金してあったのよ。いつか貴方が結婚したいという女性が現れた時の資金にしようと思っていたわ。」
「ごめん。でも、譲れない。」
「どうしてもソルジャーになるのかい?」
「うん、そのつもりだよ。」
「ソルジャーになると遺伝子に異変が起きて子供が出来ない体質になるんだよ?それだけじゃないわ、魔晄との相性が良くなければ精神を病むのよ!」
セフィロスがクラウドの母親の言葉にびっくりして聞いた。
「なぜそれを知っている?一般の民間人は知らないはずだ。」
「クラウドの父親はカンパニーの社員だったのです、あの人はガスト博士と一緒にここにやってきた学者の一人でした。」
「なるほど、それでお詳しいのか。」
クラウドはやっと自分が村八分にされていた理由が、なぜかわかったような気がした。
カンパニーの化学部門の研究員との間に生まれた子供なら、カンパニーを良く思っていない村民に村八分にされても当然であった。
母親が急に寂しげな顔をしてつぶやくように話しかける、それはまるで自分に言い聞かせるかの如くの小声だった。
「本当に…言い出したら引かないんだから。」
「ごめん。」
「孫は抱けないけど、その代わり主人の友達だった女性の息子さんがこうして目の前に現れるなんて…。何かの縁だったのかしらね。」
「私の母親をご存じなのですか?」
「ええ、よく知っているわ。貴方のお母さまは、ルクレツィアさんと言って主人と同期の凄く美しい人だったわ。そう言えばどこか面影があるわね。」
「私は両親を知りません、母も父も知らずに育っています。」
「え?お父様はまだご存命でしょ?たしかカンパニーの化学部門にみえる宝条博士よ。」
自分を実験動物の様に扱っていた化学者のリーダーが父親と知って、セフィロスは動揺を隠せなかった。
クラウドもサー・ザックスから宝条博士がソルジャーを実験台の様に扱っている事を密かに教えてもらっていた。その博士が一番実験台にしていたのがセフィロスだと言う事もその時に教えてもらっていた。
「セ、セフィロス、大丈夫?!」
「正直ショックだったな。まさかあのマッドサイエンティストが父とは考えたこともなかったが…。そうか、そうだな。あいつなら自分の息子とて子供のころから実験動物扱いするだろう。」
クラウドの母親はセフィロスの言葉にびっくりした。
そして”『神羅の英雄』には感情が無い”という噂がなぜ広まったのかわかった気がした。
その感情が無いはずのセフィロスが感情を見せるようになったのは、きっと目の前の息子がいたからであろう。
自分の中にあった息子の同性婚へのわだかまりがすうっときえた。
「ちょっと待っていなさい。」
そういうとクラウドの母はちょっと家を出てどこかへとでかけた。
10分ぐらいで戻ってきたら手に何かの書類を持っていた。
クラウドが手渡された書類の内容を読んでびっくりした、書類は役所が発行した母親のサインの入った結婚の同意書だった。
「息子をよろしくお願いします。」
少し震えるような声でセフィロスに一礼する母親の肩が揺れていた。
セフィロスは何も言わずに立ち上がると母親の肩に手を当てて話しかけた。
「何も貴女からクラウドを取り上げるわけではありません、顔を上げて下さい。」
「そうね、でもしばらくは貴方と一緒に戦地に行くのでしょ?私は万が一この子に何かあったらと思うと気が気じゃないのよ。貴方と一緒になれば戦場へ行かなくとも済むなら一刻も早い方が…」
「俺、いつかセフィロスの隣に立てるような戦士になりたい。今は無理だけど。俺、セフィロスを守りたい。」
神羅の英雄とまで呼ばれる男を守りたいと……
あの村外れにされて意地を張りつつも、村の子供の背中を常に追うように見ていた子が、毅然とした態度で話しているのを見てクラウドの母は再び涙を流した。
そして少し悲しげな笑顔でクラウドに話しかけた。
「いい人に巡り会えたんだね。それでお前がこれだけ強くなったのなら母さんそれだけで嬉しいよ。」
クラウドと母親が涙を流しているのを不思議な感情に包まれながらも、セフィロスはだた黙って見守るしか出来なかった。
やがて笑顔を取り戻した母親に見送られてミッドガルへと戻ってきた。
その時セフィロスの脳裏に浮かんでいた事をこの時のクラウドはまだ想像付かなかった。
The End
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