FF ニ次小説
 シェフォードホテルの一番広い部屋に政財界のトップクラスの人達や、雑誌編集者、トップデザイナーが一堂に集まっていた。
 それはデビューしてまだ3ヶ月にしかならない新人モデルの誕生会には、とうてい思えなかった。
 いつもの様に白いスーツを着て金髪をオールバックにしている男が、あちこちへと挨拶しながら広い会場を歩いていた。

「これはこれは、経団連の会長殿。ようこそ」
「ルーファウス、いつから神羅カンパニーはモデルも雇うようになったのかね?」
「人材派遣も将来的には考えるべきかと思いましてね。もっとも、これほどまで政財界のトップクラスに人気があるとは思いませんでした。」

 ルーファウスが軽く一礼するとロビーを横切ってクラウディア・スタッフに声をかける。

「やあ、何をどうしたらこれが新人モデルの誕生会だと言うんだね?」
「さあ?我々だって首をかしげているぐらいですよ。」
「なんだか可哀想。まるでバックにいるサーが目当てみたいじゃない。」
「あながち間違ってはいないだろうな。」
「どうされるおつもりですか?あと2年ほどで身体が劇的に変わってしまうのですよね?」
「そうだな、そう言う事になるか。何か考えねばならんな。」

 ルーファウスが片手を上げた所でスーツを着たジョニーが現れ近寄ってきた。
 カンパニーに所属している兵士の一人が、シェフォードホテルのオーナーの御曹司と聞いた時はルーファウスとてびっくりしたが、さらにその兵士がセフィロス直属のbRとタークスから聞かされた時には半ば呆れた物であった。
 そのジョニーがルーファウスに一礼して父親であるジャック・グランディエ氏の元へと小走りに駆け寄った。

「まったく、居場所がばれたおかげで、またこんな所に引きずり出された。」
「言ったであろう?利用出来る物はなんでも利用すると。」
「ああそうですかい、俺がサーの部下じゃなかったら引きずり出さなかったって訳ね。で?今日、俺を呼んだ理由は?」
「今日の司会だ。サーに迷惑を掛けないように気を配れるのはお前だけだ。」
「バイト代弾めよ。それから俺の仲間で隊のトップクラスを4、5人連れてきた。警備がてらのウェイターをさせれば変な奴が乱入しても大丈夫だぞ。」

 ついっとその場を離れるとテーブルの下を覗き込んだり会場内をうろうろとする。
 どうやら爆発物や不審物が無いか確認しているようであった。

「オヤジ!!悪いけどクラウディア様へのプレゼントも確認するぜ!」
「信用されておらんな。」
「悪いけどコレも仕事です。」

 そういうとプレゼント用の箱をひょいと持ちあげて別室へと歩いて行った。
 時計をちらりと見ると、まもなく5時になろうとしていたので、スタイリストのミッシェルが控え室へと入って行くと
 そこにはきっちりとドレスアップしたクラウドと、タキシードを着こなしているセフィロスが椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
 クラウドの目の前にはクリームが一杯付いたケーキフォークが皿の上に置いてあった。
 ミッシェルがあわててクラウドに駆け寄る。

「あらら、口紅とれちゃって…ケーキ食べるのはいいけどもうちょっと上手に食べるようにしようね。」

 メイクボックスからあぶらとり紙とファンデーション、そして口紅を取り出すと”ケーキを食べました”という顔をしているクラウドの化粧をきっちりと治す。
 一通りじろじろと確認すると満面の笑みを浮かべてうなずいた。

「うん、OK。さ、間もなく時間よ。」
「頼むからこれっきりにしてくれよ。」
「こ〜ら、男言葉禁止!」
「はぁい…うん、もう仕方がないなぁ。」

 ブツブツと言いながら立ち上がるとすっとセフィロスが手を差し出した。
 その途端さっきまでのつまらなそうな少年の顔から、一転して恥じらいを含んだ少女の顔へと変貌したのであった。

 クラウドを抱き寄せるようにパーティールームへと歩いていくと、パーティールームではせわしげにジョニーがあちこち歩き回っていた。

「ジョニーさん、何やってるんだろう?」
「クックック…ジャック氏に司会として貸してほしいと頼まれたが、さすがわかっているようだな、あれは会場の安全確保だ。」
「何の為?」
「私は倒せなくともお前を盾にすれば私は手出しが出来ぬ。だからテロリストや反抗勢力がお前を狙う可能性があるんだよ。」
「一応華奢なモデルですからね。さて、ミッシェルじゃないけど、いいかげん切り替えないとね。」

 そう言ってちょっと目を閉じてしばらくじっとしていた、そして次に青い瞳が開かれた時はゆるやかに微笑む”モデルのクラウディア”がそこにいた。

 ジョニーが司会の演台に付くとマイクの調製を始め、5分も調整していると音楽がなって会場の灯が暗くなった。
 場馴れしているのかジョニーの司会は流暢であった。

「ご来場の皆様へ、本日はLady Cloudeaの誕生会へようこそお越し下さいました。本日司会進行は馬鹿親父に無理やり押しつけらたジョニー・グランディエです。では、本日の主賓、Lady Cloudeaに登場していただきましょう。」

 父親の影響かその場にいる政財界の人々の半分ぐらいは見知った顔であった為、冗談を飛ばしながらジョニーが会を進めはじめた。
 神羅カンパニー社長のルーファウスに先導され、きっちりと正装したセフィロスがとびっきりの美少女をエスコートして入ってきた。
 それはため息の出る様な光景であった。
 スポットライトにてらされて、つややかに輝くシルクのベビーピンクのドレス、真珠を主にしたアクセサリーも相まってクラウディアの清楚さを強調していた。

 セフィロスと共に中央に立つのを確認してジョニーが会を進めた。
「ルーファウス社長、一言お願い出来ますか?」
「堅苦しい挨拶など抜きでやりたい物だが?」
「一応雇用主ですから、形式だけでもお願いいたします。」
 ジョニーがマイクを強引に渡すと苦笑をしながらもルーファウスが受け取った。

「仕方がないな、本日は我がカンパニー所属のモデルLady Cloudeaの誕生会にお集まり頂きありがとうございます。さっそくですが会を進行させていただきます。」

 ルーファウスの挨拶が終るとともに大きなケーキが運ばれてきた。
 たくさんのフルーツと16本のロウソクが並べられたケーキは、ホテルのパティシエが作った大作で色々とデコレートされていた。
 クラウドは困惑顔で隣にいるセフィロスを見つめると、ゆるやかに微笑み、すぐにいつもの冷静な顔になると、ジョニーに確認した。

「ジョニー、確認は終わっているな?」
「Yes Ser!万が一があってはいけませんので一通り確認いたしました。」
「ならば吹き消しても大丈夫だな。」

 その言葉ににこりと笑みを浮かべ、クラウドが軽く会釈する。ケーキの前に移動するともう一度周りにおじぎをして、ロウソクを一気に吹き消した。

 (会場中の拍手に照れる姿はどうやっても少年兵にはみえないな……。)

 司会をしながらもジョニーはクラウドの姿を冷静に見ていた。
「隊長殿、クラウディア様から一言頂けますか?」
 ジョニーのちょっとした一言で会場中がなぜかざわめいたが、一切を無視してジョニーはセフィロスを見続けていた。
 その姿勢にセフィロスが苦笑いをしながら答えた。
「なんだ、本人に直接聞けばよいだろう?」
「隊長殿がガンを飛ばしているから恐くて聞けませんよ。」
「ふん。クラウディア?お礼を言ってきなさい。」
「あ、はい。」

 クラウドが一人でジョニーの元に歩いて行く。
 目の前に来た”同僚”にジョニーが軽くウィンクを送ると、クラウドは一瞬目を見開いたかと思うと頬を染めてうつむく。
 あまりにもウブな反応にジョニーがいささか呆れた。

 おずおずとマイクに向かってクラウドは御礼の言葉を話しはじめた。
「あ、あの…皆様、今日は私の16才のお誕生会を開いて下さってありがとうございます。あ、あの…これでよろしいかしら?」
「ご苦労様でした、十分ですよ。では、来賓の皆様を代表して、フレディおじさんにプレゼントを渡していただきましょう。」

 名指しされたのは経団連会長のアルフレッド・ウェシウスであった。
 ゆったりとした歩調でジョニーのそばに歩いてくると軽く片手を上げて挨拶をした。

「やあ、ジョニーどこに姿を晦ましていたかと思ったら、サー・セフィロスの部下だったのかい?ご指名ありがとう。」
「誰を指名しても喧嘩になりそうなんでね、おじさんなら憎まれ役は慣れているだろう?」
「はははは…こんな可愛いお嬢さんに、プレゼントを手渡しできるのならば憎まれてもかまわんよ。」
 ジョニーからプレゼントの箱を渡されて、経団連会長がクラウドの近くへと歩いてくる。
 クラウドは小首を傾げてセフィロスをちらりと見ると苦笑をしていた。

「大丈夫だ、この男は先程”一通り確認した”と言ったであろう?だからこの中身も安全だ。」
 セフィロスの一言にふわりと微笑むと、目の前の経団連会長におじぎをして、ゆるやかな笑顔でプレゼントの箱を受け取ると近くのテーブルに置く。
 ピンク色のリボンをほどき箱をあけると、耳にリベットで赤いリボンを付けたクマのぬいぐるみが出てきた。
 ボディはプラチナでも織り込んでいるのか、鈍く銀色に光り輝いている。つぶらな瞳はやや緑色かかったアイスブルーの宝石が入っていた。

「まあ、サーにソックリ。これでサーが派遣で長期間会えなくとも、少しは寂しさがまぎれます、本当にありがとうございます。」

 にこりと微笑む目の前の美少女の笑顔にその場にいる全員がうなずいていた。
 セフィロスがクラウドの横に移動して左手を取り、軽く手の甲にキスをすると、するりとポケットから何かを取り出して指に嵌めた。
「私からの気持ちだ。」

 クラウドが指に嵌められた指輪を見てびっくりする、ジョニーがすぐそばに来てその指輪をのぞき込んだ。
「うわ!ブルーダイヤ!隊長殿、公衆の面前でプロポーズしないで下さい!」
「なんだ、ジョニー。お前は宝石の鑑定も出来るのか?」
「うちのホテルのテナントに宝石売り場もあるんですよ。そこでこのバカ高い宝石を売る殺し文句がありましてね。ブルーダイヤには”幸せになれる”という意味があるってね。そんな意味の石でここまで大きくて綺麗なら間違いなくエンゲージでしょ?まったく、彼女が可哀想ですよ。いくら”俺のモノだ!”って言いたいからって…。」
「くっくっく…、その通りだ。」
 真っ赤になってうつむくクラウディアを抱き寄せて、その額に口づけを落す。セフィロスのゆるやかな笑みを浮かべた表情はいまだかつて見たことがないので、会場にいるほとんどの人々がその表情をため息交じりで見ていた。

 そんなセフィロスに注意出来るのは、この場にいるジョニーぐらいな物であろう。
「隊長殿、もう少し我慢しましょうね。ここには心臓の悪いじーさん達がゴロゴロいるんですよ、ショック死したらどうするんですか?」
「煩い!愛しい者を愛しいと思って何が悪い。」
「はいはい、まったく氷の英雄と言われている隊長らしくないですよ。」
「安心しろ。間違っても貴様達には同じことはせぬ。」
「命拾いしました。」

 ジョニーのホッとする表情を見て会場中が爆笑の渦に陥った。