クラウドも書類を書きあげて提出すると、アパートメントの近くに有るスーパーに寄った。今ごろザックスとエアリスは久しぶりに会っているんだろうな…と思うと、ちょっと嬉しくなるのと同時に、彼女にいつ本当のことを話すべきか思い悩む。
2、3日分の食材を買うと部屋に戻り軽く掃除を始める。
一ヶ月近く出掛けていた為、うっすらとほこりをかぶっているかと思いきや、エア・クリーナーが効いているので、部屋の空気すら澄んでいた。
床を掃除機で掃除をするだけで、すでに部屋は綺麗になってしまう。
クラウドは掃除機を片づけてキッチンで料理を作りはじめた。
ミッション先では携帯食や缶詰ばかりだったので、どうしても手の込んだ料理が作りたい、そう思ってクラウドは料理の本と首っ引きでヴォルシチと魚のムニエルを作る。
キッチンからいい香が漂いはじめると、すでに窓の外は夕闇が迫ってきていた。インターフォンがセフィロスの帰着を教えてくれたのでクラウドはせっせとテーブルに料理を並べた。
やがてチャイムと共に愛しい人が玄関を開けて入ってきた。
「お、おかえりなさい。」
クラウドが精一杯背伸びをしてキスをすると、セフィロスがお返しとばかりに抱きしめて深いキスを返す。
「ただいま、いい香がするな。」
「えへ…缶詰や携帯食ばかりだったから、ちょっと頑張っちゃった。」
ちょっと照れながらにこりと笑うクラウドを抱き寄せてキッチンへと入ると、美味しそうな料理が並んでいる。
セフィロスがクラウドの頬にキスを一つ落し服を着替えて戻ってくると、彼はクラウディアの誕生会の事でブツブツ言っていた。
「それにしても、なぜ明日じゃないんだろう?」
「色々と確認せねばならない事だとてあろう?たとえばドレスとか何着も用意されているかもしれぬぞ。」
「い、一枚しか着ないもん!!」
「だからお前が選ぶのではないのかな?」
「ううう…早く辞めたい。」
ちょっと拗ねたような顔でスプーンを咥えるクラウドは可愛らしいことこの上ない。
跳ねた金髪をすくように頭を撫でると、おでこにキスを落す。
「ソルジャーになれるのは早くて18才だからあと2年は無理そうだな。」
「うん、もう…しかたがないなぁ。」
クラウドは目の前のヴォルシチを一気に食べた。
そんなクラウドをセフィロスは肩を揺らしながら苦笑して見ていた。
食事を終えてリビングでたまっていた手紙や留守番電話を確認しているセフィロスに、クラウドがコーヒーを入れてやってきた。
マグカップをちょこんとセフィロスの目に入る所に置くと自分も少し離れて座る。
コーヒーに手を伸ばそうとしてふと見ると、可愛い恋人が自分のすぐとなりにいないので、少しムッとして腕を伸ばしクラウドを抱き寄せる。
いきなり抱き寄せられてクラウドは持っていたホットミルクをこぼしそうになったが、いつのまにかマグカップをセフィロスに取りあげられていた。
ひょいと持ち上げられるようにセフィロスの膝の上にちょこんと乗せられる。
「あ、あの…どうしたの?」
「ん?いいだろう、なにしろ3週間お前を抱きしめられなかったんだ。」
「抱き…、俺の誕生日やセフィロスがモンスター狩りに出た帰りとか、俺を抱きしめてキスしてたじゃないか!!」
「なんだ?あんなお子様なキスやハグで私が満足すると思っていたのか?」
そう言うとセフィロスはクラウドの細い顎を捕らえて上に向かせると、唇を重ねてきた。
ついばむような口づけが次第に深くなって行くとクラウドの頭がポ〜ッとして来る。
何度も口づけを交わすと次第にクラウドから何とも言えない色っぽい吐息が漏れはじめた。
「んっ。はぅ……ん……ぁあん。」
唇を離すと苦しそうに眉を寄せている様にみえるが、潤んだ青い瞳の中に艶っぽい欲情の炎がチラチラと見える。
その顔に満足げにうなずくとセフィロスはクラウドを軽々と姫抱きにして、ベッドへと歩いて行くのであった。
* * *
翌日、シルバーメタリックのスポーツカーが8番街のとあるビルに横づけされた。
ガルウィングの扉を跳ね上げて、銀色のロングヘアーの男が降り立った。
助手席の扉を開けて中から、飛びっきりの美少女がゆっくりと姿を現わした時、店の中から優しい笑顔の女性が出てきた。
「あら、いらっしゃいませ。サー・セフィロス。」
「マダムにお願いしたい事があるのですが。」
「仕事の依頼かしら?どうぞ中へ」
マダムセシルがVIPルームに二人を案内し椅子をすすめる。
二人が揃って椅子に座るのを見届けると自らコーヒーを入れた。
「それで?私へのお願いってなにかしら?」
「ウェディングドレスを作っていただきたい。」
「あら?クラウディアのかしら?それともクラウド君のもの?」
「クラウドの物です。」
「そう、おめでとうございます。でもティモシー達に教えたのかしら?」
「まだ色々と根回しが必要なので式は一ヶ月は先になると思います。」
「わかりましたわ。とびきりのウェディングドレスをご用意いたします。」
セフィロスとマダムが話しているのを真っ赤な顔をして、ミルクをたっぷり入れたカフェオレを両手でもってゆっくりとクラウドは飲んでいた。
「ああ、そう言えば明日はクラウディアの誕生日というお話しだったわね。是非、私のドレスを着てね。」
マダムの言葉にクラウドがびっくりする。
「ま、まさかデヴィッドさんもデザインしているとか?」
「ええ、そうよ。デヴィッドったらフロントがひざ上20cm、後ろに行くに従って長くなる丈のドレスを作っていたわ。本当、短いのが好きなんだから。」
「ううう…そんなドレス着ないから。マダム、お願いですから今度ティモシー達からそんなリクエストが来たら、お二人で共同デザインして下さい。」
「あら、そう言う事もできるわね。うふふふ…まだまだ辞められないみたいねクラウディア。」
「あ!!うん、もう…。」
クラウドがぷうっとふくれるのでその顔がまた可愛らしくて、マダムセシルとセフィロスはひとしきり苦笑するのであった。
マダムセシルの店を出てカンパニーがクラウディアの事務所として借りている部屋に行く。
事前に連絡を入れていたのでスタッフが3人とも待機していた。
スタイリストのミッシェルがやたらにこにこしてクラウドを見ていた。
「ミッシェル、何かいいことあったの?」
「マダムから電話があったの。聞いたわよォ〜〜奥様!」
「え?あ…」
瞬間湯沸かし器か?と思うほど一瞬にしてクラウドの顔が真っ赤になる、隣りでセフィロスがゆるやかな笑みを浮かべてクラウドを見ていた。
「お二人が結婚なさってもクラウディアは続けていただきますからね。カレンダーを出すつもりでいますのでそのおつもりでお願いいたします。」
「あ、やっぱり?」
「で、クラウド君。明日の衣装だけど、これとこれ。どっちがいい?」
ミッシェルが見せたドレスは一枚は、マダムセシルから聞かされた通り前が短く後ろの長いスカート丈のドレスで、もう一枚は裾丈の長いフェミニンなドレスであった、露出も少ないのでクラウドが即座に指を差して答えた。
「こっちの裾丈の長い奴。」
「あら、残念。前の短い奴も似合うと思うんだけどなぁ。」
「ヤダ!!誕生会の雰囲気じゃない。」
「16才でしょ?短いの着られるのも若いうちだと思うけど。」
「だいたい俺、男だし…すね毛が見えても知らないからね。」
「それならばやはりロングドレスですね。では明日のお誕生パーティーの打ち合わせに入ります。」
ティモシーがB4のコピー用紙をクラウドとセフィロスに手渡す、スタッフにも渡して一通り説明をする。
セフィロスが話を聞いて納得した。
「ごく普通の誕生会のようだな。」
「サーにも出席していただきますよ。クラウディアを恋人と言うのであれば拒否はさせません。」
「仕方がないな、すると私はスーツかタキシードの方がよさそうだな。」
「ええ、そうですね。ところで、サーはクラウディアにプレゼントをご用意されてますか?」
「ああ、一応用意しておいた。」
「さすが、サーですね。では、明日午後3時にシェフォードホテルでお待ちしています。」
「え?パーティーは5時からですよね?」
「足の先から頭のてっぺんまで思いっきりドレスアップするから覚悟してね。」
「うげぇ〜〜」
苦々しげな顔で答えたクラウドをスタッフは笑顔で見守っていた。
ティモシーがセフィロスに真剣な顔をして話しかける。
「お聞きしたいことがあります、サー。クラウド君がソルジャーになるのは2年後ですが、その時の身体の変化はどのぐらいあるものですか?」
「そうだな、ソルジャーとしての施術後にはどうしても身体の筋繊維が太くなって、体格が大きく変わってしまうであろうな。具体的にはこの華奢なクラウドでもボディビルダー並にはなるであろうな。」
「そうなると流石にドレスは似合わなくなりますね。」
「ああ、カンパニーがこのまま魔晄の力を使いつづけるというのであれば、クラウドなら間違いなくソルジャーになれるであろう。」
「では、どうやってクラウディアをモデルから引退させるかも、あと2年で考えねばいけないのですね?」
「まあ、考えておくのは悪い事ではないな。」
セフィロスの話しにティモシーが軽くうなずいた。
パーティーの打ち合わせを終えると昼になろうとしていた。
事務所を後にして車に乗り込むと、自宅へと向かう車の中でクラウドは暗い顔で黙ってうつむいていた。
その様子に気が付いたセフィロスがクラウドにたずねた。
「どうした?」
「俺がソルジャーに……、なれる?」
「ああ、このままカンパニーの方針が変わらなければ、な。」
「ムキムキのマッチョになってもいいの?」
「?!クックック…急に何を言うかと思ったら。そうだな、考えてもいなかったな。お前がソルジャーになったら抱きにくくなりそうだ。」
「もう、セフィロスったら!!そればっかりだ。俺がソルジャーになっても、その……け、結婚を…続けるの?」
「お前の心が変わらなければ側にいてほしい。」
耳元で囁かれた言葉にクラウドは最上級の笑顔を返した。
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