交代でエリアのモンスターを殲滅しては、休憩を繰り返す。夜の警備も交代で行っている為、派遣される隊員はその日その日で目まぐるしく代わっていた。
吹雪の日も晴れた日も変わらない戦力で地域のモンスターを倒していきながら、アイシクルエリアでの日々が刻々と過ぎて行った
* * *
そんなある日の深夜のこと、寝ているクラウドの腕に巻いた時計が軽く震動をして、起きる時間を教えてくれている。
まだ眠い目をこすりながら寝袋から抜けだすと身体がぶるりと震えるが、自分が見張り番につく時間だ。上着を取りライフルをもってテントの外に出ると、火のそばにいるキッドの肩を叩く。
「あ、姫。ごくろうさん。」
「姫は止めて下さいよ。」
「ウチの隊の姫君だから仕方がないだろう?それとも何?他の隊にかっさらわれたいの?」
「それは嫌ですけど…」
「お前はお前だろう?ならば、なんと呼ばれてもいいじゃないか。」
肩をポンと叩かれてキッドがテントへと入り込んで行った。
しんしんと冷え込んでいるアイシクルエリアの”夜”、炎に温められながら、クラウドが空を見上げるとほの白く明るい。
これが白夜かと見とれていると、ふわりとクラウドの頭から毛布が掛けられた。振り返るとそこにはいつもの黒革のロングコートを着たセフィロスが立っていた。
「隊長。」
「寒くないか?」
「あ、はい。でも、どうして?」
「時計を見て何も思わないのか?」
クラウドがもう一度時計を見ると、日付が8月11日になったばかりだった。
「あ…」
「一番に言いたくてな、誕生日おめでとう。」
クラウドを毛布の上から抱きしめて軽く唇を重ねる。
そしてポケットから何かを取り出して、さっと防寒軍手を外したクラウドの左手薬指にはめた。
クラウドがびっくりして自分の左手を見ると、そこにはプラチナで出来た指輪がはめられていた。
「ちょっと、セフィ。これって…」
「当然、こう言う事だ。」
セフィロスが自分の左手に嵌められた黒い革のグローブを脱ぐと、そこには同じデザインの指輪が嵌められていた。
「は、外せないよね?」
「式の時以外は、な。」
「まだ母さんに何も伝えていないのに…どうしよう?」
そう言いながらクラウドは嬉しげにセフィロスに抱きついた。
もう一度ゆっくりとキスを交わすとセフィロスがクラウドの耳元で囁いた
「帰ったらこの指輪が誤魔化せるような婚約指輪とグローブを贈ろう。」
「婚約指輪?男の俺がするんですか?」
「中身はお前だが、マリッジリングだけでは困るだろう?モデルのクラウディアは。」
「あ…忘れていた。写真に残るから…ティモシー達にも言わないとダメだよね?」
「その調子ではまだまだ辞められそうもなさそうだな。まあよい。そろそろ私はテントに戻る、一人で頑張れるな?」
「はい。あ…でも、一人だって思っていない…から。」
クラウドが左手を恥ずかしげに隠しながら、ちょっと照れたような顔でつぶやくと、セフィロスがその唇をもう一度掠め取って行った。
「そんな可愛い事を言うな…離せなくなるだろうが。」
クラウドの頭をぽふっと一度なでて、セフィロスはテントの中へと戻って行った。
吐く息も白く氷る北の白夜の中でも、クラウドの心はぽかぽかと暖かかった。
(エヘヘヘ…もらっちゃった。マリッジ……リングだって、言っていたよね?でも、本当に俺でいいのかな?)
クラウドの心のどこかに常にあったほんの小さな不安。
セフィロスの恋人が自分でいいのであろうか?
しかしセフィロスは、こんな自分でも隣りにいる事を望んでいてくれる。
だから俺はセフィロスの隣にいるのにふさわしい人間にならないと…
クラウドはどうすればセフィロスの隣にいるのにふさわしいか、わから無かった。
(とりあえず、セフィロスを目標に早くソルジャーにならなくちゃ!!)
クラウドはこの時改めてソルジャーになる事を心に誓ったのであった。
アイシクルエリアでのモンスター殲滅ミッションが帰還期限になった。
キャンプを撤収しトラックに積み込むと、整然とトラックに乗り込み、全員がベースキャンプに戻った。
ベースキャンプでは定時連絡が吹雪で途切れがちではあったが、特務隊の無事は連絡が来る都度確認していた為、待機していた輸送チームが笑顔で隊員達を出迎えてくれた。
しかしベースキャンプに帰還したとたんに、キャンプの周囲で激しい吹雪になり、飛空挺が飛べない状況に陥った。
カンパニー本部とも連絡が取れなくなり一週間も経つと、治安部でも心配そうな顔をする隊員達がちらほらと出てきた。
それは部隊長であるクラスSソルジャー達でも同じであった。
「キングはご無事なのでしょうか?」
「お前まで不安げな顔をしてどうする?キングはきっとご無事だ。」
「連絡も入らないほどの荒れた天候で飛空挺が飛べないらしいが、サー・セフィロスならきっと大丈夫であろうが。」
「キングだけなら私もこれほどまで心配いたしません。しかし今回はグィネヴィア姫もご一緒しているのであろう?姫君のためにキングが無理をしそうで…。」
「ミッション中のキングは私情など挟まぬ人だ。それに、呆れた事にあの姫君はうちの副官と、ガーレスの副官を倒してしまった。そんな強い兵士がそう簡単にミスを犯すとも思えぬな。」
「なに?!ゴードンとパーシーを倒してしまったと言うのか?!それは知らなかった。それなら安心したよ。」
「連中、言っていましたよ『あれで本当に入ったばかりの一般兵ですか?』と、な。」
「アイシクルエリアのモンスターの強さはかなり強い。あの姫君なら最前線にでるであろうから、更に強くなって戻ってくるさ。」
ここにはいない盟主であるセフィロスとその思われ人である一人の少年兵。
そして遠い北の空にいる隊員達の無事の帰還を祈って、クラスSソルジャー達は窓の外を見た。
その時ランスロットの瞳が空のかなたに何か光る物を捕らえた。
いつもなら冷静で落ちついているはずのクラスSbQの男が、急に執務室を飛び出していくのをあっけにとられて見ていた仲間が、同じように空のかなたに光る物を確認した。
「あ、ランスの奴、なんだかんだと言いながら心配だったんだな。」
「そう言う事だろうな。」
そう言いながらもランスロットの後を追うように、クラスS執務室にいた連隊長達が全員滑走路へと駆けだした。
滑走路に連隊長達が姿を現わした事で、滑走路の近くで仕事をしていた下級兵達が、びっくりして体を固くしながら敬礼をしている。
あわててその場の小隊長であるクラスCソルジャーが駆け寄ってきた。
「連隊長殿!どうかされましたか?」
「まもなく第13独立小隊をのせた飛空挺が帰ってくる、それだけだ。」
「特務隊が戻ってくるのですか?わかりました。」
クラスCソルジャーが敬礼をすると、きびすを返して自分の部下達のところへと行く。なにやら下級兵達に話しかけていると、下級兵達から歓喜の声が聞こえてきた。
「え?!特務隊ですか?サー・セフィロスにあえるんですか?!」
「ラッキー!今日この仕事でよかった!!」
おなじ治安維持部にいるとはいえ、セフィロスの姿を拝めるのは1年に数回しかない。
しかしほとんどの兵士はセフィロスに憧れていて、神羅カンパニーの治安部へスカウトされた時は『あの英雄と一緒に戦えるかもしれない』と、甘い言葉に誘われてミッドガルへとやってくるのであった。
クラスSソルジャー達が滑走路に現れて10分ほどすると、聞き慣れた飛空挺のエンジン音が聞こえ、機体がはっきりと見えてきた。
だんだんと飛空挺が大きくなって近づいてくると、滑走路にはしだいに人が集まってきていた。
飛空挺が滑走路にタッチダウンし、ゆっくりとその翼を休めた。そして扉が開くと長い銀髪を風になびかせて、ゆったりとセフィロスが滑走路に舞い降りた。
うしろから続々と第13独立小隊の隊員達が降りてくる。最後に金髪碧眼の少年兵が周りを見渡して、輸送艇の隊員達に一礼して降りてきた。
セフィロスの横にザックスが並び、その前に力のある順に隊員が並ぶ。敬礼をする隊員達を見渡すと、セフィロスが凛とした姿勢で皆に言い渡した。
「ミッションbP088249 ミッションタイプ A+ コンプリート。諸君の協力に感謝する! 以上だ。」
隊員達が敬礼をするとセフィロスとザックスが返礼をする。
そこへゆっくりと黒のロングコートを着たクラスSが近寄ってきた。にこやかに出迎えるクラスSソルジャー達を見て訝しむ様な顔をしてたずねた。
「何だ?何かあったのか?」
「いえ、お出迎えをしてはいけませんでしたか?」
「ずいぶん天候が荒れていたご様子ですね。」
「あんなものであろう。」
何も表情を変える事なく、足早に執務室へと歩いて行くセフィロスに、クラスSソルジャー達は苦笑いをしていた。
隊員達がセフィロスを追いかけるように、執務室へと駆込んで行くと、それぞれ報告書の作成に取り掛かった。書類とにらめっこをしている時にクラウドの携帯がなった。
「はい、クラウドです。あ、ティモシー。うん、今さっき帰って来た所。え?本当にやるの?どうしようかな??」
ちらりとセフィロスの方を見ると渋い顔をしながらクラウドのそばに寄ってきて、携帯を取り上げた。
「まだ任務中だ、邪魔するな。なに?誕生会だと?ほぉ…いつだ?ふふん、明後日かよかろう。後で連絡をする。」
クラウドに携帯を返しながら、セフィロスがにやりと笑っていた。
「明後日、クラウディアの誕生会だそうだ。せいぜい美人に化けるのだな。」
「楽しんでいないですか?」
「クックック…、さあな。」
それだけ言うとセフィロスは書類の整理に没頭したので、クラウドも報告書を書きあげていた時、ザックスが急にびくりと動いたかと思ったらあわてて部屋の外に出て行った。 その後ろ姿を見送って、リック達がヒソヒソ話を始めた。
「かけるか?」
「女からの電話!」
「絶対女からの電話!!」
「なんだ、成立しないじゃん。」
リック達が想像していたようにザックスは部屋の外で携帯を取り出していた。
番号を見るとエアリスの携帯からだった。
「ハイ、ザックスです。」
「あ、ザックス…さん。よかった、最近全然顔見せてくれないから、どうしたのかな?って思っていたの。」
「ちょっと長いミッションで出掛けていたんだ、今日帰って来た所。」
「うわぁ!ごめんなさい、全然知らなかったわ。じゃあ今日は会えるのかな?」
「お、おう。」
「よかった…、じゃあいつもの所でね。」
携帯をたたむとザックスの顔が自然とにやける、そのままの表情で執務室に戻ってきた為、クラウドにすら誰からの電話であるかすぐにわかった。
おまけにザックスが鼻歌交じりで報告書を書きはじめたのである。
それを見たリック達がいきなり青い顔をして騒いだ。
「うわ!!信じらんねぇ!!」
「天変地異か?!」
「ミッドガルに雪が降るぜ。」
「へへん、何とでもいっていろ。俺は目茶苦茶機嫌がいいから、今日は何を言われても見逃してやらァ!!」
このあと絶好調のザックスはあっというまにたまっていた書類をかたずけて
いそいそと寮の自室に戻って行った。
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