FF ニ次小説
 滑走路に飛空挺が一機横たわっていた。
 その飛空挺に大量の荷物と、30人ぐらいの隊員が乗り込んでいた。
 飛空挺はやがて滑走路をテイクオフして一路北へと向かった。
 カーゴルームの中に座る隊員達をうまく避けながら、リックがクラウドのそばに寄って話しかけた。
「クラウド、酔い止めは飲んだのか?」
「あ、はい。先程頂きました。」
「今日のフライト予定時間は10時間だからな。」
「乗物酔いもずいぶん良くなっていると思いますから、そんなに心配しなくてもいいとおもいますけど。」
 クラウドがやや引きつった笑顔を浮かべるので、ザックスたちはその言葉が、強がりから来る物と思っていたが、実際はそうではなかった。

 3週間と長い遠征になるというので、セフィロスがなかなか寝かせてくれなかったのであった。そのおかげで眠たいわ腰は痛いわでさんざんだったのである。
 襲い来る眠気と戦いながらもクラウドは、先日までのクラスAソルジャーとの立ち会いを思い出していた。
 サー・ガーレスの副官であるサー・パーシーと、サー・ランスロットの副官であるサー・ゴードンに一週間相手をしてもらっていたのであったが、組み手ならパワー負けしていたクラウドが剣を持つと技で圧倒していたのであった。
 首をかしげながら剣を振りあげるクラスAソルジャーを横から見ていて、ザックスもリックもクラウドの太刀筋がセフィロスと至極似ているのに気がついていた。

 ザックスがそのことを思い出してクラウドに話しかけた。
「そういえばクラウド、お前よくあそこまでセフィロスと似た太刀筋になったものだな。」
「え?そ、そうなの?」
「ああ、隊長ソックリの太刀筋だったぞ。あれではクラスAでもかなうまい。」
「エヘヘ…。」
 リックとザックスに誉められてクラウドが嬉しそうに頬を染めて微笑む。その笑顔におもわず目眩いがしそうになるが出したい手をぐっと我慢してリックとザックスが、クラウドの跳ねた髪の毛をぐしゃっとかき混ぜるように撫でる。
 セフィロスがそんな二人の行動を冷たい笑顔で睨みつけていた。

 あわててクラウドから手を離すとリックは自分の装備の確認を、ザックスはポケットに持っていた何かを取り出して見ていた。
 クラウドがひょいと覗くとそれは一輪の押し花だった。

「サー・ザックス。あれからエアリスとあっていないんですか?」
「ん?うん、なんかよぉ…、ちょっと会い辛くて。」
「そうですね。俺もあれから会っていないもん。」
「お前もか…そっか、あっちの事との兼ねあいもあるもんな。まあ、うじうじしていても始まらん。今はミッションの事だけを考えるさ。」

 力なく笑うザックスがちょっと痛々しかった。
 気さくで誰彼ともなく声をかけすぐに仲良くなるので、女の子とデートした数など数えられないほど、陽気で人付きあいの良さや面倒見の良さは抜きんでている”いい奴”と言われていたザックスが、ばったりと女の子を口説くのをやめていたので今度の女性は本命だと噂されていたのだが、実際はいまだに手もつなげられないほどの純情ぶりを発揮していて『つきあってくれ』とは言えないままでいたらしいのであった。

「たとえ父親がソルジャーを良く思っていなくても、エアリスの事が好きなら諦める事はないんじゃないのかな?」
「15のガキに言われたくないやい。でもな、クラウド。それもこれもみ〜〜んなアイシクルエリアから生き返らないと無理って事!」

      アイシクルエリアから生きて帰る。

 その言葉にクラウドが思わず頬を染めて赤くなると、そんな顔を見られたくないので、手に持っていたモンスターのリストに見入る。
 しかし昨夜からの寝不足からかいつの間にか居眠りを始めていた。
 ザックスがふと気がついたらすでにクラウドは夢の中。しかもうたた寝をする彼のそばには、いまだかつて見たことがない優しげな顔でクラウドの頭をゆるやかに撫でている”鬼の隊長”セフィロスがいた。

「うわぁ…あんなセフィロス見たくねえよぉ。」
「俺だって見たくなかった…はぁ…(T▽T)」
「はぁ…氷の英雄と呼ばれていた方が…」
「いいんじゃないの、あの捨て身の人だった隊長がやっと帰る所が出来たんだ、また強くなるぜ。」
「ん、それは言えているな。」

 帰る所が出来たと言うことは、そこへ帰りたい気持ちが生まれる。すると是が非でも生きて帰る為に強くなるはずであった。
 しばらくクラウドを撫でて喜んでいるセフィロスを眺めていたリックが、ザックスとジョニー、カイル達を囲んで急に真剣な顔をして話しはじめた。

「隊長はわかっていないとは思うが、あれではこの輸送艇の連中だってクラウドとの間を疑うと思わないか?」
「ああ、いくらうちのお姫様だからと言っても通用しないだろうな。」
「何かごまかす手でも考えたのかよ?」
「隊長の正宗の露にされるのは嫌だぜ。」

 クラウドと恋仲だと知れた後、必要以上にクラウドをかまったり、苛めたりするとセフィロスは視線で殺せる物なら殺してやるとばかりに、クラウドをかまったり苛める隊員を睨みつけていたのであった。
 クラウドに意地悪な事を言うと、真っ赤になり上目づかいで睨みつけながらちょっとふくれっ面をするのであるが、その顔がまた下手なグラビアアイドルよりも可愛らしい。
 そんな顔がみたくてつい意地悪な事を言ってしまうのであったが、そのたび執務室がクラウドの周りをのぞいて絶対零度まで冷え込むのであった。
 二人の仲を知っている自分達の中だけならまだしも、何も知らないはずの他の部隊の隊員である輸送部隊や、後方支援部隊の隊員達でも、そんな状況を何度も見聞きすれば誰だって疑うであろう。
 ならばそれを誤魔化すしかないとリックは考えたのであった。


「いつも以上にクラウドをかまい倒す。」
「具体的には何をすればいいんだよ?」
「朝一番の挨拶がほっぺにキスとかあり?」
「なるほど、木を誤魔化すには山の中って奴か。」
「これからはおおっぴらに”姫”って呼んで、隙があれば抱きつく。ああ、カイルの言った朝一のほっぺにキスも悪くないな。」
「俺、女の子が好きだからそれは抜けるが、クラウドをかまい倒すのはいいぜ。」

 その場にいる他の3人がにやりと笑い、右手の親指を立てて合図をした。
 そしてすぐにバラバラに別れると、ザックスはセフィロスの隣に移動して座り込んだ。

「なぁ、セフィロス。こいつにどう教えたらあそこまで太刀筋が似るんだ?」
「私はさほど教えてはおらぬ。」
「教えていない訳ね−だろう?」
「見本を何回か見せただけだ。」
「見本…って、ただそれだけかよ?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「それが本当なら、クラウドの潜在能力は凄いって事か…」

 セフィロスがちらりとザックスを見てすぐにクラウドに視線を戻す。
 ザックスがクラウドの頭にポンと手を置いた時、ちらりとセフィロスがザックスを見た。
 ザックスがにやりと笑いセフィロスだけに聞こえる声で話しかけた。

「らしくないんだよなー、あんたが一人の隊員をかまいまくるっての。やめろって言ったって無理だろうから、俺達が誤魔化すことにしたから…あんまり隊員達を氷らせるなよ。」

 セフィロスがザックスの言葉に、何も言わずにクラウドの髪をいじっていた手をそのまま床に置くと、ちらりと見て聞き返した。
「何をする気だ?」
「リックやカイルがおおっぴらにクラウドをかまい倒すと宣言していたぜ。」
「らしくない……か。」
「ああ、あんたらしくないよ。でも、俺は今のあんたの方が人間っぽくて好きだぜ。」

 ザックスが腕時計を見るとその場に横になった。
 セフィロスもその場で目を閉じ軽く睡眠を取ることにした。
 飛空挺は順調にアイシクルエリアへと飛行を続けていた。



 やがて飛空挺が降下しはじめる。
 セフィロスが首をめぐらせると、既にほとんどの隊員達が起きていたが、自分の隣に横たわっているクラウドと、その隣に寝ているザックスだけはいまだに寝ていた。
 ちらりと見るとザックスが、クラウドを抱き込むように寝ているので、セフィロスが思いっきりぶん殴る。

「あでっ!!」
「な…?あ、サー・ザックス?!」

 あわててクラウドがザックスを突き飛ばすと、後ろで待っていたリックが上官であるはずのソルジャーに足蹴りをする。

「てめぇ…俺達の姫君に何しやがる!」
「ひ〜〜〜ん、やたらあったかいと思っていたらクラウドだったのねん?!」
「自分は”ゆたんぽ”ではありません!!」
「いや、マジでコレからはそうなるぜ。何しろアイシクルエリアだからな、お互いの体温で温めあわないと凍え死ぬ。」
「俺クラウドと同室だから寝袋も一緒でもいいぜ!」
「図に乗るなbQが!姫のお相手は俺だ!!」
「拒否したいよ〜〜」

 ザックスが頭を撫でながらちらりと周りを見渡すと、輸送部隊の連中がけらけらと笑いながら見ている。
 クラウドは真っ赤な顔で怒鳴りまくっていた。
「リックさんやカイルさんは身の危険を感じるから、俺はサー・ザックスか隊長を希望する!!」
「そ、そんな〜〜姫〜〜!!」
 あたふたするリックに後ろから輸送部隊の隊員の声が掛った。
「まもなく着陸します。みなさん着陸のショックが来ますよ。」
 その声を聞いた途端隊員達が急に真顔になり、全員が着陸への態勢に入る、あまりにも切り替えが早いので輸送部隊の隊員達があっけにとられていた。

 雪が残っていないアイシクルロッジの村外れに、駐留部隊とベースキャンプを置くと、第13独立小隊がトラックへと乗り込む。
 いつもの様に運転手にリック、ナビゲーターにクラウドとジョニーが助手席に座る。

 隊員の乗ったトラックをリックが走らせはじめると、物資を積み込んだトラックをカイルが後から追いかけるように走らせはじめた。
 しばらく北に走ると大氷河へと出た。

 一旦トラックを停めて雪のない場所にキャンプを張り出した。
 一通りキャンプを貼り終わるとその上から防寒用のシートをかぶせて止める。
 荷物をそれぞれ入れると全員が整列する。
 整列した隊員を前にセフィロスが命令を下した。
「整列!これより班分けをする!先発隊、第一隊リック、クラウド、ケイン、第2隊カイル、ジョニー、エリック、第3隊ザックス、ユーリ、ブロウディ一、1隊はポイント02・77、二隊はポイント05・88、3隊はポイント09・62を中心に半径1kmのモンスターを殲滅せよ。尚、戻りは6時間後!諸君の健闘を祈る!」
「アイ・サー!」

 先発隊がそれぞれのポイントめがけて駆けだして行った。